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ぷれしす  作者: みずきなな
前途多難な超展開な現実
154/173

153 俺の望む世界とは? 前編

 マンションを後にした俺は、人通りの少ない商店街へとやってきた。

 この商店街はシャッターが閉まっている店が多く、とてもじゃないが繁盛しているとは言えない。

 しかし、駅だけは立派で、最近になり建替えられてたりする。

 俺はそのまま駅の連絡通路を歩き、商店街とは反対に出た。

 商店街の反対は区画整理された住宅街だ。

 とは言っても、まだ空き地も多く家は少ない。


 そのままとぼとぼと一人で高校へと向かった。

 ふと思い出す輝星花の顔。

 記憶がないにしても俺は輝星花と出会う事ができた。

 そうなれば、絵理沙だってこの世界に存在している可能性がある。

 いや、あいつらは双子だ。絶対に存在している


 絵理沙は俺をこの世界に連れてきた本人だ。

 あいつを見つければきっと何かがわかる。

 なんでこの世界に俺は飛ばされる必要があったのかがわかるはずなんだ。


 考えながら歩いていると、いつの間にか学校の校門まで辿りついていた。

 俺は体育をやっている生徒を横目に普通に下駄箱へと進む。

 そして下駄箱で上履きへ履き替えた時だった。誰かの視線に気がついた。


「絵理沙!?」


 思わず叫びながら横を向けば、そこに立っていたのは越谷茜だった。


「せ、先輩? なんで学校に?」


 少し頬を桜色に染めた茜ちゃんが俺を見ながらもじもじしている。

 こんな茜ちゃんは見た事がない。

 そう、まるでこれは俺を好きみたいな感じだ。

 いや待て、そうだった。この世界の茜ちゃんはすでに俺に告白をして返事待ちだった。

 って事は必然的に俺に恋しているって事だ。


「いや、ちょっと用事があって」


 でも俺はそんな事は意識せずに返事をした。


「そうなんですか? あの、用事ってなんですか?」


 少し残念そうにトーンが下がる。

 しかし、綾香になっていたときとは違う、女の子らしい口調の茜ちゃん。

 本当に女の子は恋をすると変るものなんだと実感してしまった。

 まぁ俺も女になっていた時は男に対して色々とやらかしていたんだけど。


「まぁ、色々あってな。でも、茜ちゃん、授業中じゃないのか?」

「!?」


 茜ちゃんの顔が一気に真っ赤になった。まるでゆでだこだ。


「茜ちゃん? どうしたんだ? 気分でも悪くなったのか?」

「い、いえ、せ、せんぱぱぱ……わ、、わた、わ」


 かなり動揺しているみたいだ。口調までおかしい。

 いきなりこんなに急変するなんて、理由がさっぱりわからない。

 と思っていた俺はバカだった。


「な、名前で呼んでくれて……私、うれしいです……すごくうれしいです」


 しまったと思った時は遅かった。

 そう、ここで俺はやっと理解した。

 俺は綾香になっていた時の感覚で茜ちゃんを名前で呼んでいたのだ。

 そりゃ意識している異性に名前で呼ばれたら動揺もする。

 しくじった。俺は茜ちゃんにどう思われてしまったんだろう?


 嬉し涙すら見える茜ちゃんに、いまさらいい訳など通用する訳もない。

 それよりもいい訳してもいい状況じゃない。

 本気で俺ってダメすぎだってこんな所で理解してしまった。

 今更になって苗字でなんて呼べないし。どうするこれ?


「え、えっと、あれなんだ。俺さ、ちょっとだけ考えを改めようと思っててね」


 結局は後先も考えずに話しを始める俺。

 だけど、ここをどうにかしないと特別実験室には行けない。


「考えを改めるって? どういう意味ですか?」


 少しの不安と期待が入り混じった表情の茜ちゃん。

 ここの返事次第で俺は茜ちゃんとカップルにすらなれる状況だ。

 いや、ならないよ? ならないけどさ。……やばい。なんて答えよう。


「えっと? もしかして返事をもらえるんですか?」


 やっぱりそうなる? そう期待する?

 困った、ここで返事なんてできない。でも何かを言わないといけない。

 しかし、まさかここで茜ちゃんに出会うとは……。


 ここで気がついた。

 そう、やっぱり茜ちゃんも俺が男として存在している事に違和感を感じていない。

 元の俺のいた世界では男の俺は行方不明になっていたはず。

 だけど、ここではやっぱり俺は行方不明になっていないんだ。

 そりゃそうか。告白されているんだし。


「先輩?」


 早く返事しなきゃ。俺は何を考えなおすんだ?

