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ぷれしす  作者: みずきなな
十月
58/173

058 手紙の内容とは 後編

 俺がドアに手をかけたと同時だった。

 階段室の横の方向から【ドスン!】と何かが落ちてきたような音が聞こえた。

 俺は慌ててドアから手を放し、音がした方へ移動してみる。

 すると、そこには女子生徒が立っていた。それも見覚えがある女子生徒が。


「な、なんでお前がここに?」

「えっ?」


 こいつ、一体どこから現れたんだよ!


「絵理沙!」

「あ、綾香ちゃん!?」


 絵理沙はかなり驚いた表情をしている。


「綾香ちゃんが何でここにいるのよ!?」

「俺の方こそ聞きたいよ! 何で絵理沙がこんな場所にいるんだよ? っていうか、絵理沙はどこに居たんだよ!」

「えっ? えっと……あそこでちょっと色々やってた」


 絵理沙が指差したのは貯水タンクのある階段室の上の部分だった。


「あそこって……貯水タンクのとこか?」

「うん……そうだよ」


 あんな場所に上がってのかよ。どうりで俺も気がつかなかったはずだ。と言うよりさ、あの場所は結構高いぞ? 普通の女子で階段室に昇るとかないだろ。

 こいつ、本当にあそこから飛び降りたのか?


「おい、ハシゴで登ったのか?」

「うん」

「さっきの音は飛び降りた音か?」

「うん」


 即答かよ。って、あそこから飛び降りただと?

 貯水タンクのある階段室は高さが3メートルはあり、男でも飛び降りるのは勇気がいるレベルだ。そこからこいつは飛び降りたと言った。

 ま、まあ、絵理沙は魔法使いだし……。ってそれにしてもなぁ……。

 ちなみに、今の俺じゃ、あそこに登るのも飛び降りるのも無理だと思う。

 よくまぁあんな場所に行けたよな。


「で、あんな場所で何をしていた?」


 絵理沙は口を尖らせたままで質問に答えようとしない。

 そして、チラチラと俺の方を見ている。

 そこで、だが何となく何をしていたのかが解った。


「おまえ、朝の手紙の確認をしてたんだろ?」


 絵理沙の表情が変わった。図星だな。

 だが、絵理沙も一人になるのに屋上を選んだという事もわかってしまった。

 うーむ……。まさか俺と考えが被るとは。


「で、どうだったんだ? お前のはラブレターだったのか?」


 俺が聞くと、絵理沙の顔が急に赤くなった。


「な、何で綾香ちゃんに教えないといけないのよ! それとも何なの? 私がもらった手紙の内容が気になるって訳?」


 なんでそんなに突っかかる!? でもな?


「ああ、気になるよ」


 これが本音だよ。さぁどうだ? どう答える?


「え!? そ、それってどういう意味よ?」


 上目遣いで俺をチラ見している絵理沙。気のせいかもしれないが、さっきより照れているようにも見えるんだが。


「意味って何だよ? そのまんまだろ? 単純にお前の貰った手紙の内容が気になるんだよ」


 本当なら女子が貰った手紙の内容を追求する男子とかありえない。でも、今回は俺も女子な訳だし、相手は絵理沙な訳だ。容赦はいらない。

 別に拒まれればこれ以上は聞くつもりもないけど、気になるのかと言われれば気になるのだから仕方ないだろ。

 そして、絵理沙は頭を斜めに傾げたまますこし考えると、おもむろに鞄の中から手紙を三通ほど取り出した。


「これが私の貰った手紙よ」


 絵理沙が差し出した手紙は、俺が貰ったカラフルな手紙とは違い、どれもきちんとしている印象を受けた。


「それって、全部男からなのか?」

「うん……」


 絵理沙は躊躇せずに頷いた。

 しかし、三通全部が男からの手紙とは……。やっぱり絵理沙はもてるんだな。

 そりゃスタイルもいいし、勉強もスポーツも万能だし、見た目も……綺麗で……おまけに……か、かわいいし。

 くそ! 悔しいけど悪いところがない。


「おい、お前って人気があるんだな」


 俺は思わず元気の無い声でそう言ってしまった。


「え? どうしたの? もしかして綾香ちゃんは私がラブレター貰うのが嫌だったとか?」


 すこしだけ絵理沙が嬉しそうな表情になっている。

 なぜだ? でも、俺は……。


「違う。別にお前がラブレターを貰うのが嫌な訳じゃない」

「じゃあ、嬉しいって訳?」


 どうしてそうなる?


