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ぷれしす  作者: みずきなな
前途多難な超展開な現実
144/173

143 壮大なるフェイクと真実

「……」


 ゆっくりと瞼を開いた。

 どこかで見たような天井が正面に見える。ってこれはまさか俺の部屋?

 それは見慣れた天井と言うよりも、見なれすぎた天井だった。


「どうしてここに?」


 そう、俺の記憶が正しければ、俺は魔法世界に連れて行かれて和実が暴走して魔法を使って輝星花を殺した……

 いや? 和実は最後は暴走してなかった?

 だけど、魔法世界にいたのは確かだった。いや、そんな気がするんだけど?

 あんなにはっきりした夢なんてあるはずない。だけど……


「まさかここで夢オチとかないよな?」


 ぺたぺたと色々な部位を自分で触ってみる。

 すると夢落ちではないのだけは確認ができた。

 そう、俺の体は綾香になっていたからだ。

 しかし、記憶にあった血まみれになった手も、血まみれになった服も痕跡すらない。今の俺はパジャマ姿になってベッドに寝ていたのだ。


 そうだっ!


 肩を確認した。だが、触っても痛くない。

 確か和実に攻撃されて怪我したような気がするのに、痛みも跡もまったくない。


「うーん……何がどうなったんだ?」


 俺はベッドから跳ね起きると鏡を手に取った。

 そして、鏡に映っていたのはやっぱり綾香だった。


 俺はパジャマを躊躇なく脱ぐ。

 見慣れた綾香の裸体が視界に入る。

 少し夏休みよりもふくよかになった乳房に、少し女の子っぽいラインになった腰。これは間違いなく綾香だけど俺の体だ。

 うん、ホクロもない。

 俺は念を入れてもういちど体を確認した。でも、やっぱり体に傷も跡もない。


 どうなってんだ? マジ……


「そうだ、輝星花は? 輝星花はどうしたんだ? あいつ、確か口から血を出して倒れてたよな?」


 だけど確認のしようがない。それどころか、夢じゃないって理解はできているのに、あれが現実だったのかすらあやふやだ。


「まさか、俺は魔法で夢を見せられていたのか? 実は俺はかなり前から夢を見ていたのか?」


 だけど、それだったらなんで綾香になっているのかの説明がつかない。

 やっぱりあの出来事は現実だったんだ。

 だけど、それなら何で俺は人間世界に戻ってる?

 やばい、脳内混乱状態で考えがまったくまとまらない。


 ここである事に気がついた。まったくもってさっきまでの思考とは関係のない事。

 それは、俺の部屋だと勝手に思い込んでいたこの部屋。よく考えればここは綾香の部屋だ。

 綾香の部屋で長く生活してたせいで、この天井は俺の部屋の天井だって思い込んでしまっていたらしい。


「何で俺が綾香の部屋で寝てるんだ? まったく理解できないだろこれ……どんなミステリーなんだよ」


 すると【カチャ】っと部屋の扉が開いた。

 俺は思わずパジャマで胸を隠す。


「あっ! やっと起きたんだね、お兄ちゃん」


 そして部屋に入ってきた人物を見て俺は驚愕してしまう。


「お、お兄ちゃん? って……」


 部屋に入ってきたのは【栗橋・サンライト・南】だった。

 そう、俺が変身していたはずの女だ。その南が目の前にいる。


 な、なんで南が? 俺じゃないよな? じゃあ誰だよ?


「な、何? いきなり上半身裸で何してるの?」


 南は俺を知っているのか、普通に話しかけてくる。


「お、お前、誰だよ?」

「私? えー? 私の事を忘れたの?」

「み、南? 栗橋・サンライト・南だよな?」

「うん! 見た目はね!」

「じゃ、じゃあ中身は誰なんだよ? 輝星花か? 絵理沙か? それとも綾香なのか? それとも……和実なのか?」


 南の頬肉がびくんと動いた。


「それはそうと、私は思ったんだけど、やっぱりこの姿って目立つね~」

「答えろよ? お前は誰だよ?」

「誰って? じゃあ考えてみて」

「何を?」

「ヒント、この世界には同じ人物は存在していません」

「???」


 なんだ? どういう意味だ?


