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ぷれしす  作者: みずきなな
体育対抗祭
51/173

051 見覚えのある天井

 体の上に何かが覆い被さっている感触が伝わる。

 瞼の上から何かの光があたっているのがわかる。

 そして、俺はゆっくりと瞼を開いた。


 最初に俺の視界に入ったのは真っ白な天井と細長い蛍光灯だった。

 次に、天井から下がる水色の間仕切りカーテンが視界の隅に飛び込む。

 そう、俺はベットの上で寝ている……。


 薬品のなんともいえない匂いも俺の嗅覚を襲ってきたので、ここが保健室だとすぐに理解した。

 しかし、この天井を見るのは久々かもしれない。

 そして、久々に俺は思い出した。

 そう、俺が綾香になった日の事を……。


 俺はすっかりあの時の事を忘れていた。

 あんな重大事件だったのに、日々の生活ですっかりそれを意識の奥へと仕舞いこんでいた。

 俺はゆっくりと自分の胸に触れてみる。

 やっぱり俺は女だった。そう、あれは夢じゃない。現実。

 いつから俺はあの事件を過去のものとして扱っていたのだろうか?

 この体に違和感を感じなくなったのはいつからだろうか?

 俺はそんな事を考えながら天井をボーっと見ていると、すーっとカーテンが開いた。そして、


「姫宮さん、気がついた?」


 聞き覚えのある女性の声が聞こえた。

 顔を声の方へと向けると、ベットの横には白衣姿の桶川先生が座っていた。

 あの時には北本先生がいたが、今日は桶川先生がいる。

 まぁ、北本先生は絵理沙なんだからいるはずないが。


「顔色は良いみたいだけど、大丈夫かしら?」

「あ……はい」


 とは応えたものの……。

 あれ? そうだ……。何で俺は保険室で寝ているんだっけ?

 あれ? ええと……何かあったんだよな……。

 あの日の事は思いだしたのに、なぜここにいるかを思い出せない。


「どうしたの? 頭がまだ痛いとか?」


 確かにまだ後頭部は痛い。が、それほど強烈なものでもない。


「ちょっと痛いですけど……」

「けど?」


 何故俺がここに寝ているのか。そうだ、こういう場合には聞くに限る。


「えっと……私は何でここで寝ているのですか?」

「えっ?」


 どう見ても驚いているな。ええと……何かあったんだよ。重要な事が……。


「もしかして……記憶がないのかしら?」


 と問われれば、うん。記憶が飛んでるのかもしれないな。


「えっと……何かしてた気がするのですが。思い出せ無くって」


 またしても驚いた桶川先生が、それでも驚きを抑えようと深呼吸をした。


「ええと、姫宮さんは体育対抗祭りの騎馬戦に出てて……」

「あっ!」


 そうだ、思いだした。そうだった!


「私は騎馬戦をやってて、それで落ちたんだ!」


 そう言うと桶川先生は柔らかく微笑んだ。


「思いだしたのね?」

「はい……」

「そうよ、姫宮さんは騎馬から落ちたの。それで、地面に頭をぶつけて今まで気を失ってたのよ?」


 そうだ、確か卑怯な男子が俺にダイビングしてきて……。


 《あ、綾香ぁぁぁ!》


 そう、大二郎の声が聞こえたんだ。そして俺はそのまま地面に。


「姫宮さん、さっき主治医の先生に見て貰ったんだけど、軽い脳震盪のうしんとうだろうって言っていたわ。よく寝てたのは疲れがあったみたいね。ちょっとさっきの記憶喪失みたいな反応にはびっくりしたけど、あれも一時的なものみたいでよかったわ」


 本当にホッとした表情を浮かべる桶川先生。心配してくれてありがとうございます。


「でも、気分が悪くなったら言ってね? もしかしてってあるから」

「あ、はい。吐き気とかは無いので大丈夫だとは思います」

「そう? うん、わかったわ」

「で……。ええと、私はずっと私はここに寝てたんですか?」

「そうよ?」


 ふと窓を見ると、やけに暗く感じる。


「今……何時ですか?」

「えっ? 今は夕方の6時よ」

「夕方の6時!?」


 驚いてもう一度外を見た。やっぱり薄暗い。

 おいおい、体育対抗祭どころか、一日が終わろうとしているぞ?