「嬉しくもないよ。何で俺にそんな事を聞くんだよ?」

「別に……何でもないわよ」


 絵理沙の表情がいつの間にかいつもの表情に戻っていた。

 何だよ、絵理沙はラブレターを貰うのが嫌だと、俺に言ってもらいたいのか?

 ここで俺はふと思い付いた。絵理沙のこの態度。そして質問内容。

 まさか、絵理沙は俺に気があるのか? 俺の事が好きなのか……。

 しかし、こいつは魔法使いだし、今の俺は女だし、好きになられる切っ掛けがない。

 だいたい男(悟)の俺には出会ってもないし、そうなる要因がまったくない。

 バカだな俺は。何を考えているんだ。


「で、それどうするんだよ? 手紙を出した相手とは逢うのか? 付き合うのか?」

「まさか! こんなの無視よ、無視! 私はあまり人と接点を取るべきじゃないからね」

「でも、無視するのなら、なんでわざわざこんな場所で手紙を確認するんだ?」

「そりゃ……。私だって女の子だし、手紙の内容は気になるし、それにこの手紙を見ている姿をあまり他人にも見られたくないし」

「じゃあ、家で見ればいいじゃないか」

「ダメなの! 家はダメ! 絶対ダメなの!」


 野木か? 野木にばれると嫌なのか!? まあ嫌だろうな。


「まあいいや、わかった。じゃあ、そろそろ俺は戻るから」

「え? ちょっと待ってよ! 私の事ばっかり聞いて、綾香のあの大量の手紙! 内容どうだったのよ!」


 絵理沙は少し怒りぎみの口調で俺につっかかってきた。


「絵理沙は俺が貰った手紙の内容が気になるのか?」


 ちょっと意地悪っぽく言ってみた。


「き、気になるわよ! 悪い?」


 絵理沙はすこし顔を少し赤らめながら俺に向かって言った。って何で顔が赤くなるんだ? そんなに聞くのが恥ずかしいかよ?

 もしかしてやっぱり俺に気があるのか?

 いや、違うよな。さっきも考えたけど、そうなる要因がない!


「わかった、絵理沙に手紙の内容を教えてやるよ」


 俺は絵理沙に全部の手紙の内容を話した。

 するとさっきまで顔を赤らめてすこしおどおどしていた絵理沙が急に大笑いした。というか、そこまで笑わなくてもいいだろうが!


「おっかしー! 男子生徒からの手紙って一通だったんだ? でもすごいねー綾香ちゃん、そんなに女子に大人気だなんて。もしかして中身が男だから!? なんちゃって」


 確かにこれが悟の時だったら俺もモテモテだ! って喜んだかもしれないが……。

 今は綾香の姿だよな。この姿で女子にもてて喜ぶとか絶対にないよなぁ。

 そうだ、茜ちゃんの貰ったあの手紙はラブレターだったのかな?

 気になるな。今度こっそり聞いみよう。


 俺がそんな事を考えていると絵理沙は屋上の出入口の鋼鉄製のドアを開けた。


「よーし! 私はそろそろ家に帰るね! それじゃまた明日ね~」


 絵理沙はそう言うと笑顔で校舎へと入って行ってしまった。変わらず自己中心な奴だな。


 仕方ないので俺も屋上から校舎の中へと入る事にした。

 一応階段の下の方を見たが、もう絵理沙の姿はない。

 何だろう、先ほどのラブレターの件もあって、少し気が抜けたな。

 俺は階段を一気に一階まで下りるとそのまま下駄箱へ向かった。

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