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ぷれしす  作者: みずきなな
八月
13/173

013 始業式の下駄箱は修羅場

 ついに来た二学期の始業式の日を迎えた。

 俺は朝食を食べ終わり、登校の準備をする為に綾香の部屋に戻ってる。

 外は晴天。登校日より。しかし、俺は不安な気持がいっぱいでクローゼットからクリーニング済みの彩北高校の制服を取り出した。


 まだ新しい綾香の制服。俺はじっと制服を見詰める。

 この学校の制服はグレーに赤ラインのチェックのスカート、上は夏の場合にはブラウスの上に白いサマーベストを着る。冬は紺色のブレザーを羽織っている。

 男子はネクタイ、女子にはリボンがあり、ここがワンポイントらしい。

 しかし、蘇生で復活していたときにこの制服を着ていた時にはマジで驚いた。

 マジで女装でもさせられたのかと思っていたが…再びこの制服を着る事になるなんてな…

 でも、これは仕方ない。これが綾香になっている今の俺の制服なんだ。

 しかし…やっぱり普段着とは違い、制服を着るのは緊張する。


 そんなこんなで俺は制服を着る。が、やはりうまくゆかない。

 男子の制服とはやっぱり構造が違う。

 そして、俺が制服を着るのを戸惑っていると、もう家を出ないといけない時間になっていた。


「や、やばい! このままじゃ遅刻する!」


 いや、どうせなから行きたくなんだよな…

 なんて気持ちを抑えつつも慌てて制服を着る。そして、なんとか制服を着る事に成功!

 綾香の制服の写真の通りの格好になったと思う。

 仕上げとして姿見で前や後ろを確認をして写真と比べた。

 髪型…OK。

 制服…OK。

 リボン…OK。

 笑顔………OK!

 よし…全部が大丈夫そうだな。

 しかし…かわいいな、制服姿の綾香。

 鏡の中の自分に見とれる俺。そして鏡の中の俺の顔がにやついて気持ち悪い事に気が付いた。

 やばい! 何してんだ?

 ぐうう…俺は今、確実に危ない方向に進んでいるかもしれない。

 これはシスコンなのか?


 ふと時計を見ると七時四十分になっていた。

 そうだよ! 時間がないんだった!


「お母さん、行ってきます!」


 俺は慌てて家を飛び出すと、車庫に置いてあった自転車に乗り猛スピードで学校へ急いだ。


 ☆★☆★☆★☆★☆


 俺の本気の漕ぎにかかれば学校なんてすぐに到着出来た。


「よしっ!」


 俺は自転車を駐輪場に駐めると下駄箱へ向かう。

 しかし、軽快とは言えない足取りで下駄箱に向かう俺。

 追い抜いてゆく生徒に「おはよう!」なんて挨拶される事もあり、その度に心臓が跳ね上がる。

 一応は「おはよう」と挨拶を返すが、やっぱりというか、顔も名前もわからない。

 同じクラスで挨拶をしてきたのか、単純に中学が同じだったのかも解らない。

 これはこれですっげー不安な要素だと再確認してしまった。

 しかし、長い…

 何がかというと、下駄箱までの距離だ。

 この学校は駐輪場から下駄箱まですこし距離がある。だから声も掛けられるし、雨が降った時なんてこの距離がむちゃくちゃ苦痛に感じる。


「おはよう綾香!」


 また挨拶された。もちろん女子に。

 取りあえずは挨拶を返すが…ほんとに大丈夫か俺?

