作者の勝手に考えたエンディング そのⅠ
『ぷれしす』ではマルチエンディングは考えていなかったのですが、私的に誰かと引っ付けた最後にしたく、勝手に妄想エンドを書いてみようと思いました。
完結したのに続きを書いてごめんなさい。
そして、これはこの小説のひとつの未来の形だと思ってください。
八月に入った。
セミがこれでもかと言うくらいに泣きまくり、熱いぞ熱いぞを繰り返す天気予報に外に出る事すら嫌になる。
そして、なんだかんだとヘタレな自分のせいで彼女はもちろんいない。
いや、実際には俺から告白すれば彼女は約三人がゲットできそうなのだが、していない状況だ。
フラグを折るとかよく聞くが、フラグを立てまくった末に回収しないやつっていうのは、この現実にはどの程度いるのだろうか?
ゲームだと色々な女子にフラグを立てて、途中の選択肢からやり直して全員のエンディングを見るとかできるのかもしれないが、今回のは現実だ。
そりゃ、正直に言えば彼女は欲しい。
高校三年(正確には高校四年)で彼女もいないなってどうなんだろうとは思う。
だけど、ともあれ俺はヘタレなんだ。
自分で言えるくらいに。
だけど、俺は俺だから知っている。
ヘタレっていうのは言い訳だと。
正直に言えば誰かひとりを選んで、もしうまくいかなかったらどうしよう。うまくいかなくっても誰か他の女の子をキープしておけば大丈夫かな。なんてご都合主義な馬鹿な事ばかり考えていて、それで前に進めない。
要するには俺はゲームの様に全員をキープしたいのだ。
もういっそ俺の気持ち(ハーレムにしたい)を伝えればいいんじゃないのか?
それで嫌われたら嫌われたで仕方ないんじゃないのか?
なんて心の中では簡単に考えられるが、いざ口に出そうと思うと言えない。
やっぱりなんだかんだで嫌われたくない。
絵理沙とか俺のために人間になっちまったんだし余計にだ。
「お兄ちゃん、絵理沙さんだよ」
「なっ!?」
それで絵理沙が来るとかどんな展開なんだ?
あいつ、いつもアポなしでいきなり来るんだよな。
「おじゃまします!」
で、ノックなしで部屋に突入かよ!
「お邪魔だよ! マジで本当に!」
なんて文句を言うが、絵理沙はまったく堪えた様子もなくただ笑顔のままだ。
そして悔しい事に笑顔が可愛いんだ。
「悟ぅ」
「なんだよ? あと、小さい【ぅ】はいらないだろ、絵理沙に甘えられても困るからな」
改めて紹介しよう。
彼女の名前は野木絵理沙。
元魔法使いで、つい先日人間になってしまった女子だ。とは言いつつも本当に人間になったのか確認のしようがないんだけど・
そんな彼女が人間になった理由は俺と結婚がしたいから。
恋人になりたいからじゃないらしい。
しかし、重すぎるよそれ。
それを聞いた茜ちゃんがすげー顔してたし。
『私はまだそこまでの覚悟はないです』なんて謝ってたし。
茜ちゃん、安心してもいいよ、普通の女子がここまで覚悟する必要はないから。
要するには絵理沙や輝星花が特別なんだから。
「悟ぅ?」
「だから、小さい【ぅ】はいらないだろ!」
「いいでしょ? そんなの私の勝手だし」
と、四つん這いで俺にわざとらしく襟元ゾーンをアピールする絵理沙。
ちょっとだぼついた紺色のTシャツの絵理沙の襟元から絵理沙の下着が見え。ない。見えない。肌色しか見えない。って待て!
「あっ! 気がついた? 今日はノーブラの日なんだ」
どんな日だよ! 誰が設定したんだよ!
「そうやって露骨にアピールするのってどうなんだ? 俺がそんなの好きだと思ってるのか?」
すると絵理沙は少し考えてからまたニコリと微笑んだ。
「私は知ってるよ?」
「な、なにを?」
「悟って自分に酔うタイプだよね」
「えっ? いや、話が見えないんだけど?」
「だから、本当はあれでしょ? 綾香ちゃんの恰好の時にさ、エッチな事なんてしてみたかったんでしょ?」
何がどうしてそういう話になった!?
