表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ぷれしす  作者: みずきなな
前途多難な超展開な現実
141/173

140 待って! これっていきなりクライマックスですか? 後編

「誰て……」


 和実(仮)が少し焦った顔になった。

 ちらりと俺の方を向いた後に俯いて口をぐっと摘むんでしまう。

 そんな和実を見て本当にこのタイミングで言ってよかったのかと自分に疑問を投げかけてしまう。

 だけどもう遅い。俺は和美(仮)に「誰だ?」と聞いてしまったじゃないか。

 要するにこれはすでに事後って事だよな。

 いや、あれだぞ? えっちな意味じゃないくってだぞ。


「……答えられなのか?」

「……」


 和実(仮)は顔を赤くしたまま俯いてしまった。

 そんな、こいつの反応を見て俺はとある結論に至る。

 それは、こいつは和美じゃないという事。

 だけどこいつが和実じゃないと認めた訳じゃないし、完全に和実じゃないって証拠もない。

 だけど、どう考えてもこいつは和実じゃない。

 それをはっきりしたい。となればはっきりと聞くしかないよな。


「お前は和美じゃないよな? もしかして絵理沙だったりするのか?」


 思わず絵理沙だよなとか言ってしまったが、和美(仮)はぴくんと表情を固まらせた。

 えっ? もしかしてマジで絵理沙なのか?

 だけどだとしたら理由がわからない。なんで和実の恰好になっているんだよ?

 表情を固まらせた和実がようやく動き始める。


「そ、そんな事よりもさぁ、今は輝星花を救うのが優先だよね? そ、そうじゃないのかな?」


 引き攣った笑顔の和実(仮)。そして俺の言葉を否定しなかったよな。

 誤魔化すように輝星花の事を出しやがったよな。


「ああ、そうだな」


 俺の中ではこの和実(仮)は絵理沙の変身した姿だと確証に至った。

 考えてみれば今までのこいつの行動も絵理沙ぽかった気がする。いやそれどころか中身が絵理沙だと考えればあの行動も納得だ。

 あの妙に照れる仕草も、あのヤキモチをやいた表情も、そして俺が胸を揉んでも文句を言わなかったのも……

 そうだ、絵理沙は俺が好きだからだ……抵抗をしなかったんだ。

 だけど、いまこいつを絵理沙だと断言するのは早すぎる。

 今の目的はこいつの言う通りで輝星花を救う事だ。こいつの正体を暴く事じゃない。

 逆に正体を暴いて大変な事になるかもしれないしな。


「じゃ、じゃあさっそく……」

「でもこれだけはハッキリしておきたいんだ。お前は絶対に和実じゃないだろ。だからさ、輝星花を救った後でいいから俺に正体を教えろよな」

「え、えっと……そ、そうだね。輝星花を助けたら……教えてあげるわ」


 和実(仮)は覚悟を決めたような表情でじっと俺を見つめた。

 イコール、和実(仮)は自分が和実じゃないと完全に認めたのだ。


「ねぇ、クスリ……飲んでくれるかな?」

「わかった。クスリは飲む」

「ありがとう……悟」


 強張った表情の和実(仮)がクスリの瓶の蓋に手を添えた。


「うーーーん! ふ、ふたが固いわね」


 開かない。蓋はびくともしない。

 和実(仮)は動揺しているのか、震える手で小瓶の蓋を空けようと力を込めるが開かない。

 見ていてイライラすらしてくる位に開かない。


「おい、俺が開けてやるよ」

「い、いいわよこのくらい」


 俺が親切心で手を差し出したが拒まれたし。って言うか叩き落とされたんだけど!?

 なんて奴だ! せっかくの人の好意を無駄にしやがって。


「……まだかよ」


 数分が経過していい加減いらいらもマックスだ。

 これだから意地っ張りな女は嫌いなんだ。

 できないもんは出来ませんって最初から言えばいいのに。


「うーん! うーーーーん! も、もうちっとだから!」


 どこがもうちょっとだ? そして顔が真っ赤だし。

 おいおい、そんなに興奮すると頭の血管が切れるぞ?


「本気で大丈夫かよ? やっぱ俺に貸せって」

「だ、大丈夫に決まってるでしょ! 私を誰だと思ってるのよ!」

「和実に化けたえり……ま、魔法使いだろ」


 やばい、無意識に名前を言いそうになった。と思ったら和実(仮)が真っ赤になっているじゃないか。


「さ、悟……わ、わたしの事……ば、ばれてる……なんでもない!」


 ああ、やばいな……俺がこいつの中身が絵理沙だって思っていたのがバレた。って言うか、こいつも自分が絵理沙だって認めたようなもんだろこれ?

