009 白衣の男
俺の目の前に立つ白衣の男。
そいつは余裕の笑みを浮かべて俺を見ている。
そして、そいつは俺に言った。俺には危害は加えないと。でもそれは、
「どういう事ですか?」
「だから、君にはなんの処罰もないという事だよ。あと…その話方は辛いだろ? 素の話方で大丈夫だよ」
そう言うとまた笑みをつくる白衣の男。横の北本先生はずーんと沈みきっている。
「……君にはって言ったけど、俺には処分はないけど北本先生にはあるって事なのか?」
「そうだね、君にはないが、絵里には処罰がある」
やっぱりか…もしや本当に追放なのか? そうなると俺はどうなるんだ?
俺は北本先生の魔法で蘇生したのに、追放されると俺は元に戻れないんじゃないのか?
「えっと…処罰という事は…北本先生は魔法界から永久追放なのか?」
俺は緊張しながら質問をした。が、白衣の男に俺の心の焦りがバレたのか、俺の顔を身ならクスクスと笑いやがった。
「な、何がおかしいんだよ!」
「申し訳ない。その焦った顔があまりに滑稽でね」
「何が滑稽だ! 俺を馬鹿にしてるのか?」
「いや、違うよ。ただ、絵里が追放されて自分は元に戻れなくなるのかな? って感じの焦った表情だったからさ。それでついつい笑ってしまったんだ。申し訳ないね」
何だこいつ…むかつく! 俺が元に戻れなくなるか心配するのは当たり前だろ!
「意気消沈してる絵里に代わって僕から説明しておくと、君は元の悟君に戻る権利がある。いや、権利というよりはそれが当たり前の事だ。今回の事件は絵里が全て悪いからね。だから君は元に戻れる。僕が保証しよう。あと、絵里は追放はされないからそっちも安心してもらって結構だ」
俺は元に戻れるのか? って、それが当たり前だよな。こいつの言う通りで、俺は被害者なんだ。
って…もしかして、今すぐに元に戻れたりするのか?
北本先生も追放もされないって言ってるのは、俺を元に戻すからなのか? そうなのか? これは聞いてみるしかないな。
「おい、俺が元に戻れるっていうのは今なのか?」
しかし、白衣の男は俺の期待を簡単に裏切った。
笑顔のまま「今は戻れないよ」っとはっきり宣言した。
でも、俺は別にショックは無かった。まぁこんなもんだよなって心の底ではこういう返事くる予想を立てていたからだ。
じゃあ、次の質問だ。
「いつ俺は元に戻れるんだよ」
白衣の男は北本先生をちらりと見た。
「それは絵里の魔法力が回復してからかな」
って…おい。
「何だそれ? それじゃ数年は戻れないって事なのか? 待ってくれよ。お前も魔法使いだろ? 魔法力とかいうのもすごいんだろ? その…再構築魔法だって使えるんじゃないのか?」
「確かに。僕はかなり高レベルの魔法使いだよ」
自分で高レベルとか付けやがった。
「でも、僕が再構築魔法を使えたとしても、君に対しては効力を発揮できないんだ」
「それってどういう意味だよ?」
「再構築魔法を使用条件。それは、対象を蘇生をした術者(絵里)が魔法を掛ける事。でないと効果を発揮できない。要するに、絵里以外は君を元には戻せないって事だよ」
焦る事もなく、ただただ淡々と冷静に説明をする白衣の男。
俺の心配なんってこれっぽちもしていないように見える。
そりゃ、他人事かもしれないけど、もう少し感情を表に出してもいいんじゃないのか? 心配してくれてもいいんじゃないのか? 俺はそんな気持ちになった。
「という事は、北本先生じゃないと俺を元に戻せないって事か?」
「そういう事だね」
「…じゃあ、俺が元に戻るにはどの位の時間がかかるんだよ」
「ああ、そこは重要なポイントなんだ。きっと君は数年はかかると言われたはずだけど…」
白衣の男は俺と話しながら、横に置いてある黒い鞄から黄色いカードと取り出した。
取り出したのはクレジットカードサイズの、黄色い何の柄もないカード。
「何だよそれ…」
「ああ、これかい? 今から説明するよ」
黄色いカードは変な光沢があった。暗幕で光が入らない部屋なのに、何故だか虹色に輝いている。
「絵里から話を聞いてるかと思うんだが、この世界で普通に魔法力を溜めるとかなりの時間がかかってしまう。しかし我ら魔法管理局もこの状況を何年も放置は出来ない。だから今回は特別にこのカードを使う事にした」
カードを使う? そのカードで何をするんだ?
「このカードを君に埋め込む」
白衣の男はそう言うとニコリと微笑んだ。北本先生は眉間にしわを寄せてそんな白衣の男を見ている。
いや待て。カードを体に埋め込むってどう言う事だ?
