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ぷれしす  作者: みずきなな
九月
25/173

025 第二校舎の書庫の秘密

 五時限目は俺が大嫌いな数学の授業だ。

 俺は本当なら三年なので、普通なら一年の二学期の数学なんて理解してなきゃおかしいと思う。


「…でありますので、この式については…」


 でも、黒板に並ぶ謎の数式とかを見ていると、まるで外国の言葉の様に見える。

 俺にとっちゃ呪文の一種にすら感じられる。本当に誰がこんな授業を考えたんだ?

 そんな文句を言っていても授業は終わらない。


 黒板の数式を見ていると頭痛がしてきた。

 だいたい、何でこんなに難しい公式を覚えなきゃいけないんだよ。

 今は電卓やパソコンの世の中だぞ? 今頃こんな公式を覚えなくても電卓で計算すりゃいいじゃないか。くそーすっげーつまんねーし。

 あーあ…早くおわんねーかなぁ…


 俺はその後、数学の授業などまったく聞かないで別の事ばかり考えていた。

 最近やってないゲームの事とか、茜ちゃんの事とか、絵理沙の事とか、野木は何故エロいのかとか。


 《ガタン!》と絵理沙の席の方から音がした。

 俺はふと我に返って横を見ると、絵理沙が何やら教壇の方を指さしながら口をぱくぱくさせているじゃないか…って? 何だ? ん…前を? 見ろ?


「姫宮さん! 聞こえてますか?」


 先生に呼ばれてる!?

 絵理沙は首を振っている。

 どうやら先生はずっと俺を呼んでいたみたいだな。クラス中の視線も俺に集まっているし。

 やばい…ぼけっとしすぎてた。


「姫宮さん…ぼーとしてどうしたんですか? 授業が面白くありませんか?」


 一瞬「そうです」と答えそうになったが我慢した。


「す、すみません…」


 とりあえずは謝罪する。

 横を見ると絵理沙は呆れた表情で俺を見ている。


「もっと集中して聞いてくださいね?」

「はい…すみませんでした」


 やばいやばい。絵理沙が教えてくれなかったらすっげー怒鳴られてた所だった。

 今は綾香なのに目を付けられるとかまずいよな。今度は注意しよう。


「では、姫宮さん。周辺の長さが二十センチの長方形があります。縦の長さをxセンチとしたとき、長方形の面積をy平方センチとします。yを求める二次関数は何でしょうか?」

「……えっ?」


 俺が着席したと同時に当てられた。


「答えて貰えますか?」


 やばい、何だその謎の呪文は? 攻撃魔法? 防御魔法? まてっ! 俺は魔法使いじゃないぞ? って今はそんな馬鹿な事を考えている場合じゃないな。

 よく考えろ…公式には意味があるんだ。

 えっと…y=ヤング係数

 …………違うだろうが馬鹿俺!

 じゃあ…えっと…y=やんぐあすぱら?

 あぁぁぁ! スーパーにもあんまり売ってなにのに、何でここでヤングアスパラなんだよ! せめてヤングジャ○ンプとかにしとけよ!


「姫宮さん? どうしましたか?」

「は、はい? いや、ええと…」

(あやかちゃん)


 絵理沙の声?

 ふと横を見れば絵理沙がノートを机の陰から見せてきている。

 え? 俺に答えを教えてくれるのか?

 そして絵理沙が指差したノートの端には《y=-x二乗+10x(0<x<10)》と書いてあった。

 それを言えばいいって事なのか? 多分そうだな…よし…


「姫宮さん、解りませんか?」

「い、いえ! 解ります」

(合ってるよな? 信じるぞ?)


 俺は立ちあがると、先ほど憶えた公式を頭の中で復唱した。そして、


「えっと…y=-x二乗+10x(0<x<10)です…」


 そのまま答えた。すると先生が微笑む。


「はいそうですね。姫宮さん正解です。座ってください。皆さんそれを……」


 絵理沙のお陰でなんとか正解する事が出来た。

 しかし助かった。まったく公式の意味はわからなかったけど正解だった。

 再び絵理沙の方を見ると、今度は別の事がノートに書いてあるぞ?


 《何やってるのよ! 馬鹿じゃないの!》


 ……馬鹿? おい…そんな事をわざわざ書かなくてもいいじゃないか。って、続きがある?