 とりあえず、ここでバラすのはやめておこう。何かありそうだし。

 だいたいこういう展開は良い方向の展開にならないんだ。


「早く蓋をあけろよ。お前の秘密は後でいいからさ」

「むううう」


 しかし、三分経過しても蓋は開かない。

 もうなんて言うか、我慢の限界です。


「もういい! とりあえずそれを貸せって!」

「ひゃん!」


 俺の伸ばした手が偽物の和実の手に触れた瞬間だった。

 和実(仮)が変な声をあげたと同時に【ヌポン】という間抜けな音をさせて瓶の蓋は開いた。


「ひ、開いたかも?」

「かもじゃねぇよ! 開いてるだろうが……早くクスリよこせよ」

「あ、うん、うん。それじゃあ用意するから待ってね」


 そして偽物の和美の震える手の上には三錠のオレンジ色のクスリが転がる。


「あのさ、もう一回聞くけど、そのクスリを飲んでも俺に害ないんだよな?」


 こくりと頷く和実(仮)。

 だけど視線が俺の方向を向いてない。


「マジで大丈夫なんだよな? 死なないよな?」


 またこくりと頷く和実(仮)。

 だけどやっぱり俺の方を向いてない。


「悟! 私があなたを殺すと思ってるの?」


 真剣な声の和実(仮)。だけどやっぱり俺の目を見てくれない。

 怪しい……怪しすぎる。怪しい。怪しいけど……

 そうなんだよな……クスリは飲まなきゃなんだよな。


「お前を信じていいのか?」

「……う、うん……信じていいよ」


 視線を逸らしながら偽物の和実はこくりと頷いた。

 そうだな、絵理沙が俺を危険な目に合わせる訳がない。

 だってこいつは俺に惚れているんだからな。


「はっ、早く飲みなさいよね!」


 なんだいきなりツンデレキャラ?


「わかったって」


 俺はじっとクスリを見た。オレンジ色の小さい錠剤だ。

 このクスリを飲む事がこいつの言う輝星花を救う準備になるらしい。

 いったこのクスリにどんな効果があるのかわからないけど、輝星花を救うには誰に何と言われようが飲まないといけない。

 思いっきり怪しいとは思うけど飲むしかない。

 嫌だって否定する権利は今の俺にはないからな。いや、あるけど、否定はしない。だって、俺は輝星花を救いたい!


「じゃあ飲むからな!」

「うん!」

「本気で飲むからな!」

「う、うん!」

「止めるなら今のうちだぞ?」

「早く飲めよ!」


 和実に強引に口内へとクスリを入れられた。


「ちょ、まっ!」

「大丈夫よ! パイナップル味だもん!」


 いや、オレンジ色のクスリがなんでパイナップル味? それで大丈夫?

 馬鹿な事を考えている間にクスリは口内から喉へ……そして、


「うぐっ」


 のどにひっかかりやがった。

 いや、予想はしていたけど、まさかこんなにもおもいっきりひっかかるとは。

 やばい、水なしはやっぱりきつかったか。喉にひっかかるクスリの感触が苦しすぎるだろ。


「み、み、ず!」


 やっぱり水を飲まないとクスリは胃には到達しない。


「えっ? みみず? な、なんでここでみみず?」


 気持ち悪いといった表情になった和実(仮)。

 だがお前にハッキリと言いたい。聞き間違えにも程がある!


「ば、ばかか! 水だよ水!」


 周囲を見たが手を洗う水道らしきものはあってもコップがない。

 あたり前だ。ここはトイレだ。トイレで水を飲むやつなんているはずない。

 いやいるかもだけど、コップまでは置いてない。


「あ、ああ、水ね。びっくりしたわ、ミミズとか言うし」


 こっちがびっくりだよ。お前の思考にな。

 しかしくっそ、口を蛇口につけて飲めばいいのか?

 なんて思っていると横から水入りコップが現れた。


「はい、水だよ~」

「サ、サンキュ……」


 俺はコップを受け取ると一気にクスリを流し込んだ。


「ぷはぁ-!」


 そして、飲んでる途中でコップを差し出した本人を見る。


「ぶううううううううううううううううううううう!」


 でもっておもいっきり水を噴いた。

 水を差しだした奴に向かって噴き出しまくった。って言うか和実さんがもう一人!?


「何してんのぉ! 服がべちゃべちゃになっちゃったじゃん!」

「え、いや、えっと? えぇぇ?」

「もー! 故意でしょ? これって故意に噴いたでしょ? 私のブラウスが透けるように故意に噴いたでしょ? それで私の下着を浮かび上がらせたかったんでしょ?」

「なななな訳ないだろが!」(いや、興味はあるけどさっ!)