「そんなに睨まなくてもいいよ。別に怪しいものじゃない」
「いや、十分に怪しいだろ! それに、それを俺に埋め込むって何だよ?」
だいたい、どうやって埋め込むんだよ、そんなもん!
「あと、埋め込んで何になるんだ?」
「埋め込んで? 簡単だ。君が魔法力を溜めるんだよ」
まるでそれが当たり前の事かのようにその男は言った。
「え? 俺が魔法力を溜める?」
「そうだ、この世界では僕たちみたいな魔法世界の人間、要するに異世界人は魔法力が溜まりづらくなっているんだ。それで、どうするか。実はね、魔法力はこの世界の人間でも溜める事が出来るんだよ」
「…はい? いや…えっと? 俺は魔法使いじゃないぞ? なのに魔力が溜まる?」
「ああ、溜まるよ」
「じゃあ、俺が魔法を使えたりするのか?」
男は首を振る。
「いや、それは無い」
「………」
「魔法を溜めるにも、ただこのカードを君に埋め込めばいいんじゃない。術者の魔力をカードに込めた上で、代理で魔法力を溜める人間に埋め込むんだ」
「……はい?」
意味がわかんねぇ…
「ああ、ただし…この方法を取ると術者はそのカードを回収するまでは魔法が一切使用出来なくなるというリスクがあるんだけどね」
あはははと楽しそうに笑う白衣の男。横の北本先生は今にも泣きそうな表情になっている。
「いや…でも体に埋め込むとか…なんか怖いだろ?」
「そこは大丈夫だよ、あっと言う間に終るし、痛みもないし生活に支障もないから」
「マジかよ?」
「マジだよ」
こういつ…クールに見えるけど実は違うのか?
「あと…絵里は十年の魔法禁止処分になった」
「えっ? 魔法禁止?」
北本先生を見ると、ものすごく意気消沈状態になっている。
本当に落ち込んでるのか? 昨日はなんだかんだとポジティブだったのに…
「こんな些細な問題では追放にならない。だが、やはり問題は問題だからね」
そしてコイツはマジで軽く話をしてやがる。
「いやまて! 些細って言うな! 俺にとっちゃかなり重要な問題だぞ! 俺は一回死んでるんだぞ? あと、北本先生が魔法が使えなかったら俺は元に戻れないんじゃないのか!?」
俺が怒鳴るように質問したら、白衣の男は両手を前に突き出した。
「まぁまぁ、落ち着きなさい。そこは大丈夫だよ。魔法力が溜まったら絵里に再構築の魔法を唱えさせる。これは特別に承諾がすでにとれている事だ。だからこそ君に魔法力を溜めて貰おうとしているんだ」
そう良いながら笑顔を崩さない男。なんか、ヤケに落ち着きすぎだろ?
まぁ…でも不安を煽られるよりはいいのかもしれないけど…
なんて俺の焦りもこいつの笑顔で消えてゆく気がする。
「でもな、魔法力ってそう簡単に溜まるものなのか? 俺が溜めたって何年もかかるんじゃないのか?」
「魔法力というのは一種の生命力みたいなものなんだ。そして、その世界の住人が一番溜まりやすい。だから君が楽しく普通に生活していれば長くても二年で溜まるだろうね」
「二年? 二年で戻れるのか?」
二年という月日は長い。でも、五年はかかるかもと言われていたのだから、最長せ二年まで短縮出来たという事は俺にとっては嬉しい事だ。
「最短だと一年で戻れる可能性もある」
「一年!? やる! 戻れるならやってやるよ!」
「まぁ焦らないでくれ。あれだぞ? 言っておくけど楽しくだぞ? じめーとしてたら二年、いや下手するとそれ以上かかる可能性だってあるからね?」
「おう! わかった! もう今の時点ですっごい楽しいし嬉しいぞ!」
「ふむ…じゃあ早速…」
「よし! いつでも来い!」
「の前に、あと一つ言っておく事があった」
「な、何だよ? 早く言え!」
「もし、このカードを体に入れている状態で魔法の事がばれたら、君の存在は消え去るからね?」
「え!?」
「大丈夫。命は消えない。君がこの世の中から消えるだけだ」
「いや待て!」
「そんなに驚かなくてもいいだろ? 要するに言わなきゃいいだけだよ。気にするな」
いや…そんな簡単な事か? って、そうか、でもよく考えろよ…今までだって言われてあじゃないか。魔法がばれたら追放だったって。
要するに何も変わらないって事だ。ばれなきゃ良いって事だよ。
「わかった…やるよ…」
「よし、じゃあやるよ?」
そう言うと男は黄色いカードを北本先生に渡した。
北本先生は暗い表情でカードを受け取ると俺の前に立った。
「まさかこんなに早くばれるなんて…でも仕方ないわね…ふぅ」
そう良いながら先生は溜息をついた。が、元はあんたが悪いんだろ? それに俺は北本先生が五年かかる所が二年で戻れる方が嬉しいからな。何年も待ってるのはごめんだからな。あと、北本先生が魔法を使え無くっても関係ない。
「北本先生! 早くしてくれよ」
俺がそう言うと、北本先生はまた溜息をついて、次に何か念仏か呪文かそのようなものを唱え始めた。
その言葉は日本語でも英語でもない。聞いた事の無い言葉だった。
たぶん呪文の詠唱が終わったのか、また溜息をついたと同時にカードが光った。まるで魔法みたいだな…あ、魔法か…
「ふぅ…いくわよ?」
「おうっ!」
何故かここに来て緊張する。どうやってそのカードを俺の中に埋め込むのか? まったくもって聞いてなかった!
