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ぷれしす  作者: みずきなな
九月
14/173

014 嵐の始業式

 大二郎に告白された俺、見た目は姫宮綾香は、現在下駄箱で生徒の注目の的になっている所だ。

 始業時間まであと少しなのに、周囲にはこの騒ぎを聞きつけた野次馬が集まり、そいつらのささやき声が俺の耳にまで聞こえてくる。


「ねえ、すっごいね、二学期始業式の日に告白だって」

「あの大二郎が告白してんよ! それも相手は一年だって」

「うわーまじ? こんな場所で告白? 信じられない」

「あの子は一年の姫宮さんだよね? 確か三年の姫宮の妹で飛行機事故から生きて帰ったって」

「大二郎って根性あるな…結果どうなんだよ?」


 これは困った…マジで困った。が、大二郎に対する俺には答えは一つしかない。そうだ! とりあえずは断る!


「無理です! ごめんなさい!」


 と言いながら、俺は無意識に頭を下げていた。

 夏休みに、テレビで頭を下げてゴメンナサイっていうのがあったからか?

 まぁいい。ともあれ断った。が、


「何だと? 姫宮綾香! 俺じゃ駄目なのか!」


 諦めねぇ!

 おまけにすごい迫力で俺に駄目なのかとか聞いてきてやがる。

 言っておくが、お前じゃ駄目とかそういう次元じゃない! 俺は誰とでも駄目なんだよ! 誰とでもな! なんてダイレクトには言えない…

 下手な事をして綾香が変な奴だと思われるのもマズイからな。

 とりあえずここは大二郎が諦めるまで断る! これしかない…


「先輩が駄目だって事じゃないんです!」


 って…何か間違った言い方だったか!?


「駄目じゃないならいいじゃないか!」


 ですよね~。うむ、間違った。期待を持たせる断り方だった。

 ここはズバリと言うしかない!


「駄目です! 私の事は諦めて下さい!」


 きっぱり言ったぞ! どうだ? が、大二郎の瞳は、まるで中で炎が燃えさかっている様に見える…

 こいつ、こんなに熱い奴だったっけ…


「諦めるなんて無理だ!」


 ですよね~。そう言われる気がした。が、俺もしつこいぞ?


「でも、諦めてください!」

「断る!」

「いい加減にして下さい!」

「しない!」

「しつこいです!」

「ああ、そうだ! しつこいぞ!」


 マジでしつこい。

 こいつ、無理やりにOKを貰うつもりか? そんなんで落ちる女がいるかって! まったく、女心がなんも解ってないな!(あんたは男だろ)


「何が望みだ! お前とつきあえるなら、なんでも望みをかなえてやる!」


 うわぁ…なんだよこの展開は!

 しかし、そうか。絶対に叶わない願いをすれば…大二郎は諦めるのか?

 ええと…絶対に無理な願いは…そうだ!


「ええと、昼休みに放送室を乗っ取って、私を好きだと全校…」


 そこまで言って俺は言葉を止めた。

 いや…いやいや…今の大二郎はやる。今のこいつは昼休みに放送部を乗っ取るなんてやる!

 やばい…この願いはやばい…という事は…ええと…


 チラリと正雄を見ると、まだニヤニヤしてやがる。

 くっそ…楽しみやがって。それに、何だよ! もうすぐ始業のベルなのに、何で野次馬が増えてるんだよ!


「何だ? 昼休みに放送部を乗っ取って、お前を好きだと放送すればいいのか?」

「ち、違います!」


 ほらみろ! やる気満々だったじゃないか…危険だった。こうなったら…

 俺は大二郎の両肩を持つ力が弱まっている事に気が付いた。そして、


「諦めてくださいっ!」


 と言った瞬間、俺は逃げ出した! 素早く身を躱して大二郎の横をすり抜ける。


「あっ!」

「授業始まりますよ?」


 何て言い残して全力で逃げた。後ろから大二郎の叫び声が聞こえる。


「姫宮綾香ぁ! 俺はあきらめないぞ!」


 いい加減、諦めろって! っていうか俺の相手をしないでくれ!

