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ぷれしす  作者: みずきなな
最終章
165/173

163 越谷茜の行動力

 ゴールデンウィークが終わった。

 と言う事で今日から学校に行かなければいけない。

 学校に行けば茜ちゃんと久々に教室で逢う事になってしまう。

 気が重い。

 ぶっちゃけ気が重い。

 あの衝撃の告白の後、お互いに落ち着いてはいるのだが。

 それでも気が重い。

 まともに会話が出来るのだろうか?


 重い足取りのまま教室に入ると、そこには普段どおりの茜ちゃんがいた。

 表情も明るく、すぐに俺に気がついて手を振ってくれている。

 横には佳奈ちゃんが立っている。


「綾香、おはよう」

「お、おはよう、茜ちゃん」

「あっやかーーーーおはよーーー!」

「おはよう、佳奈ちゃん」


 普通に挨拶して普通に話しをした。

 まったく普段どおりであんな出来事があったなんて嘘みたいだ。

 どうも俺が深く考えすぎていたみたいだな。


「あんたら、相変わらず仲良しだね」


 とクラスメイトが俺たちを見て苦笑していた。

 そりゃそうだ。俺たちはクラスでも有名な仲良し三人組みだ。

 茜ちゃん、佳奈ちゃん、俺。約1名は中身が男だけど。


「あのね、綾香、今日も一緒に昼ごはん食べない?」

「あ、うん、いいよ?」

「ありがとう」


 そして、いつものようにお昼に誘われた。俺は当然OKする。

 本当に今まで同じ感じの茜ちゃん。


 なんだ、本当に俺の思い込みすぎだったのか。

 なんてその時には思っていた。


 ★☆★


 昼休み

 クラスメイトはおのおのが購買に行ったり、中庭に行ったりとバラバラになってゆく。

 俺は人の少なくなった教室で、茜ちゃんと佳奈ちゃんと食事スペースをつくっていた。

 茜ちゃんは手提げからいつものようにお弁当を取り出す。

 それも2つ。2つ!?


「綾香ちゃん、お弁当をつくってきたんだけど」

「えっ? 私に?」

「うん」


 なんと、お弁当が用意されてました。


「何? いいなー? 私のは? 茜、私のはないの?」

「佳奈の? ないよ?」

「ひっどーい! あんまりだ! 訴えてやる!」


 と佳奈ちゃんは笑顔で言い放ってから即効で購買にダッシュした。


「あの? お弁当……」

「あ、うん、いつも自分で作ってるし、今日は二つつくってみただけだから」

「そうなんだ?」


 青い巾着袋に入れられたお弁当を俺の目の前に置いた。


「なんか、ええと、ありがとう」


 ここでいらないなんて言える訳がない。


「ううん、いいのいいの。気にしないで」


 しかしなんだろう? 茜ちゃんの頬が赤いんですけど。

 なんだか嫌な予感がする。


「口に合うかわからないんだけど……」


 茜ちゃんは自分の弁当の蓋をとった。

 中身は卵焼きにうずらの卵にから揚げなど、定番的メニューでおいしそうだ。

 茜ちゃんの弁当箱と俺の弁当箱を比べた。

 大きさはほぼ同じ。だったら中身も同じ可能性が大きい。

 まぁ、弁当をつくってもらった程度ならば問題ないか。と蓋に手をかけた。


「あけていい?」

「うん」


 渡されたお弁当を開いた。目が点になった。蓋を閉じた。


「え、えっと? これは?」

「私からの愛情弁当です」


 いきなり口調が先輩に対してのものになっていた。

 あと、その恋する乙女的な表情はまずくないかな?


「ダメでしたか?」

「い、いや」


 俺は再び弁当の蓋を開いて中を見る。


「で、でもさ、これはどうなのかなぁ?」


 弁当の中には桜でんぷんでハートが描かれており、タコさんウィンナーやらいる弁当だった。

 おかずのレパートリーも茜ちゃん本人のよりもずっと良い。

 おかしい、なんでこんな事に?

