041 熱血バレー対決? 後編
俺の目の前に立っている体格の良い女性は、バレー部のキャプテンで名前を野田と言う。身長は大二郎ともさして変わらないくらいに大きくって、そしてカリスマを備えた完璧な女性だ。
俺はそんな野田部長を見上げた。
「姫宮さん? どうしたの?」
彼女は俺の顔を見ながら首を傾げた。
まぁ、俺が何を言おうとしているかを予想できるはずなんて無い。だから、この反応は当たり前だ。
「野田先輩、次のローテーションでは私が前衛になります。だから……」
「だから?」
「私にボールを集めてみて貰えませんか?」
野田さんはパチパチと瞬きをしてから、少し首を傾げた。
多分だが、俺がボールを集めてくれという意図がわからないのだろう。
「えっと? 姫宮さんにボールを集めるってどういう事? 別に姫宮さんは下手じゃないけど、でもその身長でアタックとか打つ気なのかい? ちょっとそれは無理があるんじゃないのかな?」
やはりと言うか、想像したとおりの反応がきた。
みんながそれはさすがに無理だろうという表情で俺を見ている。
まあ。普通はそう思うよな……でもな?
「やってみないとわかりません! 私を信じて下さい! 一度だけでもいいから信じてボールを下さい!」
今の俺は綾香じゃない。外見は綾香だけど、中身は姫宮悟なんだ。そう、俺は男だ! やるときはやる!
しかし、やっぱり全員が驚いた表情で俺を見ている。
「う~ん」
野田先輩は腕を組み眉間にしわを寄せた。
「信じて貰えませんか?」
「いや、姫宮さんを信じないわけじゃない。でもね……う~ん」
彼女はそれ以上の言葉を続けなかった。多分、それは否定的な意見になるからだろう。しかし、その困った表情を見ていると、俺困る。
俺はこの試合に勝ちたいんだ。だから俺のお願いを聞いて欲しいんだ。
「私は綾香を信じます! 野田先輩! 綾香を信じてあげて下さい!」
気が付けば茜ちゃんが俺の横にいるじゃないか。
「茜? お前……」
野田先輩は俺を見ながら少し考えている。
「私も綾香さんを信じたいです!」
「私もです!」
「きっとこの子ならやってくれるはずです!」
大袋さん? それに二年生の……名前わからない女の子も?
気が付けば俺はメンバーに囲まれていた。
これってまるで熱血バレー漫画だよな……。アタックナンバーなんとかとか……。
「先輩っ!」
茜ちゃんの頬を汗が流れた。
「うん、わかった。よしっ! 私も姫宮さんを信じよう! みんなもいいのか?」
「はい!」
「もちろんです!」
「姫宮さんならやってくれるって信じてる!」
野田さんがニコリと微笑んだ。
「という事だ。よろしくな? 綾香ちゃん♪」
「へっ?」
なっ? なんと俺は野田さんに下の名前で呼ばれてしまった! だけど、綾香の名前でな……。
みんながコートに戻る。そして、茜ちゃんも怪我を押してコートに入った。
「茜ちゃん……なんかごめんね」
「何で綾香が謝るの? 謝らないでよ……ほら見てよ、綾香のお陰でみんなが……」
俺がコートの中を見ると、そこには真剣な顔つきの仲間がいた。そして俺たちに笑顔で応えてくれている。
「そうだね……勝とうね、茜ちゃん」
「もちろんだよ!」
☆★☆★☆★☆★☆
相手のサーブから再開した。ボールは一直線で茜ちゃんの所へ。
茜ちゃんは苦痛の表情をうかべながらもうまくレシーブで返す。
「ナイスだ茜っ!」
そのボールをセッターの野田部長がうまく合わせてトスを上げてくれる。
ネットの高さは体育対抗祭用で二メートル十センチだ。通常の高校生公式よりは十センチも低い。だけど俺(綾香)は身長が142センチ。その差は68センチもある。その差よりも飛ばなければアタックなんて打てない。
本物の綾香なら100%無理だっただろうな。
「姫宮さんっ!」
でも、俺にはできる! 俺は……姫宮悟なんだからな!
「はいっ!」
助走をつけて俺は全力でジャンプした! 体は勢いよく空中へと舞う。
これは届くっ! 届いたっ!
俺は思い切り仰け反り、そして全体重を乗せてボールを叩いた!
「おりゃぁぁぁ!」
アタックをする瞬間、慌ててブロックをしようとする相手が見えたが……遅い!