 俺はコップを差し出した和実と、その和実を見て硬直している和実(仮)を交互に見比べる。

 和実(たぶん中身は絵理沙)がすごく驚いた表情で後から現れた和実を見ていた。


「お前は本物か?」


 思わず聞いてしまった。


「うん、そうだよ」


 軽く答えやがった。


「な、なんで和実がここにいるのよ?」


 もう一人の和実(仮)が焦るまくっている。

 どうやらここで本物が登場する予定はなかったみたいだ。

 だとしたら、なんでここで和実が登場するんだよ?


「一言だけ言っておくね」

「な、なんだよ?」

「今日は白でよかった♪」


 こけそうになった。

 いや、ここってそういうパロディ場面じゃないよな?


「……ええと和実さん?」

「だって、色物だと思いっきり透けるもん。でも白でも案外透けるんだね?」


 じっと透けた下着を見ている和実。いや、今はそこじゃないだろマジ。


「あのさ、和実さん、聞いてるかな?」

「ほんっと、悟くん? 今日は特別なんだからね? 私の下着が拝めるとか奇跡だよ?」

「いや、そうじゃなくってさ」

「えっ? なによ? 私の胸が期待より小さいとか言いたいの?」

「だから、違う! 何も期待してない!」

「き、期待できないなんて……」


 妙な展開になりました。


 ★


 そしてその後すぐ。


「あははは! ほんと冗談よ。そっか、そうだよね、私がいきなり登場して驚いたのね?」

「あ、ああ……」(今日の和実おかしいだろ? こいつも偽物?)

「大丈夫よ、本物だから」

「えっ?」

「ああ、思考なんて読めないよ? 表情を読んだだけ」

「こ、怖いなお前」(こいつを彼女にする男に敬礼!)

「怖くないよ?」

「いや、十分怖いって」

「そうかな?」


 しかし、なんて緊張感のない本物の登場だよ。


「で、なんでお前がいきなり登場したんだよ?」

「それにしても名推理だったね! なんで私が悟君に思念を送ったってわかったの?」


 本物らしき和実は濡れた制服をハンカチで拭きながら普通どおりに話しかけてきた。

 それどころか、俺の質問にまったく答えてない。


「……やっぱりあれは思念だったのか。なんとなく違和感あったからそうかと思ったんだよ」

「そっかーすごいね~ よく考えたね」

「でも、気が付いたのはさっきだけどな」

「ふーんそっか。あれだよ、あの時は悟君に今日のこの事を伝えておこうかと思ったんだよね。だけど、よく考えたら悟君に伝えちゃダメだったって気がついてね♪ それで急遽中断したんだよね」


 緊張感の欠片も見えない本物の和実は、本当に楽しそうに笑顔をつくっている。

 もう一人の和実を見ると、和実(仮)は真剣で焦った表情で本物を見ている。

 やっぱりこいつの登場はもっと緊張感のあるものらしい。


「ええと、もう一回質問すんぞ? なんでここでお前が登場するんだよ? こいつ……偽物をわざわざ用意していたのに、意味あったのかこれ?」

「だって仕方ないでしょ? なんか偽物だってバレバレになってたし。これ以上は隠しても仕方ないと思ったんだよね」

「なるほど……でもいいのかよ?」


 和実(仮)は無言で唇を噛んでいた。


「いいもなにも……もう出てきちゃったしね」

「確かに……しかし、それにしてすごいな魔法ってさ」

「何が? ああ、変身魔法? そんなにそっくりかな?」


 絵理沙だと思う和実を見ながら、本物の和実が首を傾げた。

 答えるまでもない。そっくりと言う度合いを超えている。まんま瓜二つだ。

 双子でももうちょっと似てないと思うぞ?


「和実に質問してもいいか?」

「ん? 何かな?」

「なんでわざわざこいつはお前に化けてるんだ? そんな事をする必要があったのか? お前がここで登場できる位だし」


 俺は偽物の和美を指さした。


「まぁまぁ、慌てない慌てない、一休み一休みだよ」

「いやいや、俺はまったく慌ててないだろ? それにそのフレーズいつの時代だよ!」

「これかの有名な一休さんっていうアニメの……」

「お前魔法使いだろうが!」

「魔法使いだってアニメ見ます」

「いや、時代が違うんだって」

「魔法使いは再放送も見ます」

「いつやってたんだよ?」

「正直に言うと見たことないです」

「……それはもういいから、それよりも教えろって、なんでこいつがお前に化けてるのか」


 俺はくだらない冗談か誤魔化しかわからないけど、和実の言葉をぶった切った。

 そして、視線をもう一人の和実に向けた。


「……もう正体わかってんでしょ? 誰が私に化けているかって」


 そして、本物の和実は不気味に微笑んだのだった。

 そんな和実を偽物の和実は青い顔で見ていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