 そこに動くラジオが戻ってきた。


「なっ! なんだそれは!」


 いきなり俺の弁当を見て驚いていた。

 まぁ当たり前だけど。どう見てもラブラブ弁当だし。


「ええとね、綾香ちゃんのお兄さんが戻ってきたら作ってあげようと思ってて、それで今日は試しに綾香ちゃんに食べてもらおうかなってね!」


 ああ、なるほど、そういう設定ですか。良いいい訳ですね。


「茜ってまだ先輩の事が好きだったの?」

「うん! 今でも大好きだよ!」


 すると聞いた側の佳奈ちゃんが真っ赤になった。


「い、いや、別にいいんだけど? いいんだけどさ?」


 そう言いながら購買で買ったパンを頬張りだした。


「綾香、先輩が喜んでくれるかわからないけど、食べてくれるかな?」

「う、うん」


 さすがに食べない訳にはゆかない状態になってしまった。


「いいないいな、綾香ったらいいなー」


 良くないよ佳奈ちゃん! と心で叫びながらから揚げに箸を伸ばす。


「それ、自信あるんだ」

「あ、そうなんだ?」


 口に運ぶ。すると確かにうまい。


「おいしい」

「わぁい!」


 茜ちゃんが花が咲いたように笑顔を広げる。


「よかった! いっぱい愛情を込めたかいがあった!」


 横で聞いている佳奈ちゃんがさらに顔を赤くしている。


「あ、あのさ? こう言うのもあれなんだけど、練習にしちゃレベルが高くない? 茜がすっげーマジモードに見えるし、マジで喜んでるように聞こえるからね? それ」


 だってマジですからっ! っとまた心の中で叫ぶ。


「そうかな? だったらよかった。うまく演技できてる?」

「いや、うまいっていうよりも迫真に迫ってるよね? 聞いてる私がはずかしいし」


 くすくすっと笑う茜ちゃん。

 いやいや、マジでなんだろうこれ?

 先制攻撃なのか? 俺にアピール攻撃なのか?

 でも、俺は待っててって言ったんだけど?