絵理沙はまるでクイズに正解したかのような笑顔で俺をじっと見ていた。
その間も襟元の奥にある二つの肉の塊がぷるぷるしてて、いや、見たらダメだろ。
「あのな? そんな突拍子もない事を言って俺に何を伝えたい?」
「ええと、私とつき合うと魔法薬が手に入るから、いつでも女子になれるよ」
本当にいつ俺が女子になりたいと言った?
「いや、いい。俺は別に女になりたくないから」
「本当に? 悟るって女子としてはまってた感じがしたんだけど?」
「だからはまってない!」
「えー? BL展開にまでなりかけたのに?」
「だ、だからそれははまったとか関係ないだろ!」
なんてくだらない話をしながらも、だらだらと楽しそうに俺は絵理沙と会話をしていた。
まぁそれもそうか。ぶっちゃけると俺は絵理沙が好きだからだな。
女子三人の中では一番話がしやすいのが絵理沙だからな。
それでも、輝星花と茜ちゃんも好きだと思う気持ちもあるから困ったものだ。
マジで困ったものだ。
絵理沙がすくりと立ち上がると、本棚の前までいってから中にある少年漫画を手に取った。
「ねねねね」
「今度はなんだよ?」
「今の悟の状態ってさ、ハーレム状態ってやつなの?」
いきなりこいつは何を言い出す。
「この漫画の主人公ってさ、すごくモテるのに鈍感で誰も好きになってないでしょ?」
その漫画はすでの四十巻を超えるコメディー作品だった。
「そうだな」
そして、その主人公の周囲の女子は、ほぼ半分は主人公に好意がある。
しかし、主人公はその誰とも付き合わないという展開だ。
ちなみにその主人公も告白されているが返事をしていない。
「でもさ、普通なら気がつくよね? どんなに鈍感でも好きかもしれない程度は気がつくよね? この漫画っておかしいと思わない?」
確かにおかしい。俺ですらこいつらの好意には気がついているのだから。
「それが漫画だからだろ? 誰かとひっつくと読者が嫌がるからじゃないのか?」
「だからって、ここまで露骨なのに気がつかないとかないでしょ? 私は納得できない」
「まぁ、そうだけどさ」
絵理沙は漫画を棚に戻すと、俺の前にちょこんと座った。
「悟もわかってるんだよね? 私がこういう恰好できてるって、何を求めてるかって事」
そう言いながらTシャツをすすっと上げて、なんと下乳を見せやがった。
お前はどんなエロ少年誌から飛び出してきたヒロインなんだよ!
と、露骨すぎて正直に言えば困る。
けど、それだけこいつは必死なんだなっていうのも伝わってくる。
どんだけ俺はヘタレなんだか。
「俺を誘惑するな」
「なんで? 悟が好きなんだから誘惑したいんだよ」
「露骨だなおい」
「だって、ハッキリ言わないと気がついていても無視するでしょ?」
確かに、絵理沙の言う通りかもしれない。
俺は勇気がないから絵理沙には手を出していないと言えば嘘ではない。
そういう経験に興味が無い訳じゃないし、いや、興味はバリバリにある。
いまだって内心はドキドキしてるし、男としての反応だってしてる。
「だから今日は積極的に悟にアピールする事にしたの」
そして、絵理沙はTシャツを脱ごうとしているじゃないか。
「おい! ちょっと待て!」
と手を伸ばすが、もうすでにTシャツは胸の……と一気にTシャツが落ちた。
すぽんと元どおりに治った。
「絵理沙、何をしてるんだい?」
絵理沙が脱ぐのを阻止したのは輝星花だった。
「輝星花!? なんでここにいるのよ」
「いつの間にかマンションから絵理沙がいないから、きっとここだと思ってやってきたが、やっぱり予想は当たったか」
絵理沙とまったく同じ服装でやってきたのは野木輝星花。
まさかここでこの二人のペアルックが見れるとは思ってもいなかった。
そして、この女性は絵理沙の双子の姉で、今は人間の女性だ。
しかし、さすがは双子だ。ほんとうによく似ている。
瞳の色と髪の色が違うから判断がつくけど、同じならわからないだろ。