 《で、そんな馬鹿な君に伝えたい事があります。今日の放課後に第二校舎の三階書庫で待ってるから。絶対に来てね♪》


 ノートから絵理沙の顔へと視線を上げてみる。そこには笑顔の絵理沙。

 何だ? 呼び出し? 重要って? えっ?


「では、この問題を野木さん」


 俺が首を傾げて絵理沙の怪文章の意味を考えていると、絵理沙が先生にあてられた。


「あ、はいっ!」


 しかし、絵理沙は俺よりも難しい問題を簡単に正解しやがった。何て奴だ。


 何で第二校舎なんだ?

 俺は第二校舎の構造の脳内で構築してみた。が、わからない。

 第二校舎自体にそうそう行く事がないのもあってわからない。

 ええと…第二校舎の三階に書庫があるっけ? あったような気もする? けど、本当に何の話があるんだ? 特別実験室じゃダメな話なのか?

 でも野木には会いたくないから、実験室は行きたくないし。

 屋上は駄目なのか? まあ…行けばわかるか。


 ☆★☆★☆★☆★☆


 放課後

 絵理沙はいつものように手早く鞄を持つと教室を出て行った。

 相変わらず教室を出てゆくスピードはクラスでトップだ。クラスメイトに軽い挨拶をする程度で会話などまったくなく出て行きやがった。


 絵理沙は先に第二校舎に行って待ってるのかな?

 いつもなら絵理沙は特別実験室へ行っている。

 仕方ないな…俺も第二校舎に行くか。

 俺が席を立とうとした時だった。笑顔の佳奈ちゃんが目の前に走って来た。


「綾香っ!」


 佳奈ちゃんは相変わらず元気いっぱいだな。


「ねえっ! 今日も一緒に帰らない?」

「えっ? 今日?」

「そうっ!」


 あちゃ…今日は絵理沙と約束してるからなぁ。どうしよう…

 折角誘ってくれてるのになぁ。でも今日は…やっぱり先の約束が先決かな。また今度ねって言おうかな。

 そんな感じに俺が悩んでいると、教室の後ろから佳奈を呼ぶ声かした。


「佳奈ぁ! 何してるのよ? 今日は先生に呼ばれてるんじゃなかったの? 佳奈は体育対抗祭の実行委員になったんでしょ?」


 この声は真理子ちゃんだ。振り向くと、やっぱり真理子ちゃんだった。それもちょっと怒ってる?

 そんな真理子ちゃんの声を聞いて佳奈ちゃんははっとした表情になった。


「あ! そうだった! 忘れてた! 真理子ありがとー! ごめーん…綾香…また今度ね」


 そう言うと佳奈ちゃんは自分の席の戻ってノートを持つと慌てて教室を出て行った。

 そうか、そろそろ体育対抗祭の季節か。それにしても佳奈ちゃんが実行委員とか信じられないな。学校行事には興味なさそうなのに。


「まったくね…佳奈はすぐ忘れるんだもん。困っちゃうよね、綾香」


 気がつくと真理子ちゃんが俺の横に立っていた。


「あ、そうだね。うん、困っちゃうよね。ははは…。で、でも、佳奈ちゃんって体育対抗祭の実行委員になったんだ? すごいね…そういうのやりそうに見えないのに」

「え? そんなの佳奈が進んでやるはずないじゃないの。担任の先生にやらされてるのよ? あの子は何の委員にも入ってないし、部活もしてないでしょ? それで担任の先生が佳奈を体育対抗祭の実行委員に推薦したのよ」

「ああ…そうなんだ」


 なるほど。それなら納得だ。

 そう言えば、綾香って何か委員とかしてたのかな? 別に綾香も何もしてない気もするんだけど。まぁ、言われた事もないし、入ってないんだろな? って考えると…

 よかった…体育対抗祭の委員だなんて面倒な事を俺に頼まれなくて。俺になる危険性もあった訳だ。


「私も体育対抗祭の事で生徒会に用事があるし、今度落ち着いて時間が出来たらみんなで一緒に帰ろうね! 綾香」

「あ、うん」


 真理子は笑顔で手を振ると、教室を出て行った。

 さて…俺は第二校舎に行こうか。



 ☆★☆★☆★☆★☆



 俺はまず新校舎から第二校舎へと繋がっている渡り廊下を歩き、寂れた第二校舎に入る。

 第二校舎は古く、殆どの部屋が既に使われていない。

 この校舎で使われているのは一階にある会議室と二階にある音楽室と視聴覚室程度だろうか?