「佳奈、恋はいいよ? 本当に生きてるって思えるもん」

「あ、はい、それはよかったですね」

「佳奈も恋するべきだよ」

「あ、はぁ……」

「それで、誰かいい人いないの?」

「知ってるでしょ!」


 今日の佳奈ちゃんはたじたじだった。


 ★☆★


 放課後の特別実験室

 俺は特別実験室へ来ていた。

 凄まじい疲労感に襲われたまま。


「つ、つかれた」


 本当に今日は疲れた。

 理由は一つ。茜ちゃんの態度が昼休みから急変したからだ。

 別にいちゃいちゃしてくる訳でもないし、直接的に好きとか言われる訳じゃない。

 だけど、今日はクラスメイトと休憩中に恋話ばっかりしていた。それも俺が聞こえる所で。


 俺は聞いているだけで恥ずかしくって逃げ出したくなった。

 なんせ、茜ちゃん自らが俺(男)に対する想いを募るっているのだ。

 嫌じゃないよ? 嫌じゃないけどさ。


「しっかしなぁ、まさか茜ちゃんがなぁ……」


 ぼーと天井を眺めていると、扉の開く音が聞こえた。

 慌てて姿勢を正して扉の方向を見る。


「綾香ちゃんいる?」


 特別実験室へ潜入してきたのは茜ちゃんだった。

 びっくりどころか、なんでいるのって。


「茜ちゃん? どうしたの?」


 また何かやられるのかなって構えながらソファーに座っていると。


「あ、あの……今日はすみませんでした!」


 茜ちゃんが直角九十度に体を曲げ、俺に侘びをいれた。


「えっ?」


 まさかいきなり謝ってくるなんて予測もしていなかった分、すぐに反応できない。


「今日の私はすごくおかしかったですよね? すごく自分でもダメな事してるってわかってました。でも、私だって少しだけでも先輩にアピールしておきたかったんです……」


 耳まで真っ赤にしている茜ちゃん。


「でも約束します。もうやりません。迷惑はかけません。今日だけです。だから許してください」


 茜ちゃんは声を震わせながらさらに深く頭を下げた。

 ああ、マジで茜ちゃん良い子すぎる。


「いいよ、大丈夫。怒ってないから」

「何が怒ってないの?」


 扉を開いて入ってきたのは輝星花だった。

 輝星花は三年生で転入してきていて、設定上は上級生になっている。

 普段はあまり逢う事もなく、放課後に特別実験室に集まるだけだ。

 ちなみにここに集まるのは一応は部活の集いです。


【天体観測部】


 それが特別実験室を利用している部の名前です。

 現在の顧問は科学の島村先生と言う普通の先生です。そして部長は俺。


「あなた、入部希望者?」


 と、茜ちゃんを知っているはずなのに輝星花はわざとそんな聞き方をする。


「い、いえ! 私は部外者ですのでもう帰ります」

「待って、別にいいのよ? ちょっと話をして行けばいいじゃない?」


 しかし、すっかり女言葉が板についたな、輝星花。

 どこから見ても綺麗なお姉さんですよ。


「綾香ちゃーーーん! 元気?」


 そして最近少しだけ佳奈ちゃん化している和実が入ってきた。


「あら? 入部希望者なの?」


 で、輝星花と同じ反応かよ!


「和実、それはもう私が言ったわ」

「なんとっ! それは失礼しました!」


 こいつら漫才コンビでも組むのか?


「あの、すみません、私、部活があるので失礼します」


 二人の先輩の登場に焦っているのか、茜ちゃんは教室から出ようとした。


【ドンッ】


 しかし、慌てすぎたのか四人目の来訪者にぶつかってしまった。


「いたたたた……」


 教室に入って来てすぐに尻餅をついたのは南だった。

 栗橋・サンライズ・南こと中身は姫宮綾香。


「あれ? 茜ちゃん?」


 南は自分が倒れた事よりも、相手が茜ちゃんだった事に驚いていた。


「あっ、綾香?」


 そして茜ちゃんもって……えっ? おい!


「あ、茜ちゃん!」

「!?」


 ハっとする茜ちゃん。慌てる南。

 しかしもう遅い。ここにいる全員が聞いている。

 明らかにおかしかい茜ちゃんの一言を。


 二人を見てばハッキリとわかった。

 茜ちゃんは南の中身が綾香だと知っている。

 となると、俺を悟だとバラした人間がなんとなく特定できてきた。


「し、失礼します! ……えっ? あっと……」


 立ち上がって扉から出ようとする茜ちゃんだったが、輝星花が不気味な笑みを発しながら捕まえた。

 お前、さっきまでそこにいなかったよな?

 だけど突っ込まない。別に瞬間移動しても突っ込まない。


「ちょっといいかしら? お話を聞きたいのだけど?」


 いや、怖い。怖いからお前! その笑顔は笑顔になってない。


「ひゃ、わ、私は」


 茜ちゃんは中央のソファーに座らされた。

 横には一緒に南(綾香)も座らされている。

 正面には輝星花が座る。


【カチ】


 和実が扉の鍵を閉めた。


「な、なんで鍵を閉めるんですか!?」


 声が震えている茜ちゃん。

 怖いんだよね? そうだよね? わかるよ。俺も今の輝星花が怖いから。


「さて、越谷茜さんだっけ?」

「は、はい」

「お姉さんに少しだけ教えてくれるかな?」

「何をでしょうか?」

「まずね、あなたの横に座っている南さんが綾香ちゃんの変身した姿だと知っているのかな?」


 だーと汗を流す茜ちゃん。

 俺は運動以外で人間がここまで汗を流すのを始めて見た。


「い、いえ、知りません」


 和実がすっと茜ちゃんの横に座った。


「あなた、綾香ちゃんの名前を呼んだよね? こんな銀髪の女の子とそこに座っている黒髪の女の子を間違うとかあるかな?」


 そういいながら俺を指差していた。

 茜ちゃんは無言で震えている。

 横では南も顔色を悪くしている。

 やばい、これはやばい。どうやばいのか解らないけどやばい。でも、でも俺はっ!