「じゃあ、もう、体育対抗祭は終わったんですか?」

「うん、終わったわよ?」


 終わっただと!?

 そうだ、結果は? 順位はどうなったんだ?


「あの! 結果はどうなりましたか?」

「え? 体育対抗祭の?」

「はい、そうです!」

「ちょっと待ってね……」


 桶川先生はカーテンを開くと自分の机へと歩いて行った。そして、机の上にあった白いA4の紙を手に戻ってきた。


「ええと、一位がC組(黄)で二位がB組(白)、三位がA組(赤)、四位がD組(青)ね。B組は騎馬戦で一位なら逆転してたみたいね。残念ね」

「二位……ですか……」


 そうか、やっぱり逆転出来なかったのか。俺が落ちなきゃ勝ててたのかもしれない……。


「そんなに沈まないで。姫宮さんはすごい大活躍だったんでしょ?」

「でも……」

「二位だっていいじゃない。頑張った結果なんだもん。それに、一人で頑張っても一位なんて取れないんだからね?」

「……そうですね」

「みんなが頑張ったからこそ二位だったんだよ?」


 確かに。桶川先生の言う通りだ。俺だけが頑張っても一位は無理だったんだよな。二位だって頑張った方だ。うん……。


「話は変わるけど、姫宮さん」

「はい?」

「貴方を運んで来たのは清水君なのよ?」


 本気で話が変わったな。しかし、大二郎が俺をここまで俺を運んでくれたのか?


「清水先輩が私をここまで運んで来たんですか?」

「そうよ」


 と言うか、何でそんなに嬉しそうなんだ? 先生は……。


「ふふふ……」


 いや、その笑顔は……って、待てよ? まさか、大二郎がここまで俺を運んで来たという事は、俺は大二郎に抱きかかえられて来たとか?

 この笑顔を見ていると、何か悪い予感しかしないぞ?


「ええとね? 清水君がすごい形相であなたを抱えて保険室に飛び込んできたのよ? それで、綾香を助けてくれ! なんて言っちゃね。先生びっくりしたわ」

「ちょっ!?」


 予想が的中だと!? あいつめ!


「清水君って恋人?」

「ち、違います!」


 先生が何きいてるのさ! プライベートだよそれ!


「そうなんだぁ?」


 その笑顔はやめてぇぇ! しかし、恥ずかしすぎるだろ! 大二郎め!


「あとね、その後がびっくりだったのよ?」


 また笑い始める桶川先生。まだ何かあると言うのか?


「ええと……その後にも何があったんですか?」

「本当にびっくりしたわ。来るわ来るわ姫宮さんのお友達。姫宮さんってすごく人気があるのね。先生おどろいちゃったわ」


 え? お友達? えっと……俺ってそんなに人気あったっけ?


「あの……誰が来てたんですか?」


「え? ああ、ええとね? まずはあなたと同じクラスの越谷さん、宮代さん、杉戸さん、大袋さん、あと3年の桜井君と野田さん。ああ、あとは野木さんも来てたわね。他にも同じクラスの子が来ていたと思うわ。優しいお友達がいっぱいいるのね」


 俺の知り合いがほぼフルメンバーで来てたのか。

 しかし、そっか……みんなには心配かけたよな……。

 今度みんなにお礼を言っておかないとな。


「姫宮さん、もう大丈夫だと思うけど、今日は早めに家に帰って休んだほうがいいわ。帰宅時間が遅くなる事はご自宅には電話はしてあるから大丈夫よ?」


 ここで迎えに来ると言わないのが、うちの親の特徴だな。

 大丈夫と言われれば安心する。先生の意見とかは信用する。まぁ、そのお陰で俺は助かってるんだけど。


「あ、はい……ありがとうございます」

「起き上がれる?」

「はい、大丈夫です」


 そして俺は保険室を後にした。


 廊下に出ると、体育対抗祭の賑わいは一切なくなっていた。

 白い蛍光灯のついている廊下がただ俺の前に続いていた。

 窓から外を見ると、外にも灯りがついていた。

 どうやら体育館とか、グランドでは後片付けをしているらしい。

 校内よりも外の方が人気を感じる。


「もうみんないないのかな……」


 俺は廊下を歩いて1階にある一年B組の教室の前まで行った。


「あれ?」


 すると教室の電気がついている。

 誰かいるのか?

 俺は教室の後ろの入口から中に入った。

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