057 手紙の内容とは 中編
屋上へと続く階段を上りながら、周囲の汚れた壁を見た。
しかし、第二校舎の内壁は汚れており、あまり掃除も行き届いていないように感じる。
階段も埃っぽくって電気も省エネの一環なのか、蛍光灯が抜いてある。
蛍光灯の電気代金なんてわずかなもんだろ? これじゃ、節約っていうよりのケチって感じるぞ?
そんな事を考えながら階段の上を見る。
階段の上部からは、光が差し込んでいるのか明るく感じた。
埃っぽい階段の上りきって、屋上へ出る鋼鉄製のドアの前までやって来た。
考えてみれば久々の屋上だ。始業式の以来かな。
俺はドアを前に始業式の日を思い出していた。
始業式の日、放課後の屋上で俺は転入生の絵理沙が北本先生だとか、野木が絵理沙の兄貴だとか知った。
あれからもう一ヶ月が経過したのか。月日が流れるのはやっぱり速いよな。
おっと、そんな事よりも屋上に出て手紙を確認しなきゃだよな。
俺がドアノブに手をかけると、扉には鍵が……かかってない?
施錠とは言ってもドアノブについている金属を回せば開くレベルだが、それが開いている。って事は……外に誰かいるのか?
まさか絵理沙とか?
俺はゆっくりと鋼鉄製の扉を開けて屋上へと出た。
ゆっくりと周囲を見渡したが誰もいない。
おかしい……。ドアは開いていたのに誰もいないだと?
誰かが閉め忘れただけなのか?
しかし、俺にとっては誰もいない方が都合がよかったんだ。一人で手紙の内容を確認したかったしな。
俺はドアを出てすぐの所にある、コンクリートのブロックに腰を掛けた。
何でこんな場所にコンクリートブロックがあるのかという疑問はあるのだが、たぶん、文化祭や体育対抗祭とかで、垂れ幕の重しに使ったんじゃないかな。あくまでも俺の想像だが。
俺はコンクリートブロックの横に鞄を置くと、さっそく中から手紙を取りだした。
数えると全部で十八通もあるじゃないか。
白い封筒やらかわいいものやら多種多様な手紙たち。俺は順番に手紙の内容を確認す事にした。
まずは黄色い封筒だ。
柄の無い黄色い封筒に、姫宮綾香ちゃんへと書かれている。裏には差出人の名前はない。
書体を見る限りでは、女が出した手紙のように思えるのだが……。内容はっと……。
私は一年D組の新井恵です。
体育対抗祭のバレーで私は感動しました。
姫宮綾香さんが、あんなに熱くて素敵な女の子だって知りませんでした。
つきましては、クラスは違いますが是非お友達になってほしいです。
うん。これもお友達になって手紙だな。差出人は中に書いてあったのか。
次はピンクの手紙か。
色で男じゃないってわかるな。
これが男が差し出し人だとすると、きもいだろ。
私は三年B組の梅郷秋子です。
私、体育対抗祭で貴方の活躍を見ていたものです。
貴方の運動センスの良さは、本当にすごいと思いました。
そこでお願いがあります。私達のアーチャリー部に是非入ってください。
廃部の危機なんです。貴方ならばきっとやってくれるはずです!
私は部長ですので、入部が可能ならばぜひ宜しくお願いします。
アーチャリー……って。アーチェリーじゃないのかよ!
梅郷って子も佳奈ちゃんみたいな子なのかな?
しかも部長なのに間違ってるとか無いだろ。って、こいつは悟だった時のクラスメイトの梅郷じゃないのか?
あいつってアーチェリー部だったのか!
眼鏡をかけててガリ勉っぽいし、その癖に胸がでかいし、部活なんてやってないと思ってたぞ? やってたとしても文化部だと思ったぞ?
しかし、アーチェリーとはまた渋いよな。
まぁ入らないけどな。期待もされたくないしな。
でも…………まさか、アーチャリーが正式名称じゃないよな?
