049 決戦の時
メイングラウンド騎馬戦会場。俺はなんとか集合に間に合った。
そして、メンバーが集まっている場所に行って驚いた。
「越谷の代わりに騎馬の上に乗る代理人って……ひ、姫宮綾香なのか!?」
そう、大二郎がいたのだ。というか大二郎だけじゃない。野田さんと正雄までいる。
しかし、正雄が何でここにいるんだ。
さっき俺を先に行かせたじゃないか。あの行為に意味はあったのか?
「ひ、姫宮綾香が……俺の上に乗る……乗るのか!」
顔を赤くする大二郎。そしてその言葉が若干だが卑猥に聞こえた俺は駄目なやつなのだろうか?
「姫宮妹、よかったな、間に合って」
何でか正雄の笑顔がムカつく。
「お陰様で間に合いました」
「そうか、それはよかったな」
「ええ、そうですね。で……騎馬戦で一緒なら何でここまで一緒に来てくれなかったんですか?」
「えっ? 何だ? 正雄? 姫宮綾香と一緒だったのか?」
大二郎の質問に苦笑する正雄。
「いや、さっきそこで合っただけだぞ?」
正雄が俺を睨んだ。って……わかった! そうか、お前と一緒にここに来ると大二郎がこうなるからか。だから俺を先に行かせたのか?
やばい、正雄なりに気を使ってくれていたのかよ。
大二郎の眉がひくひく動いている。どう見ても機嫌が悪い。
「清水先輩、本当にそこで出会っただけです。あと、茜ちゃんにメンバーを聞いていなかったのでつい……」
「んっ? そうなのか?」
俺の言葉に、大二郎の顰めていた表情が戻った。
「まぁ、そういう事だ」
正雄もほっとした表情で息を吐いている。
「何だ? 大二郎も桜井も綾香さんと知り合いなのか?」
そこへ野田さんが割り込んできた。俺と大二郎と正雄を順番に見ている。
そうか、野田さんは大二郎と俺の関係を知らないのか。
「ま、まあな……す、す、すこしだけだからな?」
おい大二郎、目の焦点が合ってないぞ? それに言葉がおかしいだろ!
おまけに何でそんなにおどおどしてるんだよ。
ほら、正雄が大二郎の事をすごく楽しそうに見てるじゃないか。
「へぇ、そうなのか? 私もさっきのバレーの試合でこの子と知り合いになったんだよ。じゃあ全員が知ってるメンバーって事だね」
野田さんは俺に向かってウィンクをしてきた。そして口元にひとさし指を持ってきている。
わかってるよ。野田さんの乙女バージョンは内緒なんだよな。
「ま、まあそうなるな」
「よーし! じゃあ騎馬を組む順番だけど、一番前はもちろん大二郎ね、右は私で左は桜井でいいかな。騎乗するのはもちろん綾香さんだ」
まぁそうなるだろうな。でも騎乗か……。
周囲の男子女子を見ると、ここに集まったメンバーは俺よりもでっかいやつらばかりだ。この身長で相手の帽子なんて取れるのか心配になる。
「よっと」
今の姿勢のままで、俺はすっと手を上げてみた。
「届かないなぁ……」
俺が視線を感じて横を見ると、野田さんが苦笑している。
「あ……ま、まぁ……取れなくても、逃げればいいさ」
「でも……それじゃあ勝てないですよ?」
横の大二郎が頬肉をひくつかせながら両拳を胸の前で握った。
「姫宮綾香! 帽子が取れないなら潰せばいい!」
おいおい。
「大二郎、力任せだけじゃ駄目だぞ? 騎馬戦も、女の子にもな」
野田さんがイケメンスマイルを浮かべた。いや、マジ格好いいな、この人は。
しかし、最後の女の子にもなの時に、ちょっと俺を見たろ?
「そ、そうか? わ、わかった……」
大二郎まで俺を見るな!
「よーし! B組(白)は2位だから、騎馬戦で勝てば1位だぞ! このメンバーでがんばろうね!」
野田さんが全員と握手をして回った。しかし、マジで男前だな。
俺はこういう男前な女性は嫌いじゃない。いや、好きな方だ。しかし、乙女な野田さんもこっそり好きだったりするけどな。
『みなさん、騎馬を組んで下さい』
準備放送がかかった。
「よし! 騎馬を組むぞ!」
今さら気がついたけど、なぜか野田さんが仕切ってるな。
やっぱり野田さんはリーダー気質を持ち合わせてるのか?