「そんなの当てなくていいわよ!」
「ダメだ。僕は絵理沙の暴走を止めなければいけないんだ」
「なんで? もう血もつながってないのに、姉ずらしないでよ!」
「なっ!?」
確かに魔法でDNAすら変えてしまった二人はもはや姉妹と言うにはおかしいのかもしれない。
だけど、俺の中の認識ではやっぱり二人は双子のままだ。
それに輝星花だって今も姉妹だって思っているはずだ。
「わかった。私だけがアピールするのがいやなんだ? じゃあさ」
と話しながら絵理沙は輝星花のTシャツを一気に脱がした。
まさに神業だった。
輝星花にもすこしの油断があったとはいえ、あんなに一連の動作に無駄なく、すぽんと音が出そうなほどに綺麗に脱がせるは。
「わ? わぁぁぁ!?」
そして、上半身下着姿になった輝星花が真っ赤になった。
「なんだ、ノーブラじゃないんだ」
「僕は痴女じゃない!」
しかし、ピンクの可愛らしい下着はもろ見えな訳で、必死にTシャツを奪い返そうとする輝星花。
絵理沙は笑顔で輝星花のTシャツをふわふわと空中で回して立ち上がって。
「えいっ」
窓から捨てた。
「あぁぁぁあ! 何するんだぁ!」
流石に、これは見ててもひどいと思う。が、待ってくれ。今になって気がついたけど、意識してないと終えは下着姿の輝星花を普通に見れる?
やばい、なんか女性の下着姿に慣れてる。
そりゃ、体育とかで何度も女子の下着姿は見てきたけど、でもこれってあまり良くない傾向じゃないのか?
「それはそうとさ」
Tシャツを投げ捨てた絵理沙はあっけらかんしてと俺の前に座った。
そんな絵理沙の頭の上には怒りまくった輝星花の手が乗る。
「絵理沙さん? あなた、僕のTシャツを投げ捨てておいて、おまけに僕を無視ですか?」
「いや、無視じゃなくって、悟に用事があるから」
「だから、僕の事を無視してるだろ? 無視して悟の前に座っただろ」
しかし、本当にこの姉妹は中が悪いのか良いのかわからない。
ペアルックで来たという事は、同意して買った訳だし。
だけど、二人は互いを思いやっているのだけは間違いないだろう。
その結果が今のこの状況を生み出してはいるはずだし。
「二人とも落ち着けよ。輝星花には俺のTシャツを貸してやるから。お前のは庭に落ちてるから後で拾ってやるよ」
「えっ? 悟のTシャツ?」
今の声は輝星花の声です。
「そうだけど嫌か?」
「いや、い、いただきます!」
「あげないからな?」
真っ赤な顔になった輝星花は、俺がTシャツを渡すとまず匂いを嗅いだ。
「輝星花! ちょっとそういう行動はやめてくれ!」
「あ、いいな! 輝星花ばっかり不公平だよ! 私にも匂わせてよ!」
「だから、なんでそうなる? あと、こういうのに不公平ってないから! だいたい絵理沙が輝星花のTシャツを投げ入れるからいけないんだろ?」
「えー」
そう言えば。ここでふと思った。
なんで絵理沙が来た時には綾香は俺を呼んだのに輝星花の時には呼ばなかったのか。
輝星花は勝手に家に入るなんて絶対にない。ちゃんとチャイムを押しているはずだ。
そして、下のリビングには綾香しかいない。綾香は絶対に輝星花に会っているはず。
「輝星花」
「ん? なんだい?」
「いい加減に匂いを嗅ぐのをやめてくれ」
輝星花はまだ匂いを嗅いでいました。って、質問はこれじゃない。
「大丈夫だ、僕は君の匂いが好きだから……」
そして照れないでいいから。
「いや、俺の匂いが好きとかおかしいから」
だから、質問はこれじゃないって。
「あのさ、綾香には会わなかったのか?」
すると輝星花は普通に扉の方を見て。
「綾香くんにここまで案内してもらったんだが?」
なんて言いやがった。
俺は速攻で立ち上がると急いで扉までゆき開け放つ。
すると、同時に階段から駆け下りる音が聞こえた。
「あいつ……」
どうも最近の綾香は俺と誰かをひっつけたくて仕方ないみたいだ。
