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ぷれしす  作者: みずきなな
前途多難な超展開な現実
137/173

136 前途多難な未来に向かって? 前編

第二章=最終章の始まりです。

長らくお待たせしましたがなんとかかんとかスタートします。

しかし、更新はまったくもって不定期予定です。本当に申し訳ありません。

休止にするか悩んだのですがなんとか少しづつでも更新しようと決めました。

書き溜めている訳でもありませんので、次の更新まで時間があくかもです。

それでもとおつきあい下さる方に感謝しつつ執筆させて頂きます。

(この前書きは後日消します)

 日本全国が騒ぐ大イベントである正月が終わり、日常はだんだんと普段の装いを取り戻しつつある。

 そして、俺がとても行きたくない学校というものに行かねばならぬ日がついにやってきてしまった。

 おっと、いきなり説明から入って申し訳ない。

 今、脳内で説明をしている俺様の自己紹介をしておこう。

 俺の名前は姫宮悟だ。

 年齢は18歳で妹と一緒の高校に通う健全なる男子高校生だ。

 健全とはいっても実は中学時代あまりに目立たなくって、面白くなくって、それでいっそ不良になってやると高校デビューをしてたりする。

 でも、実際は不良になってやるって意気込みだけで髪を染めけど、高校三年の間に不良っぽい事はなにも出来なかった。

 ふふふ、この説明で理解できると思うが、要するに俺はヘタレなんだよ。

 家電を買いに行っても店員に声をかける事がすら出来ないくらいにヘタレなんだ。

 そして店員が近寄ってくると逃げてしまうくらいのヘタレだ。

 でも、自分で自分をヘタレだって言えるってすごいと思わないか?

 そんでもって、そんなヘタレな俺が髪を染めたとかすごいだろ?

 今になって実は俺も結構すごい事やったんだなって思っているんだよな。

 でも、ヘタレってぜんぜん威張れないんだよな……。

 ちなみに恋愛沙汰も苦手だったりする。

 気になる女の子は今までに何人かいたが、生まれてこのかた自分から告白した事なんてした事はない。

 告白した後の事がどうしても断り以外に考えられ無くって、それで告白なんて出来なかった。

 ゲームみたいにセーブ機能がついていれば告白を失敗したらロードしなおせるからしてみるのに。

 なんて出来ない事を言ってみた。

 だが、そんな俺でも告白された事はあったりする。

 それも最近だ。去年の話だ。

 だけど……まぁ結果的にはそいつとは付き合ってはない。

 だがこれだけは言っておく。

 相手が不細工だとか、最悪だったとか、そういうのはない。

 それどころか相手はすごく綺麗で……まぁ綺麗なんだけど……色々ある奴だった。

 って、そんな話はどうでもいいな。

 えっと、要約すると、俺は普通のヘタレ男子高校生なんだ。

 と、ここまでは俺を男子高校生だと説明してきた訳だが……実は今の説明では現在の俺の状況を説明するのには不適合な部分があったりする。

 不適合な部分。それは何かと言うとな……。


「お兄ちゃん、朝ご飯できたよ~」


 ……まぁ、いずれ解るさ。って言うか、わかってるよな?

