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ぷれしす  作者: みずきなな
ココロもカラダもそして俺たちも
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127 恋愛フラグは知らない所で立っている 後編

 いきなり真理子ちゃんの恋愛事情を知ってしまった俺。

 そして、真理子ちゃんが好きな相手が正雄だと知ってしまった俺。

 なんで? なんでこのタイミングで俺にこんな話しをして来たんだよ?

 急に沸いた疑問。

 本当にわからない。意味がわからなかった。


 正雄が俺と一緒の部活に入ったから俺に教えてくれたのか?

 いやいや、それはそれでおかしい。

 何か……何かが引き金になったはずだ。

 しかし思い浮かばない。

 やっぱり思い浮かばない。

 真理子ちゃんがわざわざ俺に正雄が好きだと教えてくれる理由が思い当たらなかった。


「そ、そうなんだ」


 今の俺はそう返すの精一杯だ。

 そして、真理子ちゃんは俺の瞳をじっと覗き込む。


「私ね、最近になって本当に自覚したの……桜井先輩が好きだって」


 そう言い切ると、真理子ちゃんは俯いた。

 長い髪を右手ひとさし指に絡めながらモジモジしている。

 まさに乙女だ。あの真理子ちゃんが乙女になっている。


「そ、そうなの? 何か自覚するような出来事があったの?」


 そんな事を聞いてどうする? そうは思ったけど、だけど無意識に聞いてしまっていた。その理由が俺にはわからなかったから。

 真理子ちゃんはこくりが頷いた。

 そんな真理子ちゃんを見てまた顔が熱くなる。また汗がいっぱい出る。


【ドキドキドキドキ】


 俺の鼓動はマックスに高まっている。

 真理子ちゃんは完全に乙女モード。

 どう見ても真理子ちゃんが俺に冗談を言っているように見えない。

 正雄が好きだって言うのは間違いはないだろう。


「そ、そうだったんだ。し、知らなかった」

「うん、気がつかれないようにしてたからね……」


 うん、マジでわかりませんでした……。

 でも……でも……俺は……。


「い、今も好きなの?」

「うん」


 くっそ、胸が痛い。すごく痛い。

 思わず俺は胸に手を当てた。


 俺は……正雄と偽装カップルになる予定だよな。

 いや、正雄の中ではもうスタートしているのかもしれない。

 なのに、このタイミングで真理子ちゃんにこんな告白をされた。

 俺はどうすればいいんだ?

 こういう場合はどうすればいいんだよ?

 俺は真理子ちゃんにはなんて言えばいいんだ?

 心の中での葛藤する。真理子ちゃんの顔がまともに見られない。


『実は桜井先輩とつきあってるんだ』


 そう言ってしまえばいいのか?

 でも、それだと間違いなく真理子ちゃんを傷つける。

 俺は真理子ちゃんの好きな男を取ったと勘違いされるかもしれない。

 でも……だからって隠していていいのか?

 もう正雄が俺と付き合っているって噂を広められている可能性だってあるんだ。

 今日、今ここで話さなくって、後で真理子ちゃんが知ったらどうなんだ?

 ここで俺と正雄の関係を隠して後でバレたら、真理子ちゃんは今ここで話す時よりもずっと傷つくんじゃにのか? 下手をすると致命傷になる可能性もあるんじゃないのか?

 俺や正雄だけの問題ならまだしも、もうすぐ戻る綾香にだって迷惑がかかるんじゃないのか?

 最悪、真理子ちゃんとの友情が砕け散る可能性もあるんじゃないのか!?


「綾香? どうしたの? 顔が青いよ?」

「ま、真理子ちゃん……」


 ここは正直に……正直に言うしかないんじゃないのか?

 ここで隠すとか……無い……無いんだよな?

 い、言うしかないんだ!

 俺はぎゅっと両方の拳を握った。


「い、いつから好きだなって思っていたの?」


 ちがぁぁぁぁう! そうじゃないだろ!? 俺は何を聞いてるんだよ!?