前までは茜ちゃん押しだったのだが、最近はそこまで強くは言わなくなった。
もちろん、一番は茜ちゃんだとは話していたけど、輝星花と絵理沙の本気加減がもはや恋人になりたいよりも、嫁になりたいレベルなので考えを改め始めているのだろうか。
そう言えば数日前に綾香に言われたな。
「もういっそ絵理沙さんか輝星花さんと結婚しちゃえばいいなじゃにかな? そうなったら私も諦めがつくもん」
いやいや、そのいい文句はないだろ、綾香よ。
「でさ、悟ぅ」
部屋に戻ると絵理沙は笑顔で俺の肩を抱きやがった。
するともちろん俺の右腕にはノーブラの乳があたる訳で……。
「近い! 絵理沙、ちょっと近いぞ!」
「いいでしょ? 私の勝手でしょ」
「いや、ダメだって、だって、あれだよ、密着するとさ、なんていうか……」
またしても真っ赤になる輝星花。
そして、何やら怪しげな文句を言い放っていたような気がするが、気にしたらダメな気がする。
「輝星花、輝星花の表情の方が悟のいやらしい妄想を掻き立てるから、やめてよ」
絵理沙さすがだ。まさにその通りだ。
あの表情で照れた上にもじもじされてしまうと、変な妄想をするのが男子じゃないか。
「って事でさ、悟、来週の火曜日に一緒に海にいかない?」
で、やっと絵理沙が要件を俺に伝えてきた。
それは俺とデートがしたいという事だ。
ちなみに俺は自分から積極的には動いてはいない。デートに誘った事もない。
だけど、三人からの誘いには基本的には乗るようにしていた。
でないと、ただ逃げているだけに思えてしまうからだ。
「海か」
「うん! もちろん二人でね!」
とりあえず来週は予定もないのはわかっている。
「ああ、うん、わかった」
俺は輝星花の前ではあるが、この誘いを受諾した。
「やった! 一泊二日の伊豆の旅だ! もちろん一部屋しかとってないから!」
「えっ?」
しまった、内容を聞いていなかった。なんだその一泊って? それでもって一部屋?
「何か問題?」
「いやいや、俺たちは未成年だしダメだろ? 俺はまだ高校生なんだぞ? 泊まりとかありえないって」
すると絵理沙はかくんと首を傾けた。
「私は今年で二十一になるよ? 悟とりも二つも上だよ? 成人だよ?」
そうだった。こいつら俺より年上だった。
「だから大丈夫だって。ちゃんと色々と準備していくから」
なんだかノリが変な漫画チックになっている気がする。
絵理沙も一泊旅行とか言うと俺に嫌がられるってわかっているんじゃないのか?
そして、輝星花がなんで文句を言わない?
これって輝星花も公認なのか?
「じゃ、そういう事で今日は帰ってあげるね。バイバイ!」
絵理沙は本当に身勝手に、自分勝手に、言いたい事だけを俺に伝えて帰ってしまった。
残されたのは俺のTシャツを着ている輝星花。
「いいのか? 俺と絵理沙が旅行とか」
「まぁ、僕が二人にどうしろとか、こうしろとか、そういう権利はないからね。悟がよければ僕は別にいいよ」
絵理沙が去ったら急におとなしくなった輝星花。
何か思いに耽った様子で窓をじっと見ていた。
「ねぇ、悟」
「なんだよ」
そして、輝星花はゆっくりと俺の方を向いた。
「もう決めているんじゃないのかい? 誰を彼女にしたいのかを」
その瞳は真剣そのものだった。
例えば今から決死の覚悟で登山に試みる登山家。
例えばオリンピックの決勝戦で戦うアスリート。
輝星花はそんな真剣な瞳をしていた。
そして、俺はとある人物の表情を思い浮かべたが、すぐには答えを出せなかった。
でも、確かに俺の心の中では決着はついているのかもしれない。
ただ、決定的な何かがないだけなのかもしれない。
それがあれば俺は……。
「やっぱりそうなんだね」
輝星花は立がるとそのまま扉から出てゆく。
そして、振り返ってから優しく微笑んで。
「僕は君が誰を選んでも恨んだりはしない。じゃあまたね」
そう言い残してから部屋から立ちさった。




