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ぷれしす  作者: みずきなな
十月
78/173

078 謎の女子高生の正体とは? 後編

 目の前で大笑いする野木を見て俺は一気に熱を帯びた。

 別に俺が悪い訳じゃないのに全身が熱くなり、汗が吹き出る。


「わ、笑うな! 取りあえずお前が妙な質問をするから俺の考えを言っただけだろ? 俺は男装とか女装とか好きじゃないって意味なんだよ!」

「でも、越谷さんが男装をするのはいいんだよね?」

「いいって言ってないだろ! その時はその時だって言ってるんだよ!」

「じゃあ、僕が男に変身するのはいいのかい?」

「も、もういいよ。魔法世界の住人のお前らは女装とか男装をしている訳じゃないだろ? あんなに完全に男になってんだ……。もういいよ! そうじゃないとお前は野木じゃない!」

「なんだ、もう妥協したのかい?」

「妥協じゃない! 納得だよ!」

「いや、それは納得じゃないだろ? 納得なんてしていないんだろ?」

「うぐっ」


 こいつマジでむかつく! だけど、反論しても勝てる気がしない。

 次の瞬間、野木から突然笑顔が消えた。そしてふぅと小さく溜息をつく。

 表情は一気に暗くなり、さっきまで笑っていた野木が嘘のように暗くなった。


「おい、どうしたんだよ?」

「いや、ごめん……。僕は何をふざけていたんだろうね……」

「どうしたんだって?」


 本気で神妙な表情になった野木は、天をを仰いだ。


「僕が男性の姿になっていた理由は……別にあるんだよ」

「えっ?」

「でも、それは僕の都合だけの理由だ。君がこの話を聞いたから何がどうなる訳でもないし、きっとつまらないと思うよ」

「……つまらないって、そんなの聞いてみないとわからないだろ?」

「いや、いいよ。また機会があればで……」


 ゆっくりと顔を下げる野木。俺の瞳を見詰めてくる。


「……聞いてやるって言ってるだろ?」

「……」

「あ-! もどかしい! 言えよ! 俺が気になるんだよ! 話せよ!」


 野木はふっと笑みをつくると口を開いた。


「じゃあ悟君、僕のつまらない話を聞いてくれるかな?」

「ああ、聞いてやる」

「ありがとう」


 とか言いつつ、しばらく野木はフェンス越しにグラウンドを眺めていた。

 聞いてくれるかなと言ってから何で何も話さないのか?

 俺は無性にイライラしたが、しかしあまり急かすのもよくないだろうと、黙って待っていた。そして、五分くらいが経過しただろうか?


