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ぷれしす  作者: みずきなな
十月
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076 謎の女子高生の正体とは? 前編

 一歩、また一歩とその女子生徒に俺は近寄った。

 彼女はまったく逃げる気配もなく、俺の方をじっとみている。

 とりおり吹き抜ける風に亜麻色の髪がさらさらとなびいていた。


 ドキドキと自分の心臓の鼓動が体を伝わるのがわかる。

 これは階段を駆け上がったからじゃない。

 多少はそれの影響もあるかもしれないが、違う。そう、これは緊張。

 俺は凄まじく緊張していた。


 また一歩足を前へと出す。

 あと数歩で俺は彼女の目の前に到達する。


 でも、何で俺はこの女の事がこんなに気になるんだろう?

 目の前にいる絵理沙に凄く似ているこの女子生徒の正体が知りたいから?

 ああ、そうだ。俺はそうは思っていた。だから追っかけた。

 でも、ここまで積極的に俺が人の正体を知りたいなんて思うのもおかしい。

 俺はそんな人間じゃないはずだ。


 おかしい。本当におかしい……。だけど……。


「貴方は魔法使いなの?」


 躊躇せずに問いかけてしまった。

 しかし、その女子生徒はまったく動揺の色も見せずに、ただただ微笑んでいるだけ。

 という事は……こいつは魔法使いだ。俺は心の中で確信した。


 この学校には野木と絵理沙以外の魔法使いもいるという事なのか?

 いや、普通に考えてみろ。こいつの格好を。

 絵理沙は今は変身していない格好だ。そして……。


 亜麻色の髪に緋色の瞳の絵理沙に似た女性。


 普通に考えると答えは一つしか出ない。

 でも……まさか……。


 一歩、また一歩。

 徐々にその女子生徒との距離が縮んでゆく。


 あいつの正体を俺は知らない。

 本当の姿を俺は知らない。

 でも、だけど、別の魔法使いがわざわざ絵理沙の格好に変身するとは思えない。

 俺を見て動揺する気配もないし、俺もこいつが赤の他人には思えない。

 やっぱり……やっぱりそうなのか?


「貴方は野木先生?」


 ついに口に出して聞いてしまった。しかし返事はない。ただニコリと微笑んだ女子生徒。

 そして、次の瞬間には俺の言葉を否定する考えが浮かんだ。


 いや待て、野木は男だ。何でわざわざ男に変身するんだ?

 先生なら女性だっていいはずだし、絵理沙だって女性の先生に化けてた。


 俯きゆっくりと前進をしていた時、俺の視界に彼女の足が飛び込んだ。

 ゆっくりと顔を上げると、俺は彼女の目の前まで来ていた。

 俺はごくりと唾を飲んだ。


 やっぱり野木なのか? 違うのか? 誰なんだ? 絵理沙の変装?

 いや、絵理沙は魔法を使えない。変装もありえない。

 じゃあ……野木でもなく、絵理沙でもない別の魔法つかいなのか?


 目の前まで来たのはいいが緊張で声が出なくなってしまった。

 俺は唾を何度も飲み込み、なんとか落ち着こうとした。

 そして何度目かの深呼吸をした後だった。女子生徒の唇が動いた。そして、


「緊張しているのですか?」


 その一言に俺は驚いて一歩退いた。

 違う。こいつは野木じゃない。口調が野木じゃない。じゃあ誰だよ?

 俺の心臓の鼓動は激しさを増す。手に汗を握る。


「そんなに動揺しなくても良いのですよ?」


 絵理沙とは違う、優しげな声のトーンで彼女はそう言っている。

 でも、動揺は激しさをさらに増す。そして……。


「あははははは!」


 彼女がいきなり大笑いを始めた。俺の目は点になる。というか意味がわからない。


「姫宮悟君」

「えっ?」

「違うのかい? 君は姫宮悟君だよね?」


 この口調……。この口調とその腰に手を当てた姿は……。


「いや、えっと? あの?」

「あはは、僕があまりに女の子っぽい口調すぎて混乱したのかな?」


 まさか、そうなのか? こいつはやっぱり野木?


「そんなに驚いた顔の君を見れるとは思っていなかったよ」


 俺は唾を飲み、そしてゆっくりと口を動かしてみる。


「え、えっと……本気で野木なのか?」

「まったく、他人行儀だね。今は僕と君と二人なんだ。男っぽい口調でも構わないよ?」


 そう言うと彼女は俺との距離を数十センチにまで詰めてきた。


「の、野木?」

「そうだよ? 僕は野木一郎だ」


 俺は固まった。 確かに目の前の女は自分の事を野木一郎だと言った。

 俺もこいつが野木なんじゃないかと思ってはいた。

 でも、実際にそうだと言われると一気に考えがまとまらなくなる。混乱する。

 本当にこいつは野木なのか? 疑心暗鬼になってしまう。

 そんな俺を苦笑しながら見ている野木と言った女性。


「信じられないといった表情かな。でも、これが現実なんだ。僕は野木一郎だ」


 まじか? まじなのか? まじなのかよ!?

 ふわっと右手で髪をかき上げる彼女。本気でお前は女なのか?


「そ、そうか! 野木が変身しているのか!」


 俺は咄嗟にそう言った。そう思ったからだ。

 よくよく考えれば、目の前の姿が野木の本体だとは限らない。

 こいつは今の姿が自分の本当の姿だとは宣言していない。

 だから……。


「変身していないよ? 僕の本当の姿だ……」


 俺は絶句した。

 野木はくるりと反転するとグランドの見えるフェンスへ歩く。

 そして、フェンスの前まで行くと「うーん」と大きく背伸びをしてから顔をこちらに向けた。


「悟君、僕が君に嘘をつく理由なんて無いよね?」


 俺はこの姿が野木の本当の姿だと、何故か確信した。

 この態度、表情、言葉づかい。すべてが野木だし、確かに野木が俺に嘘をつく必要はない。そして、確信と同時に疑問が沸く。


 でも、何で今になって俺に正体を明かすんだ?

 このタイミングで俺に正体を明かす意図は何なんだ?

 それに何で今まで男の姿だったんだ?

 疑問が大量に脳裏に浮かんでは消える。


「おいおい悟君、そんなに悩まないでくれよ。僕には僕の都合があるんだからね?」


 野木は俺の心を見透かしたかのよな台詞を吐いた。


「いきなり僕は野木ですとか……、普通に混乱するだろうが!」


 俺が強い口調でそう言うと、野木は腕を組んで首を傾ける。


「まぁ確かにね。いきなり言われたら驚くよね」

「そ、そうだろ? 確かに、俺はお前が野木なんじゃないかなって最初から思ってたんだ。でも、まさか本当に野木だったなんて……」


 俺の困っている表情がおかしいのか、野木はまた笑いだした。

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