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ぷれしす  作者: みずきなな
体育対抗祭
40/173

040 熱血バレー対決? 中編

 俺はすぐに茜ちゃんの横に走った。そして声を掛けるも返事は返って来ない。

 床に倒れて険しく、そして苦痛に歪む茜ちゃんの表情。右足首を押さえている。足首を痛めたのか?


「痛たた……」


 一緒に倒れていた大袋さんがすぐに立ち上がった。しかし、茜ちゃんがなかなか立ち上がらない……。


「先生! 越谷さんが他の生徒とぶつかって……」


 三年生が先生の所に行こうとすると、茜ちゃんが立ち上がった。


「わ、私は大丈夫です……」


 だが、顔色は青く右足を引きずってる。どう見ても大丈夫じゃないだろ。

 よろける茜ちゃんを俺が支える。胸とか思いっきり触ってしまったが、今はそれ所じゃない。


「茜ちゃん、大丈夫?」

「綾香……ごめん……」

「ちょっとタイム!」


 バレー部長がタイムをかけた。

 俺たちは茜ちゃんをコートの外へと運び、そして座らせる。部長はその周囲にメンバー全員を集めた。


「茜、大丈夫か? さっきので足首を痛めたんじゃないのか?」


 茜ちゃんの表情は苦痛に歪んだままだ。でも笑顔になろうと頑張っている。


「だ、大丈夫です……」

「駄目だ! どう見ても大丈夫じゃないだろ?」


 流石は三年生だ。表情を見るだけでもう茜ちゃんが限界だと気がついたらしい。他のメンバーはそんなやりとりを聞いて意気消沈している。


「私、ま、まだやれます!」


 しかし、言葉とは裏腹に茜ちゃんは額に油汗をかき始めた。


「茜、もういいよ……」


 二年のバレー部の女子が茜ちゃんの肩に手を添えた。


「で、でも……」

「そんなんじゃ動けないでしょ? 無理しちゃ駄目だよ。どうせもう負けるんだから、いいじゃん」


 バレー部の二年生の女子が溜息をついた。


「私もそう思うよ……ダメだよね……でも、もういいじゃん! 私たちは十分にやったもん!」


 それに同調するように、さっき茜ちゃんにぶつかったうちのクラスの女子、大袋さんが諦め宣言をしやがった。

 何だろう……このやり取りはすごくムカつく! 俺はこういう投げやりな態度は大嫌いだ!


「いいじゃん、どうせ遊びなんだしさ、もう負けでいいじゃん」


 三年の女子までが遊びとか言いやがった。


 頭が熱くなった。超ムカついた!


「わ、私、本当にやれまるから……」

「いいって! 負けなんだから!」


 《プチ》俺の中で何かが切れる音がした。


「おい! おまえ!」


 俺が大声を出したら全員が俺を見た。

 ちょうどよかった。ハッキリとこいつらに言ってやろうじゃないか!


「何が負けなんだ? 何がもうダメなんだ? まだ試合には負けてねーだろ! 何だよお前ら? こんなに茜ちゃんや部長ががんばってるんだぞ? まだ頑張ろうとしてんだぞ? 何がダメなんだよ! 俺は結果が出てもないのにすぐ諦める奴は大嫌いなんだよ! わかってんのか? おい!」


 俺の言ってる事は間違ってない!


「あ、綾香!? どうしたの? ねぇ!?」


 そう言いながら茜ちゃんは俺の体に抱き付いてきた。

 俺を止めに入ったのか? だけど頭に血が上ってる俺はまだまだ言い足りない!


「茜ちゃんは黙ってて!」

「で、でも……綾香が……」


 涙声の茜ちゃんを無視して俺は怒鳴る


「おい! そこの三年! 顔を逸らすなよ! おい! 遊びだと? そりゃこんなの遊びかもしんねーよ! だけど遊びだって一生懸命にやらなきゃいけない時だってあるだろ!」


 怒鳴ってると余計にイラつくのは何故だ。


「おい! 言っとくがな、俺だってバレーは得意じゃないんだよ! でもな? みんなの足を引っ張らないようにがんばってるんだよ! 諦めるだと? ふざけるなよ!」


 くそーーー! とまんねぇ!


「さっき勝てないよどうせって言ったそこのバレー部の二年! お前だよ! 何がどうせ勝てないだ! 最後までやらないで諦めんなよ!」

「それと茜ちゃんにぶつかったお前だよ! 大袋! お前のフォローをする為に茜ちゃんが無理しすぎた結果がこれだよ! わかってんのか? おい! 何だよ? 下向きやがって! 下向けば良いと思ってるのか? 何か文句あるなら言えよ! ほら! 言えよ!」