「ヒント2、私はお兄ちゃんが綾香の姿になっても驚いてません」

「あっ!」


 ここでピンときた。ヒントでピンときたのではない。そう、俺をお兄ちゃんと呼ぶ人物は一人しかいないからだ。

 そうだ、こいつは……


「お前、綾香なのか?」

「うん! 綾香だよ!」


 即答だった。


「だ、だけどなんでそんな格好?」


 南が綾香で綾香が俺ってどういう事だか意味かわかんねぇ。

 どっかの小説タイトルみたいな感じだけど、事実そうなってるんだよな? って言うか……


「この胸って……すごいね……」


 自分の胸を抱えあげる南(綾香)。

 やっぱりすっげー違和感がある! 綾香が南とかありえない! って言うよりも元自分の姿が目の前にあるっておかしい!


「大分混乱している様子だね、悟君」

「あ、一郎さんお帰りなさい!」


 部屋に突如として入ってきた男性を見て俺の心臓は爆発しそうに鼓動を早めた。

 動揺? そう、これは動揺だ。すっげー動揺してるよ俺。


「お、お前……」


 そして涙腺がまた緩んだ。

 ここは驚くシーンなのに、それ以上になんかすごく嬉しくなってしまった。


「生きてたのかよ……」

「ああ……僕の想定外だけど生きてるよ」

「……くそ馬鹿が」


 綾香(南の姿)の後から現れたのは、赤髪に緋色の瞳をしたイケメン男子だった。

 そう、その男子はどう見てもイケメンだった。

 どう見ても日本人に見えない。きっとモテるだろうって感じの男子だった。

 そして、こいつは俺が魔法世界からこちらの世界に連れてこようとした人間だ。


「うん、いろいろごめん……」


 そう、そいつは輝星花だった。元魔法使いの人間で、俺の……俺のなんなんだろ?。


「マジで焦ったんだからな……」

「うん、そうだよね。本当にごめん」

「でも……よかった」

「あはは……それにしても、涙ながらに喜ばれるとちょっと恥ずかしくなるんだfが」

「馬鹿! お前のせいだろ! お前が悪いんだろうが!」

「うん……そうだね」


 私服姿の輝星花はゆっくりと俺に近寄ってくると両手を広げた。

 なんだかそのへ飛び込んでしまいたくなる衝動。

 こみ上げる熱。そして緊張。


「はいはい、感動の再開おめでとうございました。うん!」


 と、ここで今にも輝星花の胸に飛び込みそうな俺を止めたのは綾香だった。

 綾香は俺を少し睨むと、次に輝星花を笑顔のまま見据えた。


「綾香君? 僕の熱い抱擁を邪魔するのかな?」

「そうですね、兄から一郎さんはスケベだと聞いてます。抱き着いてベタベタと触られると困ります」

「まって欲しい。僕はスケベではない。だいたい僕は元は女性だぞ? それに、抱擁とはスキンシップだ。僕は悟君とスキンシップを取りたいだけなんだ」


 綾香がぎゅっと俺を抱いた。

 元の俺である南の豊満な胸が俺の顔にあたるあたる!


「一郎さん。今の兄は例え別人だとしても、容姿は私の姿なんです。そんな自分そっくりの女の子が、元が女性であっても、今は男性の一郎さんに抱かれるのを見てうれしいと思いますか?」


 なるほど、正論だった。

 確かに、だれかが男の俺に変身して、そして女といちゃいちゃしていたら……うらやましい! じゃない! いや……なのか?