 だってこれって前の続きだし。


 ★☆★


 早朝のダイニングで、俺はテーブルに用意された朝食を頬張った。

 少し焼きすぎ感のあるトーストにバターをぬりたくって口に運ぶと、口の中でほのかに苦味が広がる。

 俺は決してこの苦味が嫌いじゃない。

 無理にジャムの甘さでごまかすよりも、バターに苦味が混じる方がうまいと感じる。

 そんな俺をさっきからずっと凝視している奴がいる。

 さっきからその視線が気になって仕方がない。

 俺は顔を上げると目の前に座っている妹と視線があった。


「さっきからなんだよ綾香」


 綾香。俺の妹だ。

 ちょっと前までは行方不明になっていたが、昨年の年末に戻ってきた。

 そんな綾香がニコニコしながら俺をじっと見ている。

 いや、ニコニコではないな。ニヤニヤだ。


「えへへ」

「おい、なんかその笑みが不気味なんだけど?」


 綾香は目を丸くすると少し唇を尖らせた。


「不気味って、失礼だよお兄ちゃん」

「不気味だから不気味って言ったんだろ?」

「え~実の妹を不気味とか失礼だよぉ」


 しかし、どうみてもニヤニヤが不気味だったんだよ。


「どうしてさっきからずっと俺の顔ばっか見てるんだよ」

「だってさ」

「だって?」

「今日のお兄ちゃんってすごく可愛いんだもん!」

「ぼふっ」


 勢い欲トーストが俺の口から吹き出た。


「お兄ちゃん!? 何してるの?」

「何してるって、お前がとんでもない台詞を吐くからだろうが!」

「とんでもなくないよ。素直な意見だよ」

「その意見がトンでもないんだよ!」


 テーブルに散らばったトーストをティッシュで集めながら俺は綾香に文句を言う。

 しかし、綾香はまったく悪気のない表情を浮かべて、驚いた表情からだんだんと普通の表情に戻り、最後には頬肉をつり上げて、要するに笑顔になった。

 おいおい、ここでその笑みかよ! と心で文句を言いつつも、これでもかって言うくらいに可愛い笑みに思わずにやけてしまう俺。

 やばい、この状況で妹が可愛いなんて、俺ってもしかするとシスコンなのかもしれない。

 シリコンじゃないぞ? シスコンだぞ? って勘違いする奴いねーよ。

 うん、脳内で一人突っ込みはむなしい。

 しかし、俺は決してシスコンじゃないとだけは言っておく。

 妹が好きなだけだ。って……シスコンの定義ってなんなんだろう?


「ねぇお兄ちゃん」

「な、何だよ。俺はシスコンじゃないぞ?」

「えっ?」


 俺がシスコンとはなんぞやを考えている時に綾香が話しかけやがったから、ついおかしい反応をしちまった!

 ここはなんとか誤魔化さないと。


「い、いや、シスコーンってシリアルなかったっけ?」

「えっ? ああ、うん、あったかもしれないけど……」

「そ、それが俺は好きな訳じゃないって言う事だ! そういう事だ!」


 ってどういう事だ!? 自分で言ってておかしいですねこれ。


「……えっと」


 妹が激しく苦笑した。

 うん、わかる。わかるよ。ちょっと苦しい言い訳だよな。

 だが、いいんだ。なんとか誤魔化せたならそれでいいんだ!


「お兄ちゃんってシリアル好きだったっけ?」

「いや、好きじゃない」

「…………」


 あ、綾香が固まった。


「いやいや、ごめんごめん、でなんだよ? さっき何か言いかけてたよな?」

「あ、うん」

「何だよ? 何を言おうとしてたんだ?」

「えっと……」

「……」

「やっぱりお兄ちゃんは可愛いよねって言いたかっただけだよ」

「ぼふっ」


 流石に今回はトーストを吹き出さなかったが……。

 俺は思わず眉間にシワを寄せた。

 目の前には満面の笑みの綾香。

 本当に大好きな妹に可愛い満面の笑みをプレゼントされた上に可愛いと言われた俺。でもなぁ……

 俺は母さんがいないのを再度確認してから綾香を睨んでみた。


「お兄ちゃん? 何で睨むの?」

「お前が言っちゃダメな事をさっきから言ってるからだ」

「言っちゃだめって?」

「あのな? 俺を可愛いとか言うな! 可愛いは禁句だ」

「なんで?」


 きょとんとする綾香。やっぱりハッキリ言わないとわかんないのか。


「だから、お前に可愛いって言われても嬉しくないからだよ!」


 またしてもきょとんとする綾香。

 なぜにきょとんとするんだ? 俺は男だぞ? 男なのに妹に可愛いと言われても全然嬉しくないのにわかんねぇのか。


「ふぅん……お兄ちゃんは私に褒められても嬉しくないんだ……」

「ああ、嬉しくない」

「えっ?」


 まるで心外な反応をされたかのように驚いた表情になった綾香。

 見る見る表情が暗くなるじゃないか。

 いやいや、ちょっと待ってくれ。どうしてそうなる!?


「何でそんな顔になるんだよ?」

「だって……」

「だってって……」

「私……がっくりかも」


 本当にがっくりしてんじゃねぇよ!


「なんで綾香が落ち込むんだよ!? それっておかしいだろ? だいたい俺はお前の兄貴だぞ? なのに妹に可愛いとか言われて嬉しいとかあるはずないだろうが。何か俺が言ってる事が間違ってるか?」


 慌てて立ち上がった拍子に箸が皿からこぼれてテーブル下へと転がってしまった。


「ほら、お前のせいで箸を落としたじゃないか」


 慌ててしゃがみ込んでテーブルに潜ると綾香の奇麗な素足が見えた。

 よく見ればあとちょっとでスカートの中まで見えそうじゃないか……ってそうじゃない!