 あーもう…二学期早々から大問題発生だよ…


 そして、俺はなんとか一年の下駄箱にたどりついた。

 後ろを振り返ると流石に大二郎は追ってきていなかった。


 取りあえずは大丈夫か…

 ほっと胸をなで下ろした俺は今度は妹の下駄箱を探す。


 確か…ここらへんだったような…一年B組っと…

 あったあった! よし、時間もないし、早く上履きに履き替えて中に入ろう。

 運動靴を下駄箱に入れようと下駄箱を開けると、中には黄色い封筒が入っているのが見えた。


 手紙? 手紙だよなこれ?

 ちょっと待ってよ? これって…何だ? まさか!?


 俺は慌てて封筒を取って宛名を見た。

 姫宮綾香様とマジックで書いてある。間違いなく俺宛だ。というか妹宛だな。


「あれ~? 綾香ぁ…二学期早々からラブレター?」

「ひぃっ!」


 俺は思わず変な声を出して慌てて手紙を隠した。


「何で隠すの~? いいじゃん! 私にも見せてよ?」


 この声は…そう、後ろからいきなり声をかけてきたのは佳奈ちゃん!


「あ、おはよう、佳奈ちゃん…」

「おっはよー! 何なに? 二学期早々からラブレター貰うとかさ、綾香やるねー!」


 佳奈ちゃんはすっごく楽しそうだ。でも、俺は全然楽しくない。ただでさえ、さっき俺は大二郎に告白されたばっかなのに…


「い、いや…私こういうの困るし…」


 キーン! コーン! カーン! コーン!

 ホームルームの始業チャイムが鳴った。


「やっば! もうこんな時間じゃん! 綾香、急ごう!」

「う、うん」


 俺は手紙を鞄の中に入れると佳奈ちゃん二人で急いで教室へと向かった。



 ☆★☆★☆★☆★☆



 教室に到着すると俺はいきなり女子生徒に囲まれた。

 今日はホームルームがないらしく教室に先生がすぐには来ないらしい。

 始業式までも時間がるし、暇を弄んでいるのか? だからといって何で俺に群れるんだよ!


「綾香ちゃんって飛行機事故から生きて戻ったんだって? すっごーい」

「ねーねー墜落ってどうだった? 怖かった?」

「綾香のお兄さんが行方不明になったって本当?」

「記憶喪失になったって噂聞いたんだけど? それってどうなの?」

「ねえ、今日さ、三年の清水先輩に告白されてたでしょ~? 綾香はどう思ってるのかな? 付き合っちゃったりするの?」


 そんなに同時に聞かれても聞き取れない! 俺は聖徳太子じゃない!

 それに、お願いだからそっとしておいてくれよ…

 しかし、綾香の事を考えると無視する訳にもいかないしなぁ…


「え、えっと…私は…」


 何をどう答えていいのか本当にわからないじゃないか。マジで困った…


「ちょっと! 綾香が困ってるじゃないの! あのね、聞いて良い事と悪いことがあるでしょ? どうしてそんなに何も考えずに聞けるの? 綾香はすっごい大変だったんだよ? まだ心に傷だって残ってるかもしれないんだよ? それに人の恋愛沙汰に口を出してどうするの? みんな、やめなさいよ!」


 突然後ろから聞こえた怒鳴り声が聞こえた。

 俺が後ろを振り返るとそこには真理子ちゃんが立っている。そして、真理子ちゃんは腕を組んで俺を囲んでいる女子生徒を睨んでいた。

 凄まじい迫力とオーラに、俺と取り囲んでいた女子が一気に拡散する。


「そ、そうよね…ごめん綾香…」

「うん…そうよね…私も悪かっわ…ごめんね綾ちゃん」


 そして全員が席に戻って行った。

 ふう…助かった…流石だ真理子ちゃん。


「助かったよ、真理子ちゃん」

「本当に、まったくみんなデリカシーがないっていうかね…」


 真理子はそう言いながらまだ教室中に睨みをきかしてくれている。本当にこの子はいい子だな…

 そうだ! そう言えば…茜ちゃんは?


 俺は教室を見渡した。すると茜ちゃんは自分の机に座ってぼーっとしているじゃないか。

 どうしたんだろう? 元気がなさそうだな?

