043 イケメン野田さん
野田さんは茜ちゃんを背負って早歩きで保健室へと向かった。
俺はそんな野田さんの横で一緒に歩いてゆく。
「綾香さん、さっきは凄かったね。今日は君のお陰で勝てたようなもんだよ」
そんな事をいう野田さんの笑顔がなぜかイケメンに見える。
まったく、どうして野田さんは女に生まれたんだろうな? 男だったら相当もてただろうに。なんて思ってしまった。
「いえ、そんな事は無いです。茜ちゃんが怪我までして頑張ってくれたから……」
「綾香!? ちょっと待ってよ。それって褒めすぎだよ。だっって、私だけが頑張ったんんじゃないもん。大袋さんだて、綾香だって、部長だって、みんなが頑張ったんでしょ?」
確かに、まぁ、俺も頑張ったしみんなも頑張ったとは思う。けど、やっぱり茜ちゃんの頑張りが目立ってたよ。
「そうだぞ? みんな頑張った」
そして、このイケメンめ……短髪が似合いすぎだ。
「しかし、綾香さんの男みたいな口調にはびっくりしたよね」
「えっ?」
俺の心臓が一瞬にして鼓動を早めた。ドキドキと緊張して手に汗をかく。
何でいきなりその話題になるんだ!?
背中に冷たい感覚が走る。
「えっと、あれは暴走っていうか……無我夢中でつい……」
こうでも言うしかないよな?
すると、野田さんが声を出して笑った。
「解ってるよ。綾香さんは可愛いからね。僕が男なら君を彼女にしたいくらいだよ」
「へっ!? なっ!? 意味がわかりません」
マジでなんでそういう応えになるんだ?
今度は顔が熱くなった。って、女に可愛いとか言われて、なんで照れてるんだよ俺!?
それにしても僕とか言えるのか? この女は?
「どうだい? 僕と一緒に今度どこかに行かないか?」
「はひ?」
な、なんだこれ? ナンパ?
「ぶ、部長! 綾香を口説かないでくださいっ!」
茜ちゃが何故か過剰な反応をしてるし。
「あはは! ごめんごめん。でも、私は女の子も好きなんだよね」
それって深く考えると危ないですよ? 野田さん。
「あはは……そうなんですか?」
「うん! とくに君のようなギャップキャラに萌えるね」
俺はキャラ扱いなのか?
「怒ると男前になる。すばらしいじゃないか!」
「……いや……そうですか?」
「本気で男みたいだったよ?」
「いや……恥ずかしいです」
「目つきもよかった」
「そうですか?」
「イケメンに見えたよ」
あなたに言われたくないです。
「あはは……」
でもやばいな。こんな会話をしているとそのうちボロが出そうだ。
「部長! いい加減にして下さいっ!」
「ああ、ごめん……って言うかさ、茜は何でそんなに怒るんだ? まさか、姫宮さんが好きな訳でも無いだろに?」
なんて野田さんが言った瞬間。茜ちゃんが口ごもって赤くなった。
……はい!? 何だその反応は!?
「好きなのかい?」
ニヤリと笑みを浮かべながら野田さんがつぶやいた。
いや、なんでそんなに楽しそうなんですか? でも俺もちょっとは聞きたいんだけどな。
「えと……す、好きです。でもそれはお友達としてです! いきなり変なことを言わないで下さい! すっごく動揺しました」
「あはははは! 素直だな、茜は」
やばい……この体でも好きだと!? なんか嬉しいじゃないか。
友達だってなんだって、茜ちゃんに好かれてるんだ。嬉しいよな。
しかし、茜ちゃん、さっきは意気消沈状態だったのに、野田さんが来たらやたら元気になったな。
やっぱり野田さんはみんなの元気の源なんだな。
「ねえ茜、綾香さんは部活とか入ってるのかな?」
「えっ? 綾香って部活やってないよね?」
なんだ、この反射質問は? 直接聞きづらいからか?
「入ってはないですけど」
すると野田さんがいきなり目を輝かせやがった。
やばい……悪い予感がする。
「そうか! もしよかったらバレー部に入らないかい?」
げげっ……やっぱりな。予想はしてたけど、勧誘されたか。それも部長から直接かよ。
「綾香、バレーは面白いよ? よかったら一緒にやらない?」
ありゃ? 茜ちゃんまで……。
うーん……バレーか。
別に部活をやりたくないわけじゃないけど、今の俺は本物の綾香じゃないし、綾香が戻ってきたことを考えると下手に部活なんてしたくないんだよな。
いくら勧誘されてもさすがになぁ……。
って事は、結論は一つしかないよな。だけどすぐに諦めてくれるかな?
せっかく仲良くなったんだし、勧誘を断ってギクシャクしたくないんだよなぁ……。
でも言うしかないよな。
「ごめんなさい……部活はちょっと……」
俺が断ると、野田さんがいきなり俺の両肩を掴んだ。
というか、どうして両肩を掴める? 確か……。
「ぶ、部長! 落ちちゃう……」
ちょっと! 茜ちゃんのお尻の支えを放しちゃ駄目でしょ!
茜ちゃんは懸命に野田さんの首にしがみついていた。




