表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ぷれしす  作者: みずきなな
ココロもカラダもそして俺たちも
128/173

128 真理子VS佳奈ちゃん?

 階段で女子生徒(巨乳)と抱き合っている図。

 傍からから見ればどんなに羨ましい図柄に見えるのだろうか。

 容姿は綾香でも俺は男だしな。

 男が女子と抱き合うなんてご褒美に近い。いや、ご褒美だ。

 しかし、だがしかし、それを楽しむとか嬉しいとかそういった感情が今の俺からはすべて飛んでいた。

 ずんと重い何かが俺にのし掛かっている。

 思考まで重くなっている。


 俺は真理子ちゃんの想い人が偽装彼氏になる事が確定してしまった。

 いざ冷静になった今は先ほどまでの熱い想いなんてとっくに消し飛んでいる。


 ああ、ぶっちゃけマジで重い。

 色々な問題がありすぎてつらい。


 今の問題は3点。

 まず、さっきまで修羅場だった真理子ちゃんとの恋愛騒動。

 俺と正雄が抱き合っているのを見られたせいで、それが要因で真理子ちゃんが俺に正雄が好きだったと告白してくれた。

 そして、正雄を俺に譲るみたいな形になってしまった。

 偽装カップルなのにマジくっそ重い。


 次に大二郎の事だ。

 あいつは俺と正雄が付き合っているってすぐに知ってしまうだろう。

 そうなったら大二郎にも俺から何か言わないといけない。

 まぁ、あいつとは恋人同士じゃなかったし、文句を言われる筋合いはないんだけどな。

 だけどこれも結局は重いよな。


 そして、深く考えてなかったけど、マジで問題なのが本当の綾香が戻ってくる事だ。

 綾香が戻ってきたらどうするとか、俺がどうなるのとか、まったく決まってない。

 野木も絵理沙もまったくそれに触れてこない。

 どうなってんだ?

 綾香が戻れば俺は元に戻れるのか?

 元に戻れない場合はどうなるんだ?