 俺がじっと見ていると、ようやっと気がついたみたいで手をふってくれた。俺も茜ちゃんに手をふり返した。

 マジでどうしたなんだろう? 本当に茜ちゃんの元気がないみたいだ…

 今日だってまだ挨拶もしてないよな。

 しばらくして、


「みんな! そろそろ体育館に移動しましょう」


 真理子の号令がクラスに響いた。そして、クラス全員が体育館へと移動し始めた。俺も茜ちゃんを気にしつつもクラスメイトと一緒に体育館へと移動する。


 ☆★☆★☆★☆★☆


 始業式は長い…

 くだらない話が多すぎる…

 正直に言うと、昔の俺なら始業式はすっぽかしてた。でも、今は綾香だ。仕方ないから参加していやる。と言いつつも実際にすっぽかした事なんて無いんだよなぁ…これじゃあ口だけ不良って呼ばれても仕方ないか。

 まぁ、長い校長の話もそろそろ終盤だろうな。時間からしてももうすこしで終わるか?


 俺は冷房の効いてない暑い体育館で息を切らしながら校長の長話を延々と聞いていた。

 しばらく経過して、やっと校長の話が終わる。もう俺の体力も終わる寸前だよ。


「最後に教頭先生から…」


 やっと終わりかよ。って思ったら何だ? 教頭? 何なんだよ?

 下らない話はとっとと終わらせろよな。なんて悠長に構えていた俺に対して、教頭はとんでもない一言を放った。


「この学校に今年の春から五ヶ月ほど教鞭をとっておりました北本先生が八月いっぱいで退職されました」

「えっ!」


 俺は思わす声を出してしまった。

 周囲の視線が俺に集まる! 超絶はずかしいいいい!

 でも、でも何だ? 何て言った? 北本先生が辞めただって?

 俺は教職員が座る席の方を見る。が、そこには北本先生の姿は確かに無かった。


 おい待てよ! 俺はそんな話は聞いてないぞ!

 どうなるんだ? 北本先生が居なくなったらどうやって元の悟に戻るんだよ? 再構築魔法を唱えられるのって北本先生だけじゃなかったのか?

 くそ! 野木! 俺に何も知らせてくれなかったな! あとで問い詰めてやるからな! って…よく考えたら野木って何処にいるんだ? 特別実験室に行けば野木はちゃんといるのか? いや、あいつはこの学校の先生じゃないし…

 俺は一抹の不安に襲われる。

 もしかして…野木まで居なかったら俺は終わるんだけど?


「北本先生は先般の事情があるとの事で、最後の挨拶をして頂けなく、とても残念に思います。ですが、皆さんは先生の事を覚えておいて頂きたい。熱意の篭もった教鞭を…」


 でも何があったんだよ? 北本先生に何があったんだよ? いきなり学校を辞めちゃうなんて無しだろ…


「次に、新しくこの学校で教鞭をとって頂く先生をご紹介します。野木先生です」

「えっ?」


 俺はまた声を出してしまった。またしても俺は注目の的になる。そして、俺の存在に気が付いたのか、壇上の野木が俺に向かって手を振りやがった! そのせいもあって、俺は凄まじく注目の的になった。

 くっそぉぉ! これじゃ、二学期初日から有名人じゃないか!


「先ほどご紹介のありました野木一郎です。主に科学を担当します。他にも理数系は得意としてますので何か質問等がありましたら遠慮なく聞いて下さい。よろしくお願いします」


 な、何が理数系だよ! 格好つけやがって…くそ…


「姫宮綾香さん、宜しくお願いしますね」

「はいぃ?」


 俺は思わず固有名詞を聞いて立ちあがってしまった。って言うか、なんであいつ、俺の固有名詞を!


「ねぇ綾香? 先生知り合いなの?」


 佳奈ちゃんが首を傾げている。


「いや…うん…ちょっとね」


 俺は仕方なくそう答えた。答えざる得なかった…


「以上で始業式と全体朝礼を終わります」


 そして、やっと始業式が終わった。

 俺は意気消沈しながらクラスのみんなと一緒に教室へ戻る。

 もう色々と声を掛けられたが、何を言われたのかまったく憶えてない。完全に無視したからな。


 ほんっと…マジで俺の名前は…いや、綾香の名前が有名になっただろ…これ。

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