「ねぇお兄ちゃん」


 そうじゃないと思いつつも、綾香の絶対領域付近を凝視している俺。

 そんな俺に気がついた訳じゃないと思うが、くいっと机の下を覗き込むように綾香がいきなり顔を出した。

 目があった瞬間に俺の心臓がマックス激動しまくる。


「ななななな何だよ!?」

【ガコ!】


 思わず勢いよく頭を上げてしまった。

 俺の後頭部に激痛が走る。


「お、お兄ちゃん!」


 慌てて机にもぐりこんでくれた綾香。

 嬉しいけどそれ以上に後頭部が痛い。

 くっそ、自業自得だから文句も言えない。


「お兄ちゃん、大丈夫?」

「ああ、大丈夫だ」

「ならいいけど……すごい音したよ?」

「お、音だけだ。心配ない」

「本当に?」

「ああ、本当だ」


 嘘です。すっげー後頭部が痛いです。


「と、とりあえず椅子に座る」

「うん」


 俺はゆっくりと椅子にかけ直した。

 まだ後頭部が痛い。これは確実にたんこぶコースだな。


「お兄ちゃん、ごめんなさい」

「なんだよ今度は?」

「だって、私が可愛いって言ったから動揺したんだよね?」

「ど、動揺? いや、えっと……まぁ……」


 しました。動揺。


「でもね、私は本当にお兄ちゃんが可愛いから可愛いって言っただけなんだよ? 悪気はなかったんだよ? わざとでもない。それでもダメなのかな?」


 俺が後頭部を撫でていると、目の前の綾香が頬をすこし膨らませてあざとく唇を尖らせた。

 ちょっと不満げな表情の中に兄の態度に寂しさをかもし出す感じ。

 訴えかけるような目つきで俺を見ている。


「ダ、ダメだ。それでも俺は嬉しくない」

「本当に冗談で言ってる訳じゃないんだよ?」


 綾香の上目遣い。

 やばい、超絶可愛い。今すぐ抱きしめたい。って、違うだろ!

 これじゃシスコンじゃないか。ってシスコンなのか?


「そ、それでもダメなの! 冗談じゃなくってもダメ!」

「ぶーぶー」


 お前はあかちゃんか! 可愛いけど! 可愛いけどさ!

 で、さっきからしてるその上目づかいはやめろ! 可愛すぎるから!


「綾香っ!」

「てへ」


 ここで俺は確信した。

 何をって、俺がシスコンだって事にじゃないぞ?

 じゃあ何かって? それはな……

 俺は実の妹に恋をするつもりなんてない。

 でも、もしこいつがあかの他人だったら俺は簡単に陥落して恋に落ちていただろう。

 要するに俺は綾香が大好きだって事を確信したって事だ。

 あ、これってシスコンと同じじゃないのか?


