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ぷれしす  作者: みずきなな
十月
65/173

065 星空の見える場所から 後編

 野木の他人の思考を読む能力。

 俺はその能力を自分の意思で発動しているのだと思っていた。

 しかし、そうじゃなかった。こいつは意識をして思考を読んでいなかった。

 野木は自分の意思とは関係なく他人の思考が読めるらしい。

 でも、こいつが言っている事は本当なのか、確信がある訳じゃない。

 もしかすると野木の言っている事は嘘なのかもしれない。

 だけど、俺は野木を見てなんとなく思った。


【こいつは嘘は言っていない】


「話は戻るけど、魔法を使うと俺の思考を読めなくなるって言ってたのは?」

「ああ、うん、それだよね……。今はそれが唯一の解決方法なんだよ」

「唯一の解決方法だって?」

「あ、いや、解決方法じゃないね。人の心を読まない方法だったよ」

「えっと、じゃあ、魔法を使うと人の心を読まないで済むのか?」

「あはは……そうだね……」


 野木が寂しそうな表情でため息をついたのを見て、俺も思わずため息がでた。

 なぜだろう? こいつの事は好じゃないのに、こいつが苦労をしてるってわかったらかわいそうな気持ちが溢れてきた。


「君がそんなに心配する事はないよ。言っただろ? 僕は魔法を使用すれば思念を読まなくて済むんだよ」

「本当にか?」

「うん。だから、僕が魔法を使っていれば思考を読む能力は打ち消されるんだ」

「……そうなのか」


 野木はこくりと頷いた。


「だから、僕は常に高度な変身魔法を使っているんだよ」

「そうなのか? そういう事なのか?」


 今の野木の姿は白衣の男性だ。

 そして、俺は本当の野木の姿を知らない。

 本当の野木は俺の横にいる野木じゃない。

 その事実は知っているけど、俺は魔法使いとしての野木の本当の姿を知らない。


 野木は変身魔法を使う事で思考を読む能力を抑えてるのか?


「でも……お前は俺の思考を何度も読んでるよな?」


 そう、だけどこいつは俺の思考を何度も読んでいる。

 確か、思考を読まれたのはこの格好だったはずだ。

 もし、変身魔法を発動していれば心を読めないのならば、こいつのさっきの説明は成り立たないだろ。


「君は今、僕が変身をしているのに君の思考を読んだ事があるのはおかしいと思ったね?」


 俺の心臓が跳ねた。


「お、おまえ、今も俺の思考を読んでるのか!?」

「いいや、読んでない」

「で、でも!」

「本当に読んでないよ。君は単純だからわかるだけだ」

「ちょっ! ちょっと待てぇぇ!」


 野木はまたしても声を出して笑いやがった。それも今度は本当に楽しそうに。

 しかし、その笑いもすぐに収まった。


「それでも……。変身魔法を使っていても、他人の考えが僕の中に入ってくる事があるんだよ。特に僕と係わり合いのある人間の場合はそうなる可能性があがるのさ」


 野木が寂しそうな目で俺をじっと見た。


「そ、そうなのか……」

「だから、僕は二重や三重で魔法を使う。魔法を使えば使う程、相手の思考は読めなくなる」

「なるほど……」

「僕はね?」

「な、なんだよ?」


 ふっと優しい笑みを浮かべた野木は言った。


「僕は君の思考を読みたくないんだ」

「……」


 俺の心臓が鼓動を早めた。

 こいつの想いが俺の胸を締め付ける。苦しい。

 俺は文句ばっかり言って、こいつの事を何もわかってなかったんだ。

 ただ、俺の胸を触って思考を読みまくる変人だと思っていた。

 だけど……違った。そうじゃなかった。


「おい、お前は今もいっぱい魔法を使っているのか?」

「そうだね、三つくらいかな?」

「そっか……」

「どうしたんだい? そんなに沈んで……。もしかして僕に同情してくれているのかな? だったら余計なお世話だよ……。僕はもう慣れているんだ」


 違う。そうじゃない。お前は慣れてなんかいないだろ?

 だから、魔法を何重にもかけて思考を読まないようにしているんだろ?

