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ぷれしす  作者: みずきなな
九月
30/173

030 希望の炎と絵理沙の笑顔 後編

 俺の目の前にある水晶玉の中でオレンジの炎が揺らぐ。

 そして、絵理沙はこの炎が一ヶ月しか見えないと言った。


「一ヶ月しか見えないってどういう意味だよ?」


 絵理沙は困ったような表情で、それでも唇を動かし始めた。


「ええとね? 水晶の魔法は効果が発動してから一ヶ月だけ作動するって事。だから…あとちょっとすれば炎は消えるの」

「魔法の効果が切れるって事か?」

「そう…魔法は永続効果っていうのは殆どないから…魔法は有限なの」

「……そっか…でも、俺も魔法が永続じゃないのはなんとなくわかる」


 RPGでも魔法効果は永遠じゃない。この世には永遠はないんだ。


「でも、この水晶があればまた見られるんじゃないのか?」


 そう、魔法が切れてもこの水晶があればまた見られるはずだ。

 しかし、絵理沙は首を振った。


「この水晶は魔法世界でも希少価値の高い宝石なの。そうそう手に入るものじゃないの」

「えっ? じゃあ、これはどうやって手に入れたんだよ?」

「これはあいつが魔法世界で買ってきた」


 何だ手に入らない高級品と言いつつも売ってるんじゃないか。


「これっていくらくらいするんだ? 俺もお金を出せば買えるのなら少しは協力するぞ?」

「これ? これは悟君じゃちょっと買えないかも……」

「なっ? 俺はそんなにお金がなくはないぞ? 綾香のお小遣いは少ないけど、多少は貯めてる!」


 しかし、絵理沙の表情は曇ったままだ。


「だって…これってすごく高いから」

「だからいくらするんだって聞いてるんだろ?」

「そうね…日本円で言えば500万くらいかな?」

「ぶっ!」


 俺は思わず吹き出した。


「も、もちろん私もお金を出したんだよ? でも私が持っているお金じゃ一個すら買え無くって…それであいつが残りを出してくれたの」

「自前なのか?」


 こくりと頷く絵理沙。


「車が買えるじゃないか…」

「車よりも命が大事だよね?」

「だけど…」


 これが500万だと?


「が、頑張ってお金は貯めるから! また見られるように頑張るから」


 絵理沙はそう言うが俺はそんな事をして欲しいとはなぜか思っていなかった。

 それより、俺に迷惑をかけたと言ってこいつも野木も全力で頑張ってくれている。それが解って俺のこいつらに対する想いが変わった。


「いやいい。これでも十分すぎる。俺には綾香が生きていたっていう事実がわかった事がなによりもよかった事だし、知りたかった事だったんだ。本当にありがとう。だから無理して買うな?」

「う、うん…でも…」

「いいんだって言ってるだろ?」


 絵理沙はホッとしたような表情を見せた。

 そりゃ、こんなもんをどんどんと買えとか言われたら困るよな。


「あいつにも伝えておくね。悟君がすごく喜んでいたって!」

「ああ、頼むよ。でもな? これは言っておいてくれ」

「何?」

「……見返りで俺の胸を触らせろとか、俺の胸の成長記録をつけさせろって言っても絶対に聞かないからな?」

「あはは、うん! その以前に私が触らせなし、記録もつけさせないわ!」


 絵理沙がげんこつを握っり天井に向かって突き上げた。


 本当に何で絵理沙は野木をあいつとか呼ぶんだろうか?

 またそんな疑問がわく。そして多分これからもこれは疑問に思うだろう。

 だから、ここはいっそ聞いてみるか?


「なぁ、絵理沙はなんで野木の事をあいつとか呼ぶんだよ?」


 絵理沙の表情が強ばった。

 おい、絶対に何か理由があるんだろ。まさか…


「もしかして、本当は兄妹じゃないとか?」


 しかし、絵理沙は首を横に振る。


「ええと…血は繋がってるよ?」


 意味深な返しをされた。血【は】繋がってるだと?

 まぁ本物の兄妹だと血が繋がってるよな?


「あれよ? ホントに何もないわよ? 正直、仲良しって程じゃないけど、関係は普通だよ? だからその…あいつはあいつだからあいつなの」


 答えになってるようでなってない気がするけど。あまり追求するのもあれか…折角ここまで綾香を捜してくれたのに。

 俺は追求を止めた。


「こんなんじゃ納得してもらえないわよね?」

「いや、いいよ。家庭の事情とかあるだろうし、あいつはあいつだって言えばその通りだ」


 俺はそう言うとテーブルに視線を移した。そこにはさっき絵理沙が入れてくれたコーヒーがある。


「あ、コーヒー頂くな」


 俺はさっき絵理沙が入れてくれたコーヒーを一口飲んだ。


「あ、それ冷めてるでしょ? 今すぐ入れ直すよ?」


 絵理沙はソファーを立とうとしたが俺は引き留めた。


「いや、いいよいいよ」


 コーヒーを口に運ぶと、冷めているのにとても美味しい。


「このコーヒーは冷めてもおいしいんだな?」

「そうなの? それはあいつが…悟君はこのコーヒーが多分好きだと思うからってくれたんだけど…」

「えっ? 野木が?」

「うん…」


 俺はじっとコーヒーカップを見た。

 カップの中のコーヒーには、うっすらと俺の顔を映り込んでいる。


 いや待て…何で野木が俺の好きなコーヒーを知っているんだ? 俺はあいつにどんなコーヒーが好きだとか言った記憶はないぞ?


