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ぷれしす  作者: みずきなな
十月
67/173

067 男子たるもの妄想して何が悪い!

 俺の目の前には乳牛(野木)がいる。

 見事な白と黒の牛柄で、って牛柄って表現でいいのか?

 まぁ、とにかく、俺の目の前には牛がいる。野木の変身したホルスタインが……・


「農家と言えば乳牛だよね。という事で、写真を撮ろうじゃないか」


 そして、この牛、人の言葉を話している。

 牛の姿で人の声とか、どんなホラー映画だよ。

 あと、お前は男なのにホルスタインでいいのか? あと、雌牛だからって何で声が女なんだ!

 野木の声はまるで絵理沙のような声だった。

 まぁ、絵理沙の兄だからこんな声になったのかもだけど。

 しかし、魔法はやっぱりすごいと感心してしまった。魔法って何にでも変身出来るんだな。

 こんなものがこの人間世界にあったら、犯罪が絶えないだろうな。

 でも、こいつらの世界ってどうなんだ? 変身が出来たらどいつが本物かとかわからないんじゃないのか?

 犯罪者の巣窟になるんじゃないのか?


「綾香君? どうしたんだい?」


 まぁ……いっか。


「いや、別になんでもない」


 こいつらの世界の事はまた機会があれば聞いてみればいいよな。


「じゃあ、君は僕の背中に右手をかけてくれるかな? そして、笑顔で東に見える木の方を見てくれ」

「木? これでいいのか?」

「ああ、OKだ」


 俺が野木に触れると再び悟の姿になった。しかし、


「カメラはどうするんだ? 持ってきてないだろ?」

「大丈夫だよ」

「大丈夫って……」


 カメラがないのに写真を撮るとか、出来るはずがない。しかし、


「さあ! 格好をつけて! はい! チーズ!」


 野木は躊躇なく言葉を発した。

 しかし、俺は格好なんかつくれるはずもなく、口を開けたまま周囲を見渡してしまった。


「駄目じゃないか」

「いや、だからカメラが無いのに、どうやって写真を撮るんだよ」

「大丈夫だって言っているだろ? 僕には魔法があるんだ」

「魔法?」

「そう、魔法で写真を撮るんだよ」


 魔法で写真? どうやって?


「さぁ、もう一度いくよ? はい、チーズ!」


 俺は野木の掛け声に慌てて笑顔をつくった。


「OK!」


 あれ? 俺の顔は引きつっていたけど、大丈夫なのか?

 でも、本当に写真は撮れているのか? 魔法で写真とか、どうやって撮るんだよ? なんて思っていると野木が元の男の姿に戻った。同時に俺も綾香の姿に戻ってしまった。

 せっかく悟の姿になれたのに、ちょっと残念だ。


「ほら撮れた! ばっちりだね」


 残念な気持ちでいっぱいな俺の思考を察する事もなく、野木は満面に笑みで右手を差し出した。


「ん? 何だそれ?」

「写真だよ?」


 確かに、野木が右手に何かを持っている。写真っぽいものを。


「写真だと!?」

「そうだよ? ほら、みてごらんよ」


 確かに、野木の手には写真があった。

 さっきまで牛になっていた野木がどうやってこの写真を出したのか、まったくわからない。しかし、今、現実に野木の手には写真がある。


「ほら、どうだい? 最高の写真だろ?」


 俺は野木の手にあった写真を撮った。


「おい……」

「なんだい?」


 俺の手にある写真には、俺が乳牛の世話をしている姿が写っていた。

 っておいまて! 俺はさっきそんな格好をしてないし、なんだよこの写真は?


「驚いている様子だね?」


 顔をあげると、ドヤ顔の野木が腰に手を当てて胸を張っている。

 思わず殴りたくなった。


「驚くも何も、さっきの格好とまったく違う格好の俺が写ってるんだけど?」

「はははは! これは思念合成写真という代物だ!」

「何だよそれ!」

「ふふふ、簡単に説明してあげよう。思念合成写真というのは、僕の周囲のフィールドに存在する物体のデータを視覚から脳内へと複写し、魔法力で他次元空間に再現し、そのフィールド上で魔法力で再構成し、自分の好みにシチュエーションを作るという代物だ」

「いや、全然簡単な説明じゃないぞ? それ」

「そうかい? じゃあもっと簡単に言うと……」


 野木はしばらく考えると、一言でまとめた。


「僕の妄想を写真にしたんだ」

「ああ、そういう事か。理解できたよ……」


 妄想を写真にとか……すごい技術なんだかどうなんだかわかんねぇな……。と、俺はここで閃いてしまった!

 妄想を写真にするだと? と言う事は、男にとっての夢を現実に出来るのか?

 そう、男だったら誰でも願望するであろう事。それが野木の魔法だと可能になるのか?

 俺はごくりと唾を飲んだ。

 そうだとすると、すごいぞ? すごい事だぞ?

 でも、どうする? こいつにストレートに聞いてもいいのか?

 いや、こいつも男だ。きっとそういう事に興味がないなんてないだろ?

 魔法使いだから興味がないとかないよな?

 俺は深く息を吐いて野木を見上げた。


「どうしたんだい?」

「お前は妄想を写真に出来るんだよな?」

「……まぁ、情報さえあれば」


 これは……もしかして。


「それは写真でもいいのか?」

「写真よりはリアルで見られるものの方がいいけど……」


 野木は眉間にしわを寄せて俺を睨んでいる。なぜに睨む? 俺が変な事を考えているとでも思っているのか?


「いったい何を考えているんだい? 変な事でも考えているんじゃないのかい?」


 思ってた……。


「違う! 変じゃない! と言うか、変といえば変かもだけど……。だけど、男だったらちょっとは考える事だよ!」

「……一応、言ってみてくれるかな?」


 何か反応が……。

 野木だったら、「なんだい? 僕も興味があるよ!」とか言うかと思ったんだけどな。

 こんな反応のまま、女性の写真を見て、その子の裸の写真とか出来るんだよな? なんて聞けない空気だよな。

 よし、じゃあ、


「ええと、例えばだけど、絵理沙の水着姿を考えて写真にするとか出来るのかな?」

「え、絵理沙の水着だって!? さ、悟君は絵理沙の水着の写真とか欲しいのか?」


 野木はすさまじく動揺しやがった。お前に顔まで真っ赤になりやがった。

 おいおい、俺の予想の遥かに上をゆく反応すぎるだろ?

 お前と絵理沙は兄妹なんだし、そこまで……。って……。そうか、そうだよ!

 俺がもし、誰かに綾香の水着写真が欲しいと言われたらどうするんだ?

 その瞬間、俺も顔が熱くなった。


「た、例えだよ! 例え! 別に絵理沙の水着の写真が欲しいって事じゃない! そう、欲しくない!」


 やばい、俺は野木に妹の写真が欲しいとか言ってる事になってた。

 そりゃ野木だってこういう反応するよな……。失敗したぜ。


「悟君……君はいやらしいね」

「な、何がいやらしいだ! 男だったら、女子の水着とか興味があってあたりまえだろうが! でも、もう一度言っておくが、絵理沙のはいらないぞ? あれは例で本当に欲しい訳じゃないんだ」

「……ふぅん」


 頬を桜色に染めた野木は、右手で口を押さえながら目を細めて俺を見詰めるのだった。

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