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ぷれしす  作者: みずきなな
九月
22/173

022 悩める俺 前編

 始業式がら数日経った放課後。

 俺は机に両肘をついてぼーっと教室の黒板を見ていた。


「ふぅ…」


 無意識で溜息が出る。


「綾香、どうしたの? そんなに深いため息をついちゃって…」


 突然横から声が聞こえた。俺は慌てて声の方向を見るとそこにはいつの間にか茜ちゃんが立っているじゃないか。


「茜ちゃん? まだ帰ってなかったんだ?」

「うん…これから部活だしね」

「そっか…」


 茜ちゃんは始業式の日に俺の家に来た後からだいぶん元気を取り戻してくれた。だが、こっちはまだ問題が残っている。いや問題になっていると言った方がいいのかもしれない。

 俺には問題が二つあった。その問題の一つはラブレターだ。実は始業式の日から俺の下駄箱には毎日のようにラブレターが入っているのだ。

 初日以降が誤字は無いが、差出人は同じだと思われるラブレターが…

 だが、こんな事を茜ちゃんに相談しても仕方ない。佳奈ちゃんに言ったら「すごいねっ」なんて言われて終わりだろうし、俺の問題なんだからな。


「別に何でもないよ」


 なんて言ってみた。茜ちゃんはきょとんとして俺を見る。


「ふーん…でも、何でもない割には、あーあー…嫌だなぁって顔をしてるよ? 本当は何かあったんでしょ?」

「えっ!?」


 俺は思わず驚いてしまった。というか、俺ってそんなに顔に出やすいのか?


「どうしたの? 綾香がそんなに悩んでると私は悲しくなっちゃう」


 そう言って本当に悲しそうな表情になる茜ちゃん。


「いや、私の問題だから」

「やっぱり何かあるんだ?」

「まぁ…ね…」


 茜ちゃんは瞼を閉じて腕を組んだ。そして「うーん」としばらく考えると、再び瞼を開いた。


「もしかして毎日下駄箱にラブレターが入ってるとか?」

「えっ!?」


 俺は再び動揺した。というか、何で分かったんだ!?


「えっ? 当たりだったりする?」

「あ…当たり」


 茜ちゃんは激しく苦笑すると首を傾げる。


「そ、そっかぁ…」

「でも、何でわかったの?」

「えっと…」


 茜ちゃんは苦笑をしながら教室を見渡した。


「怒らないでね?」


 そして、教室に誰もいないのを確認すると、俺の耳元でつぶやいた。


「うん…」

「えっと…前にね? 佳奈ちゃんが言ってんだ…綾香が始業式の日にラブレターを貰ったって…あ、大丈夫よ! 知ってるのは私と真理子ちゃん位だと思うし」


 佳奈ちゃんかよ! なんてお喋りなんだよ…だが、


「まぁそれも問題なんだけど、でもね…もっと問題があってね…」


 そう、ラブレターも問題なのだが、もう一つの問題の方が俺にとっては難題だったりした。


「もう一つ?」

「うん」

「何? 何なの? 私で何か出来る事?」


 茜ちゃんは真剣な表情で俺に向かってそう言ってくれた。が、


「大丈夫だよ。私で解決するから」


 俺はそう言うと帰宅の準備を始めた。


「ちょと待って! 私も手伝うって。だって友達でしょ?」

「大丈夫だって。生命にかかわるような一大事じゃないし…私もう帰るね」

「あ、綾香?」

「茜ちゃん、また明日ね」


 俺は鞄を持って教室を出た。

 流石に教室を出てからは茜ちゃんは追ってこなかった。あまりしつこくするのも駄目だと悟ってくれたのだろう。

 そして俺は下駄箱に到着する。

 いつものように下駄箱の周囲を確認して、俺は素早く上履きを下駄箱へと入れた。


「とっとと帰ろう…」


 俺は駆け足で駐輪場へと急いだ。

 ちなみに、俺はいつも一人で家に帰る。

 茜ちゃんは部活をしているから俺とは一緒に帰れない。

 真理子ちゃんは生徒会の手伝いで一緒に帰ったりはしない。

 佳奈ちゃんは…気がつくと教室にいない。

 絵理沙は授業が終わると必ずあの実験室へと行ってしまう。

 あの中で何をしているのだろう? そんな疑問もあるが、あそこには天敵の野木がいるから行きたくもないから無視だ。

 とりあえず、知っている人間とはいつも一緒に帰れないのだ。


「ふぅ…本当に疲れるな…明日こそは諦めてくれるかな? いつも朝だけで、下校の時にいないのは救いだけどな」


 俺はうつな気分で家に戻った。



 ☆★☆★☆★☆★☆



 新しい朝が来た…だが、ラジオ体操の歌のように希望の朝ではない。すっごく目覚めも悪い朝だ…


 いつものように支度をして俺は自転車に乗り学校へと向かった。そして駐輪場に自転車を置いて下駄箱へ向かう訳だが…


「ふぅ…」


 気が重い…

 下駄箱に行きたくない…

 でもまさか登校拒否する訳にもゆかない。今は綾香だし…


「綾香! おはよう!」

「うわあ!?」


 後ろからいきなり大きな声で挨拶をされて俺は思わず声をあげてしまった。

 振り返るとそこには元気いっぱいな茜ちゃんがいるじゃないか。


「な、何? いきなり大きな声出してびっくりするでしょ?」


 茜ちゃんは胸を押さえて驚いた表情で俺を見ている。が、びっくりしたのはこっちもだ。いきなり声をかけられてすごくびっくりした。


「綾香どうしたの? 今日も元気ないじゃないの?」

「え? うん…まあ色々あるから…で、茜ちゃんがなんでここに?」


 いつも茜ちゃんは部活の朝練で俺よりも先に登校しているはずなのに何で駐輪場にいるんだろう?