「……僕が何で男性の姿だったかの前に、君になんで正体を明かしたか話しておこうかと思うんだけど……いいかな?」


 やっと話をしたかと思ったら、男性になった理由ではなかった。

 でも、こいつが俺に正体を明かした理由も知りたいのは確かだ。


「ああ、いいけど」


 そう返事をした。


「じゃあ、話すからね?」


 俺は唾を飲んで野木を見詰める。野木は柔らかい笑みを浮かべて俺を見詰め返してくる。そして、


「それは単純に正体を隠しきれない状況になったからだよ」


 野木はそう言うと小さく息を吐いた。


「隠せない? それはどういう意味だよ?」

「最近になって調子がおかしいんだ。魔法力が回復しなくなってきている……」

「回復しないって?」

「そう、回復しないのさ。本来はこの世界でも少しづつは回復をするはずなのに、まったく回復しないんだ」

「それって……どうしてなんだ?」

「さぁ……理由は明確じゃない」

「大丈夫なのか?」

「ぶっちゃけると、大丈夫じゃない」


 俺はなんて言い返せばいいのか解らなくなった。

 でもこれだけは解る。魔法使いの野木にとって、魔法力が回復しないというのは一大事だという事。


「今の僕にはほとんど魔法力がないんだ。だから変身魔法すら使えないのさ」

「あのさ、それって……もしかして俺を北海道に連れて行ったせいか? それで魔法力がなくなったのか? だから回復しなくなったのか?」

「魔法力を使い切った原因はその通りだ。でも、回復しなくなった理由は別にあるはずだよ。だから、悟君は悪くない。それより……」

「……それより?」

「魔法力が回復しないこの状況をなんとか打開しないと……」


 野木は唇を噛んだ。


「普通なら回復するんだよな?」

「ああ、魔法世界ほどじゃないけど、こっちでも徐々には回復はするし、以前まではしていたんだよ」

「そうなのか」

「だけど、今は殆ど回復していない」

「マジで大丈夫なのか?」

「……大丈夫だよ。魔法力回復手段は自然回復以外にも無い事もない。どうにかするよ……」


 そう言うと、野木は俺の座っているコンクリートの椅子にまた座ってきた。

 俺の体と野木の体がまた密着する。しかし、俺はさっきまでの緊張はなかった。


「まいったね……僕は君には正体を知られたくないと思っていたのにさ……」


 苦笑しながらおでこに手をあてる野木。


「おい、そういえば魔法使いは人間に正体がばれちゃダメなんじゃないのか? だから野木は俺に正体をばらしたくなかったんじゃないのか?」


 しかし、野木は俺の方を向くと小さく首を振った。


「いや、悟君であれば最初から正体をばらしても問題はなかった。君はすでに絵理沙が魔法使いだって知っている訳だし、魔法の存在も知っているからね」

「そ、そうなのか? 確かに知ってるけど、あれなのか? 魔法の存在を知っていたらいいのかよ?」

「ああ、そうだよ。そうじゃなければ、こうも簡単に正体をばらすはずないじゃないか。僕はそんなに馬鹿じゃないよ?」


 懸命に笑顔をつくる野木。しかし、その笑顔は苦笑だった。張りのない声もあり、いつもの野木らしさがない。

 髪を掻き上げて「困った困った」と言っている野木を見ているうちに、俺は野木が一人の困っている女の子に見えてしまっていた。

 いや、こいつは元から女なんだけどな……。


「とりあえず、俺に出来る事があったら言ってくれ」


 たぶん無いだろう。だけどそう言った。


「うん……その時はお願いするよ」


 野木も笑顔でそう答えてくれた。


「それにしても、お前って絵理沙に似てるよな……。まるで双子みたいだよな」


 目をパチパチさせて俺をじっと見る野木。


「双子みたいだって? 当たり前じゃないか僕と絵理沙は双子だよ?」


 まるで俺がその事実を知ってないのがオカシイような口調でそんな事を言いやがった。っていうか、そんなの初耳だよ!


「おい、マジで双子なのかよ!?」

「そうだけど? 何か問題かな?」


 問題はない! ないぞ? でも絵理沙と双子というのは驚愕の事実すぎるだろ?

 マジで絵理沙と双子なのかよ!? 確かにそっくりすぎると思ったんだ。絵理沙と違うのは瞳の色と髪の色くらいだしな。


 俺は何気なく野木の瞳、髪、そして胸や太股を見ていた。


「さ、悟君?」

「えっ?」

「いや、その……あまりこの姿でジロジロ見られるのは……得意ではないんだ」


 そう言って頬を桜色に染める野木。

 ちょっと待て! そういう可愛い反応すんじゃねぇ! お前はあの野木なんだろうが!

 そんな事を思っても、ぶっちゃけ横にいるのは一人の女性だった。

 良い香りが漂い、触れた部分は柔らかい感触が……。

 俺はまたしても野木をじっと見てしまった。


「だ、だからあまり見ないでくれ」


 照れる野木を見ていると、俺の心臓までバクバクしてしまう。

 こいつがもしも女のままだったらどんなにモテただろうか。

 男の格好をしている理由はわからないが、男の格好でいる理由がわからない。

 こいつは女として魅力が抜群になるのに……。

 そんな事を考えていた俺の耳に、いきなり【バタン!】とドアの開く音が聞こえた。

 慌てて塔屋の方を向くと鋼鉄製のドアが開いているじゃないか。そして、そのドアの目の前には……。


「はぁはぁはぁはぁ……」


 肩で息をする絵理沙の姿があった。

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