015 琥珀色の瞳の転校生
始業式の日は学校が早く終わる。
昼間でにはすべてが終わり、俺はこの緊張の空間から解き放たれる。
そして、もう二時限目のHR。
早く終わらねぇかな…もう今日は疲れたし…もう戻りたい…
しかし…マジで本当に疲れた…
そんな事を本気で考えながら机に突っ伏せていると、ガラガラと教室の扉を開ける音が聞こえた。
顔を上げると担任の先生と一緒に女の子が入って来たじゃないか。
誰だあの子は? 見た事がない子だ。
「ホームルームを始めますよ? えーと、まず始めにこのクラスに新しく入る、皆さんの新しいお友達を紹介しますね~」
この時期に転校生だと? 一年のそれも二学期に?
「初めまして、名前は野木絵理沙と申します。両親の仕事の関係で中学三年までアメリカに住んでいました。ですが、高校からは日本で学びたいと思っていたので、今回この学校に入学する事になりました」
絵理沙の自己紹介にクラス中が響めいていた。
帰国子女だと? 珍しいな…そんな子がうちの学校に入ったのか?
しかし、この野木絵理沙という子はハーフなのかのだろうか?
髪は茶色だし、瞳もよく見れば琥珀色だ。 しかし、肌は色白で身長は165センチくらいあるか?
半分は日本人だが、髪の色と透き通るような琥珀色の瞳は日本人離れしていた。
「すっごいスタイルいいねぇ…」
近くの席の女子が溜息混じりにそう言い放った。
確かに、転校生はスタイル抜群で、女子生徒の言う通りだ。マジで日本人っぽさがない。
海外にいたって言ってたけど、モデルでもやってたのか? なんて思ってしまうレベルだった。
「えっと…名前からわかるかもしれませんが、私は科学の野木先生の妹です」
今度はクラス中に驚きの声があがる。流石に俺もその一言には驚いた。
ちょっと待てよ? まさかと思ってたけど何だそれ? 野木の妹だと? 妹って事は…じゃあこの子も魔法使いなのか?
琥珀色の美少女は話しを続ける。
「よく聞かれますが、私はこう見えても純粋な日本人です。海外でモデルの仕事なんかもしてません」
なっ? まるで俺の考えを読み取ったみたいな答えすぎるだろ? でもまぁ…それは考えすぎか。
「皆さん、日本に不慣れな私ですがよろしくおねがいします」
そして、野木絵理沙の自己紹介が終わった。
「えーと…じゃあ…席ね…そうね、姫宮さんの隣りでいいかな」
俺の隣だって? 確かに右隣りの席があいてるけど…って、何で空いてるんだ? こんなど真ん中の席が空席? 不自然すぎるだろ!
なんて思っているのは俺だけみたいだ。クラスのみんなは何も感じていない様子だ。
「はい、わかりました」
絵理沙は笑顔で俺の横まで歩いて来た。俺はそんな絵理沙をじっと見詰める。
鞄を机の横に掛けると、こちらを向く絵理沙。琥珀色の瞳が本当に綺麗だ。そしてニコリと微笑んだ。
「よろしくね、姫宮さん」
「あ、はい、よろしくお願いします」
この子が野木の妹だと? 本当にか?
俺が絵理沙を見ていると、絵理沙は笑顔で俺の机の上を指さした。
指をさされた机の上の隅っこには、知らない間に小さな紙が置いてあるじゃないか。
あれ? なんだこの机の上の紙は? もしかしてさっき挨拶したときにこいつが置いたのか?
俺は絵理沙の顔を見ながら、その紙を摘んでちらちらと見せた。
絵理沙は一度頷くと満面の笑みを浮かべた。どうやら絵理沙が置いたようだ。
俺はゆっくりとその紙を開いた。すると中にはこう書いてある。
『姫宮綾香さんへ』
『今日の放課後屋上で待ってますね。 絵理沙』
俺は何度かその手紙を読み直した。が、僅か二行の手紙を読み間違うはずがない。
そう、こいつは俺を屋上へ呼び出したのだ。
まて…なんで? 屋上? まさかこの子が俺に告白? いや違うだろ? 初対面だぞ? 初対面だよな? 多分そうだよな?
しかし、俺はなぜかこいつと初めて出会う感じがしなかった。出会った事なんて記憶の片隅にも無いのに。
しかし、まて…なんでこの子は俺のフルネームを知ってるんだ?
そう、手紙には俺の、いや綾香のフルネームが書いてあった。
ああ、そうか! 野木か! あいつから聞いたのか! だから知ってるのか! という事は…俺の秘密も知ってるっていう事か?
いやしかし、妹だからって知られてもいい事なのか?
………まてよ…本当に野木の妹かわからないぞ?
