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ぷれしす  作者: みずきなな
十月
62/173

062 あの箒にのって 前編

 俺の家に到着した。

 到着までの所要時間は約2分。

 すごく早いだろ。車を使ったってこの時間で戻れないぞ?

 魔法ってすごく便利だな。そう認識した。


「で、どうするんだよ?」


 玄関の前で白衣姿の野木と立ちすくす。と思っていたら、


「まずはこうするんだよ」


 野木は躊躇なくインターホンのボタンを押した。

 するとインターホンから母さんの声がする。警察から戻ったのか。思ったより早かったな。


「私、彩北高校の教諭をしております野木と申します」

「あ、はい、お待ちください」


 玄関の明かりが付くと玄関ドアが開いて中から母さんが出て来た。

 まだ戻ったばかりなのか、普段着ではない。そして微妙に目が腫れぼったい気がした。

 もしかすると泣いていたのかもしれない。俺のせいで。


「はい? 野木先生ですか? 何のご用でしょうか? あら? 綾ちゃん? どうしたの?」


 母さんは無理になのか、笑顔をつくって野木に対応した。

 野木も俺には見せた事のないほどの真面目な表情で母さんと話を始めた。


「この度、姫宮綾香さんが天体観測部に入部されまして、それで今日の夜に天体観測部での泊まり込み合宿を予定していたのですが、ご両親様にお話を忘れてしまったという事で、私が直接ご説明にまいりました」


 なんという先生トークだろう。野木、お前演技うますぎる。本当に先生みたいだぞ?

 あ、そうだこいつ先生だった……。


「あら? そうなの綾ちゃん」


 母さんはすこし驚いた表情をすると俺の方を見た。疑うという事をしないのか?

 まぁ、それが母さんの良い所であり、悪い所なんだけどな。


「あ、うん。ごめんなさい、言い忘れちゃった。あ! そうだ! お兄ちゃんどうだった? 警察行ったんでしょ?」


 一応、俺の事も聞いておこう。本当ならば聞くのは野暮というか、駄目なんだろうとは思うけど、だけど、聞いておけば今がどういう状況か多少はわかるかもしれないしな。


「別に……。何も進展はなかったわ。警察の人には諦め……。ううん、綾ちゃんは何も心配しないくていいわよ? そのうち見つかると思うって言われたから」


 母さんは笑顔でそう言った。が、うそだとすぐにわかった。

 きっと、これ以上は捜索しても無駄とでも言われたんだろう。じゃないと泣くはずがない。

 でも、俺を綾香だと思って、心配をかけさせまいと、そう言ってくれたんだ。

 本当に早く両親を安心させてあげないと駄目だな。


「お母さん、大丈夫です」


 野木がしっかしりた口調で母さんに向かって言い放つ。

 母さんは目を丸くして野木を見返している。


「こういうと無責任と思われてしまうかもしれませんが、私は悟君が絶対に生きていていると、いつか戻ってくると信じています! 姫宮さんからも悟君の話はよく聞きます。妹想いの良いお兄さんだったと。そんな悟君が家族を残してこのまま居なくなるなんてありません! きっと戻ります! だから元気を出してください!」


 野木は力強く、そう言い切った。その言葉には、まるで魔法がかかっているかのように力を感じた。

 その言葉は本当に温かく、そして母さんの顔が一気に明るさを取り戻した。


「ありがとうございます。私たち家族も悟が生きていると信じてます。そして戻って来ると信じています!」


 母さん……。


「お母さん、私もお兄ちゃんは生きてるって信じてるから。信じて待とうね」

「うん、そうよね、そうだよね。信じましょう。私たちは信じて待ちましょうね」


 母さんは笑ってくれた。少しは元気が出たみたいだな。

 よし、ここは早く作戦を実行してもっと元気になって貰わないと。


「母さん、話が戻っちゃうけど、天体観測の事を言い忘れててごめんなさい」


 俺はそう言って母さんに頭を下げた。


「お母さん、私が責任をもって姫宮さんをお預かりしますので、合宿に参加させてあげてはダメでしょうか? 他の部員も姫宮さんの参加を望んでおります」


 母さんは野木の表情を見た後で俺の顔をじっと見た。 


「先生、励ましの言葉を頂いたのに申し訳ありませんが、綾香は事故で記憶があやふやになった事もあります。正直あまり外泊なんかさせたくないのですが……」


 俺(綾香)の事を心配をしてくれてるのか? でも今回は絶対に行かないといけないんだ。


「母さん、私ね、参加したいの! みんなと一緒に天体観測したい! 記憶がなくなってからずっと不安だったけど、今やっと学校にも慣れて……やっと楽しくなってきた所なの。だからお願い」


 母さんは俺の方を見ながらすこし考えこんだ。そして小さく何度か頷くと野木に向かって言った。


「野木先生、綾香を宜しくお願いします」


 その言葉に野木は自信に満ちた笑顔で返す。


「はい、お任せ下さい! 私が姫宮さんをお守りしますので」

「あはは、まるで先生が白馬の王子様みたいね」

「な、何でそうなるのよ!」

「私は全員の生徒の白馬の王子ですから」

「あら、そうですよね。はい、ではよろしくお願いします」


 こうして俺の天体観測…じゃない…北海道行きが確定した。って、待て! そうだよ! 箒で北海道って軽く考えたけど、到着まで何分、いや何時間かかるんだよ!


「それじゃあ、姫宮さん、準備をしてきて」

「は、はい」


 箒で北海道とか過酷どころじゃないだろ? あれだ、野木のあのどこでも○アみたいなあの魔法でいいじゃないか?

 でも、母さんの前じゃ言えないし……。

 後で言おう。ずっと野木と一緒っていうのもなんとなく不安だしな。


 俺は部屋で防寒準備を万端にしてから外に出た。

 外では母さんと野木が待っていた。


「お待たせしました」


 母さんは俺の側に寄ると笑顔で言った。


「綾ちゃん、風邪ひかないようにね」

「うん」


 そして、俺は母さんに手を振って別れた。


「では行こうか」


 野木と並んで歩く。俺が男と並んで歩いてる。相手は野木だが……。

 こうして歩きならが野木を見上げると、やっぱり大きい。

 カップルで歩く時って、女はこういうふうに男を見上げているのかな?

 まあ野田先輩のような例外もあるけどな。

 しかし、この位の身長の差があると顔の位置も結構上の方になるんだな。


「どうしたんだい? 僕の顔になにかついてるかい?」


 しまった! 野木の顔をじーと見ててしまった!


「な、何でもない!」

「そうかい? よし、それじゃそろそろ飛ぼうか?」


 思ったよりも気が抜けるような反応だったな?

 何時ものように変態オーラを出して僕の事が好きなんじゃないかい! とか聞いてこないのかよ?

 それとも、まだ家が近いから遠慮しているのか?


「ほらほら、今度は抱えて飛ぶ訳にもいかないから、僕が箒に跨がったら後ろに座ってくれるかな」


 後ろ? そっか、今度はさすがに後ろか。


「あ、わかった」


 俺が箒に跨ろうとしたら野木が止めた。


「あ、まってくれ。これ箒の上に置いてくれ。あと別に跨がなくていいから普通に横になって座っていいからね。あと、お尻が痛くなったり疲れたらすぐに声を掛けてくれよ?」


 野木は箒の部分に魔法で出したクッションのようなものを置いた。

 それに座ると、とても柔らかく、まるで竹の上に座っているようには感じなかった。

 何だろうか、すっごい野木が優しい。おかしい……気持ち悪い。

 しかし、俺の気持ちを読んでいないのか、野田は首を傾げて俺を見ていた。

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