「輝星花、和実、ちょっと待てくれ!」

「なにか?」


 冷たい表情で輝星花は俺を睨んだ。


「あのな? 茜ちゃんは」


 茜ちゃんがぷるぷると首を振っている。

 だけどここまできて言わないなんて選択はない。


「茜ちゃんは俺が悟だって知ってるよ」


 輝星花と和実の反応は「やっぱりね」だった。

 別にそれでどうこう攻撃しようとするつもりはなかったみたいだ。

 ただ確認がしたかっただけなんだろう。


「まぁ、そういう事だと思っていた」

「なるほどね~、ついに一般の人間にも知れちゃったのね」


 銀髪の美少女がここで立ち上がった。


「わ、私が教えたんです! だって不公平だと思ったから!」

「不公平って何がだい?」


 反応した輝星花に面と向かう南。


「輝星花さんも、絵理沙さんも、今の私がお兄ちゃんだって知っている。でも茜ちゃんは知らない。茜ちゃんだけが知らないのは不公平です!」

「言っている意味がわからない。別にそのうち悟に戻るのだから良いんじゃないのか?」

「良くないです! だって、輝星花さんはお兄ちゃんに好きって告白した! 絵理沙さんだってそうです! それはお兄ちゃんが私の姿になっているのを知っているからでしょ? でも、それは卑怯じゃないんですか」


 南は胸を揺らしながら力説した。

 その言葉に表情を硬くする輝星花。


「確かに告白したよ。現に僕は悟が好きだからね。だけど、今の僕はもうそんな事はしていない。だから卑怯だと言われる筋合いはないね」

「違います! 卑怯ですよ! だったら、茜ちゃんだけ知らないから告白できない状況になってるなんておかしいじゃないですか!」

「……で? だから? 何が言いたいんだい?」


 いつの間にか口調がいつもの輝星花に戻っていた。


「だから教えました。お兄ちゃんが確実に元に戻れるってわかったから春休みに茜ちゃんにも教えました」

「なるほどね……」

「皆さんの把握している恋愛関係も、私の知っている範囲ですべて教えてあります」


 なるほど、だから正雄の絡みでもあんなに怒ったのか……。

 そうなると、茜ちゃんは俺が大二郎や正雄とも恋愛的な関係があったって知っているのか?


「ねぇ、どうするの? 輝星花はさ?」


 輝星花は腕を組んで茜ちゃんと南を見た。


「まぁ、納得できない事もない話だ。だったらいいんじゃないか?」

「いいの? ライバルが増えるよ?」

「ライバル? 別に今さらライバルが増えても問題はない。だって僕のこの気持ちは誰にも負けないからね」


 そう言って熱い眼差しを俺に送る輝星花。

 お願いだからやめてくれ。マジではずかしい。


「わっ……私も負けません! 私の方が先輩よりも先に悟先輩を好きになったんです!」


 顔を真っ赤にして、声を震わせて茜ちゃんが叫んだ。


「輝星花さんよりも、絵理沙さんよりも、私は先輩が好きです!」


 恥ずかしい。もう聞いていられないくらいに。

 ほんっとこういう展開は簡便してほしい。


「なるほどね、でも僕も負けないよ?」

「わ、私は野木先輩みたいにスタイルよくないです。綺麗な髪もしてないです。綺麗な瞳でもないです。でも、気持ちでは負けてません」


 茜ちゃんはバレー部だったな。

 そういや熱血バレーアニメでこういうやりとりがあったような気がする。(気のせいです)


「なるほど、君の訴えはよくわかった。ではここでちゃんとルールを決めておこう」

「ルールですか?」

「そう、ルールだよ」

「どんなルールをですか?」

「まず、悟くんが男に戻るまでは恋愛的な接触は禁止にしよう」

「恋愛的な接触? それってどういう接触の事ですか?」

「例えばデート。例えばキス。例えば●●●」


 輝星花さん、それは放送禁止ワードです。


「わ、わかりました。しません、約束します。他には何かありますか?」

「そうだね、恋愛アピールのスタートは悟くんが元に戻った時から。だからちゃんと君にもそのタイミングは教えてあげるよ」

「わかりました。ありがとうございます」


 輝星花はゆっくりと立ち上がり茜ちゃんに右手を差し出した。


姫宮輝星花ひめみやきらりだ。越谷茜くん、よろしくな」

「あ、は、はい」


 そして茜ちゃんとがっちりと握手をしたのだった。

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