 何を……何をねぇ……。

 できれば人生を考えなおしたいよ。


「…………」

「……………」


 シーンとなった下駄箱に男女が二人。

 どう見てもこれは告白&返事まちシーンだ。

 きっとこれを目撃すれば二人には近寄ろうなんて思わない。

 そんな空気の中で俺が困り果てていると。


「あら? 三年生が何の用事かしら?」


 女性の声。

 俺が声の方を向けば、そこには先生らしき女性が立っていた。

 茜ちゃんはかなり動揺しているのか表情がこわばっている。

 そして、俺はと言えば、その先生らしき女性を見てから別の意味で動揺した。


【か、和実?】


 声には出さなかったが心の中で叫んだ。

 そう、その先生らしき女性はどう見ても和実だった。

 しかし、俺の知っている和実とは違った。若干だけど大人になっている感じがする。


「あら? あなたは一年の越谷さんね? まだ授業中よ? ここで何をしてたのかな?」

「は、はい! ちょっと先生に頼まれて!」

「だったら頼まれ事をきちんと処理しなきゃダメでしょ? 早く行きなさい」

「あ、はい……すみません……」


 茜ちゃんは後ろ髪を引かれるような表情でちらりとこちらを見て、その後、小走りで立ち去って行った。

 そして俺は和実と二人きりになった。


「で、貴方は何をしに学校に?」


 和実も俺の事を覚えてないのだろうか?

 この世界の和実は向こうの世界の和実とはだいぶ違うみたいだし。

 だいたいあいつは前の世界だと生徒だった。なのにこの世界だと先生になっている。


「いえ、ちょっと用事がありまして」

「用事ねぇ? で、どこに用事なの?」


 ここは話すべきか?

 だけど話さない理由もない。やましい事だってない。


「特別実験室です」

「特別実験室?」

「そうです」


 この羽入和実という女性。こいつも魔法使いのはず。

 いや、俺の知っている世界では魔法使いだったはずだけどこの世界じゃわからない。

 あっちで男になってた輝星花がこっちだと女のままなんだし。

 だけど、俺と関わっていた奴だ。


「そっか、まぁいいか。丁度鍵も持ってるし、一緒に行こうか」

「鍵? あそこって鍵がかかるんですか?」

「そうよ? だって特別実験室は色々な薬品も置いてあるのよ? 鍵くらい閉めるでしょ?」


 おかしい。昨日は鍵なんてかかってなかった。

 だけど常識的には和実の言う事に何の間違いもない。

 危険物のある部屋に鍵は必須だ。


「そうですね」

「じゃあ、行こうか」


 くるりと方向転換をして廊下を進もうとした和実に思わず声をかけた。


「いや、やっぱり今日じゃなくってもいいです」


 特別実験室に行きたいのは事実だった。

 しかし、行ってもそこでやるのは絵理沙がこの世界にいる形跡がないかを調べる事だけだ。

 再び用事を聞かれた時、そんな理由を今の和実に話せる訳がない。


「何よ? 用事があるんでしょ? 行くわよ?」

「えっ」


 和実が俺の手をいきなり握ってきた。


「ちょ、ちょっと待って!」

「いいから! 先生の言う事を聞きなさい!」


 そして再び歩き出した。


「あの、手! 手を放してくださいよ!」

「なぁに? はずかしいのかな? ふふふ」

「いや、だから、引っ張らなくっても行きますから」


 こうしてやっと手を放して貰った。

 まったく、誰かに見られたらどうするんだ? また変な誤解を生むだろう。


☆★☆


【特別実験室】


 野木一郎が先生だった時には殆どいつもここにいた。

 そして俺が死んだのもここだった。

 正雄にばれたのもここ。

 この世界に飛ばされたのもここ。

 色々な事がいっぱい起こった教室。

 そんな教室に俺は和実と二人きりになっていた。


「で、ここに何の用事なの?」


 やっぱりそう聞かれるとは思っていた。

 しかし、どう答えれば良いのかわからない。

 和実がこの世界でも魔法使いなのかわからないし、輝星花や絵理沙と面識があるのかもわからない。


「姫宮くん?」

「あ、はい」


 うまい答えを懸命に探す。

 しかしやっぱり浮かんでなんてこなかった。


「いや……」


 和実がいるのに絵理沙を探す手掛かりを捜索する訳にもゆかない。

 どうすればいいんだ? どうしようもないんじゃないのか?

 ここはもう用事は終わったって事にして帰るしか……。なんて考えていた時。


「ねぇ悟くん? あなたはもしかして絵理沙を探しに来たの?」


 まさかの言葉に口をぽかんと開けてしまった。


「せ、先生?」

「ふふふ、他人行儀な呼び名はやめていいよ。だって私は羽生和実なんだから。そう、あなたの知っている魔法使い」

「え、えっと? あれ?」


 俺を知っている奴がいた。って、この世界に俺を知っている奴がいたのか!?


「絵理沙と輝星花にだって面識もある。あなたの事だってちゃんとわかる」

「ほ、本当にか!?」


 表情は嘘をついていないように見える。


「なんで私が嘘をつかなきゃいけないの?」

「いや、ええと、なんて言うか、今まで俺と出会う人間は……って待って! 和実は覚えているのか? 俺が綾香になっていた事を! 飛行機事故の事を!」


 和実はにこりと微笑んだ。


「当たり前でしょ? 覚えてるわよ? でも、それはとても不思議な記憶としてだけど」

「とても不思議な記憶?」


 和実が俺にソファーに座るように促した。

 その指示に従うように俺は和実とは対面のソファーへ座る。

 じっと俺を見る和実。まったく躊躇なく俺の瞳をじっと見る和実。

 あまりにも見られているので思わず視線を下げると、次にぽんっと手を打つ音が聞こえた。

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