なんて考えている間に、野田先さんの号令で大二郎と正雄と野田さんとの三人で騎馬が作られた。
「よし、綾香さん、乗っていいよ」
俺は三人の組んだ騎馬の上にあがる。そして三人がゆっくりと立ち上がった。
ぐわっと持ち上がる俺の体。
うわ……すごい。結構ここって高いんだな。他の騎馬よりもワンランク高い気がする。
まぁ、大二郎も野田先輩も180センチあるし、正雄も身長があるからな。
「姫宮綾香、大丈夫か?」
「あ、はい……ちょっと位置を調整しますね」
俺は大二郎の肩から片手をどけて位置を調整した。そして、正雄も腕の位置をすこし調整している。
その拍子に騎馬が少し揺れた。
「わぁ!」
俺は思わず前のめりになって大二郎の頭にしがみついた。
同時に大二郎がびくりと動いた。そして顔がみるみる赤くなる。
「いいなぁ、頭を一年生に抱きつかれて」
ちょっとからかうような野田さんの声が聞こえた。
って……今になって理解したよ。俺……胸を大二郎の頭に押しつけてた。
「清水先輩、今のは事故です」
「わ、わかってりゅかりゃ!」
噛んだ……大二郎が噛んだ。
「もしかして大二郎って綾香さんの事が好きなのか?」
いきなり野田さんが暴走質問。と言うか、俺に告白した事件はこの学校ではかなり有名なはずだ。野田さんが知らない訳がない。
みろ、大二郎の顔がさらに真っ赤にってるじゃないか。
「野田、あんまり大二郎をいじめるな」
大二郎が金魚みたいに口をぱくぱくしてるぞ!? 大丈夫か?
「ああ、そっか! 大二郎は始業式の日に綾香さんに告白したんだったな」
わざとらしい! っていうか声がでかい!
ほら見ろ、周囲の騎馬がみんなこっちを見てるじゃないか。
「お、おい野田! 今はその話はかんけーねーだろうが!」
「大二郎、いまさら照れてるのか? いいじゃないか、好きなんだろ? 告白だってしたんだろ?」
「ま、まだ……返事を貰ってない!」
「なるほど。返事を貰ってないと? 大丈夫だ。私も貰っていないから」
「えっ? な、なんだそれは!」
俺も「えっ?」だよ! 野田さん、それって部活の話だよな? と言うか、大二郎、上を向くな! 顔が怖いぞ!
「ひ、姫宮綾香は……女が好きだったのか?」
それを聞いて大笑いの野田さん。
「違います! 私は部活に誘われた返事をしていないだけです! 野田先輩も変な事を言わないでください」
「ごめんごめん」
「そ、そうだったのか……」
本気でホッとしている大二郎。そんなに俺が好きなのかよ……。まったく。
「大二郎は綾香さんと一緒に騎馬戦が出来るんだぞ? 最高に嬉しいだろ」
「の、野田ぁぁぁ! 黙れ!」
「あははは! 大二郎の顔まっかじゃないか!」
野田さんがニヤニヤしながら大二郎を弄りまくった。大二郎もついに弄られキャラになったか。
「正雄! お前までよけーな事を言うから変な事になっただろうが!」
「おお、すまんすまん」
正雄はまったく悪気がないな。というか興味ないだろ?
『開戦まであと20秒です』
「おっと……桜井、大二郎、馬鹿話はあとにしよう」
「くぅ……くそ!」
野田さんが急に臨戦態勢に入った。真面目な表情でイケメンな笑みを浮かべた。
それに釣られて正雄も大二郎も顔つきが変わった。さっきまでの馬鹿話が嘘のように真剣な眼差しになった。
もうすぐで開戦だ。俺は味方の騎馬を見て比較する。
騎馬はここが最強だと思う。しかし……俺が最低だ。
俺はあまりに小さい。だからきっと真っ先に俺が狙われる。
敵チームを見渡すと、数組の騎馬が俺を見てるのがわかった。どうみても狙ってるな。
『開戦の準備をしてください!』
「よし! いいか姫宮綾香?」
ずっと思っていたけど大二郎は何で俺をフルネームで呼ぶんだ? いちいち姫宮綾香と呼ばれるとうざいんだけど。
「清水先輩、いま言う事じゃないんですけど」
「ん?」
「今度から私の事は姫宮って名字を呼び捨てにして貰えますか?」
「えっ? それって……まさか?」
何で顔が赤くなる? って……違うぞ?
「あ、あれです。OKって意味じゃないですよ? ただ、フルネームで呼ばれるのが嫌なだけです!」
「わ、わかった……了解だ!」
なんで悔しそうな顔をする!?
「では、宜しくお願いします」
「お、おう……いくぞ! 綾香!」
そして何で名前で呼ぶんだよ!
『よーい! スタート!』
号令とともに四チームの騎馬が一斉に動き出した。
そして、大二郎はいきなり「綾香ぁぁぁ」なんて吠えながら敵陣のど真ん中に突っ込んだ。
ぶっちゃけはずかしすぎてもう死にそうだよ!




