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ぷれしす  作者: みずきなな
十月
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072 不意打ちの自習

 俺は茜ちゃんの目を見て、何度か瞬きをした。

 今、確かに茜ちゃんは俺に【正雄】と付き合っているのかと聞いてきた。

 何で俺が正雄と? なんて疑問も沸いたが、すぐにその理由を思いだした。

 そう、あれだ。きっと運動会の時の正雄が馬鹿三人組に俺の事を彼女とか言ったからか? その噂が今になっても消えてなくって、俺は正雄とつきあってる事になってるのか?

 って、そうだよ! 朝だって、周囲の生徒が俺は正雄とつきあってるんじゃとか言ってたじゃないか!


 無言で違いに見合った俺と茜ちゃん。

 こんな二人の横を、不思議そうな表情で生徒が行き交う。


 黙ってても駄目だろこれ?

 俺は周囲を見渡し、生徒が近くにいないタイミングで茜ちゃんの耳元で言った。


「茜ちゃん、よ~~~~~く聞いてね?」

「う、うん」

「それ違うからね? 私は桜井先輩と付き合ってなんかないからね?」


 茜ちゃんは苦笑しながらあれ? という表情で俺を見た。

 俺が横に顔を向けると、数十センチの距離に茜ちゃんの顔がある。そして、なんか良い匂いまでしやがる!


「そ、そういう事だから!」


 俺は慌てて茜ちゃんから離れた。

 やばい、顔が熱くなった。心臓までドキドキだよ……。

 女子になったて女子に耐性なんて出来るはずもない。ましてや茜ちゃんだぞ?

 俺は胸を押さえながら深呼吸をする。すると、茜ちゃんは腕を組みながら首を傾げた。


「そうなの? てっきり綾香と桜井先輩がつきあってるのかと思ってた」

「付き合ってないよ」

「でも、たまに話しをしてるよね? 仲よさそうに」

「えっ?」


 ああ、そっか、話はしてる。確かにしているな。

 俺は運動会以降は、あいつに出会うと話をするようになったんだ。

 でも楽しそうに話しなんてしてるか? それに話をしているから付き合ってるとか意味がわかんねぇよ。男女は話しをしているだけでもそう思われるのか?


「いや、あれは普通に会話してるだけだよ? だけどそれでつきあってるとかないよね?」

「そっか、そうだよね? 私はね、何で綾香が桜井先輩とつきあうのかなって不思議に思ってたんだぁ」

「でしょ? 私が桜井先輩とつきあるとかありえないし! 誰かと付き合う時には絶対に茜ちゃんに言うもん。だいたい誰から聞いたの? 私が桜井先輩と付き合ってるって」

「えっと、私は野田先輩から聞いたよ?」


 野田先輩だと!? やっぱり三年にはそういう噂が広まっているのか?

 これは早急に対応しないと大変な事になりそうだな。


「そっか、野田先輩なんだ。桜井先輩に言っておかなきゃ。変な噂がたってるって」

「そうだね。私から野田先輩には言っておくね。ごめんね綾香、勘違いしちゃって。先に聞けばよかったね」

「ううん、茜ちゃんは悪くないもん。気にしないでいいよ」


 それにしてもやけに茜ちゃんがホッとしてるな。何でだ?


「私、桜井先輩と綾香がつきあい始めたのに、清水先輩のデートの約束とか、もうどうしようかと思っちゃったよ」


 ああ、なるほど。それもあってあんなに意気消沈してたのか。


「大丈夫だよ。私は今はフリーだから。でもだからって清水先輩が優勝してもデートするだけで付き合ってなんてあげないけどね」


 男とつきあうとか気持ち悪いしな。


「そっか! うん、わかった」


 ここで2時限目の開始チャイムがなった。

 俺は茜ちゃんと慌てて教室へと戻った。



 ☆★☆★☆★☆★☆



 今日の2時限目の授業は理科だ。という事は野木か。


 俺は鞄から教科書とノートを出して机の上へと置いた。そこで、絵理沙が俺の方をじっと見ているのに気が付いた。

 何だ? 絵理沙の奴、ちらちらこっちを見やがって。


「絵理沙さん? どうしたの?」


 絵理沙は俺と視線を一瞬合わせたかと思うとすぐに逸らした。そして「何でもない」と言うと教壇の方へ顔を向けた。

 しかし、その後もチラチラと俺に視線だけ向けている。

 こいつ、俺に何か聞きたい事があるんじゃないのか?