 これを考えるのも重い。

 綾香が戻ってくるのは嬉しいんだけど重い。


 色々な事が重なって意気消沈な俺だったが……。


【ガタン!】


 階段の下から物音がした。

 すると、俺を抱きしめていた真理子ちゃが俺から離れる。

 そして、勢いよく階段を下った。


「ぎゃふん!」


 同時に聞いた事のある声が。

 どうやら真理子ちゃんが何者かを捕まえたみたいだ。

 まぁ、何者かっていうか、この声の持ち主はうちのクラスに一人しかいないけどな。


「佳奈! 何でここにいるのよ!」


 真理子ちゃんの怒鳴り声。

 俺が階段を覗くと、下のフロアに佳奈ちゃんがいた。

 というより捕まっていた。

 いや正座させられていた。何で正座なんだ……。


「ちょ、ちょっと散歩だもん!」

「何が散歩よ? こんな場所に散歩に来る人がどこにいるのよ!」

「こ、ここに?」


 そう言って自分を指差す佳奈ちゃん。

 しかし、その表情にはまったく余裕はない。

 笑っているつもりだろうけど引きつってるぞ。


「佳奈、私たちの話を聞いてたの?」

「いや、全然まったくひとつも聞いて……ないと思う」

「なるほど、聞いてたのね?」

「はい……」


 佳奈ちゃんはシュンとしながら頭を垂れた。


「佳奈、もしかして教室から私たちをつけてきたの?」

「ええと……いや……そうじゃなくって」


 佳奈ちゃんの表情が焦りまくっている。本当に真理子ちゃんに弱いみたいだ。

 でも、攻め立てる真理子ちゃんも若干の動揺は見えた。

 まぁ、あれを聞かれたからな。


「何よ? ハッキリ言いなさい!」


 迫力のある真理子ちゃんに圧倒され押されまくる佳奈ちゃん。

 俺に目で助けを求める始末だ。

 しかし、自業自得だ。佳奈ちゃんが盗み聞きしていたのが悪い。


「ちょ、ちょっと前からです。だからあんまり聞いてないです」

「へぇ、そうなんだ? じゃあ質問をするね?」

「は、はい?」

「私は誰が好きでしょう」


 真理子ちゃんの質問に佳奈ちゃんの表情が凄まじく引き攣った。顔が真っ赤になった。汗まで滴り落ちている。なんという顔に出る性格なんだ。

 これは確実に先ほどの話を聞いたって事だよな。


「し、しらないでふゅ」


 おまけに噛んだ。


「知ってるわよね? 聞いたんでしょ?」

「だ、だから知らないって言ってるんだもん!」


 真っ赤な顔で否定する佳奈ちゃん。ここまで来たらバレバレじゃないか。

 それでも否定するのか?

 あ、これはもしかして気を遣っているのか?

 聞いちゃ不味い事を聞いてしまったから、それで聞いてないフリをしてるのか?


「あ、そう? もういいわ。嘘つき佳奈なんて人体実験センターに売り飛ばして怪物どもに陵辱してもらえばいいのよ」

「ひゃ!?」


 まさかの真理子ちゃんからの陵辱宣言に佳奈ちゃんが正座を崩した。

 真理子ちゃん、それは言いすぎだろ!

 人体実験センターって何さ! おまけに陵辱って真理子ちゃんが言っちゃダメだろ!?

 でもって、ここでちょっといやらしい妄想をしてしまったのは内緒です。

 ああ、こんなに重い空気だったのにエロい妄想するとか、俺ってダメな奴なの?


「それは嫌だっ! せめて初めては好きな人がいいっ」


 佳奈ちゃん、真に受けちゃダメだっ!

 あと、佳奈ちゃんがヴァージンだと確定しました。


「じゃあ正直に言いなさい。怒らないから」


 そう言われて佳奈ちゃんはチラリと俺を見た。

 俺はこくりと頷いてやった。もう聞いてないで通すよりも素直に謝った方がいい。

 真理子ちゃんだって佳奈ちゃんが聞いていた前提で話をしてるんだし。

 そして佳奈ちゃんは大きく息を吐いた。


「真理子は桜井先輩が好きだったんだね」


【バコン】


 鈍い音がした。佳奈ちゃんの脳天に真理子ちゃんのチョップが炸裂したのだ。


「い、痛い! なんで叩くの? 正直に言ったじゃん。怒らないって言ったじゃん」


 頭を両手で押さえながら佳奈ちゃんが正座から女の子座りに移行している。

 こ、これは……短めのスカートから絶対領域が……。

 見えそうで見えないスカート中……。って、今はそうじゃないだろ俺!


「これは罰よ」

「私は悪い事してないもん!」

「盗み聞きが悪くないって言うの?」

「ちょっと聞こえただけじゃん」

「へぇ、じゃあ今度佳奈の部屋に盗聴器を仕掛けさせて貰うわ。それで佳奈がどんな声で夜にあえ……」


 俺と不意に振り向いた真理子ちゃんの目が合った。

 そこで真理子ちゃんは話をやめる。ちょっと顔が赤い。

 おい、真理子ちゃん、あんたは何を言おうとしてた?


「わ、私だって人間だもん! するもん!」


 か、佳奈ちゃん! なにするんだよ!


「ま、まぁいいわ、その話題は終わりにしてあげる」


 しかし、なんか真理子ちゃんがカオスな毒舌だ。しかも下ネタだよこれ。

 佳奈ちゃんもちゃんと答えるから余計にひどくなってんだよ。


「ひ、ひどい……いくら私がAカップだからってっ! ここで終わりなの?」


 佳奈ちゃん、今は胸の話題は出てないよ。それに終わったのは胸がAだからとか関係ないです。


「私はスーパーカップの方が好きよ」


 真理子ちゃん!? アイス? もしかして話題を逸らしたつもりなの!?


「あっ! 私もスーパーカップは好きだよ! でもアイス果汁の実の方がおいしいよね! ハーゲンは高いから滅多に食べないんだけどねっ! でも32アイスはっ……」


【ガツン!】


 また鈍い音がした。


「痛い! なんでまた叩くの!?」

「話題を逸らすからよ」

「ま、真理子が逸らしたじゃん!」


 まぁ、それはだいたい合ってる。というか、どの話題から逸らしたって意味なんだ? まさかあの下ネタゾーン?