「あ、あれ? あいつにこのコーヒーが好きって言ってない?」

「ない」

「………あいつ」


 その時の絵理沙の顔が殺気に満ちていたように見えたのは気のせいだったのか?


 そして、しばらく話込んで二時間が経過した。

 初めて絵理沙とこんなに話をしたが、こいつは思ったより話やすい奴だった。

 魔法世界の事とか、魔法の事とかはまったく話をしてくれなかったが、北本先生をやっていた時の話をいっぱいしてくれた。

 俺が北本先生に文句を言った時に事も憶えていやがった。

 そして…


「俺も早く魔法力を溜めるよ。綾香がいつ戻ってきてもいいようにしておかないとな」

「うん、私も協力するわ」

「ああ…宜しくな」

「で…でね?」


 絵理沙は少しモジモジしながら床を見た。


「もしね? もしも、綾香ちゃんが戻ってきても…悟君はここに来ていいからね?」

「え!? どういう意味だよ?」

「ま、魔法力が溜まる前に綾香ちゃんが戻ってきたら…行くとこないでしょ?」

「ま、まぁ…そうかもだけど?」

「だから、その時はここに来てもいいからって事。あっ、大丈夫よ? 気にしないでいいわよ? こうなったのは私の責任だから、私が貴方を守ってあげるって意味だから」


 おいおい…ちょっと待て!? それこそ同棲になるんじゃないのか?

 俺は見た目は女だけど、中身は男だぞ? っていうか…それ以前にここには野木がいるんだ。

 俺が絵理沙とどうこうと言う前に、野木が俺を襲う可能性も…

 いや、そうなると絵理沙が黙ってないだろうし…

 って、絵理沙がいない場合はどうなるんだ?

 俺の脳内では、万が一ここで生活したらどうなるのか。そのシミュレーションが行われた。

 結論。


「そ、その時は相談するから…」


 今はとてもじゃないけど考えられない!


「うん…相談してね」

「あ、あとさ…今すぐには無理だけど、俺が元に戻れる魔法力が溜まったら妹を…綾香を捜しに行きたいんだ」

「うん、その時は私も手伝うから。綾香ちゃん見つけようね」


 絵理沙はそう言うと笑顔を浮かべた。俺はそんな絵理沙の笑顔にドキっとしてしまった。

 俺は意識をしていなかったけど、笑顔の絵理沙は…綺麗だし、可愛かった。

 そうだった。こいつは転校して来て、すぐに男子生徒から一目置かれた美人だったんだ。そんな事を思い出す。そして、今更だけど意識してしまった。


「どうしたの? 悟君?」

「どうもしてない! そ、そろそろ帰るから」

「え? もう帰っちゃうの?」


 何でそんな台詞を吐く!? それもそんなに顔を寄せるなっ!


「じ、時間だから!」

「私はもうすこし話したかったなぁ」

「ごめん…また来るからさ…」


 その言葉に絵理沙は笑顔をつくる。


「うん、わかった! 気をつけて戻ってね?」

「ああ…」


 まったく…

 俺は絵理沙の全身を流すように見る。

 ジャージ姿にすっぴんだと思われる整った顔。

 まるで女子らしさを発揮していないが、絵理沙から漂ういい匂いは俺を興奮させるには十分だった。

 いかんいかん! 絵理沙に何を考えてるんだ!

 俺は首を振りながら玄関まで行くと靴を履いた。そして玄関の取っ手に手をかけた所である事を思いだした。


「おい…絵理沙、確認しておく忘れたが、ここから出ると何処に繋がってるんだ?」


 そう、俺は書庫からここに来た。だから、ここを出たら書庫なのかそれとも他の場所なのかはかなり重要な事だ。


「え? ああ、大丈夫よ? 書庫に繋いであるから」


 なるほど。じゃあ大丈夫か…

 まだ教室に鞄も置いたままだしな。


「あ、そうだ! この前俺の窓から帰って行ったじゃないか。あれって…ここに繋がってるのか?」

「ああ、そうそう。ここに繋いだの」

「まさか今も…」

「繋がってないわよ?」

「そうか…」


 しかし魔法ってすごいな。こんな事が出来るとかな。


「絵理沙、今日は本当にありがとうな。じゃあ、また明日な!」

「ううん、それじゃあね! また明日ね!」


 俺は玄関扉を開いた。その瞬間、ここに飛ばされた時のように一瞬だが光に包まれた。

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