次はこの青いやつだ!
…………これもファンレターかよ。
お手紙を全部確認終了しました。
十八通中の十ニ通が女子生徒からのお友達になって&ファンになりましたの手紙だった。
残りの五通が部活の勧誘やらの手紙だった。
中には美術部のモデルになってくれとかもあった。
モデルってまさか裸じゃないよな? と言いますか……。
男からの手紙がない! ラブレターがないじゃないか!
こんなに手紙が入っていたのに、ラブレターが一つもないとか、どうなってるんだ!
なんか、商店街の高確率でいいものがあたる籤を引いたら、結果が全部ティッシュだった気分じゃないか!
……って、いやいや、待て。落ち着け俺。深呼吸だ。
俺はブロックから立ちあがり、ゆっくりと深呼吸をした。
深く吸って~……吐いてぇ~。はい、もう一度吸って~……吐いてぇ……。
う~ん。このリズムってラジオ体操だな。
少し落ち着いた俺はゆっくりとコンクリートブロックに腰掛けなおした。
そうだよ、ラブレターがなくって良かったんじゃないか。
俺は何を期待してたんだよ? まさか、ラブレターが欲しかったのか?
あははは……俺は男だ! 男からのラブレターなんて欲しくない!
……けれど、少し悔しいこの気持ちは何だぁぁぁ!
そして、野田先輩の手紙の内容が……とても口外できない内容すぎるんだけど!
俺は野田のスリーサイズとか、趣味とか、好きな色とか、身長体重とか、誕生日とか、赤血球数とか、体脂肪率とか、知りたくなかったよ。
もう、なんか貴方を普通に見られないよ。野田ぁぁぁ!
心で叫びながら俺が勢いよく立ちあがると、横に置いていた鞄は倒れてしまった。
「おっと」
そして、その鞄を直すついでに中を見ると、底に一通の手紙を発見した。
その手紙は、郵便の白い封筒で、まるでラブレターには見えない手紙だ。
「まだあったのかよ……」
俺は何気なしに封筒の中から手紙を取りだした。
「なになに」
姫宮綾香様
僕は姫宮綾香さんが好きです。
この前の体育対抗祭での姫宮さんは素敵でした。
直接は見る事が出来なかったのが残念ですが、それは仕方ありません。
でも、ああいう姫宮さんもいいなって思います。
がんばる姫宮さんを見ていて僕は勘当しました。
きっといつか僕の方から告発します。永遠に待っておいてください。
「これは……ラブレター?」
の様な気がする……。が、この手紙の字体には記憶があるな。
うん、これって始業式のラブレターと同じ字体だよ。
しかし、前にまして色々と酷い内容だな。
今度は俺が何故か知らないけど勘当されるらしい。
俺とお前は親子じゃないだろ! おい!
おまけにまた告発か? 告白だろ? 勘当された上に告発されるって何だよ!
現実にあったらどうするんだ? それって、よほど仲の良くない家族だろうが! って無意味な事を考えてしまった。
おまけに永遠に待てとか、おまえ、先に死んでいいから。
しかし、色々と残念な内容だったが、最後の手紙はラブレターだったな。また差出人はないけど。
しかし、何だろうか、このほっとした気持ちは。
俺の心の中でラブレターが入っててよかったって思う気持ちが沸いてるとか?
ない! ない! 俺は男だって! くそー!
しかし、何だろう……。この気怠さ。
最近は自分で自分を相手にしているのが疲れている気がする……。気のせいか?
まぁ、結果はよかったな。
ぶっちゃけると、ラブレターはなかった訳だし。
最後のはラブレターじゃない。あれは俺の中では認められない。
あーあ。なんか気が抜けたな。
ずっと今日はドキドキしてたのに、内容がこれだもんなぁ……。
まぁ、いいや。家に帰るか。
俺は立ち上がると鋼鉄製ドアのドアノブに手をかけた。