 と、ともあれ綾香の言い分は正しいと思う。


「なるほど……では悟君を別の人間に変身させればOKと?」

「それでも嫌です」

「なっ!? 君は見た目以上に我儘だね」


 綾香がそっと俺の耳もとでささやいた。


「お兄ちゃんには茜ちゃんがいるんだから……ダメだからね?」

「えっ?」


 綾香の顔は真剣だった。

 そう、綾香は俺と輝星花がひっつくのが嫌だったのだ。


「お兄ちゃんは男性に戻って茜ちゃんと付き合うんだよ? わかった?」

「え、えっと……」


 素直にうんと言えなかった。

 それは、たぶんだけど俺の心の中での恋愛順位がかなり入れ替わってしまっているからだろう。

 じゃあ、俺はいったい誰が好きなのか?

 とっさに浮かんだのは何故だろう? 絵理沙だった。

 輝星花よりも絵理沙の方が頭に浮かんだ。


 あ、あれ? なんで?


「一郎さん、兄が着替えますので出て行ってください」

「別に気にしなくていい。僕は元は女だ」

「だけど、今は男です! うちの両親が変に思うじゃないですか!」


 そ、そうだ! なんで輝星花はここにいるんだ?


「綾香、なんで輝星花がここに?」

「えっ? ええと、それは……」

「それは、僕が君の家にホームステイをしているからだよ」


 ホームステイだと!?


「いやいや、ホームステイってどういう意味だよ?」

「お兄ちゃんごめん……私と一郎さんはこのお家にホームステイしてるって設定なの」

「いや、南は確かにホームステイ設定だったぞ? でも輝星花は意味わかんねぇ! あと、設定とか言うな!」

「僕は行く所がない。だから、綾香君が特別に許可してくれたのさ」

「あ、綾香が?」

「お兄ちゃんが魔法世界に行っている間に……そういう準備をしておいたの」

「な、なんだって?」


 なんという展開だろう。と言う事は綾香は俺が魔法世界へ輝星花を助けに行くという事実を知っていたのか?

 となると、俺が魔法世界に行っていたのも事実。

 そうだ、輝星花が目の前にいるんだ。それも今更じゃないか。


「そういや輝星花、お前は何で死んでない?」

「ん?」


 あの病院で確かに輝星花は吐血して倒れた。


「お前は魔法を使って吐血したよな?」

「ああ、それか。確かにもう少しで死にそうになったよ」

「じゃあ、どうして助かったんだ?」

「それは助けて貰ったからだよ」

「誰に?」

「そんなの一人しかいないだろ?」

「一人しか……」


 となると、羽生和実か?


