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ぷれしす  作者: みずきなな
十月
77/173

077 謎の女子高生の正体とは? 中編

 俺の目の前で腹を抱えて笑っている女子生徒。

 亜麻色の髪に緋色の瞳。

 顔立ちは美しく、スタイルは抜群だ。

 絵理沙よりも短く巻き上げられたであろうスカート。

 絶対領域が俺の視線を釘付けにする。

 豊満な胸はきっとかなりのカップだろう。

 俺の胸とは比べものにならない。

 美人でいて、それでも可愛く、スタイルの良い女。

 しかし、こいつは野木だった。


「あははは!」


 野木は男らしく大声で笑っている。

 態度がまったく女じゃない。男だ。勿体ない……。って違う!


「笑うな!」


 そうだよ! 何で俺が笑われないといけないんだよ?


「ごめんごめん、あまりにも可笑しかったから」

「何がだよ!」

「何がって? いやいや、なんでドッキリカメラとか言う番組が面白いのかがよくわかったよ」

「何でここでその話題!?」

「人は驚くとここまで挙動不審になるもんなんだね」

「挙動不審とかなってないだろ!」

「いやいや、十分に混乱してたよ?」


 野木は俺に正体を明かしたにも関わらず、なんの緊張感も感じていない様子だった。

 それどころか今の表情は野木一郎の時よりも明るく感じる。

 しかし、相変わらず俺を弄るんだな、お前は。そこは男の時とかわんねぇな……。


「おい……」

「んっ? どうしたんだい?」

「いや、えっと……お前の事は野木って呼んでいいのか?」

「ああ、今まで通り野木でかまわないけど?」


 しかし、違和感満点すぎる。性格、行動、口調も野木なのに……。


「んっ? 僕の胸が気になるのかい?」

「えっ!?」

「さっきからじっと見てるからさ」


 た、確かにみてました!


「ちょ、ちょうど俺の目線にあるからだろ!」

「ふむ……。確かに……。でもいいよ? 見たいなら好きなだけ見てくれ。減るモンじゃない。それと、触ってもいいよ? いつも触らせて頂いてるからね」


 な、何をこいつは言っているんだ!

 俺の心臓は【ドキドキ】と脈を早めまくる。


「そんなに緊張しなくてもいいんだよ?」


 野木は顔をぐいっと俺の顔に寄せた。

 すると、野木から女性らしい甘い香りが漂ってくる。そして、この香りを俺は嗅いだ記憶があった。

 そうだ……この匂いは……。

 そう、これは北海道の帰りに嗅いだ事のある匂いだった。

 となると、やっぱりこいつは野木だ。野木なんだ。

 野木だと確信しつつも、もう一度確信した。


「そ、それより野木、何で俺に正体をばらしたんだよ? いいのかよ? 魔法使いが正体をばらしても」


 野木はにこりと微笑むと突然俺の手を取った。


「え!? な、何だよ? 何をするんだ!?」


 俺がびっくりしていると、野木は何を言わずに俺の手を引っぱって入口近くにあった座れそうなコンクリートの塊まで連れて行った。


「悟君、ここに座ろうか?」

「えっ? ここって……」


 目の前にあるのはコンクリート。

 確かに座れそうではあるが、幅が一メートルくらいしかない。

 これに二人で座るとかなり密着するのは確定だ。ようするにべったり引っ付いた状態になると予想される。

 男の野木ならまだしも今の野木は女だぞ? 密着とかどんな試練だよ……。

 俺がそう考えている間に野木は先に座っていた。そして手を引っ張る。


「どうしたんだい? 早く僕の横に座ってくれよ」


 正直に言うと座りたくない。だけど、取りあえずは座らないと話が始まらなそうだし……。

 そう思った俺は仕方なく野木の言われるがままコンクリートに腰掛けた。

 すると、やっぱりべったりだった。


「お、おい、狭すぎるぞ! それにお前も近すぎる!」


  俺がそう言うと野木は「別にいいじゃないか? 女同士なんだし」と笑っている。


 その時に風か吹き抜けた。そして野木の髪がふわりと俺の顔にあたった。

 この髪の感覚にも覚えがある。確か……そうだ、これも北海道から戻る時に……。


「悟君……」

「何だよ……」

「僕が女だったって知った今、どんな感じがするのかな?」

「えっ?」


 俺は予想外の質問に少し戸惑った。女だったと知ってどんな感じかだと? 何だその質問は。


「どんな感じって、そりゃ驚いた。でも、野木は魔法使いなんだしこういうのもあるんじゃないかって思ってる」

「へぇ、君は不思議な奴だな?」


 俺が真面目に答えているのに野木にいきなり不思議な奴と言われた!


