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ぷれしす  作者: みずきなな
九月
20/173

020 招かざる客

 茜ちゃんを送り出した俺は部屋に戻って深い溜息をついていた。

 まさか茜ちゃんが俺を好きだったなんて。そして、俺は今ここにいるのにそれを教える事も出来ないなんて…

 茜ちゃんが部屋から出て、俺は何でこんな事になってるんだと頭を抱えた。


 俺は生まれてから人に好意を抱かれた事は二回目だ。

 一度目は俺が中学生の時だった。相手は隣に住んでいる幼なじみの『くるみ』だ。今も同じ高校に通っている。

 俺は中学校の時にくるみから告白をされた。しかし、俺はまだ子供で、くるみが冗談で言っているのだと思って対応してしまい、そして激怒したくるみは俺から離れていった。

 それから…くるみと綾香とは接点はあるが、俺は挨拶を交わす程度になっている。

 最近は貧乳幼女だったくるみが、すこぶる巨乳の大人の女になってびっくりしてしまっているが、しかし、もはや後の祭り。

 幼なじみが恋人になるようなシチュエーションのアニメとかあるが、現実はこんなもんだ。


 そして茜ちゃんが二回目の告白だった。

 だけど、俺はその好意を今は受け入れる事が出来ない。そう、妹になっちゃってるんだからな。

 悔しさと、悲しさと、切なさと、でもそんな中にもこれで良かったのかもしれないという気持ちが多少はあったりする。

 今の俺は綾香だから、こうして冷静に考える事が出来ている。が、実際に真っ正面から告白なんてされたら、俺は動揺して前みたいに『冗談じゃないの?』とか言って、乙女心を砕いてしまっていたかもしれない。

 くるみの時と同じ結果になっていたかもしれない。


 逆に考えればよかったんだ。そうだ、こう考えればいいんじゃないのか? 時間があるんだから、それまで俺はとにかく茜ちゃんが元気にいてくれるように支えてあげる。

 もし、その間に俺の事が好きじゃなくなってしまってもそれはそれだ。

 もし、それでも俺を好きでいてくれて、俺も受け入れる事が出来る状態なら…うん、ちゃんと答えを出そう。

 だからこそ応援しよう。

 今の俺には綾香として茜ちゃんを応援するくらいしか出来ないんだからな。


 俺はさっきまで抱きしめられていたベットに仰向けになった。そして鮮明に思い出すさっきの茜ちゃん。

 ………初めて抱き付かれてしまった。良いにおいだった。


 俺は何度か深呼吸をしてからベットから起き上がると窓辺に移動する。

 夕日に空がオレンジと黒のグラディエーションで染まっている。街はオレンジ色の光りに覆われていた。


「今日は色々あったなぁ…」


 なんて感傷に浸っていると、外からガチャンと音が聞こえた。

 そして、『ピンポーン』っとチャイムが鳴る。


 なんだ? こんな時間にお客さん?


 俺は窓から外を覗くが、人影はすでに玄関ポーチに隠れて見えない。


 新聞の勧誘か? 押し売りか? 宗教団体か? 今日は両親がいないから俺が出ないといけないんだよなぁ…

 俺は溜息をつきながら階段を下りてゆく。


 今日は色々あって疲れるんだけどなぁ…これが変な訪問販売だったら最高にいやだなぁ…


 俺の家にはインターホンがあるが、カメラなどついてない。だから、絶対に玄関を開ける必要があるんだ。

 そして、俺は鎖でしっかりと施錠して玄関ドアを開いた。


「はい? どなたですか?」

『ガチャリ』


 俺の台詞と同時に鎖がはずれただと!?


「なっ!?」


 俺が驚く中で玄関が全開に開く。そして、誰かに不法侵入された?

 そして、慌てて不法侵入者を見て俺は驚いた。


「はーい! 綾香ちゃん」


 そこには制服姿の絵理沙がいた…って!