 俺だって他人の考えが流れ込むなんて嫌だ!

 知りたくない事まで流れ込むなんて嫌だ!


「馬鹿か! 何が慣れてるだよ! そんな慣れるかよ!」

「でも、僕はこの能力と共存するしかないんだよ」

「だからって……」


 俺は言葉を失った。無意識に顔を俯いた。

 そして沈黙の時間が流れた。


 しばらく時間が経過して、俺はゆっくりと顔を上げた。


「野木、俺が俺の思考を読んでると思って何度も怒鳴った。ごめんな」


 そして、謝罪した。

 野木はニコリと微笑むと俺の頭に手を乗せた。


「いや、いいよ。それが普通の反応だ。誰も心の中を覗かれたり知られたりして気持ちいいとか嬉しいって思う人間はいないだろ?」

「そうだな。でも……俺は……」


 頭に野木の手のぬくもりが伝わる。


「絵理沙はこんな僕が嫌いなんだ。僕は絵理沙の考えすらわかってしまうから……」


 ……絵理沙。だから野木の事を嫌っているのか?


「出来れば、僕は絵里沙の考えも読みたくないんだ。傍にいない方がいいんだ」

「そっか……」

「ごめん。くだらない話ばかりしてしまったよ」

「いや、ぜんぜんくだらなくない! 逆にありがとう、俺になんか話してくれて」

「うん。よかったよ。君に話す事が出来てね」


 野木は俺の頭から手を退けると、笑顔のまま星空を見上げた。すると、


「悟君! 流れ星だよ! 人間は流れ星が消えるまでに三度お願いをすれば願いが叶うっていうんだろ?」

「えっ!?」

「あ、また流れ星だ!」


 俺も慌てて星空を見上げた。

 すると、いくつもの流れ星が空を縦断してゆくじゃないか。


「すげぇ……何だこれ?」

「ほら、君はお願いしないのかい? 越谷茜ともっと仲良くなれるようにとか?」

「ぶっ」


 な、なんでそんな話が今でる!?


「お、おい! なんで俺が茜ちゃんの事を好きだとか知ってるんだよ!」


 野木は優しい笑顔で俺をみつめた。


「君と最初に出会った頃に、君の中から僕の中に流れ込んできたんだよ。言っておくが、これは不可抗力だよ?」

「野木には不可抗力かもしれないけど、俺が茜ちゃんの事を好きだって絵理沙にも教えただろ!」

「どうだったかな? 忘れてしまったよ。それよりほら、また流れ星だよ?」


 くそ、誤魔化しやがった! 絵理沙の教えたのは絶対に野木だ!


「誤魔化すな!」

「誤魔化したんじゃない。本当に忘れたんだ」

「なっ!?」


 でも……まあしかし、これは終わった事だ。いまさら怒っても仕方ないか。


「僕はもうお願いをしたよ? 君の妹が、姫宮綾香さんが早く戻ってきますようにって。そして君が早く悟君に元の姿に戻れますようにってね」

「えっ!? 何でそんな願いをしてんだよ?」

「そんなの当たり前だろ? 僕は君を元に戻すのを助ける為に魔法世界から来ているんだからね」

「まぁ、そうだけど……」


 こいつ、本当はいい奴なのか?

 いや、別に普段も悪い奴じゃない。手癖が悪いだけだ。


「君もお願いするといいよ。また星が流れているからね」


 野木が右手で星空を指差した。

 俺は言われるがままに野木の指差す星空を見上げた。

 夜空には無数の流れ星が夜空を駆けてゆく。

 俺はそんな流れ星に願いをこめた。

 綾香が無事に戻ってくるように。それと……。

 ……な、内緒だ。


 その後、野木は俺に星座について話をしてくれた。

 星座について語る野木はまるで子供のようにはしゃいでいた。そう、本当に楽しそうだった。

 そんな野木と話をしていると、今までの野木のイメージが違うと実感させられる。

 こいつは本当はやさしいいい奴なのかもしれない。

 そして、今のこの野木が本当の野木の姿なのかもしれないと。

 何故か今はそう感じた。

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