でも、今更やめろ何て言えるはずもなく、
『ザクッ』
何か良い音がした。と思ったら、俺の胸の谷間にザックリとカードが刺さってるじゃないか!
「ひぃっ!」なんて変な声がでちまった!
「大丈夫よ。痛みも無いし、血も出ないから」
先生はゆっくりと黄色いカードを俺の胸に差し込んだ。
服の上からなのにカードはゆっくりと体の中へと吸い込まれてゆく…
なんていう不思議な光景なんだろう。
そして、カードは完全に俺の体の中に入った。
「これでOKよ…あーあ…魔法使えなくなっちゃったわ」
「どれ…ちょっといいかな」
白衣の男が俺の横に来ていきなり胸を触った。
ぷにぷに…
いや違う、揉みやがった!
何でこいつは俺の胸を揉んでるんだよ!
「な、何すんだよ!」
俺は慌てて白衣の男の手を払った!
「ん? 何だい? 僕はちゃんとカードが入ったか確認しただけよ? それに、僕はこんな貧祖な胸に興味なんてない」
なんという失礼な言葉だろう…あと、
「じゃあ、カードが刺さったのは胸の谷間なのに、何で胸を触る! 胸を!」
白衣の男は声を出して笑った。
「うん! そうだったね! 僕とした事が…後、谷間なんてないよね? あるのは浅い窪みかな?」
「し、失礼な奴だな!」
「あと、君は男なんだよね? じゃあ、胸なんて関係ないじゃないか」
なんか超絶むかつく! 関係ないけど…なんかすっげー馬鹿にされてる気がして腹が立つ!
「まぁまぁ、そんなに真っ赤になって怒らないでくれ」
「くぅぅぅぅぅ! お前…名前は何だよ! 考えてみればまだ名前すら教えてくれてねぇだろ!」
白衣の男はあれ? そうだったっけ? みたいな表情を浮かべると北本先生を見やがった。
「自己紹介すれば?」
北本先生にそう言われた白衣の男は、頭をかくと仕方ないといった表情で口を開いた。何だその態度は!
「じゃあ自己紹介しておくよ。僕の名前は野木一郎だ」
一郎…なんていう普通の名前だろう…っていうか、逆に骨董品か? いや、鈴木一郎だっているしな…
しかし、魔法使いの異世界人だから、てっきりすっごい名前なのかと思ったのに、なんか拍子抜けだな。
「あ、そうだ! 僕は二学期からこの学校の先生になるんだ」
そうか…この学校の先生になるのか…って? 先生だと!?
「待ってくれ。何だそれ?」
「いやいや、二人の監視でね…君にはわかるだろ? 絵里に監視が必要だってね」
野木という男は笑顔で北本先生を見た。
「わ、わかってるわよ…私が悪いんだもん。仕方ないわよね」
「という事だよ、姫宮綾香君」
なんかよくわからないが、はっきりした事は二年後には俺が悟に戻れる事。そして、それまでは野木といういやらしい男が俺と北本先生の二人を監視するという事。
でも、とりあえず希望が見えた!
しかし…この二人はどういう関係なんだろう?
会話を聞いていると、他人じゃないって解る。多分、知り合いっぽいのは確かなんだけどな…
そして少し考えてはみるが、もちろん何も思い浮かばない。結論は………まあいいか。
「姫宮君」
「ん?」
「姫宮君は帰っていいよ」
何だいきなり? 俺はも用なしだよって感じの言い方だな…なんかまたむかついた!
でもまぁここに俺が居ても仕方ないのは確かだ。もう夕方だし帰ろう。
「わかった、じゃあ戻るからな?」
「ああ、気をつけて家まで戻るんだぞ?」
一応はこいつは俺を心配してくれるのか?
「あ、大丈夫、俺の家は結構近いから」
「そうか、うん、じゃあまた」
「ああ…じゃあまた」
俺は教室を出た。
教室の外に出た時に僅かにだけど教室の中から北本先生の声が聞こえた。
「…ねえ……だもん………か」
俺は戻れる事の嬉しさのせいもあり、あまり気にせずに校舎を後にした。