「綾香、お前って可愛いよな」

「えっ? な、なに? お兄ちゃん!?」


 ちょっと頬を赤くする綾香。マジで可愛い。


「ほ、褒めても何もでないよ?」

「いやいや、俺は何も求めてないから」


 こんなに可愛い綾香なんだ。

 今さらだけど、あの彼女いない歴=年齢の桜井正雄が好きなるのは当たり前の事だよな。

 それどころか、何年も顔を合わせていたのに好きにならなかった事が不思議なんだよな。

 綾香はそれほどに俺にとっては可愛い女性だ。いや妹だろ。


「あ、ありがとう、お兄ちゃん……嬉しい……よ」

「い、いや、お礼を言われる様なことは言ってない」


 そこまで照られられるとこっちが恥ずかしくなるな。


「そ、そっか」

「でさ」

「?」

「もう一度綾香に言っておくけど、俺は男なんだからな? 綾香にとってはいいけど、男にとっては可愛いは褒め言葉にならないからな?」


 どうせなら格好いいねって言って欲しいな。今は無理だけど。

 でも、綾香が今の俺を可愛いって言うのもわかる。

 今の現在の俺を見たら大半のやつは格好いいよりも可愛いと言うだろうし。


「そっかぁ……そうだよね。うん、わかった……」

「それでいい。こう見えても俺は男だし」

「わかったけど……でもさ……でもね?」


 綾香は椅子から立ち上がるとテーブルを回り込んで俺の横に立った。

 俺は体を綾香の方へと向ける。

 すると、綾香は右手の人差し指を俺の胸元に向けて突き出す。

 そして、ゆっくりと俺の胸元に触れた。


「今はどう見ても完璧な女の子だよね?」

「うぐっ……」


 そう、これが俺が男子高校生だという部分との不適合な部分だ。

 要するに、俺は心は男だけど体は女性になっているんだ。

 ありえないが事実なんだ。


「怒られても、嫌がられても、それでもお兄ちゃんはすごく可愛いし綺麗だよ」

「いやいや……そうかもだけど? でもさ」

「今は女の子なんだから、だから可愛いって言われても仕方ないと思わないの?」

「で、でもさ? そうかもだけどさ……」

「学校に行ったらいっぱい可愛いって言われると思うよ? 絶対に言われるよ?」

「そ、そうか……そうかもしれないけど」


 確かに、学校では俺は女子として扱われるんだ。

 いやいや、綾香の姿だった時だって女子として扱われてたし、可愛いって言われたじゃないか。

 だったらやっぱり……俺は女として自覚を持った方がいいのか?

 いや、心がじゃなくって体がだぞ?


「だから、可愛いって言葉にも耐性をつけておくべきじゃないかなって思うんだ」

「確かに……」

「私、頑張って可愛いって言うから」

「いや、そういう事は頑張る必要はない」


 それに、綾香に可愛いと言われても耐性なんてつかない気がするんだけど?


「絶対にみんなの注目の的になるよね……」

「綾香もそう思うか?」

「うん。だって私は今からお兄ちゃんが心配だもん」

「そっか……でもまぁなんとかなるさ」

「ほんと?」

「ああ、本当だよ。これでも綾香として女の子生活もしてたんだ」

「そっか……でも私の姿と今のお兄ちゃんの姿だとまったく違うよ? 私よりもずっとお兄ちゃんの方が……」

「ずっと今の俺より綾香の方が可愛いよな」

「ひゃっ!?」


 俺が綾香の言葉に被せるように放った台詞のせいか、綾香の顔がさっきとは比べものにならないくらいに赤くなった。って、すっげー真っ赤じゃないですか、綾香さん!


「いやいや、そんなに真っ赤にならなくってもいいじゃないか!?」

「だ、だ、だって!」

「俺と綾香は兄と妹だぞ? そんな反応されたらさ……」

「えっ? う、うん……」

「だから、えっと……俺は素で綾香が可愛いからさ……だからさ」

「……」


 ついに綾香が俯いてしまった。

 そして俺、何が言いたいの!?

 遠回しに近親相姦はダメだよ的なトークに聞こえなくないかこれ!?


「あ、あ、あのね、お兄ちゃん」

「は、はい!」

「わ、私はね……」

「はい!」

「えっと……えっとね? えっと、ず、ずっと前からね……」

「あ、あやや!?」


 か、噛んだ! 妹の名前を噛んだぁぁあ!

 でもって、ここでお兄ちゃんが前から好きでしたとかないよな? ないよなぁぁぁ!?

 俺様の心臓が妹にマックス鼓動してます!


「だ、男性として格好いいなって思ってた……」

「はいぃ?」


 こ、これってどういう解釈すればいいの?

 男性として=異性として? それとも兄として?


「だから……お兄ちゃんに可愛いって言われると嬉しいし緊張する……」

「そ、そっかぁ」


 これって、これって、これって近親相姦フラグなのか!?

 いやいや、そりゃ綾香を俺は好きだけど、でも妹だぞ?

 流石に妹はにないだろ? 某ライトノベルじゃなんだし!

 だけど、もし綾香がその気なら俺はどう反応すればいいんだ?


「あ、でも、これって兄妹愛だからね? 別に恋愛感情って事じゃないよ?」

「……はひ?」

「えっと……私の言い方がちょっと危ない感じだったから、一応は付け足し説明かな。あ、あれだよ? お兄ちゃんはそんな説明なくっても私の事なんて異性として、ううん、女として見てないのは知ってるからあれだけどね……」


 くっ……見てますよ。異性として見てますよ! ってここで言えるかぁぁぁ!