 ちゃんと言うんだろ? 俺と正雄が付き合ってるって言うんだろ?


「ええと、たぶんだけど、中学二年の時からかな……」

「さ、三年前からなの!?」


 真理子ちゃんはこくりと頷いた。


「な、長いねぇ……」

「長いよね……私もそう思うわ……」


 やばい、こんなに昔から真理子ちゃんが正雄を好きだったとか知らなかった。

 自覚したのは最近みたいだけど、でも、それでも真理子ちゃんは正雄が好きだった訳で……。

 やっぱりここで言ってもいいのか迷う。

 正雄と付き合ってるって言ってもいいのか迷っている。

 心が揺らぐ。

 胸が痛くなる。

 これは罪悪感か?


 そして数秒の沈黙。


 まともに真理子ちゃん顔を見られない。

 俺ってやっぱりヘタレだった。

 言うって心で誓っても言えない。

 俺はすっげーダメな奴だった。


「ねぇ綾香、私は桜井先輩には告白しないよ? だって私には無理だから」


 俯く俺の耳に入ったのは真理子ちゃんの無理だ宣言だった。

 俺は顔を上げる。

 少し潤んだ瞳の真理子ちゃんが笑っていた。


 えっ? なんだそれ? 何でそんな顔なの? 無理ってなんだよ?

 まさか、真理子ちゃんは正雄の彼女になれないって思っているのか?

 いやいや、真理子ちゃんはかわいいし、知的だし、無理だってないだろ?

 正雄は真理子ちゃんの事を昔から知ってるし、昔から仲だってよかったじゃないか。

 正雄だって偽装彼女じゃなくってマジで彼女が欲しいはずだろ?


「真理子ちゃんはそれでいいと思ってるの?」


 って何を俺も何を聞いてるんだよ!? 今こんな事を聞いてどうするんだよって言ってるよな?

 俺は正雄と真理子ちゃんをひっつけたいのか?

 だとしたら偽装カップル作戦は実行しないのか?

 でも、それじゃ俺が困るんじゃないのか?


「いいの……それでいいの」


 よ、よくないだろ? 普通に考えてもよくないだろ?

 そうだ、そうだよ。 偽装は結局はいつわなんだよ。

 嘘なんだよ! 真実じゃないんだよ! 俺は……俺は!


「よくない! そんなのよくないって!」


 俺は正雄には本当の恋人をつくって欲しい!

 真理子ちゃんにも正雄にちゃんと告白して欲しい!

 嘘で固めたカップルなんて必要ないんだよ!


「いいの! 私はいいの! だって……だって!」


 目頭を真っ赤にして真理子ちゃんが俺の肩を持った。

 なんでここまで否定するんだ?

 何か理由があるのか?

 否定しなきゃダメな理由があるのかよ!?


「よくないよ! そんなんじゃよくない!」


 俺も懸命に言い返す。

 もうすでに真理子ちゃんの意見に納得がいかなくなったから。

 そうだよ、真理子ちゃんが俺に相談したのは綾香に背中を押して欲しかったからじゃないのか?

 そうじゃないのか?

 そうじゃなくって、ただ綾香に正雄が好きだって伝えたかっただけなのか?

 もう俺は偽装カップルなんて今は成立しなくてもいいって思ってるんだぞ?

 別に偽装カップルになれなくても、綾香が戻るまで俺が頑張ればいいだけなんだ。

 確かに、正雄が真理子ちゃんの告白を受けてくれる可能性はわからない。

 もしかしたら正雄が告白を断るかもしれない。

 だけど、チャレンジもなしにダメとかありえないだろ!


