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ぷれしす  作者: みずきなな
九月
16/173

016 絵理沙の正体

 絵理沙と俺と野木は屋上にある塔屋の物陰に集まった。

 しかし、この三人が集まってる姿を誰かに見られるとすっごく怪しいよな。新任の先生と転校生と俺とか…組み合わせがありえないだろ。

 なんて俺の心配を他所に絵里沙は腰に手をやってしかめっ面で話を始める。


「あのね、私はあなたにカードを挿したじゃないの」

「ああ、あれか…」


 俺は視線を下げて自分の胸を見た。確かに、俺の胸の中には黄色いカードが入っているはずだ。


「でね? 私はカードを入れた日から魔法が使えなくなった訳」


 そういえば、カードを入れると魔法が使えなくなるとか言っていた気もする。


「で、どうなったかというと、魔法で北本絵理に化けていたのに、もう化けれなくなったの」


 化けていた?

 俺は絵里沙の顔をじっと見る。すると絵里沙の頬がちょっと桜色になった。


「やだ…綺麗だからって見詰めないでよ」


 何を言ってるんだこいつは…


「そういう冗談はさておいて、聞いていいか? 北本先生の姿って、お前が化けていたっていう事なのか?」


 絵里沙は俺が簡単に流したのが不満なのか、表情がもろに不満そうになっている。

 いや、何でそんな顔になるんだよ。じゃあ何か? 君って綺麗だよねって言えばよかったのか? この状況で? 言えるはずがないだろ!


「冗談が通じない人は嫌いです」

「マジで冗談だったのかよ…」

「えっ? 冗談だと思ってたの?」


 何だこいつ…


「まぁ、綺麗なのは認めてやるよ。事実綺麗だしな」


 俺は普通に答えたつもりだったが、絵里沙はまさかの答えにもろに動揺したのか、しどろもどろしながら口をもごもごした。

 こいつ、綺麗って言われた事が無いのか?


「絵里沙、続きを綾香君に聞かせてあげてもらえるかな?」


 野木が目を細めて、呆れた表情で絵里沙に向かって催促する。

 絵里沙もハッとした表情で「ごほん」っと咳払いをすると、何度か深呼吸をした。


「わ、話題を戻すわね。え、ええと、そう、私は魔法であの姿になっていたの」


 少し動揺が残る口ぶりで絵理沙は話をする。


「じゃあ今の姿は何なんだよ?」

「これ? これが私の本当の姿よ?」

「本当の姿…なのか?」

「そうよ…で、えっとね…あのさ、真面目に…き、綺麗だって思ってるの?」


 そう言うと絵理沙は長いきれいな髪をさっと右手でかき上げた。

 確かに綺麗だけど…綺麗なものには棘があるって言うだろ!

 綺麗だからって信用しちゃ駄目だ。こいつは俺を殺したあの北本先生なんだ。


「綺麗だけど、それだけだな」

「そ…そうなんだ?」


 絵里沙はちょっと寂しそうに俺の目を見て、次に野木の目を見た。

 野木は特段なにも反応しなかった。


「魔法使いがこの世界に素顔でいちゃ駄目なんじゃないのか? いいのかよ?」


 俺がそう言うと絵理沙はため息をついた。本当に「はぁぁぁぁ」っと深いため息をついた。


「本当は駄目だけど…でも、私は魔法界にも戻れないの…これも罰だからね…」


 ちらりと俺を見る。そうか…なるほど。


「俺を元に戻さなきゃ駄目だから、魔法世界には戻れないって事か?」

「そうよ」

「で、魔法が使えなくなったから絵理沙は本当の姿に戻った。それでその姿でこの世界にいないと駄目だし、野木の監視下に置かれる関係もあって、生徒としてこの学校に入ったのか?」

「そうね、そんな感じね。すごいじゃない。そこまで理解してるなんて」


 まぁ、俺は色々な小説なんかを読んでるし、今回の件はなんとなく想像ついたな。

 しかしまてよ? 一年として入ったって事は、絵理沙って実は本当の俺よりも年下なのか?


「絵理沙、ちょっと確認したいんだが…絵理沙は年齢いくつなんだ? 本当に十五歳なのか?」


 絵理沙はすこし考える。考えるという事は、たぶん十五歳じゃない。


「そうね…見た目は十五、六歳かな…」

「見た目…って本当は違うんだな?」

「そんなの内緒だよ。女の子に年齢を聞いちゃだめだよ」


 絵理沙は笑みを浮かべて誤魔化しやがった。

 でもな? 年齢聞いちゃだめって…それって三十歳を超えたらとかだろ? まだ若いんだし…いいなじゃないか。まさか、実は結構年齢がいってるとか? でも本来の自分の姿がそれなんだろ?

 見た目は確かに高校一年にしては大人っぽいけど、だけど大学生とかには見えない。

 まぁ、こいつの年齢なんて気にする方が間違いか。


「しかし、なんで野木の妹として入ったんだ? 普通に別人として入ればいいだろ?」


 俺がそう言うと、野木と絵里沙は顔を見合わせた。そして再び俺の方を見る。二人同時に。


「だって私は本当に野木一郎の妹だよ?」

「へぇ…」


 って? えっ?


「なっ!? な…ん…だ…と? お前がこいつの妹だと!?」


 俺は野木と絵里沙を見比べた。が、とてもじゃないが兄妹には見えない。決定的に似てない! 似てなさすぎる!

 でも、妹なんだよな? マジでか?