「佳奈、もう一度聞くわよ? 佳奈は教室から私たちを尾行してきて、最初から最後まで話を聞いたのね?」


 じゃなかった。ですよね~。俺、妄想乙。


「……ふぇ!?」


 ダーっと滝のように汗をかく佳奈ちゃん。

 顔は真っ赤で視点が定まらない。


「佳奈? 正直に言って。怒らないから」


 真理子ちゃん、さっきも同じような台詞を吐いたよね? で、怒ったよね? なんて俺は言えない。

 なんて考えていたら、佳奈ちゃんの瞳からポロリと一粒の涙が落ちた。


「ごめんなざひ。私は綾香と真理子が教室を出ていった時からついて来てましだ……」

「だよね? 知ってたわ」

「えっ!?」


 思わず俺が声を出してしまった。って言うか、真理子ちゃんは佳奈ちゃんがついて来ていたのを知ってたのかよ!?

 それでも俺にあんな話をしてくれたのか?

 じゃあ、最初から佳奈ちゃんもあの話を聞いてもよかったって事なのか?


「私は知ってたけど何も言うつもりはなかったの。だって気になるもんね? 私と綾香が一緒に教室から出たら気になるよね?」

「うん……」

「私は佳奈が聞いていてもいいと思っていたの。隠すつもりなんてなかった」

「うみゅん」

「でも、嘘はつかないで欲しかった」


 佳奈ちゃんの両目からボロボロと涙が溢れる。

 どうやら緊張の糸が切れてしまったらしい。


「ごめんなざい……真理子、ごめんなさひ……綾香、ごめんざざい」


 佳奈ちゃんは女の子座りのまま土下座をした。

 正直に言って柔軟体操にしか見えない。しかし、制服でそれはすげー格好だ。

 白い太ももも丸見えですよ。

 でも、そんな変な格好の佳奈ちゃんを見てて俺はちょっと微笑んでしまった

 。

 やっぱり佳奈ちゃんもいい子だなって再確認した。

 茶髪で無い胸のボタンを開いていたり、なにげに擦れてそうだけど、実は素直で純粋な子なんだなって思った。

 きっと心配でついて来たんだな。

 話に興味もあったんだろうけど、マジで心配だったんだよな。

 前に俺をファーストフードに誘った時も心配してくれての事だったし。


「佳奈、もう泣かないでいいわよ」


 真理子ちゃんがハンカチを手を出した。


「綾香、なんかごめんね。私は気がついていたんだけど綾香は知らなかったでしょ?」


 真理子ちゃんは大泣きしている佳奈ちゃんを撫でながら俺の方を見た。


「うん。知らなかった」

「でも、よかったわよね? これでよかったんだよね? 綾香と桜井先輩が付き合ってるって佳奈にも隠さなくてもいいんだよね?」


【グサッ】


 胸にまたしても何かが突き刺さった。

 俺は……真理子ちゃんにすごく申し訳ない事をしてしまっている。

 きっと佳奈ちゃんも騙しているようなもんだ。

 でも……もう遅い。もう今更引き返せない。


「綾香、結婚おめでとう!」


 さっきまで大泣きしていた佳奈ちゃんが、ケロッとして俺の横に来ていた。それも座ったままとか、階段をどうやって上ったの? 怖いよ。


「結婚してないよ!」


 そしてなんで結婚になるんだよ!?


「だって、桜井先輩とぎゅっと抱きしめあえる位に愛しあってるんでしょ? という事はそのうち結婚するんでしょ?」


 何か色々と端折ってないか? 過程が飛びすぎだろ。


「待って! じゃあ佳奈ちゃんは彼氏が出来たらその人と結婚するの?」

「しないよ」


 即答だった。すっげー早かった。


「でもね、子供が出来たら仕方ないからするかも」


 ダメすぎる発言がきた。っていうか保険体育ならってるよね?