俺はじっと絵理沙を見る。何度俺が見ても絵理沙はニコリと微笑み返す。俺は思わず顔を逸らした…
こ、こんな綺麗な子があいつの妹なはずがない! 似てないし!
ま、まあ…仕方ないな…放課後にこいつに直接聞けばわかるか。
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やっと終わった…これで帰れる…っと思ったけど帰れないんだった。屋上に行かないと…
そう思っていると後ろから声が聞こえる。振り返るとそこには佳奈ちゃんがいた。
「綾香! 一緒に帰らない?」
佳奈ちゃんは俺に一緒に帰ろうって誘ってくれている。でも、
「ごめんなさい。ちょっと用事があって…」
という事なんだよな…本当にごめん。
「えーそうなの? 残念っ! いっしょに買い物でもいこうかと思ったのに~」
なんて言いつつ、佳奈ちゃんは速攻で帰って行った。なんて諦めの早い子なんだろう…
そう言えば茜ちゃんは?
教室を見渡したが茜ちゃんの姿はなかった。
もう帰っちゃったのかな…茜ちゃん。
俺に挨拶もないなんて…どうしちゃったんだろう?
俺は鞄を教室に残して屋上へと急いで上がった。
屋上なんか滅多に出た事はない。それにしても何故に屋上なのだろうか?
そんな疑問を抱きつつも、屋上へと出る鋼鉄製のドアをあける。すると、そこには絵理沙の姿があった。
「ごめんね野木さん、遅くなっちゃって…」
「ううん、大丈夫よ、私も今さっき来た所だから」
またあの笑顔で返されてしまった…くっ。
「で? 私に何の用事ですか?」
「えっとね…私ね、綾香ちゃんに確認したい事があって…」
確認…って何ろう…変な事じゃないよな…
「確認って何ですか?」
「うん…えっとね? 綾香ちゃんってさ…」
綾香ちゃんって…俺の中に緊張が走る…心臓がいつの間にかドキドキと激しく脈を打っている。
「食べ物は何が好きかな?」
ドテ…って心の中でこけた。マジで拍子抜けの質問すぎた…
「た、食べ物? って…そんな事を聞くためにわざわざ屋上に?」
「え? 悪かったかな?」
悪くはないけど、一体何の意味があってそんな質問を?
「い、いや…悪くないよ? えっと、私は…そうね…ラーメンとか好きかな」
あ、しまった! 思わず俺が素で好きなものを言ってしまった。
「へ~悟君はラーメンが好きなんだ?」
「うん、私はラーメンが好きだよ……えっ!?」
ニコリと微笑む絵理沙。
確かに今、こいつは俺に向かって悟君って言った…
じゃあこいつは…やっぱり俺の素性を知ってるのか?
俺はゴクリと唾を飲む。喉はからからになって手に平には汗。
くそ…なんだよ? こいつは何者なんだよ? 野木と同じで魔法管理局の魔法使いなのか?
…ぐううううう! 野木ぃぃぃぃ! 何がどうなってんだよ!
「心の中で僕の名前を叫ばないでくれるかな?」
「なっ!?」
俺が慌てて振り返るとそこには野木の姿があった。
「な、何でここに野木が?」
「理由が必要かい?」
「必要だ!」
「あははは! じゃあ、君に逢いに来たという事でどうだい?」
なんてキザな…って言うか…くそぉぉぉ! ふざけやがって!
「野木! これどういう事だよ! こいつは何者なんだよ!」
二人の野木は大笑いしている…
「あははは…おもしろいな悟君は、じゃないや綾香ちゃんか」
野木が俺の頭をなでなでする。
「やめろ!」
「何でだい? こんなに可愛いのに」
「か、可愛いとか言うな!」
絵理沙がひいひいとお腹を抱えて笑っている。
なんだこの二人は! 正直かなりむかつく!
「おい、これはどういう事なんだ? ちゃんと説明してくれよ!」
俺が怒鳴ると、絵理沙は笑うのをやめて俺の横にきた。
「な、何だよ?」
そして、絵理沙は俺の耳元でそっと囁いた。
「私よ…北本恵理よ」
「き、き、北本!? 先生!?」
俺は絵理沙を見る。どう見てもあの北本先生じゃない。赤の他人だ。まったくもって全てが違う。
「し~! 声が大きい。これからは小さい声でお願いね。流石にばれるとやばいのよね」
「………っ」
「何、その目は? 疑ってるの?」
「……どう見ても…違うじゃないか」
「ああ、そうね? うん。違うわよ? でも、本当に私は北本絵里よ?」
北本先生だと言い張る絵理沙。ホントにこいつがあの北本恵理なのか?
「信じられない…マジか?」
「マジよ? ああ、そうね。こうなった経緯はちゃんと話してあげるから。だからそこの物陰にいこうか」
そして、俺は素直に絵理沙の後をついて行った。