 俺は綾香としてちゃんとクラスに馴染めるのか不安でたまらない。

 心臓は緊張でフルスロットル状態だし、手のひらは汗ですごい事になっているし、手足が同時に出てないだけましだ。


 緊張する…くぅぅ…


 俺はクラスメイトの名前はある程度は憶えた。 しかし、佳奈ちゃんと真理子ちゃんと茜ちゃんの三人以外は顔を知らない。そして、綾香がどんな感じでみんなと接していたのかもわからない。

 ここは本気で記憶喪失って事にして、当分の間つき通すしかない。 


 俺は下駄箱に辿りつくと、上履きに履き替えようと下駄箱に手をかけた。すると、


「ちょっと君…」


 聞いたことのある男の声が聞こえた。

 左を向けば、そこには俺(悟)のクラスメイト、三年A組の宮代貴裕の姿があった。

 宮代貴裕は真理子ちゃんの兄貴で俺(悟)と同じ学級で小学校から知っている仲だ。

 真面目で優等生…それでもってスポーツ万能…くそ、神様って不公平だ!

 で、今の俺に何の用事だろう…


「君、姫宮悟の妹だよね? 確か綾香ちゃんだっけ?」

「ええ、そうです」

「ええとね? ここは三年の下駄箱だけど?」

「えっ?」


 慌てて正面を見ると、俺は三年A組の姫宮悟の下駄箱に来ていた!

 何も考えないで歩いていたら三年A組の下駄箱にきてしまったのか。習慣って怖いな…


「あ、ああ…そうですよね? えっと、私、兄の下駄箱をちょっと見たくって…」


 ものすごい無理がある言い訳をしている気がする。


「そっか、悟の下駄箱を見に来たのか。確か悟は行方不明になったんだよね…」


 貴裕は沈んだ表情で言った。

 しかし、行方不明の兄の下駄箱が見たくなったって理由を突っ込まないのか? 納得なのか? まぁいいけど。

 で、こいつは俺の母さんに行方不明って聞いたんだよな?


「はい。でもきっと生きてるって私は信じてるんです」

「綾香ちゃんは強いね。僕も信じるよ、あいつは絶対に生きてるって。悟は雑草よりも生命力がありそうだもんな」


 俺の言葉が効いたのか、貴裕に笑顔が戻る。が、俺は雑草じゃない!

 それでも心配してくれている貴裕を見てると、事実を隠してる自分に嫌悪感を感じる。

 俺が悟だよ、生きてるから! って言っやりたくなる。でも仕方ない。言えるはずがない現状なんだ。


「じゃあ…私は一年の下駄箱に戻るので」

「ああ、じゃあまたね。あ、そうだ! 何か困った事があったら真理子にでもいいし、僕にでもいいから相談してくれよな」


 そう言うと貴裕は校舎の中に入って行った。俺も早く戻らないと時間がない。

 俺は一年の下駄箱に行こうと出入り口へと向いた時、目の前に大きな人影が現れた。見上げると同時にその影に声をかけらる。


「お! 悟の妹じゃないか」


 げ…正雄だったのか。面倒な奴に出会ったな…


「よう…姫宮綾香…」


 そして、その後ろには大二郎までいた。そしてフルネームで呼ぶな!

 しかし、新学期の朝から筋肉馬鹿二人組と逢ってしまうとは…

 それも、タイエー事件があった後だし…こいつらあの時の事って憶えてるよな? 俺が大二郎をノックアウトした事を…

 ちらりと表情を伺うと、怒ってはいなさそうだが、機嫌がよさそうでもない。

 まさか、因縁つけられたりしないよな? いや…わかんねぇなぁ…


「お、おはようございます」


 俺は作り笑顔で挨拶だけすると、そそくさと大二郎の右脇を抜けようとした。が、大二郎は左腕を伸ばして邪魔して通行を妨げた。

 まさか…マジで因縁をつけるつもりなのか? やばい…こんな場所で喧嘩とかできねぇぞ?


