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ぷれしす  作者: みずきなな
十月
66/173

066 大牧場は緑?

 俺はゆっくりと瞼をひらく。

 すると、目の前に広がっていたのは薄暗い草原だった。


「…………」


 左右を見る。

 やっぱり草原だった。


「……」


 もう一度みたが、草原だった。


「……草原? えっ? えぇぇぇ!」


 な、何で俺はこんな場所にいるんだよぉ!? なんて一瞬焦ったが、流石にすぐに思いだした。そう、ここは北海道の富良野だ。

 俺は昨日、野木の魔法の箒に跨って北海道までやってきたんだ。


 再び周囲を見るが、まだ薄暗く寒そうだった。で、ここで思った。何で俺は寒くないのか?

 そう、俺はまったく寒さを感じていない。というか、快適だったりする。

 10月の北海道の寒さはすごいはずだ。だから、こんな場所で寝ていたら風邪を引くのは確定だ。

 そんな事を考えていると、俺は背中に感じる温かみに気がついた。

 ふわふわした暖かさが背中から俺の体内に流れ込んできているじゃないか。


「んっ?」


 俺がゆっくりと振り向くと……。


「の、野木!?」


 そう、後ろには野木がいた。

 野木は優しい笑みで俺を見ていた。そして、コートを羽織った俺を、抱え込むように優しく抱いてくれている。


「やあ、綾香君おはよう。ちょうど今から夜明けだよ。牧場の写真を撮るにはいい時間だね」


 のんきにそんな事を言っているが、目の下にくまが出来てるじゃないか!

 まさか、こいつずっと起きてたのか? もしかしてずっと俺を暖めてくれていたのか?


「綾香君、どうしたんだい?」

「いや、あのさ、お前まさか寝てないとかないよな?」


 すると、


「ああ、寝てないよ? 寝てしまうと変身魔法が解けるからね。それに綾香君を暖める魔法も使えなくなるしね」

「お、お前……」


 即答だった。

 しかし何だよ? お前はマジで俺を暖める為に起きていたって言うのかよ?


「あれだよ、綾香君」

「な、なんだよ?」

「僕は寝ていない」

「……それはもう聞いた」

「だが、寝ていないおかげで、君の胸の成長を確認できたんだ!」

「なっ!?」

「大丈夫だ! 君の胸はちゃんと成長していた! よかったじゃないか!」

「な、な、な!? 何が成長だよ!」


 と言いつつ胸へと視線を落とす俺。

 すると、俺の両胸には野木の両手がしっかりと乗っていた。それも胸をしっかり包み込むように。


「……」


 やばい、あまりのフィット感にまったく気がつかなかった。

 って、冷静になってる場合じゃないだろ!


「お前、何してんだよ!」

「何って、成長チェックだろ?」

「ふざけるな!」


 俺はおもいっきりの野木の両手を叩いた。

 すると、野木は「痛いっ!」と声をだして俺の胸から手を離した。

 しかし、油断した。昨日のこいつがあまりにも良いやつすぎて、もう変な事はしないだろうと思い込んでしまっていた。

 だけど違った。

 野木はやっぱり野木だった!


「そんなに睨まなくてもいいじゃないか。胸なんて触っても減るものじゃないだろ?」

「俺の精神がガリガリ削られるわぁぁ!」


 俺は慌ててその場から立ち上がった。


「初心だねぇ」

「な、何が初心だ! あのな? 胸を躊躇なく触っていい訳ないだろ?」

「スキンシップだよ」


 お前、さっきは成長確認って言ってただろうが!

 そして、野木は俺の文句にもまったく堪える様子もなく、ニヤリと笑みを浮かべた。

 俺は気が付いた。胸に暖かい手の感触が残ってる。

 まさかこいつ、一晩中俺の胸を触っていたと言うのか? まさかそうなのか?


「お、おい……む、胸を……俺の胸を……」

「君の胸はAカップだよ」

「そんなの聞いてねぇよ!」

「そうだね。聞かれてない」


 こいつ、どうにかしてくれよ!


「と、余興はここまでだよ」


 余興だったのかよ! 俺の胸は余興だったのかよ!


