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ぷれしす  作者: みずきなな
九月
26/173

026 生命の灯火 前編

 入ってから解ったが、ここはマンションみたいに感じた。狭い玄関にずっと奥から漏れる光が見える。

 玄関を上がると、入ってからすぐの左右に部屋があった。そしてずっと奥がリビングダイニングがある。

 全部で3LDKくらいの広さがありそうな感じだ。

 作りからしてやはりマンションだなと確信する。


 しかし、広いリビングだ。ここだけでも12畳はありそうだ。

 ここに絵理沙が一人で暮らしている訳じゃないだろな? なんて疑う広さだ。


 俺はふとリビングを見ると、あるモノを発見した。それは背広だ。それも、どう見ても男性のもの。

 俺がそれをじっと見ていると、絵理沙はぼそりとつぶやいた。


「同棲してるんだ…」


 その一言で俺の心臓が一気に脈拍を高めた。

 まさかの高校姓で同棲ってどういう事だ! と思いつつも、ちょっと卑猥な妄想をしてしまった俺。

 しかし、次の言葉を聞いて俺はそんな妄想をしてしまった事を猛省する。


「同棲って言ってもあの馬鹿だよ?」

「馬鹿って野木?」

「うん」


 相手は実の兄だった。野木だった。というか、兄と同棲とか言うな! 一緒に住んでるでいいだろ! 勘違いさせんじゃねぇ!

 と言う事で、ちょっと俺の心臓は落ち着いた。というか、そうか、野木と一緒に住んでるのか。


「本当は私が一人で住んでいたんだけどね…あいつが転がりこんできたの」

「いや、お前は監視される立場だろうが…」

「まぁ、そうだけど」


 しかし、兄妹でも男女だぞ? 大丈夫なのか? って…俺の考えすぎか。


「どうぞ、そこのソファーに座って」


 リビングには立派なソファーが置いてある。ゆうに5人くらいは座れるだろう。

 正面の壁にはでっかい液晶テレビが配置されている。中央には高そうなテーブル。

 なんて贅沢な暮らしだ! 魔法使いの癖に生意気だ!


 俺はそんな立派な部屋を見渡しながらソファーにゆっくりと座った。

 ふわっとした感触が俺を包み込む。それがすっげー気持ちいい。


 なんだこの感触は…これが高級ソファーってやつなのか? なんて座り心地の良いソファーなんだ…うらやましい!


「いいでしょそれ? 三十万したんだよ?」

「さ、三十万!?」


 もう何だこいつ! 金持ちなのかよ!


「でも、そこのテレビは二十万だけどね」

「でもって、十分に高いわ! うちなんて59800の特売42型だ!」

「へぇ…そんな値段でテレビって買えるのね?」


 なんて本気で感心したような姿を見せる絵理沙。


「何だよ? お前…電気屋で買ったんじゃないのか? 量販店で買ったのか?」


 普通に考えたら、量販店ならばこんなに高い金額じゃないはずだ。

 いや、こんな価格のモノもあるが、しかし、それ以下もいっぱいある。

 でも、こいつの金銭感覚はそういうモノを見た感じじゃなかった。じゃあどうやって買ったんだ?


「私、通信販売でしか買った事ないんだ」

「通販かよ!」


 でも、アマソンとか、ラクデンとかだと、安いのもあるだろ? この価格設定はどういう通信販売だ!?


「どこの通販で買ったんだよ」

「えっ? ええと…実際には魔法世界を経由して買ったんだよねぇ」

「魔法世界…って、お前の世界も家電を売っているのか?」

「だから、経由だって。あっちの世界でオーダーして、こっちの世界でその販売店が買って、それをうちに運んでくれるの」

「なんだその中間マージンぼったくられそうな通販は!」

「えっ? じゃあ、私の買った家電って高いの?」

「高い! 高いから驚いてたんだろ?」

「そっかぁ…でも魔法世界は家電製品とかないし…」

「えっ? お前の世界にはテレビはないのか?」

「うん、私たちの…」


 いきなり黙った絵理沙。そしていきなり焦った表情を見せた。


「ご、ごめんっ! そういう話をする為に来てもらった訳じゃなかったよね!」


 話題をずらしてきやがった。


「何だよ? 教えてくれないのか?」

「えっと…そ、そのうち教えるけど、でも、今日は別の重要な用事があるから…えへへ…ねっ?」


 人の考えが読めないと言われている俺ですら、今の絵理沙は焦っているとわかる。たぶん、魔法世界の事を俺には話しちゃ駄目なんだろうな。

 でも、結構べらべらと話してたけどな…


「じゃあ絵理沙。掃除道具入れからここに飛んだ説明と、何故ここに俺を呼んだのかを説明をしてくれ」


 仕方ないので話題を戻してやろうかな。


「あーちょっと待ってね…」


 絵理沙はキッチンに行くと用意してあったのだろうか、ホットコーヒーとクッキーを俺の前のテーブルに置いた。

 俺がコーヒーが好きなのを良く知ってるな? いや、たまたまか? そうだよな?


「ブラックでいいんだよね?」

「ああ…………あ? あれ? 俺ってブラックが好きだとか教えたっけ?」


 絵理沙の顔が真っ赤になった。


「えっ? ちょ、直感かなぁ? 私もブラック好きだからねっ!」


 もしそれが真実ならお前はすごいぞ? 見るからに誤魔化されている気がするけどな。まぁいっか。


「ええと…で? 話は何だよ?」

「あっ…うん」


 そして絵理沙は自分のマグカップを持ったまま、なぜか俺の右隣に座った。


「お、おい! ちょっと待て! なんで俺の横に座るんだよ」

「えっ? 駄目なの?」


 絵理沙が満面の笑みで俺を見る。やめろその笑顔は!