「綾香っ! どうしちゃったのよ!? もういいからやめてよぉ……」


 茜ちゃんが俺にしがみつき今にも泣きそうな顔になっていた。


「で、でも……でも! 茜ちゃんがこんなに頑張ってるのにっ!」

「もういいから! 姫宮の言いたい事はよくわかったから! だからから落ち着けって!」


 部長が俺の両肩を持ちながら怒鳴った。俺はその強烈な一言で我に返った。そして俺にしがみついて懸命に止めようとしている茜ちゃんを見た……。

 よく見れば茜ちゃんは泣いていた……。

 俺に怒鳴られた三人も涙目になっている。


「もう……いいから……綾香ぁ……ううう……もういいよ……喧嘩しちゃやだよぉ……」


 やばい……やってしまった……。

 いくら頭に血が上ったからって、無茶くちゃ言い過ぎた……。

 おまけに俺とか言っちゃってた気がするし、やばいだろ? ああ、どうしよう……。

 メンバー全員がシーンと静まり返っている。それどころか体育館内が静まり返っている。

 冷静になった分、やばさが解る。かなりやばい。と言う事で……取りあえず謝っておこう……そうしよう……。


「ご、ごめんなさい。私……言い過ぎました……」


 何だかこっちが泣きたい気分になってきた……。

 頭を下げた俺の背中から温かい温度が伝わった。振り返ると、柔らかい笑みの部長の姿があった。


「姫宮さんはすごいな。あんなに熱くなれるなんてね……。私もね、さっき姫宮さんと同じような事をみんなに言いたかったんだよ。言い方はともあれ、姫宮さんが言ってる事は間違ってないよ。で、どうだいみんな? 補欠で参加してくれた一年生がこんなに頑張っているのに、それでも頑張ろうって思わないのかい?」


 先ほどまで下を向いていたメンバーがゆっくりと顔を上げた。


「ごめんなさい……私……なんか……本当にごめんなさい……」


 どうせ遊びなんだしと言っていた三年生の女子がみんなに頭を下げた。


「私……私が下手だから……越谷さんが一生懸命にがんばってくれてたのに……ごめんなさい……」


 大袋さんも頭を下げて謝った。


「私も……どうで負けるなんて……私はバレー部なのに……本当はこの試合に勝ちたいのに……部長、ごめんなさい……。茜ちゃん……ごめんね……」


 バレー部の二年生の女子も謝った。


「みんな、解ってるじゃないか」


 部長はゆっくりと大袋さんの横へと歩み寄る。


「大袋さんだっけ?」

「はい……」

「大袋さんも頑張ってるよ。レシーブを受けた腕だって痛いだろ? それなのに大袋さんはボールから逃げないで頑張ってる。私はそれを知っているよ。だから自分を責めちゃ駄目だぞ? そして、もう少しだけ、私たちと頑張ってみたいか?」


 大袋さんは涙をぽろぽろと流しながら部長に抱き付いた。

 そして、俺も反省した。大袋さんも頑張ってる。そうだった。俺は自分を基準で考えていた。俺が動けるから大袋さんもとか思っていた。

 そうだよ。俺って何て酷い事を言ってるんだよ。


「大袋さん、ごめんんさい! 大袋さんも頑張っているのに、私って……本当に……駄目です」


 やばい、目頭が熱い……くそっ。


「私たちはこんなにも心が通じ合ってるんだよ? みんなが思いやる心を持っているんだよ? だから、この試合には絶対に勝てるよ! とは言い切れないけど、でもね? 最後までがんばろうよ! 一生懸命やろうよ! ほら、茜も大袋さんも姫宮さんも泣くな、大丈夫だよ、みんなまだがんばれるから!」


 バレー部の三年生はそう言って全員の手を握って廻った。最後に俺の手を握って小声で言ってくれた「ありがとう……」と。


「さあ! この日の為だけの即席チームだけど、最後までみんなでがんばろうな!」

「「「はい!」」」


 全員で大きな声で返事をした。

 俺は感心した。この部長に感心した。俺なんて怒鳴ってただけでだ。なんか同じ三年として恥ずかしくなった。泣いちゃったし……。

 すぐに俺は茜ちゃんを見た。すると、茜ちゃんも泣き止んでいる。よかった。

 そして、俺は茜ちゃんの耳元に顔を近付けて言ってあげる。


(茜ちゃん、さっきはごめんね)

(え? ううん、別にいいよ……あの時は私も気が動転しちゃって……)

(いやダメだよ。あんなの怒鳴っただけだもん……つい頭に血が上っちゃって怒鳴っただけだもん……本当にごめん)

(本当にいいの。綾香は一生懸命になってくれてたんだもんね?)


 茜ちゃんはそう言うと笑顔を返してくれた。

 やっぱり茜ちゃんっていい子だなあ……。こんな良い子は俺にはもったいない。ってまだ俺のものじゃないけど。

 ああ、早く男に戻って茜ちゃんと付き合いたいなぁ!

 あっ、そうだ。


(あのさ、あそこの大きい三年生って部長だよね?)

(うん、バレー部の部長で野田さんだよ?)

(野田さん……。よし、私、言ってみるね!)


 そうだ、野田さんだ。思いだした。で、何を言うのかと言えば、俺はこの試合に勝つ為の秘策を思い付いたんだ。


(綾香? 何を言うの? …!? 痛いっ!)


 茜ちゃんの表情が痛みに歪んだ。


(だ、大丈夫?)

(あはは……すごく痛い……。でも……頑張る)


 なんて健気な……。


(私、言ってくる! 茜ちゃんがこんなになるまで頑張った試合に勝ちたいから!)


 俺は野田さんの前に立った。


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