「綾香君、ここは早朝の牧場だ。ほら、見てごらんよ。良い感じじゃないか。早速写真を撮ろうか? 手紙はもう昨日書いたしね」

「こ、ここで写真だと? って、ここは牧場じゃないだろ?」

「そうとも言うな」

「いや、間違いなく牧場じゃねぇえし! それに、牛だっていない! だいたい俺は悟の姿じゃないんだぞ?」


 俺がそう言うと、野木はパンツとシャツについた草を払い、ゆっくりと立ち上がった。

 そして、俺に歩みよるとそっと手を伸ばす。

 が、俺はすぐに避けた。


「逃げたら駄目じゃないか。君を悟君に出来ないだろ?」

「な、何を言ってるんだよ? 俺を悟にとか、意味わかんねーし!」

「意味だって? すぐにわかるよ。だからさぁ、手を出して」

「……なんか悪い予感しかしないからやだ」


 すると、野木はため息をついた。

 なんかすっごく俺に対して呆れているように見える。

 俺が何でお前にそんなに呆れられないといけないんだよ!


「さっさと手を出しなさい。これは先生からの命令だ!」

「何が先生だよ!」

「いやいや、僕は君の学校の先生だろ?」


 確かにそうだ。まぁ、間違ってない。


「さぁ、怖くないから手を出しなさい」

「ほ、本当かよ?」

「大丈夫、先生は嘘しかつきません」


 駄目じゃん……


「というのは冗談だよ」

「……」

「さか、手を出してくれ」


 俺は仕方なく手を野木の前へと差し出した。すると、その手を野木が握る。

 一瞬俺は身を引こうとしたが、野木の持つ手が離れない。


「逃げてどうするんだよ? 僕は今から魔法を唱えるんだよ? 早く目を閉じてくれ」

「待て! ちょっと待て……。えっと、あれだ……。俺を……。お、襲ったりしないだろうな?」

「僕を信用しなさい」

「信用できないから言ってるんだろうが!」


 と言いつつもゆっくり目を閉じている俺がいる。

 どうしたんだ俺は? これは一種のツンデレ現象か? 俺はツンデレになった記憶はないぞ!?


「よし、いい子だね♪」


 何だろうか、野木の持つ手が温かくなった。これが魔力?

 そして違和感が体を襲った。体のあらゆる部分に違和感を感じる。


「よし、もういいよ。これで綾香君は見た目だけ悟君だ」


 えっ? な、何を言ってるんだ?

 俺は瞼を開いた。

 すると、先ほどまで見上げていたはずの野木が、ほぼ目の前に立っているじゃないか。


「えっ!?」


 俺は握っていない方の手を確認する。ごつい男の手になっている。

 下を見れば、スカートじゃなくってズボンになっている。


「ほら、今の君は悟君だよ」


 野木が手鏡を俺に見せた。すると、そこには確かに悟のが映っているじゃないか。

 右手を挙げれば、鏡の中の俺も右手を挙げている。

 そうだ、間違い無い……


「俺は悟に戻った! 声まで戻ってるぞ!?」

「君の奥底にある悟君としてのデータを引き出した。それを元にして悟君に変身させてみたんだけど、どうだい?」

「すげーな! こんな魔法が使えるなら最初から言えばいいじゃないか!」


 俺は嬉しくなってその場から移動した。すると、野木の手が俺の体から離れてしまった。


「あっ! 駄目だって!」


 野木の声を聞くと同時に俺の身長が急に縮まったような……。


「君は僕の魔力君ので姿を変えてるんだ。僕から離れると元の綾香君の姿に戻ってしまうんだよ」

「えっ……」


 確かに、声も高くなったし身長も低くなった。そして……。

【ぷにゅん】まんじゅうが2つついているな。

 うん、本当に綾香に戻ったみたいだ。


「なんで戻った……」

「僕の手から離れたから」

「……なるほど」


 まぁ、考えてみればそうだよな。こんな簡単に悟の姿に戻れるのなら、もっと先に教えてくれただろうしな。

 だけど、少しでも悟の姿に戻れるとわかったのは良い事だ。


「さあ、綾香君、写真を撮るよ?」

「写真? でも動物がいねぇし」

「ふふふ……そんな事、心配ナッシングだ!」


 次の瞬間、野木が牛になった。

 おい、なんでお前が乳牛になった? 乳牛て雌牛だろうが!(そこか?)

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