「そうだよ、羽生和実だよ」


 やっぱり……


「だけど、和実はお前を殺そうとしてたんじゃないのか?」

「ああ、そうだね……和実は僕を殺すフリをした」

「殺すフリ?」

「そうだ。だけど僕は和実が本気だと思い、自分で魔法を使って本当に死になったんだよ」

「いやいや、それってどういう事なんだ?」

「そうだね、あの救出劇は羽生和実の壮大なる【フェイク】だったのさ」

「フェ、フェイク? 嘘だったのか? でもお前は助かった訳だし、えっ?」


 なんかきつねに化かされている気分だ。

 マジで意味がよくわかってねぇ。


「ともあれ悟君が目覚めてよかった」

「……なんかスッキリしないんだけど?」

「では、快気祝いに説明をしてあげるよ。いいかい?」

「何が快気祝いだよ。そんなのいいから話せよ」


 そして、輝星花は笑顔を浮かべた後に説明を始めた。

 本当の【輝星花救出作戦】の真実を。


「和実……すげぇなあいつ……だけど、俺はあいつの攻撃魔法を食らったし、痛かった。なんで俺をいじめたんだよ?」

「敵を欺くにはまず味方からって言うじゃないか。君を攻撃すれば僕だって和実が本気だと思う。僕は和実が攻撃魔法を使える事実を知っていたんだからね」

「じゃあ、お前が俺を守ろうとしたのが想定外だったのか?」

「そうだね。本当は君を気絶させて、そして僕も気絶させようと思っていたんだと思うよ」

「なるほどな……」


 そうか、確か俺は輝星花が倒れた時にあいつに気絶させられた。

 それに、あの時の和実は本当に焦って泣いてたよな。


「そうそう、絵理沙ももちろん騙されていた」

「絵理沙も?」

「ああ、絵理沙もだ」


 まぁ、本当の事を誌っていたらあのトイレ事件は起こってなかったろうしな。


「そうだ。和実は今はどこにいるんだ?」

「普通にこっちの世界にいるよ」


 と、ここで和実の壮大なる計画を説明しておこう。


 実は輝星花を利用した世界間実験は魔法世界でも大きな問題として取り上げられていた。

 魔法検察局という特殊な部門がその実験を実行している組織を摘発する予定だった。

 あの絵理沙が説明してくれた【物語】は、魔法世界では実は数件の過去事例があり、絵理沙と輝星花だけの問題ではなかったらしい。

 人間と魔法使いとの恋は普段から発生していたのだ。

 そして、結婚をしていなくとも、恋人関係にならなくとも、それでも肉体関係委をもってしまう場合だってある。

 結果、今まで絵理沙と輝星花だけではなく、人間と魔法使いとの間に生まれた別の魔法使いでも実験はされていたのだ。


 そう、羽入和実も実験体だった。

 羽入和実の場合は、双子で生まれた、人間世界で生まれるはずだったもう一人の姉妹を幼い頃に亡くしていた。

 そして双子の片割れが死んだ結果、和実は実験体としての価値はなくなった。

 だけど少しでも秘密を知っている和実を自由にするはずがない。

 結局、和実は輝星花のお世話係も兼ねて寮で一緒に生活していたのだ。

 和実の姉妹はどうして死んでしまったのかはわからない。

 和実は決してそれを話そうとしないらしい。

 だけど、きっと実験で亡くなったのだろう。どんな実験かは知らないけれど。

 でなければ寿命もほぼ同じ人間の片方が死ぬなんてありえない。と俺は思う。


 あと、飛行機事故。

 綾香の乗っていた飛行機事故だ。

 あの事故に関わったのもその実験阻組織だったらしい。

 まぁそれは後の調査でわかった事なのだが、魔法実験を行っていた組織は、実験体の不足を補う為に人間世界から人を誘拐したのだ。

 そして、強制的に施設の魔法使いと子づくりをさせようとしていた……最低すぎるだろ。


 綾香はなぜ助かったのか? それは実験組織の内部からの裏切りがあったから。

 綾香を連れて一人の人間が実験組織を裏切ったからだ。

 だからこそ、今回の作戦が実行に移されたのだ。

 だけど、綾香以外の行方不明だった人間はどうなったのだろう?

 そこまで俺には話をしてくれなかった。


 そんな狂った実験をしていた組織は魔法検察局に摘発される事になった。

 魔法検察局は魔法管理局とは違う別の組織。その実験組織をつぶす為に設立された組織だ。

 なぜ別の組織をつくったのか?

 それは、魔法管理局が実験を行っていた組織と裏で繋がっていたからだ。


 どうしてここまで機密っぽい情報を俺に教えてくれるのか理解できない。

 だけど、輝星花は事細かく俺と、そして綾香に教えてくれた。


 そして、実験組織は検察局の摘発情報を嗅ぎつけ、一時的に輝星花や誘拐した人間なんかを実験施設から息のかかった病院へと移動させた。

 あの病院には、他の実験体も、誘拐された人間もいたみたいだ。


 羽生和実は魔法管理局の魔法使いだ。

 そう、裏切った魔法つかい。それは羽生和実だった。

 俺の妹を助けてくれたのは羽生和実だったのだ。

 だけど、それは内密、秘密であり、絵理沙も輝星花も知らなかった。


 そして、今回の作戦がどうして行われたのか?

 それは、魔法管理局は表では魔法世界の機関である。

 こちらでいえば警察組織だ。つぶそうと思っても簡単にはつぶせない。

 そして、裏で実験組織とつながっているが、すべてがではない。一部の上層部がつながっているのだ。

 よって、魔法管理局は、魔法実験組織が壊滅しそうになったとしても、表面上の手助けはできないのだ。


 だから魔法管理局はあの病院を【破壊】した。

 秘密裡に設立した魔法検察局が、魔法実験組織が内部分裂をしたように見せかけて【魔法世界から魔法実験組織をすべて亡き者にした】のだ。


 結果どうなったのか?