「おい、それはどういう意味だよ? じゃあどういう風に答えて欲しいんだ!」

「いや、僕も別に特別な答えを求めていた訳じゃないんだ。だから正解はないんだけどね」

「何だよそれ」

「ただ、僕が男だと思い込んでいた君が、実は女だったと知った今、単純にどう思ったかを知りたかったんだよ」

「だから驚いたって言っただろ? それだけだ!」


 俺がそう言うと野木は一瞬驚いたような様子を見せたがすぐに元の柔らかい表情に戻った。


「そっか……」


 野木はゆっくりと立ち上がると空を見上げた。


「君はきっと僕が女だと知って、いやらしい妄想をしたんじゃないかと思っていたよ」

「は、はぁ?」

「だって君は健全なる男子だろ? 目の前にある女体に興味がないわけがないよね?」

「な、な、な!?」


 いやいや、何を言い出すんだよ? そんな事を言われると……。


 俺の視線は野木の綺麗な太股から、ゆっくりと胸へとあがる。


「ごめんごめん、そんなに顔を真っ赤にしないでくれ」


 野木は俺の目の前に立つとゆっくりと視線を落とした。

 ちょうど野木の顔を見ていた俺の視線とぶつかる。


「さて、何で僕が君の前に野木一郎の姿で現れたのか? 今になって正体を教えたのは何故なのか? 気になっているんだろ?」

「あ、ああ……」

「だから話してあげるよ」


 野木は後ろに手を組むとニコリと微笑んだ。そして、言葉を続ける。


「まずは野木一郎の姿で君の前に現れた理由だけどね……」

「ああ……」


 本当は女なのになんでこいつは男に化けていたんだろうか? 理由は何だ? 深い意味でもあるのか?


「正体を隠すなら、男性の姿の方がいいかなって思ったんだ。僕は女性に変身するより、男性に変身する方が得意だし、趣味だからね。男の方がしっくりくるんだよ」

「男が趣味!?」


 あまりにも想定外の答えに俺は心の中で転けてしまったじゃないか。


「悟君、その言い方はちょっとやめて欲しいな。僕は男が趣味なんじゃない。男に変身するのが趣味なんだ」

「お、同じようなもんだろ?」

「違うよ。君の言い方だと、僕が男を求めるのが趣味みたいじゃないか? 僕はこう見えてもまだ処女なんだからね?」

「ぶふっ!」


 まったく必要ない情報をゲットしてしまった……。と言うか、そういう話題じゃないだろ? 今はそういう話をしていたんじゃない。


「え、えっと……と言う事は、お前は男に変身するのが趣味だから、俺の目の前に男で現れたと言うのか?」

「そうだけど、何か悪いかな?」


 こいつ……マジで悪気ねぇな。って、まぁ、悪くはないんだけどな。

 こいつの趣味が男に変身だったとしても、俺がとやかく言える立場でもないしな。でも、


「野木、俺はお前が男に変身した事は悪いとは言わない。でも、女の癖に……そんなスタイル抜群の女の癖に男に変身するのが趣味だという事には、俺は賛同できない。この世界でも男が女の格好したり、女が男の格好をしたりするが、俺はそういう奴と友達になりたいと思わないからな……」

「へえ、じゃあ君の好きな越谷茜の趣味が男装だったら、その瞬間に彼女を嫌いになる訳かな?」


 な、何だよその質問は? そんなのあり得ないだろ!


「茜ちゃんはそういう事をする子じゃない! 何を言ってるんだ!」

「そんなに怒らないでくれ。例えだよ、例え。で、どうなんだい?」


 こうも冷静に応答されると調子が狂う。くそ……うーん……そうだな。


「そ、それは……。その時になってみないとわからない」

「あははは、悟君は矛盾していて楽しいな」


 野木は俺の間の前でお腹を抱えて大笑いした。

 くそーこいつムカツク!

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