「おまえ、何しに来たんだよ!」

「何しにって?」

「というか、何で俺の家を知ってるんだよ!」


 俺が焦っているのに、絵理沙はまったく動揺の色を見せない。なんて奴だ。


「お兄ちゃん先生だから住所なんてすぐわかるわよ? ああ、大丈夫! ちょっと遊びにきただけだから」


 絵理沙そう言うと、やけに楽しそうに俺を見ている。

 俺は正直今日は色々ありすぎてもう誰も相手にしたくないのに、そんな事はおかまいなしっぽい。最低な奴だ。

 だが、俺は甘くない。茜ちゃんならともかく、絵理沙と何で俺が遊ばなきゃいけないんだ。


「ちょっと今日は疲れてるんだ。じゃあまた明日な」


 俺は絵理沙の背中を押して玄関から追い出す。が、絵理沙も抵抗した。

 顔を真っ赤にして俺を押し戻そうとしている。何て奴だ!


「ちょっと、こんなかわいい子が折角遊びにきてあげたのに! 何よ、その態度は!」


 ちょっとお怒り口調だが、俺にも言わせろ。


「遊びき来てって言った記憶はない! あと、自分でかわいいとか言うな!」


 しかし、絵理沙はまたしても反論してくる。


「あなた、お友達にいちいち遊びに来る時は電話してねって言ってるの? 突然来る事ってまったくないの? ねぇ!」

「くっ…無いとは言わない。けどな? 今日は疲れてるんだよ!」

「何よ! 疲れてたって少しくらいはいいじゃん!」


 マジで何だこいつ…自己中だ。

 だいたい、俺はこいつとは友達じゃないし、遊びに来てもらう理由がない。遊ぶ理由もない!


「駄目だ! 母さんと父さんが戻ってくるから! また明日な!」


 俺は強引に絵理沙を玄関の外へと追いやろうとした時だった。 


「やあ、悟君」


 聞き覚えのある男性の声が聞こえたかと思うと、背筋が凍るような感覚に襲われた。


「な、なんで貴様がっ!」

「んっ? 先生に貴様は聞き捨てならないな。ちゃんと野木先生と呼びなさい」


 そこには野木がいた。っていうか、何でここにお前までいる!


「誰がお前を先生なんて言うものか! 野木で十分だ野木で!」

「まぁ、特別にそれで許してあげるよ」


 そう言って満面の笑みを浮かべる野木。


「で、何をしに来た?」

「遊びに来た」

「………」


 高校の男の先生が女子生徒の家に遊びに行くのは世間的にも駄目じゃないのか? なんて俺の心配を余所に、野木はすでに靴を脱いでいる。


「な、何でもう入ってるんだよ! それも俺より先に!」


 俺がそう怒鳴ると、野木はハッとしてから真剣な表情になった。


「前言撤回だ。これは遊びじゃない。家庭訪問だよ! あははは」


 それは質問の答えになってないだろ! なんて文句を言う前に絵理沙も靴を脱いでいた。


「おい! 絵理沙! 野木!」

「「何」だい?」


 二人がハモる。兄妹だけに息が合うのか? なんて今はどうでもいい!


「何で勝手に上がってるんだよ!」

「遊びに来たからに決まってるでしょ?」

「家庭訪問に来たからに決まっているだろ?」

「まてっ! 兄の家庭訪問と同時に妹が遊びにくるとかおかしいだろ! 何の為の家庭訪問だ! 何の為の遊びだ!」

「何のって?」

「だいたい、お前は俺の担任じゃないだろ! それに絵理沙は俺の友達じゃないだろうが!」


 そう、こいつは科学の先生で、それも今日から赴任したばかり。そんな奴がいきなり教えてもいない女子高生の家に訪問とかありえない。

 あと、絵理沙も今日転校してきたばかり。初日から遊ぶとかありえない!


