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ぷれしす  作者: みずきなな
十月
68/173

068 夢現

 俺の絵理沙の水着が欲しい的な発言のせいで、すっかり野木と会話がなくなった。

 野木はずっと俺を蔑んだような目で見て、声をかけようとすると逃げやがった。

 いつも追いかけてくる癖に、なんでこういう時にそういう反応をするんだよ?


「おい、いい加減にそういう目で俺を見るのはやめてくれないか?」

「そういう目? そういう目というのはどういう目かな?」

「今、お前が俺を見ているその目だよ!」

「ああ……なるほどね……でも仕方ないよね? 妹の水着の写真が欲しいとか言われたらさ」

「だから、あれは例だって!」

「ふぅん……。じゃあ、もし、もしもここで絵理沙の写真があってもいらないと言い切れるのかい?」

「いらない!」


 俺はハッキリと即答した。すると、野木の表情が変わった。

 首をちょっと傾けて、あれ? という感じの表情になっている。


「いらないのかい?」

「ああ、いらない」

「じゃあ、越谷君の水着写真ならいるのかな?」

「なっ!? なんでここで茜ちゃんなんだよ!」

「君が好きな子だからに決まっているじゃないか」


 顔が熱くなっているのがわかった。そして、心臓がドキドキと脈を打っている。

 まったく、何て質問してきやがるんだ。

 でも、俺は……ぶっちゃけ俺は、


「別に……欲しくないな……」

「えっ? 欲しくないのかい?」

「ああ、欲しくないよ。だって、あれだろ? 別に水着の茜ちゃんの写真を持っていたって何になる訳でもないじゃないか。よく漫画とかである定期入れに憧れの人の写真をいれるとか、ああいうのはあまりないと思うんだよな。だってあれだろ? 茜ちゃんには毎日学校で逢えるしな」

「なるほど……」


 だいたい、俺がこの話しをふった大元は、ぶっちゃけエロい写真を妄想から作れないか? という事が聞きたかったからだ。

 絵理沙だろうが、茜ちゃんだろうが、それが裸の写真なら俺も欲しいって思う。

 これは男としての性として欲しいと思うだけだ。

 だけど、そんなものを見たら俺は学校で二人をまともに見れなくなるだろうから、まぁ……出来れば第三者がいいな。

 まぁ、痛い妄想はここまでにしておこう。ともあれ、こいつには言えないよな。

 こいつにそんな事を言ったら、俺は一生こいつに蔑んだ目で見られるだろうからな。


「もう忘れろ。俺も忘れる。お前の魔法の能力がちょっと気になっただけだ。表現というか、聞き方がまずかった。すまん」


 俺が頭を下げると、野木は苦笑した。


「そうか。うん、でもまぁ、女性の水着に興味があるのは仕方無いよね。悟君は男の子だからね」

「まぁ……そうだな」


 その後、俺と野木は徒歩で早朝の富良野を散歩した。

 しばらくして、野木と一緒にタクシーで郵便局へ向かった。

 流石に観光客の多い富良野で、いきなり箒で空を飛ぶのもやばいからな。

 そして、俺はタクシーの中で重大な事実に気が付いた。

 それに気が付いた俺は、手にすさまじく汗をかいた。


 考えてみれば、さっきの変な痛い妄想中に野木に思考を読まれ無くってよかった。

 野木は魔法で思考を読まない努力をしているとはいえ、思考が流れ込む場合もあるって言っていた。

 それがさっきじゃなくってマジで助かった。


「よし、投函したし、戻ろうか」

「ああ……」


 俺は赤い四角い郵便ポストを見詰めながら考えた。

 今更だけど、こんな手紙を俺の親が信じるのか?

 写真を一緒に入れておいたから信憑性は高いし、富良野の消印になるから信用してくれる可能性は高いと思うけど……。


「どうしたんだい?」

「いや、この手紙を両親が信じてくれるかなって」

「なるほど。でも大丈夫じゃないかな? 君がこの手紙を兄の手紙だと信じ、妹として喜んであげれば、君のご両親もきっと信じるだろう」


 そうだな。俺がこの手紙に超絶反応して喜びまくるしかないのかもしれないな。

 こうして富良野での写真撮影&郵便投函は終了した。



 ☆★☆★☆★☆★☆



 俺たちはすべての用事を済ませると、タクシーで人気のない場所へと行き、そして埼玉の自宅へと向かって飛んだ。

 しかし、先ほどのタクシーの運ちゃんが、いやらしい顔つきで俺たちを見ていたのは心外だった。

 俺と野木はそういう関係に見えたのだろうか?

 しかし、女子高生と青年がタクシーで二人……。

 まぁ、そういう関係に見えても仕方無いのか? 会話だって他人行儀だっただろうしな……。


 帰り昼間の飛行になった。

 昼の飛行だけど魔法のバリアで周囲には俺たちは見えないらしい。

 ただ、やっぱり飛び立つ瞬間だけは気をつけないと、人が忽然と姿を消す感じになるらしいから、そこは野木も注意していたみたいだ。

 だからこそタクシーで人気の無い場所まで移動したんだ。

 おかげで変な勘違いをされてしまったが。


 北海道へ来る時もそうだったが、帰りもまったくもって快適なすわり心地だった。

 ただ、野木の体をぎゅっと抱きしめていないといけないのがちょっと不愉快だったが、二時間程度なら耐えられる。

 そして、昼間で燦々と太陽が降り注いでいるが、バリアの中だと日差しも暑く感じなかった。

 寒くも暑くもない空間に、心地よい揺れが俺の疲労した肉体を睡眠へと誘う。

 懸命に開けていた瞼は、俺の意志に逆らうようにゆっくりと瞳を覆った。

 そして、俺はゆっくりと意識を失ってしまった。



 ☆★☆★☆★☆★☆



 ほんわかと温かいものが頬にあたる。

 なにかが俺の顔にあたっている。

 なんだろう? これは髪の毛なのか?