「んー…綾香を待ってたの」

「え!? 私を?」

「そうだよ? で、何があるのかな? 昨日は何も話してくれないし、二学期が始まってからずっとこの調子じゃない。授業中も特段なにもなさそうだし、ラブレターが原因じゃないとすると…きっと登校の時か下校の時に何かあるんでしょ?」


 茜ちゃん。探偵になったらどうかな?

 そんな風に思ってしまう程にすばらしい推理だった。

 確かに正解だ。登校時に問題は発生するんだ。でも、やっぱり、こういう事は他人には相談しない方がいいと思ってるんだけど。


「ええと、本当に大丈夫だから。私で解決するから」


 そう言ってみたが、茜ちゃんはまったく納得してくれない。


「綾香! 関係ないってどういう事? 何かあるなら私にも言ってよ! 私達は友達でしょ? 親友でしょ!」


 茜ちゃんが本気で怒鳴って俺を睨んだ。いつも優しい茜ちゃんが少し怖い…

 でも、茜ちゃんは俺がはっきり言わないからイライラしているのだろうか? 多分そうなんだろう。本気で俺の力になりたいって思ってるんだろうな…


「でもね…」

「でもねって何よ! ずるいよね綾香って…私の相談には乗るのに自分の相談を私にしてくれないとか…すっごくずるい! そんなに私は頼りない?」

「え…いや…私は…」


 茜ちゃんは俺の言葉を遮るように再び怒鳴った。


「あーーー! もう! 綾香! 言いなさい! 何があるのよ!」


 うわ…怖い…こ、これは言った方がいいかな?

 周囲の生徒も何だ? という表情で俺達を見ているし。


「わ、わかったから、茜ちゃん、言うよ、言うからそんなに怒らないで」


 俺はそう言うと、茜ちゃんは息を大きく吐いてニコリと笑みを浮かべた。


「うん! それでいいの! 私は綾香の味方なんだからね!」


 何だろうか? 茜ちゃんってこんなに熱い子だったのか?

 しかし、本当にこの子って良い子だなぁ…

 よし…じゃあ話すか。ここまで言われたら話さない訳にはゆかないし。


「茜ちゃん、こっち来て…」


 俺は茜をつれて下駄箱の入口が見える校舎の角まで行った。


「茜ちゃん、ちょっと待ってね」

「うん」


 校舎の陰からゆっくりと顔を出し、俺は下駄箱の入口を凝視する。すると…


「やっぱり今日もいた」


 俺はそう言うと同時に急いで顔を引っ込めた。


「え? 何? 何がいたの?」


 茜ちゃんが平然と校舎の陰からはみ出て下駄箱を見た。


「綾香? 下駄箱の入口に誰かいるの?」


 はみ出したまま俺の方を向く茜ちゃん。俺はそんな茜ちゃんを慌てて引っ張った。


(ちょっと!茜ちゃん! 駄目だよ! 下駄箱から見える場所に出たら!)

(え? 何で? どうして?)


 本当に何で出ては駄目なのかを理解して茜ちゃん。当たり前だ。まだその理由を話をしていないのだから。

 よし…話そう。俺はそう心に誓うと茜ちゃんに説明を始めた。


(あのね、下駄箱の入口に三年生の男子がいなかった? 背の高い奴が…)


 茜ちゃんは再び校舎の陰からそっと下駄箱の入口をのぞき見る。


(あーいるいる! あの人かな、確か…空手部の先輩?)

(そう! その人。その人は清水先輩って言うんだけどさ…)


 茜ちゃんは清水先輩と聞いただけで何かがわかった様子で顔を顰める。


(ああ、あの人って綾香ちゃんに始業式の日に下駄箱で大声で告白してきた。あの先輩ね?)

(そうなの! 下駄箱で人の事も考えないでいきなり告白してきた馬鹿な人だよ!)

(綾香、馬鹿は言い過ぎだと思うよ…)

(………でも…あの人しつこすぎるし…)

(ふーん…ん…って! ま、まさか! 毎日あそこに待ち伏せしてるの?)


 茜ちゃんはようやく俺の本当の問題を理解してくれたらしい。そう、俺の問題とは…


(そうなの。最初は絡まれても無視して横を通過してたんだ。そのうち諦めるだろうと思ってたから。でもね? 清水先輩って思った以上に諦めの悪いタイプだったみたいなの…)


 茜ちゃんは苦笑する。


(本当に好かれてるのね?)

(嬉しくない!)

(まぁ…好きじゃない人にしつこくされても困るよね?)

(そうなの! だから、私は毎日絡まれるのがつらいから、最近はチャイムがなるぎりぎりまでここに隠れてるんだ…)


 本当は大二郎に蹴りとパンチを入れて二度と俺に近寄らないようにしてやりたいが、流石に綾香の姿だとそれは出来ないしな。


(でもこれって、ストーカーだよね?)

(うん。最近になって私は実感したの。結構身近にストーカーって存在するんだなぁって)

(うーん…普通は身近になんていないんだけどね?)

(…そ、そうだよね)

(でも、綾香が困っているのは事実だよね)

(うん)


 茜ちゃんはもう一度下駄箱を覗き見ると、大きく息を吐いて気合いをいれた。そして、俺の両手をしっかりと持つと、俺の予想しなかった宣言をかました。


(よーし! 私も待ち伏せとか嫌いだし! 私に任せておいてよ!)


 茜ちゃんは鼻息を荒くした。

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