 あの病院はもちろん壊滅。すべては塵と化した。


 魔法実験をしていた魔法使いを抹消する事はむごいと思うかもしれないが、すべては焼失した。魔法世界からロストさせられたのだ。

 そして、魔法施設(病院)にいた誘拐された人間たちは、記憶を操作されたのち人間世界へと戻った。


 そして、内部で裏切り、自殺した大魔法使いとされたのは……


 裏切者【羽生和実】


 その大役を務めた【羽生和実】は自爆して死んだ事になっているらしい。

 そして、この世界に潜り込んでいるらしい。


 纏めよう。

 この作戦は俺を巻き込み、絵理沙や輝星花を巻き込み、そして和実を含めた多くの魔法使いをも巻き込んだすごい作戦だったのだ。


 そして、今さらだが羽生和実は俺たちを騙していた。


 でも……そのせいであいつは魔法世界を捨てる事になった。

 それくらいの覚悟を決めて今回の作戦の実行役になったのだろうか。


「そういやお前は? 輝星花は魔法世界ではどういう扱いなんだ?」

「僕も魔法世界で死んだ事になっているよ」

「じゃあ絵理沙は?」

「あの子は……そうだね、まだ魔法世界に……うん、いるかな」


 輝星花の表情が曇った。

 いったい何があったんだろう? 何かあったような表情だ。


「輝星花、何があったんだよ? 俺に何か隠していないか?」

「な、なんだい? 僕が君に何を隠す?」

「その表情。少し右斜め下を見ながら口に手をあてる仕草。それって嘘をついてる時によく出てるぞ?」

「なっ?」


 驚く輝星花の横で綾香が南の姿で俺をキリっと睨んだ気がする。


「なんだよ? 教えろよ。何かあるんだろ?」


 そして……俺は知る。

 頭を抱えてしまうくらいにショックな言葉を聞いてしまう。

 それは俺の未来を、将来を、そして綾香の未来すら変えてしまう可能性すらある真実だった。


「ごめん……いつか話そうとは思っていたんだ」


 そして俺は床にへたり込んだ。


「どういう事だよ?」

「さっきも言ったじゃないか。絵理沙は……魔法検察局の人間に記憶操作をされたんだ」

「嘘だ……」

「絵理沙は君の事も、僕の事も、事件に関わる記憶を操作され、予想ではここ数か月の記憶のすべてが書き換えられた」


 悲しみと怒りがこみあげてくる。


「じゃ、じゃあ俺の事を忘れたのか! あいつは!」

「そうだね、それは間違いないだろう」

「じゃあ、なんで俺や綾香やお前は記憶があるんだよ! 和実はどうなってんだよ!」

「僕はカウンターマジックの効果が継続していたから記憶は消えてなかった。そして綾香くんは関わっている事実を知らされていないから大丈夫。あと、君は魔法解除のクスリの効果で魔法をうけつけなかった。そして和実はこの世界に一生住む条件で消されてはいない」

「じゃ、じゃあ、俺は? 絵理沙の記憶が操作されたって事は、俺は元の姿に戻れないのか?」


 絵理沙が魔法を使わないと俺は元に戻れない。

 あいつが魔法を使えなきゃ俺はずっとこのままって事になる。

 いくら今は魔法の薬で定期的に男に戻れるとしても、そんなのをずっと繰り返すなんてできるはずない。


 輝星花は黙っていた。

 綾香も黙っていた。


 そして俺は悟った。

 そう、俺は……


「大丈夫、絶対に戻れるよ」


 綾香が声を絞りだす。


「絶対にお兄ちゃんは元に戻る……私はあきらめないから……」


 ぐっとこぶしを握り、綾香は俺に向かって言い切ってくれた。

 輝星花はそんな綾香と俺を、険しい表情のまま見ているだけだった。


 続く

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