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ぷれしす  作者: みずきなな
体育対抗祭
41/173

041 熱血バレー対決? 後編

 俺の目の前に立っている体格の良い女性は、バレー部のキャプテンで名前を野田と言う。身長は大二郎ともさして変わらないくらいに大きくって、そしてカリスマを備えた完璧な女性だ。

 俺はそんな野田部長を見上げた。


「姫宮さん? どうしたの?」


 彼女は俺の顔を見ながら首を傾げた。

 まぁ、俺が何を言おうとしているかを予想できるはずなんて無い。だから、この反応は当たり前だ。


「野田先輩、次のローテーションでは私が前衛になります。だから……」

「だから?」

「私にボールを集めてみて貰えませんか?」


 野田さんはパチパチと瞬きをしてから、少し首を傾げた。

 多分だが、俺がボールを集めてくれという意図がわからないのだろう。


「えっと? 姫宮さんにボールを集めるってどういう事? 別に姫宮さんは下手じゃないけど、でもその身長でアタックとか打つ気なのかい? ちょっとそれは無理があるんじゃないのかな?」


 やはりと言うか、想像したとおりの反応がきた。

 みんながそれはさすがに無理だろうという表情で俺を見ている。

 まあ。普通はそう思うよな……でもな?


「やってみないとわかりません! 私を信じて下さい! 一度だけでもいいから信じてボールを下さい!」


 今の俺は綾香じゃない。外見は綾香だけど、中身は姫宮悟なんだ。そう、俺は男だ! やるときはやる!

 しかし、やっぱり全員が驚いた表情で俺を見ている。


「う~ん」


 野田先輩は腕を組み眉間にしわを寄せた。


「信じて貰えませんか?」

「いや、姫宮さんを信じないわけじゃない。でもね……う~ん」


 彼女はそれ以上の言葉を続けなかった。多分、それは否定的な意見になるからだろう。しかし、その困った表情を見ていると、俺困る。

 俺はこの試合に勝ちたいんだ。だから俺のお願いを聞いて欲しいんだ。


「私は綾香を信じます! 野田先輩! 綾香を信じてあげて下さい!」


 気が付けば茜ちゃんが俺の横にいるじゃないか。


「茜? お前……」


 野田先輩は俺を見ながら少し考えている。


「私も綾香さんを信じたいです!」

「私もです!」

「きっとこの子ならやってくれるはずです!」


 大袋さん? それに二年生の……名前わからない女の子も?

 気が付けば俺はメンバーに囲まれていた。

 これってまるで熱血バレー漫画だよな……。アタックナンバーなんとかとか……。


「先輩っ!」


 茜ちゃんの頬を汗が流れた。


「うん、わかった。よしっ! 私も姫宮さんを信じよう! みんなもいいのか?」

「はい!」

「もちろんです!」

「姫宮さんならやってくれるって信じてる!」


 野田さんがニコリと微笑んだ。


「という事だ。よろしくな? 綾香ちゃん♪」

「へっ?」


 なっ? なんと俺は野田さんに下の名前で呼ばれてしまった! だけど、綾香の名前でな……。

 みんながコートに戻る。そして、茜ちゃんも怪我を押してコートに入った。


「茜ちゃん……なんかごめんね」

「何で綾香が謝るの? 謝らないでよ……ほら見てよ、綾香のお陰でみんなが……」


 俺がコートの中を見ると、そこには真剣な顔つきの仲間がいた。そして俺たちに笑顔で応えてくれている。


「そうだね……勝とうね、茜ちゃん」

「もちろんだよ!」



 ☆★☆★☆★☆★☆



 相手のサーブから再開した。ボールは一直線で茜ちゃんの所へ。

 茜ちゃんは苦痛の表情をうかべながらもうまくレシーブで返す。


「ナイスだ茜っ!」


 そのボールをセッターの野田部長がうまく合わせてトスを上げてくれる。

 ネットの高さは体育対抗祭用で二メートル十センチだ。通常の高校生公式よりは十センチも低い。だけど俺(綾香)は身長が142センチ。その差は68センチもある。その差よりも飛ばなければアタックなんて打てない。

 本物の綾香なら100%無理だっただろうな。


「姫宮さんっ!」


 でも、俺にはできる! 俺は……姫宮悟なんだからな!


「はいっ!」


 助走をつけて俺は全力でジャンプした! 体は勢いよく空中へと舞う。

 これは届くっ! 届いたっ!

 俺は思い切り仰け反り、そして全体重を乗せてボールを叩いた!


「おりゃぁぁぁ!」


 アタックをする瞬間、慌ててブロックをしようとする相手が見えたが……遅い!