 ふと野木を見ると、自慢げな笑顔で俺を見ていた。


「綾香君、絵理沙が僕の妹だと何か問題でもあるのかな?」


 そう言って胸を張る野木。

 確かに、絵理沙が野木の本当の妹でも何の問題もないよな…

 しかし、こいつの笑顔が妙にむかつくのは何故だ…


「問題は…ないな」

「そうだろ?」


 くそ…なんだこいつ…いちいち感に障るような態度をとりやがって。


「ねえ…綾香ちゃん」


 俺が野木を睨んでいると、絵里沙の声が耳に入る。視線を下ろすと、絵理沙がまじめな表情で俺の方を見ていた。


「何だよ?」


 絵理沙は突然俺の顔を持つと自分の顔に近寄せた。っていうか近い!


「ちょ! 何するんだ!? や、やめろ! 俺はそんな趣味はもっていない」

「ははは…別に何もしないわよ…ただね…」


 絵理沙は俺の瞳をじっと見詰めた…俺は思わず目を逸らしてしまう。

 女の子にじっと見詰められるっていうのは、マジで照れる。相手が俺を殺した奴でも、それは同じだった。

 何かの温もりが俺の体に、そして耳もとに寄ってきた。視線だけどそちらに向けると、絵里沙の顔が俺の頬をかすめるようにスーッと耳元へと向かう。

 そして、こよばゆい感覚が耳に感じたと同時に、絵里沙の声が聞こえた。


「こんな私だけど…よろしくね…悟君…」


 俺はその言葉を聞いて何故か背筋がぞっとした。


「それじゃまたね、綾香ちゃん!」


 絵理沙は言いたい事は言い終わったのか、野木と俺を置いたままでさっさと屋上から出ていった。

 何だよあいつは!?


「綾香君」


 振り返れば野木が俺の方をじっと見ている。


「な、なんだよ」

「絵理沙は強がっているが、実はものすごく不安なはずなんだ。魔法界にも戻れず、今は人間と同じ能力しかない。何かあっても自分を守る魔法すらも使えない。だから僕のそばにおいてやりたかったんだ。兄として…君ならわかるだろ?」


 野木はすごく真面目な表情で俺に言った。

 確かに野木の言いたい事はわかる…俺も妹を守りたいと思っている。

 同じ立場ならば野木と同じような行動に出たかもしれない。


「わかった…」

「すまない…ありがとう。君には迷惑をかけているというのに…本当に申し訳ない」


 野木は俺に深々と頭を下げた。俺はこいつが本気で妹の事を考えているんだと理解した。

 こいつはちょっとムカツク態度をするけど、でも、何気に中身はまともなんじゃないのか? そんな風に思った。


「わかったから…頭を上げろよ…」


 野木は俺の言葉の通り、頭をあげた。そして俺の方をじっと見ている…


「何だよ?」

「綾香君!」

「えっ?」


 野木がいきなり両手で俺の両胸を掴みにかかった! 予想外の行動に俺は動けない。

 そして、野木の両手は、まるで俺の胸を掴む為にあるんじゃないのかっていう程にジャストサイズで俺の胸を上からむにゅんと握る。


「ひゃぁぁぁ!」

「うむ…なるほど…まだAだね」


 何だこの変態は! いきなり俺の胸を掴みやがって! あと、何がまだAだねだ!


「ちょ! 何しやがる! この変態!」


 俺は野木の両腕をおもいっきり叩き落とした。


「痛いな綾香君…いやね、七月よりも胸が少し成長したような気がしてね…それで確認したかったんだ」

「そ、そんなもんいちいち確認するんじゃねー!」

「ははは…すまないな…つい気になってね」

「気になって!? だいたい俺の中身は男だぞ? わかってるのかよ!」

「もちろん!」


 すっごい自信まんまんに言い切られた…

 何かすっげー顔が熱い。ぜったいに赤面してる! うぐぐぐぐぐ!


「こんな所を人に見られたら、あんたが困るだけだぞ? 一年生の女子に手を出した先生として、最終的には学校をクビになるぞ?」


 俺は胸を腕で完璧にガードしながら、この変態教師を脅した。


「そうだな! それは困る! 今度は人目を気にする事にしよう!」

「そ…そういう問題じゃねぇぇぇぇ!」


 変態だけじゃなくって、馬鹿だった!


「じゃあ、どういう問題なのかな?」

「俺の胸を触るなって事だよ!」


 くそぉぉ…一瞬でも妹想いのいい兄貴かと錯覚してしまった…

 こいつは前科があるんだよ。俺が油断してはいけなかったんだ!

 ああ怖い。こいつにはいつ襲われるかわからん…マジで注意しないとな…


「大丈夫だよ。責任は取るから」

「何の責任だよ!」

「………君の胸の成長を観察する責任?」

「その前に胸を触るなって言ってるんだよ!」


 真っ赤になったであろう、俺を見ながら声を殺しておなかを抱えている。

 なんというか…むっちゃムカツク!


「わ、笑うな!」

「ごめんごめん…まぁ、という事だから。それじゃあ僕も戻るから、絵理沙をよろしく」

「ちょ、ちょっと! 野木!」


 野木は振り返る事もなく屋上から出て行った。


 なんという自己中心的な兄妹だ…

 まったく…なんだよこれ! でもあれだよな…あいつが北本先生なのか…

 それにしても、すごい展開になってきたな…


 こうして俺は一番最後に屋上を後にした。

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