 そういうのは高校生が言っちゃダメだと思いますよ。


「佳奈っ! 何をバカな事を言ってるのよ!」


 そしてやっぱり真理子ちゃんに怒られたし。


「わ、私はあれだよ? 先輩とは付き合い始めたばかりだから……うん、まだ何もないよ?」

「またまた~。私たちは高校生だよ? それに高校生男子なんて野獣だよ?」


【ごつん】


 鈍い音がした。


「痛いっ! な、なに? 今は悪い事してないよね?」


 いや、もし俺が本物の綾香だとしたら、十分に悪い事してるだろ。

 中身が俺だからよかったけど、真面目にこれを綾香が聞いたら……。

 ん? 綾香も高校生な訳だし、もしかしてそういう会話にもついていけたり?

 う、うちの妹に限ってそんな訳ない!


「佳奈、今日の事は絶対に誰にも言わないのよ? 佳奈は本当に動くラジオだから、人にすぐに話しをするでしょ?」

「なんで? 綾香と桜井先輩が付き合ってるって言っちゃダメなの?」

「ダメよっ! あんたの噂は尾ヒレがつくでしょ? 変な事までセットで伝わりそうで心配なの」

「えっー! 信用ない? もしかして私って信用金庫より信用ないの?」


 いや、なんでここで信用金庫? ギャグにすらなってない気がする。って言うか、信用金庫が信用なかったら誰もお金を預けないだろ!


「佳奈は自覚ないの?」

「ひっどいよ! 私だって秘密くらい守れるもん!」


 でも、そうか、そうだよな。

 佳奈ちゃんは動くラジオ放送局だよな。

 色々と重い事を解決するにはスタートも早い方がいいかもな。

 と言う事は佳奈ちゃんに言いふらしてもらった方がいいかも。


「別に言ってもいいよ……」

「えっ!? い、いいの? ほら、綾香がいいって!」


 佳奈ちゃんの瞳が輝いた。真理子ちゃんはかなり驚いている。


「綾香、本当にいいの?」

「うん」

「でも、佳奈だよ?」

「真理子! それって失礼だって言ってるじゃん!」

「いいよ。どうせ広まるんだし」

「そ、そうなの? 綾香がいいならいいけど……佳奈、私が桜井先輩を……それは内緒だからね? 言ったらどうなるかわかってるわよね?」

「う、うん! たぶん!」

「たぶんじゃないわよ!」


 真理子ちゃんの睨みに佳奈ちゃんは怯えて表情でこくこくと頷いた。

 しかし、いい加減に立てばいいのに。なぜにずっと座ってる?


「でも、綾香ってさ、年上キラーだよね」

「えっ?」


 佳奈ちゃん、何を唐突に。


「清水先輩に桜井先輩に野田先輩に千住先輩……」

「いや佳奈ちゃん! 野田先輩って女でしょ! それに千住先輩って誰なの! 聞いた記憶ないし!」

「あれ? 綾香ってバイアグラじゃなかったっけ?」

「それを言うならバイセクシャルでしょ! 何それ! 佳奈ちゃんはおっさんか! もう立たないのか!」

「立てるよ?」


 そう言って佳奈ちゃんはすくっと立ち上がった。

 うん、俺が言った意味はそうじゃないんだけどね……。


「綾香……まったく……」


 真理子ちゃんに意味が通じてしまったらしい。

 ダメです。そんな目で見ないで……。

 佳奈ちゃんはさっきまであんなに泣いていたのに、もうケタケタと声を出して笑っているし。

 で、千住先輩って誰なのさ、マジで。

 そして、結局は千住先輩の事は聞けずにその場は解散となってしまった。

 真理子ちゃんは生徒会の何かがあるらしく、佳奈ちゃんは何か用事があるらしい。

 そして、残された俺は一人で階段を下ってゆく。


 一人になると一気に重みが俺にのしかかった。

 これを俺一人でなんとかするのはつらい。


 ――そうだ。


 そこでふと脳裏に浮かんだのは輝星花だった。

 野木じゃなくって輝星花だった。


「あいつに……・特別実験室に行ってあいつに相談しよう……」


 俺は急いで階段を駆け下りた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