《ドガッ!》
大きな音がしたかと思うとボールは相手のコートの中央に落ちていた。
相手はまさか俺がアタックをしてくるなんて、これっぽっちも思ってなかったのだろう。きょとんとした表情で俺を見ている。ざまあみろ!
「お、おい……さっき怒鳴ってたちっこいのがすげーアタックしたぞ?」
「なんだよあのジャンプ力……化け物か?」
「あれって一年の姫宮だよな? あいつあんなに凄かったのか!?」
「やべぇ……格好いいじゃんか! 可愛いし、格好いいし、彼氏いんのかな?」
「三年の清水が告白したらしいぞ?」
「マジか? 清水先輩と喧嘩したら負けるよなぁ……」
二階席の男子が俺のすばらしいプレーに驚いている。そして何かおかしな会話も聞こえたような気もするが……今は気にしない。
よしっ! この調子ならいける!
それからメンバー皆で頑張った。一生懸命に頑張った。
しかし、俺のアタックは二度目は成功しなかった。さすがに二度も三度も無理だ。相手だってバレー部の選手がいるんだからな。
そして、試合は激戦だった。三度目のデュースになってしまった。そしてその後、なんとか1点を取り、あと1点で勝てる場面がやって来た。
「はぁはぁ……」
茜ちゃんの顔色が凄まじく悪い。目には涙を浮かべて、見ているほうが辛い。早く試合を終わらせないと……。
「いくよっ!」
こちらのサーブだ。しかし相手はうまくレシーブした。そして相手のセッターがボールを浮かすとアタッカーが速攻でアタックをしかけてきた。
俺は懸命にジャンプするも、小柄な俺では止めきれない。
俺の手を貫通するように、ボールは大袋さんよ茜ちゃんの間へと落ちる。
「大袋さん、私がっ……きゃぁ」
茜ちゃんが足の痛みで転げてしまった。
それを見ていた大袋さんが真剣な顔つきでボールを追っ手いる。
「大丈夫よ茜! 綾香だって頑張ってるんだもん! 私にだってできるはずだもん! 頑張るしっ!」
少しふくよかな体が上下に揺れながらコートを駆け抜ける。しかし、ボールの落下が早い。これじゃあ間に合わない。
「いやぁぁっ!」
大袋さんの悲鳴に近い声と同時に《バスッ》っと 鈍い音がした!
「ナイスだっ!」
野田さんの声。
そして、大袋さんは何と回転レシーブをやっちまった! マジで漫画じゃないかこれ!?
だが、そのまま大袋さんは大の字に床に転げて動かなくなった。
「大袋さんっ!」
叫んでみても、試合は中断できない。動けない。というか、ボールはすごい勢いでコートの外に向かっている。
「私がなんとかするから、野田さん頼む!」
俺は全力で走った。ボールが目の前に落ちる。いや、落とさせるかよ!
拾ったっ! が、目の前のベンチに突っ込んでしまった。
全身を激痛が走り、視界がぐるぐると回り、そのまま床に転がってしまった。やばい、目眩で動けない……。
「綾香っ!」
茜ちゃんの声が聞こえた……。そして……。
《ドンッ!》と低音が体育館に響いたかと思うと、どっと館内が沸き上がる。
一体どうなったんだ? 熱血漫画ならここで勝ってるはずだけど……。
俺は近くの女子に体を起こさせてもらうと、そこにはガッツポーズをした野田さんの姿があった。
「綾香ちゃん! やったぞ!」
野田さんの満面の笑み。そう、野田さんの巧みなバックアタックが相手のコートに突き刺さって俺たちは勝利したのだ。
《ピーーーー!》
「試合終了! 20対18でB組(白)の勝利!」
勝った……俺たちは勝ったんだ!
「よっしゃぁぁぁ!」
野田さんが吼えた。
「勝った! 勝ったぁぁぁ! やったぁぁぁ!」
そして俺も吼えた。
俺たちの勝利が決まった。
チーム全員がコートの中央へ集まって抱き合って喜んだ。
俺も混じってつい一緒に喜んでしまったが……。抱きしめ合っているうちに我に返る。というか、何だこのハーレム状態は!?
女子高生の胸とかお尻とか、もう触り放題だと!?
何か視線を感じる……。ふと振り返ると、そこには絵理沙の姿があった。そして、なんかすっげー睨んでる。
だが……仕方無いだろ? 俺は今は綾香なんだからな♪
という事で、ハーレムを堪能しておいた。