 そうは思いつつも、別に俺からこれ以上聞く意味もないし、授業も始まるからそれ以上は声をかけなかった。

 しかし、野木が来ない。


 そして、数分が経過した。


 クラスがざわめき初めている。

 とっくに授業が始まっているのに野木が現れないからだ。


「ねぇ、誰か野木先生を呼んできなよ」


 そんな声も聞こえる。

 おかしい。あいつが授業に遅れるとか今までに一度も無かった。


 俺はちらりと絵理沙の方を見た。

 席に座って教壇の方を向いている絵理沙の表情はいたって冷静で、あまりの動揺の無さに野木が来ない事を知っているようにも見える。

 いや、もしかして絵理沙は野木が来ない原因が何かを知っているのか?


 俺が再び絵理沙に視線を向けると、その瞬間にガラガラと教室のドアが開く音がした。

 視線をドアの方へと向ける。しかし、そこに立っていたのは野木じゃなかった。

 ドアを入って来たのはクラス担任の先生だった。先生はここまで急いで来たのか少し息を切らしている。そして、教室の入口付近で2・3度深呼吸をすると教壇へと進んでいった。

 教壇に立つと、担任は教室を見渡しながら口を開く。


「ええと、今日の2時限目は理科でしたが、野木先生が急遽お休みになった関係で自習とします。皆さんはここの用意したプリントで中間テスト対策の勉強をして下さい」


 クラス中がまたどよめいた。

 それは野木が休みだという事もあるが、自習と言いながらも中間テスト対策の勉強をしないといけないという事でだろうな。

 まぁ俺はテストは嫌いだし、プリントなんてやるつもりは全くない。

 それより気になるのは野木だ。なんで急遽休みなんだ?


「はい! 皆さん静かにして下さい! プリントを配ります!」


 先生はすべての生徒にプリントを配り終えると、急いで教室を後にしたのだった。



 ☆★☆★☆★☆★☆



 俺は配られたプリントなんて上の空で考えていた。

 何で野木が今日お休みなのかを。


 配られたプリントを見る。

 不思議な事に、配られたプリントは見事に中間テスト対策のプリントになっていた。

 これは急遽用意したようには見えない位にちゃんとしたプリントだ。

 これじゃ、まるで最初から自習を想定していたように感じる。

 いや、もしかしてプリントは最初から用意されていたのか?


 そうなると野木は今日は休む事を考えていたのか? 今日の休みを想定していたのか?

 となると、野木が休んだ理由は北海道に行った事に関係しているのか?


 わかんねぇ……。でも、野木が休んでいるのは事実だ。


 俺が頭を悩ませていると、いきなり【コツっ】と席の上に丸まった白い紙が転がる。

 机の上の転がった丸まったゴミ。いや、紙の固まり。

 どう考えてもこれは右から飛んできた。右というと……。


 俺が絵理沙に顔を向けると、指で紙を開けと仕草をしている。

 やっぱりお前かよ。先生がいないのだから直接話をしてもいいんじゃないのか? 話すのはまずいのか? そう思いながら俺は丸まった紙を開いてみた。


 すると中には《この前、あいつと何処に行ってたのよ》と書いてあるじゃないか。

 どこにって……。絵理沙は俺と野木が北海道に行った事を知らないのか?

 野木は絵理沙に話してないのか?


 俺が再び顔を絵理沙に向けると、すこしムッとした表情で俺を睨んでいるじゃないか。

 いや、何で俺はお前に睨まれないといけないんだよ。

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