「駄目なのって…そうは言わないけど、正面にもソファーあるじゃん!」

「ええと…横に座るのは別に意味はないよ? 私が座りたかったから座っただけだよ? あーコーヒー飲んでね! クッキーもおいしいよ」

「でも…ちょっと近すぎないか?」


 あとちょっと寄れば、完全に密着できるくらいの距離だ。


「え? そうかな? いいじゃない、別に女の子同士なんだしさ」


 確かに見た目は女の子だが…俺の中身が女じゃねーーー!


「おい! 俺は男だぞ!」

「でも今は女の子だよね?」


 ああ言えばこう言われる。

 くそ…ダメだ…言い合いするのも疲れる。取りあえずは先に説明を聞こう…


「わかった…もういい…説明をしてくれ」

「あはは…うん。ええと…まず、あの掃除道具入れからここのマンションに魔法で繋がっている件ね」

「魔法?」

「ああっ! そっか…そっからか」

「そっからかって…」

「ごめん。もうなんだか、悟君は魔法を知ってるものだと思ってて…」

「いや、おい…で、あと、何で俺はまた悟君になってるんだ?」

「ああ、うん。なんとなく。気分で?」


 何だこいつ…


「もういい。でも悟君って言うのは注意しろよ?」


 俺がそう言うと、絵理沙は笑顔で「うん」と答えた。

 何だよこいつ。俺を殺して生き返らせた魔法使いなのに、なんでこんなにフレンドリーなんだよ?


「で、何で掃除道具入れからなんだよ」

「うーん…それは多分…あそこが一番人目に付きづらいからかな?」

「……色々と突っ込んでいいか?」


 確かにあの真っ暗な書庫に入ってわざわざ掃除道具入れを開けるやつは居ないかもしれない。でも、あけられる危険性はある訳だろ?


「突っ込むとか…」


 何故か赤くなる絵理沙。というか、何を考えて赤くなってるんだ!?


「駄目に決まってるじゃん!」


 っていうか、何で怒るんだよ!


「えっと…いや…うん。解った。もういい。あそこからここに繋がってるんだな? 魔法で…」


 そうだ、こいつは魔法使いなんだ。人間の常識とか通用しないんだよな。

 いわゆる海外に行っていて、日本の習慣にびっくり。これだろ。だからあまり口説く言うのはやめとこう。俺の疲れる。


「前にさ、綾香ちゃんの家の窓から私とあいつが出て行った事あるでしょ?」

「ああ、あのどこでも○アみたいなのかと思ったあれか?」

「どこでもド○?」


 絵理沙が首をかしげた? って、そうか…ドラえも○を知らないんだな、こいつ。


「いや、いい。ごめん」

「何よそれ? 何かすごい秘密道具なの?」

「ええと…ある意味あってるよ。不思議に。でも、こっちの世界でのアニメの話だ。だから気にすな」

「アニメ? ああ、アニメね」


 どうやらアニメは理解したみたいだ。


「そう。だから何だ? あれってどういう仕組みなんだ?」

「ええと、あれを開けるとここに転送される仕組みなんだ」


 俺は魔法使いだと知っているから信用するが、普通ならこんな非現実的な話なんて絶対に信じないよな。

 しかし、あそこを開けるとここに転送されて来るという事は、誰かが間違って開けるとここに来てしまうという事なのか?

 もし、あそこを間違って他の生徒とかが開けたらどうなるんだよ?


「あのね、万が一掃除道具入れを他人が開けたとしても、通れる人を限定してあるから大丈夫だよ?」

「あっ…」


 俺の疑問を察知した見たいに答えやがった。


「ちなみに、綾香ちゃんはちゃんと通れるようにしてあるから。いつでもこれるよ?」

「いや…別に用事はないし…来ない」

「用事がなくても来ていいんだよ?」

「えっ?」


 いやいや待てよ。何でウェルカム状態なんだよ!

 こいつは俺を殺した魔法使い。そして同居人は俺の胸を狙う変態教師。なんでそんな危険な環境に俺は飛び込まなきゃいけなにんだ!


「いや、用事があっても来たくない!」

「もしかしてあいつがいるから? でも大丈夫よ? ここに戻ってくるのは寝るときだけだし」


 また俺の考えてる事に対する答えみたいな…

 なんかさっきから俺の考えを読まれてないか? これって魔法で? いや、絵理沙は魔法を使えないはずだよな?


「絵理沙、さっきから俺の心を読んでたりしてないか? さっきから俺の考えてた事に答えてくれてるんだけど? 俺は言ってないのに」


 確認はダイレクト。こいつらにはそうするのがベストだ。


「私は今は魔法を使えないんだよ? だから人の心を読めるはずないじゃないの。というかね、人の心を読める魔法使いってすごい高レベルな訳。だから私は魔法が使えたとしても人の心は読めないの。もし私に人の心が読めたら保健室での失敗は無かった。悟君だってすぐに理解出来たはずでしょ?」


「なるほど…確かにそうだな」

「でもね…あいつだけは人の気持ちを読めるんだ」

「あいつ?」


 絵理沙の視線を追うと、そこには野木のだと思われる背広が掛けてあった。


「まさか…野木の事か?」

「うん」


 俺はその一言で背筋がぞっとした。


 あいつ…なんてチート能力を持ってやがるんだ!

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