 《ドガッ!》


 大きな音がしたかと思うとボールは相手のコートの中央に落ちていた。

 相手はまさか俺がアタックをしてくるなんて、これっぽっちも思ってなかったのだろう。きょとんとした表情で俺を見ている。ざまあみろ!


「お、おい……さっき怒鳴ってたちっこいのがすげーアタックしたぞ?」

「なんだよあのジャンプ力……化け物か?」

「あれって一年の姫宮だよな? あいつあんなに凄かったのか!?」

「やべぇ……格好いいじゃんか! 可愛いし、格好いいし、彼氏いんのかな?」

「三年の清水が告白したらしいぞ?」

「マジか? 清水先輩と喧嘩したら負けるよなぁ……」


 二階席の男子が俺のすばらしいプレーに驚いている。そして何かおかしな会話も聞こえたような気もするが……今は気にしない。

 よしっ! この調子ならいける!


 それからメンバー皆で頑張った。一生懸命に頑張った。

 しかし、俺のアタックは二度目は成功しなかった。さすがに二度も三度も無理だ。相手だってバレー部の選手がいるんだからな。

 そして、試合は激戦だった。三度目のデュースになってしまった。そしてその後、なんとか1点を取り、あと1点で勝てる場面がやって来た。


「はぁはぁ……」


 茜ちゃんの顔色が凄まじく悪い。目には涙を浮かべて、見ているほうが辛い。早く試合を終わらせないと……。


「いくよっ!」


 こちらのサーブだ。しかし相手はうまくレシーブした。そして相手のセッターがボールを浮かすとアタッカーが速攻でアタックをしかけてきた。

 俺は懸命にジャンプするも、小柄な俺では止めきれない。

 俺の手を貫通するように、ボールは大袋さんよ茜ちゃんの間へと落ちる。


「大袋さん、私がっ……きゃぁ」


 茜ちゃんが足の痛みで転げてしまった。

 それを見ていた大袋さんが真剣な顔つきでボールを追っ手いる。


「大丈夫よ茜! 綾香だって頑張ってるんだもん! 私にだってできるはずだもん! 頑張るしっ!」


 少しふくよかな体が上下に揺れながらコートを駆け抜ける。しかし、ボールの落下が早い。これじゃあ間に合わない。


「いやぁぁっ!」


 大袋さんの悲鳴に近い声と同時に《バスッ》っと 鈍い音がした!


「ナイスだっ!」


 野田さんの声。

 そして、大袋さんは何と回転レシーブをやっちまった! マジで漫画じゃないかこれ!?

 だが、そのまま大袋さんは大の字に床に転げて動かなくなった。


「大袋さんっ!」


 叫んでみても、試合は中断できない。動けない。というか、ボールはすごい勢いでコートの外に向かっている。


「私がなんとかするから、野田さん頼む!」


 俺は全力で走った。ボールが目の前に落ちる。いや、落とさせるかよ!

 拾ったっ! が、目の前のベンチに突っ込んでしまった。

 全身を激痛が走り、視界がぐるぐると回り、そのまま床に転がってしまった。やばい、目眩で動けない……。


「綾香っ!」


 茜ちゃんの声が聞こえた……。そして……。


 《ドンッ!》と低音が体育館に響いたかと思うと、どっと館内が沸き上がる。

 一体どうなったんだ? 熱血漫画ならここで勝ってるはずだけど……。

 俺は近くの女子に体を起こさせてもらうと、そこにはガッツポーズをした野田さんの姿があった。


「綾香ちゃん! やったぞ!」


 野田さんの満面の笑み。そう、野田さんの巧みなバックアタックが相手のコートに突き刺さって俺たちは勝利したのだ。


 《ピーーーー!》


「試合終了! 20対18でB組(白)の勝利!」


 勝った……俺たちは勝ったんだ!


「よっしゃぁぁぁ!」


 野田さんが吼えた。


「勝った! 勝ったぁぁぁ! やったぁぁぁ!」


 そして俺も吼えた。


 俺たちの勝利が決まった。

 チーム全員がコートの中央へ集まって抱き合って喜んだ。

 俺も混じってつい一緒に喜んでしまったが……。抱きしめ合っているうちに我に返る。というか、何だこのハーレム状態は!?

 女子高生の胸とかお尻とか、もう触り放題だと!?

 何か視線を感じる……。ふと振り返ると、そこには絵理沙の姿があった。そして、なんかすっげー睨んでる。

 だが……仕方無いだろ? 俺は今は綾香なんだからな♪

 という事で、ハーレムを堪能しておいた。

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