 俺はほぼ働いていないであろう思考のまま、うっすらと瞼を開けて野木を見た。

 はずだった……。でも、俺の目の前にいるのは……。


 あれ? 野木なのか? いや、野木じゃない? 誰だろう……。


 そう、俺は野木じゃない誰の背中に頬をあてていた。

 それは茶色い長い髪をなびかせる人物……。こいつは誰だろう?


 しかし、俺はその人物の表情を確認する前に、再び襲ってきた睡魔によってまた眠りに落ちた。



 ☆★☆★☆★☆★☆



「綾香君、ついたぞ? そろそろ起きなさい」

「ふぇっ!?」


 俺は野木の声で目を覚ました。

 目の前には野木の顔。そして周囲を見渡す。すると……。ってここは俺の部屋じゃないか! なんで俺の部屋に居るんだ?


「君が寝ていたから、仕方なくお邪魔させてもらったよ?」


 満面の笑みの野木。躊躇もなくこの部屋に入ったと一発でわかった。だが、


「どこから入った!? いくら何でも、母さんがお前を綾香の部屋に入れるはずないだろ?」

「そうだね。それはその通りだよ。だから窓をすり抜けて侵入した」

「ま、窓をすり抜けてだと!?」


 窓を見る。しかし何もなっていない。普通に窓だった。


「大丈夫だよ。魔法ですり抜けたから」


 そう言えば、学校を出る時にも窓をすり抜けてたかも。って、こいつ不法侵入し放題じゃん!

 いや、今はそこじゃない。俺がいまいるのは何処だ? そう、俺はベッドの上にいる……。

 野木はどんな格好だ? そう、野木は満面の笑みで俺の上に四つん這いだ。

 これって、JK(女子高生)を襲う男性の図だろ、おい!


「どうしたのかな? そんな強ばった表情になって」

「ま、まさか触ったのか? おい! 俺の体に触ったのかよ!」

「そりゃ、君の体を触らないとベットに寝かせられないよね?」


 ですよね! だけど……まぁ……何かをされたような形跡はないな。

 胸も富良野の時みたいに暖かさはない。

 何も……されてないよな?


「悟君、僕はすばらしい発見をしたんだ!」

「発見!? な、何なんだよ」


 野木の眼鏡が一瞬光ったように見えた。そして野木は俺の胸を指差す。


「君の胸が成長していたんだ! いやぁ、富良野は君の胸を触るだけど、詳しく成長記録をつけていなかったんだ。今さきほど魔法で計測してみたら、君の胸は確実に成長しているよ!」

「な、な、な!?」


 俺の顔が急に熱くなった。それと同時に両手で胸を隠した。


「な、何やってんですかあんた! 富良野でいっぱい触っただろ? なのに何でこの部屋でも触るんだよ!」

「何を言ってるんだい? 僕は触っていないよ? 魔法で計測したと言ったよね?」

「へっ? ま、魔法?」


 いや、確かにそう言っていたかもしれない……。


「魔法だよ?」

「じゃあ、触ってないのか?」

「触っていないよ? もう十分に富良野で堪能したからね」

「た、堪能とか言うな!」


 でも、そっか、触ってなかったのかよ……。


「では悟君、いや、綾香君! 用事も終わったし僕は戻るからね! それではまた!」

「お、おい!」


 野木は立ち上がると、俺の言葉には反応せずにそのまま窓に直進。そしてガラスに手を当てた。すると、窓が真っ黒に変色する。そして窓を開けて野木は平然と中に入ってゆく。


「おい、野木!」


 しかし、野木は返事をしなかった。そのまま窓の中へと消えた。

 だが、俺は窓際まで走り寄った時に見た。あの野木の苦痛の表情を……。俺は見逃さなかった。

 なんで……なんでアイツはあんなに辛そうな表情だったんだ? やっぱり北海道まで飛んだからか? 寝不足だったからか?

 だが、真相を聞こうにももう野木は部屋にはいない。

 そして、俺は色々と考えながらベットへと戻り腰かけた。すると……。


「箒が残ってるんだけど?」


 そう、部屋の中には箒がそのまま残されていた。

 ご丁寧にメモ帳に【これは君へのプレゼント】と書き置きを残してあった。


「い、いらねぇ……」


 俺は箒を持つと部屋の端に立てかけた。

 そして、箒を立てかけた瞬間に俺は思いだした。


 そう、帰りの飛行中のあれは何だったんだ?

 俺は一瞬目を覚まして……。

 野木が別人になってたような気がしたんだ。

 茶色の長い髪の人物だった。

 もしかして、あれが野木の本当の姿なのか? そうか、その可能性はある。

 いや、あれは夢だったのか?


 俺は考えも纏まらないまま、リビングへと階段を下りた。

 いきなり現れた俺にすさまじい勢いで驚いた母さん。俺まで連鎖的に驚いてしまった。

 そうだった……。俺が戻った事を母さんは知らなかったんだよ!

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