 俺、すっげーダメな奴なのかもしれない。


「そ、そりゃそうだろ。俺は綾香の兄だ。おまえは妹なんだからな。そういう感情はない」

「うん……だよね」


 ぐぉぉぉぉぉぉぉぉ!

 俺は考えてたのさ! 実の妹に何を望んでいたんだよ!?

 近親相姦も悪くないななんて思う奴は誰だよ?

 俺だよ! 俺、死んじゃえよ! そりゃ一回は死んだけどさ! それで女になったけどさ! でも死んじゃえよ! もう一回!

 そうだよ、俺には好きな子いるじゃん! 好きな子が……

 あの子だよ、あの子! そうだよ、同じ学年の……

 その時、俺の脳裏に浮かんだのは思いもかけない奴の顔だった。


「えっ!? な、なんで? 何でおまえが? 違うだろ!」

「お兄ちゃん? どうしたの? 何が違うの?」

「!?」


 しまったぁぁ! つい口に出てしまった……。


「どうしたの? すごい額に汗かいてるよ?」

「だ、大丈夫だ。問題ない」


 くっそ……俺が好きなのは茜ちゃんなんだよ。

 なのになんでお前が俺の頭に浮かぶ?


「大丈夫?」

「ああ、大丈夫だ」


 俺はコーヒーの入ったコップを右手で持った。


「お姉ちゃん、本当に大丈夫?」

「はびっ?」


 冷静になろうと口にしたコーヒーを俺は盛大に噴いてしまった。


「お、お姉ちゃん!?」


 慌てて綾香は机にこぼれたコーヒーを拭いている。


「ご、ごめん……って言うか、なんでお姉ちゃんなんだよ!」

「服は大丈夫?」

「いや、ちょっとついたけど、パジャマだし大丈夫……じゃないって、だから、なんでお姉ちゃん!?」

「もうっ! なんでいきなりコーヒー噴くのよ?」

「いや、だから、綾香がいきなり俺をお姉ちゃんとか呼ぶからだろうが!」

「えっ?」

「えっじゃないよ! お前が俺をお姉ちゃんとか言うからビックリしたんだよ!」

「あ、そ、そっか……いきなりだったね。ごめんなさい」


 マジでいきなりすぎだって。

 近親相姦からのお姉ちゃんは予想の遙か斜め上をいってるよ!


「俺はお前のお兄ちゃんだぞ? お姉ちゃんになった記憶はまったくないからな?」

「そうなんだけどね……」

「だけどどうしたんだよ?」

「私もね……慣れなきゃいけないって思ったの。これからは学校で間違ってお兄ちゃんとか呼んじゃうといけないと思うし……だからね」


 なるほど、理解した。確かに。確かに正論ですね。

 だけどいきなりすぎだろ!


「でもマジでいきなりすぎてびっくりだよ!」

「うん、ごめんなさい。思いついてすぐに口に出しちゃったから」

「ま、まぁいいんだけどさ……」

「だから……今からお兄ちゃんは今から私のお姉ちゃん……ね?」

「うぐぐ……」


 こうして登校初日。俺は綾香のお姉ちゃんになったのだった。

 言っておくが、呼び方だけだからな?


 …………

 ………


 あれ? 何だか納得がいかない。俺がお姉ちゃん?

 ……………そうだよ!


「おい綾香、今の俺はお前と同級生の設定だよな? それなのにお姉ちゃんっておかしくないか?」


 そう、今の俺の設定は綾香と同級生だ。だったらお姉ちゃんはないだろ?


「でも、お姉ちゃんの方が誕生日が先だし」

「誕生日が先って……俺の誕生日が?」

「うん!」


 そう言われてみれば確かに俺の方が綾香より誕生日が……後じゃん!

 俺は1月でこいつは11月だぞ?

 そう考えると学年内では綾香の方がお姉ちゃんじゃないのか!?

 俺が綾香をじっと見ると、綾は笑顔で俺に向かって言った。


「深く考えちゃダメだよ? お姉ちゃん」


 そして、焦る俺の肩をぽんと叩く。


「あ、綾香?」

「お姉ちゃん、時には事実が設定に負ける事だってあるんだよ?」

「はいぃぃ!?」


 綾香は謎の名言を残し鼻歌交じりに自分の部屋へと戻って行ったのだった。


 ……どうしてこうなった!?

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