「あの…何でしょうか? あまり時間が無いので通して貰えませんか?」

「おい、姫宮綾香」

「何ですか? 本当に時間が無いから通してください!」

「待てよ!」


 俺達のやりとりに気がついた周囲の三年生が俺達三人を見ている。

 やばい…これはこれで目立つ…


「もしかして、この前の事ですか? 怒ってるから通さないんですか?」


 俺はストレートに聞いてみた。もうこのままじゃマジでタイムリミットになる。


「いや、あの事で怒ってない…あれは俺も悪かったと反省してる。だから、そういう事じゃないんだ」

「じゃあ、そこを通してもらえませんか?」


 俺は大二郎の手を持って払いのけた。こうなれば強行突破だ!

 すーっと大二郎の右を通過しようとした時、誰かが俺の腕を持った。


「ちょっと放してくださいよ!」


 俺は大二郎かと思って怒鳴りながら振り返ると、そこには…


「待て、姫宮綾香。大二郎は今日お前に大事な用事があるらしいぞ?」


 腕を持っていたのは正雄だった。


「用事? 私には用事なんてありません!」


 俺は正雄の手も払いのけた。


「姫宮綾香、待ってくれ! 本当に俺は…お前に用事があるんだ! 本当は後でお前を捜しに行こうかと思ってたんだが、ここで逢ったのも何かの縁だ!」


 大二郎はそう言い放つと、逃げようとした俺の両肩を持ちやがった。

 俺は今、こいつらと絡んでる暇も、縁なんて無いんだ!


「な、何ですか?」


 周囲の視線が俺達に集まる。そして、大二郎が俺じじっと見詰める。

 何なんだよ? 何でそんなに見る? 何の用事なんだよ?

 俺は視線を外すと、もう一度強い口調で言った。


「離してください!」


 しかし、大二郎は俺の言葉を完全に無視している。なんて奴だ…

 下級生女子の両肩をがっちり持つ上級生男子。意味も無いならありえん!


「もうっ! 私に用事って一体何なんですか! 言いたい事があるならさっさと言って下さい!」


 俺が怒鳴ったのに、何故か大二郎は緊張の趣で頷いた。

 そして、俺はその表情にすさまじい不安に襲われた。


 いや、何でそんなに真面目な表情を?

 どう見ても怒るとか、そういう目じゃないよな?

 横を見ればニヤニヤと怪しい笑みを浮かべた正雄の姿があるし。

 正雄は俺と目が合うと、ニヤケながら顔を逸らす。


 怪しい…なんだこいつ? 何だその不気味な笑みは?

 なんて思いながら大二郎へと視線を戻すと…

 そこには、俺が一度たりとも見た事の無い大二郎の姿があった。

 な、何でそんなに真っ赤なんだよ? えっ? いや…

 何でそんな真っ赤な緊張したおもむきで、俺(綾香)を見詰めてるんんだよ!


 背筋を冷や汗が流れた。ぞっと寒気がした。

 ……ま、まさか? いや、ないよな?

 なんて思っていると、大二郎は下駄箱全包囲に聞こえるような大声で言った。


「姫宮綾香さん!」

「え!? は、はい?」

 さん? なんでさん付け?

 そして、周囲の視線が一気に俺達に集まる。


「この前の一件で俺は…俺は、お前に惚れました! 強くてかわいいお前に惚れました! 好きになりました! だから…この俺と付き合ってください!」


 大二郎は真剣な顔で、よりによって大声で俺に向かって告白をしやがった!

 その瞬間、俺の顔が一気に熱を帯びる。そして、全身から今度は熱い汗が発汗する。


 こ、こ、告白だと!?

 な、なんで俺が大二郎から告白されないといけないんだ? それ始業式の朝の下駄箱で!

 周囲を見ればもう、野次馬だらけ。これかある意味で公開処刑だ。

 クスクスと笑う正雄がまた憎たらしい!

 くそ…正雄の野郎! だからニタニタと不気味な笑みを浮かべてやがったんだな?


「どうだ? 姫宮綾香、俺と付き合ってくれないか?」


 大二郎は真剣な表情だ。

 って…待て! 待ってくれよ! えっ? どうしてこうなったんだあああ!

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