「そんな細かい事は気にしたら駄目だよ?」

「普通に気にする!」

「あら? 私たちって友達じゃなかったっけ?」

「お前に殺された記憶はあっても、友達になった記憶はない!」


 追いだそうと思って頑張るが、この二人はまったく帰ろうとしない。


「あのな? 今日は両親がいないんだよ。だから帰れ」


 両親がいないのに家庭訪問とかない。しかし、野木は階段を上がりだしていた。


「まてぃ! お前、俺の話を聞いてるか? っていうか、絵理沙はどこだよ!」


 さっきまでそこに居た絵理沙がいない。


「もう君の部屋じゃないかな?」

「へっ? ちょっ!」


 俺は慌てて階段を駆け上がった。


「あ~っと…スカートは押さえてあがらないと、見えるからね? 今日は白だね」


 階段下から聞こえた野木の声。そして俺はすっげー顔が熱くなりながらスカート押さえて部屋に突入。そこには絵理沙がいた。


「なんで俺より先に俺の部屋にはいってんだよ…」

「あら? ここは妹さんの部屋でしょ?」


 なんてへりくつだ! 俺は今は妹なんだから、


「今は俺の部屋だ!」


 なんて叫んでいると、野木まで入ってきた。


「あぁぁぁ! おまえら帰れ! 入るな! 邪魔だ! 俺を休ませてくれよ!」


 俺が賢明に怒鳴っているのに、野木も絵理沙も涼しそうな顔で俺を見ている。


「悟君、今日君は妹の為に協力するって言ってたくれたよね?」 

「はっ? それはそれ、これはこれだよ! だいたいこれがどういう協力になるんだ!」

「これはね、絵理沙が綾香君の部屋を見たいという事に対する協力だ」

「………」


 何だそれ。


「いや、おかしいからそれ。俺は男に戻る為の事なら協力するつもりだけど、俺の部屋を見るとか何の為だよ? それにそんなの今日じゃなくってもいいじゃないか」


 もう何だかすっげー疲れてきた。


「いや、思い立ったが吉日と言うだろう?」


 俺は野木の笑顔の一言に言葉を失った。というか…なんて言っていいのか分からなくなった。


「おや? どうしたのかな?」 

「いや…ちょっと頭が痛くなった」

「それは大変だ! 僕が看病してあげようか? 実技でね」


 いや待って、その実技って何だよ?

 野木の手を見ると見事にもにゅもにゅ的な動作をしている。


「け、結構です…」 

「悟君、もういいでしょ? 諦めなよ? 部屋にだって入れてくれたんだし」

「何を諦めるんだよ! お前らが勝手に入ったんだろうが!」 

「うーん、悟君は私には全然優しくないなぁ」

「僕にも優しくないね」


 なんで俺が野木や絵理沙に優しくしてあげないといけないんだ?

 特に絵理沙は俺をこんな目に合わせてる張本人だろうが!


「……はぁ」

「溜息をつくと幸せが逃げてしまうぞ?」

「そうよ? そんなに深い溜息をついちゃ駄目だよ」


 もう…なんか疲れた。どうせこいつらは俺が追い出そうとしても無駄なんだ。

 俺はどっと押し寄せる疲労感に文句を言うのも面倒になってしまった。


「悟君? ええと…」


 そんな事になったらなったで、申し訳なさそうになる野木。

 申し訳ないと思ってるのならとっとと出て行けよ。そう言いたくなった。が、もうマジで面倒だからやめた。


「ここが綾香ちゃんの部屋かぁ…」


 しかし、絵理沙は野木とは違って反省の色はない。きょろきょろと部屋中を見渡している。


「何だよ…何をきょろきょろ見てるんだよ」

「ううん…結構女の子っぽい部屋にしてるんだなぁって思ってね」 

「元々が妹の部屋だ。女の子っぽくって当たり前だろ」

「でも、夏休みは悟君がずっと使ってたんでしょ?」

「そうだ…けど、妹がいつ戻るかわかんねぇし、俺の趣味で変えるなんて出来ねぇだろうが」

「まぁ…そっか」


 絵理沙はそう言うと無言で物色を始めた。しかし、俺は文句は言わない。もう疲れた。

 野木はチラチラと俺を見ているが、何だよ?

 すると、俺の心を読み取ったように野木が口を開いた。

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