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ぷれしす  作者: みずきなな
十月
75/173

075 謎の女子生徒再び

 二人はコントを終えると、互いに別々に出ていった。

 真理子ちゃんは生徒会のお手伝いで、佳奈ちゃんは知らない。

 しかし、あの二人のやりとりは面白かった。久々に楽しかった。


 何気なく教室の時計を見るともう15分も経っているじゃないか!

 や、やばい、15分間も無駄な時間を過ごしてしまった。

 遅くなる前に野木のマンションに行かないと。

 俺は殆ど人気のなくなった教室を慌てて後にした。


 人気のほとんど無い廊下を俺はゆっくりと下駄箱の方へと向かう。

 さっと見渡したが絵理沙の姿は見えない。本当にマンションに戻ったみたいだな。と言うよりも15分もここに残ってるはずないよな。

 しかし、これからどうようかな。


 窓から見える第二校舎を眺めた。

 少しオレンジがかった校舎。窓に太陽光が反射してすこし眩しい。


 このまま、第二校舎の書庫からあいつの家に直接行くか、それとも少し時間をもう少しあけるか。

 どちらにしても、マンションには絵理沙はいるんだよな?

 マンションに入った途端に追い出される危険性はあるのか?

 まぁ、そこは強行突破すればなんとかなるだろうけど……。

 そうだ、もし野木が家に居なかったらどうする?

 その可能性だってあるんだよな? でも、そんな事を考えていても始まらないか……。

 うーむ……。


 俺はフラフラと考えながら歩く。

 廊下に引いてある中央の白線を見ながら歩いていると、急に目の前に生徒が現れ慌てて横に避けた。


「ご、ごめんな?」


 俺にぶつかりそうになった黒髪の男子生徒は申し訳なさそうに頭を下げている。

 でも、俺も下を向いていた。俺も悪い。


「いえ、大丈夫です。こちらこそ下を向いていてすみません」

「そっか、じゃあ悪かったな」


 男子生徒は急ぎ足で廊下を駆けていった。

 しかし、今の生徒って……何年だ? 見た事がない。

 短髪の普通の男子高校生なんだけど、校章が三年のだったよな?

 三年なら俺は一度でも見た事があるはずなのに……。まぁ、いっか。


 立ち止まり先ほどの男子生徒の背中を見ていたら、背後から【ガラガラ】という音が聞こえた。

 俺はゆっくりと振り向くと、そこは特別実験室じゃないか。そして、特別実験室から一人の女子生徒が出て来たのを発見した。

 亜麻色の長髪の女性。


 あれは絵理沙か? 何でここにいるんだ?


 その時には俺はてっきり絵理沙が出て来たのかと思った。

 しかし、その女子生徒がこちらを向いた時に、その女子生徒が絵理沙じゃないと気がついた。


 亜麻色の髪に緋色の瞳!? 絵理沙じゃない!?


 そう、特別実験室から出てきた少女は絵理沙に似ていたが絵理沙ではなかった。

 でも、どこかで見た事がある。

 俺は瞼を閉じて懸命に思い出す。あの亜麻色の綺麗な髪に特徴的な緋色の瞳を……。

 俺は見た事がある。絶対に見た事があるんだ。

 ふっと俺の脳内でワンシーンが思い出された。そしてある台詞がリピートされる。


【絵理沙は魔法世界には戻らないから安心していいわ】


 瞼を開いた。そして目の前の女子生徒をじっと見据える。

 そうだ、こいつは体育対抗祭の時に教室にいた女子生徒だ。

 でも、なんで特別実験室から出てきたんだ? あの女はいったい何者なんだよ!?


 俺の視線に気が付いた女子生徒は、ニコリと微笑むと駆け足で逃げ出した。


「ちょ、ちょっと待って!」


 俺は慌ててその女子生徒を追った。

 野木のマンションに行こうと思っていたが今はそれどころじゃない。いやそれどころじゃなくなった。

 目の前で俺に背を向けて逃げている絵理沙に似た女。体育対抗祭の時に魔法使いと思える言葉を放ったあの女。

 こいつは何者なのか。

 野木や絵理沙との関係なのか。

 疑問のすべてを直接聞き出したくって仕方が無かった。

 だからこそ俺は追いかけた。懸命に追いかけた。

 その女は俺が追いかけていると気がついているらしく、こちらの様子を伺いながら小走りで逃げて行く。微妙な距離をとって。


「ちょっと待ってよ!」


 叫ぶが止まるはずもない。

 そして、また女はニコリと微笑んだ。そして逃げる。

 絶対に何か関係がある! 絶対に聞き出してやる!


 女は第二校舎の階段を駆け上がった。俺もそれに続く。


「はぁはぁ……」


 やばい、息が切れてきた。

 並の女子よりも体力も運動能力も高いはずの俺なのに、まったく追いつける気配がない。

 俺は本気で追いかけているなのにまったく追いつけないってどういう事だよ!?


「はぁはぁ……ま、待て!」


 軽く階段を駆け上っている女は余裕の表情でたまに振り向いた。

 俺の声に反応している訳ではないようだ。声をかけなくても振り向く事もあるからな。

 しかし、何で? 確かに本気で追いかけているのに追いつかない。でも、引き離されない。

 これじゃ、まるで俺を誘っているみたいじゃないか。

 女は一定の距離を保って階段を駆け上がってゆく。


「くぅぅ……」


 つ、つらい……。

 ついに俺は階段に足を引っかけた。そして前のめりになり、一瞬だが女を視界から外してしまった。

 すると、どうだ? 女が消えた。


「消えた!?」


 でもこの上に行ったのは確かだ。俺は息を切らせながらやっとの事で最上階まで上った。


「はぁはぁ……ど、どこだ?」


 俺は最上階の廊下へ出て左右を見渡した。しかしそこにあの女子生徒の姿はない。

 先ほどまですぐ前を駆け上がっていたはずなのに完全に消えただと?

 でも、第二校舎に階段はここだけだ。本気で消えるはずなんてありえない。と言う事は……。

 俺は再び階段を駆け上がった。

 ここまで来たら行ける場所は一箇所しかない。そう、これは屋上だ。

 でも……。そうだ。そうだった。

 あいつは魔法使いかもしれない。という事は……魔法で消えた?

 不安が胸をよぎる。

 もしかすると屋上にも女はいないかもしれない。

 でも、行ってみるしかない。いなかったらいなかっただ。


「はぁはぁ……」


 くそっ、胸が熱いし苦しい。ぶっちゃけ本気で走りすぎたかもしれないな。

 俺は息を整えながら屋上へと続くドアのノブを握った。


【ガチャリ】


 ドアには鍵がかかっていなかった。


 開いている? やっぱりここにさっきの女がいるのか?

 俺は息を切らしながらゆっくりと屋上へと出た。そして左右を見渡すと……。いた。

 屋上に出た俺はすぐにあの女子生徒を見つけた。

 グラウンドが見える南側のフェンスの前にあの女子生徒が立っている。フェンスを後ろにしてこちらをじっと見ている。まるで俺を待っていたかのように。


 ごくりと唾を飲み込んだ。ぐっと拳を握った。

 俺はじっと女を見据える。足元から頭の先まで。

 よく見れば絵理沙に似たその女子生徒は息をまったく切らしていなかった。

 信じられない。あんなスピードで階段を駆け上がったのに、なんで平然としているんだ?


 笑みを浮かべて俺をじっとみる女子生徒。

 俺はゆっくりとその女子生徒に近寄っていった。

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