 そう言えば二階の空き部屋を文化部の一部が使っているのは知っている。しかし、三階にある部屋はすべてが倉庫にしか使われてないはずだった。

 俺は二階から三階へと階段をあがる。

 二階の階段ホールでは多少だが生徒の声が聞こえた。しかし三階には人影はまったく見えないし声も聞こえない。

 昼間でも不気味な場所だ。夜にこの校舎に入ったらどれほど恐ろしいだろう。

 しかし絵理沙は何故こんな場所に俺を呼ぶんだ? 前は屋上だったし…


 三階の突き当たりの一つ前の部屋のガラス戸に書庫と書いてある張り紙を見つけた。

 すっごく怪しい部屋だ。何ていうか、入口のガラス戸が真っ暗だ。という事は中はカーテンが閉まっているか、または物がいっぱいで光が差してないという事だな。

 俺はこういう場所はあまり好きではない。だが…仕方ない…入ろう。

 俺はゆっくりとガラス戸をあけた。


「お、おじゃましまーす…」


 俺は何を言ってるんだ。ここは家じゃないだろう。それに誰も返事する訳がないのに。


「はい、どうぞー」


 返事が来たっ! ちょっと待て!?………誰だよ!?

 って…これは絵理沙の声だよな? でもどうぞーって…ここはお前の家かよっ!


「おーい! 絵理沙? 何処だ?」


 部屋の中に入った俺はガラス戸を閉めた。すると部屋の中は予想した通りにほとんど真っ暗になってしまった。どうやら外へ面したガラス戸はすべてふさがれているらしい。

 入口のガラス戸から入る僅かな光だけが部屋の中を照らし、僅かに天井が明るくなっている。しかし、床はよく見えない。

 俺は周囲をよく見渡してみたが、殆ど何も見えない状態だった。


「あかり…どこだ?」


 照明を探すが、なんと…段ボールで埋まっていた。

 これじゃ書庫としての機能すら果たさないじゃないか! って突っ込みたくなったが…空しいからやめた。


「綾香ちゃん、入口から真っ直ぐ行った所の左手に掃除道具入れがあるから、そこの扉をあけてね」


 え? 絵理沙は何処にいるんだ? 声はするが人影が見えない。それに掃除道具入れの扉をあけるって何だよ?だが言われる通りに進むしかないよな。


 俺は絵理沙の指示通りに真っ直ぐに行った。そして左。これか。

 薄暗い中に僅かにだがスチール製の掃除道具入れが確認出来る。

 俺は言われた通りに古びた掃除道具入れの扉を開いた。

 その瞬間だった…一瞬光に包まれたかと思うと俺はどこかの家の玄関にいた。


「えっ? な、何だよこれ!」


 俺が玄関で混乱していると、奥から何者かが出てくるのが見えた。そして俺は焦って扉の取ってに手をかけるが…廻らない!


「やっと来たね! 待ってたよって…なにしてるの?」

「へっ?」


 俺が振り返ると、そこには絵理沙がいた。ジャージ姿というラフな格好をした絵理沙がいた。


「お、おい! やっと来たって何だ? ここは何処だ?」


 焦る俺をきょとんとした表情で見ながら、絵理沙は普通に返す。


「ここは私の家だけど?」

「はい? えっ?」


 いやいや…俺はさっきまで学校にいたんだぞ?

 俺の脳裏にはそんな疑問が浮かんだ。


「何で動揺してるの?」

「い、いや…確か俺は書庫の掃除道具入れの扉を開けただけだぞ? なんで掃除道具入れの中に玄関があるんだよ!? それに何でお前の家に俺が来ないと行けないんだ!」


 絵理沙は俺が動揺している姿を楽しそうに見ている。


「あはは…とりあえず上がってよ。ちゃんと説明はするから」


 俺はおどおどしながら靴を脱いで家の中へと入った。


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