「いいの! いいんだよ! もうこれで相談は終わり!」


 真理子ちゃんは肩から手を放すとくるりと方向転換をして階段を下りようとする。

 俺はそんな真理子ちゃんの背中にしがみついた。

 中身が男の俺が真理子ちゃんにしがみつくとかダメなはずだ。

 だけど真理子ちゃんを引き留めるにはしかみつくしかなかった。


「ダメって! 真理子ちゃんはそれで本当に納得できるの?」

「納得とか……わからないけど……今の私にはそれしか選択肢はないんだよ」

「何で? 何でそうなるの? 真理子ちゃんは後悔しないの? 桜井先輩に別の彼女が出来てもいいって言うの?」


 真理子ちゃんがゆっくりと振り向いた。

 涙いっぱいの瞳のままぐっと唇を噛んだ。


「うん……仕方ないよね」


 そしてまた微笑んだ。

 仕方ないだって? じゃあ本当に何で俺に相談したんだよ?


「へぇ、真理子ちゃんはそれでいいんだぁ?」


 俺はイラッとした。だから嫌味ったらしく言ってみた。

 本当の綾香はこんな言い方しないかもしれない。だけどしいて言ってみた。

 こう言えば真理子ちゃんもムキになって反抗してくれるかもなんて思った。だけど……。


「……うん」


 普通に笑顔で返された。

 また腹が立った。すっげーイライラする。


「な、何だよそれ! 良くないだろ!? 何がいいんだよ!? それでいいんだったら私に相談しないでよ!」


 半分男口調になったけど関係ない。

 今の真理子ちゃんには納得できない。だからこそ強く言う。

 俺は決して「そうか、そうだよね、仕方ないよね」なんて言わない。

 こんな真理子ちゃんを慰めるつもりなんて無い!


「あ、綾香!?」

「私は嫌だよ! 好きだって自覚しているのに、他に彼女ができても構わないとか嫌だ!」

「ねぇ、落ち着いてよ」

「何で落ち着いてなの? 落ち着いたらダメでしょ? ダメでしょ!?」

「わ、私は……ただ……この想いを綾香に知っておいて欲しかっただけなの! だから「黙って!」」


 俺が真理子ちゃんの言葉をぶった切る。

 びくんと真理子ちゃんが体を震わせる。


「真理子ちゃんが言わないのなら私が言ってくるから! 私が桜井先輩に言う! 真理子ちゃんが桜井先輩が好きだって言う!」


 俺は真理子ちゃんの体を離す。

 階段を駆け下りようとする。

 しかし、今度は真理子ちゃんが俺にしがみついた。


「ま、待ってよ!」

「待たない! 今から真理子ちゃんの代わりに告白してくる! だから放して!」

「嫌だ! 絶対に嫌だ! 放さないから!」


 真理子ちゃんが俺に向かって怒鳴った。

 涙目で俺を睨んでいる。


「私はいいって言ってるでしょ! だから本当に……やめてよ!」

「何で? 何でいいの?」

「私は先輩が好きだよ!」

「だったら告白しないとダメじゃん!」

「でも……それだけじゃダメなの!」

「えっ? なんで!?」

「例え私が桜井先輩の彼女なれたとしても、先輩はきっと楽しくないわ! 私は先輩の楽しめるような面白い話題を知らないもの! 先輩の趣味もわかってない! 私は……私は綾香みたいに笑って先輩と話せないの!」

「ま、真理子ちゃん……」

「私だけが幸せになっちゃダメでしょ? 先輩が本当に楽しくなきゃダメでしょ? 気が合うって思ってくれなきゃ意味がないでしょ? でも無理だと思う。私は先輩と一緒にずっと居られる自信もない。だから先輩には私は不釣り合いなの……」


 真理子ちゃんの言葉に俺は俯いてしまった。

 確かに、真理子ちゃんの性格と正雄の性格はまったく違かもしれない。

 ぶっちゃけ俺も真理子ちゃんとは話がなかなか合わない。

 綾香になってから真理子ちゃんとは一番遊んでいないかもしれない。

 そう、性格の不一致は恋人になる場合に重大な障害になる。


 恋人同士になった時に相手に合わせるとか、相手が合わせてくれるとか言うのもあるかもしれない。

 だけど、そんなのは最初だけだと俺は思っている。

 彼氏彼女の関係に慣れてしまえば、だんだんと相手に合わせる事が苦痛になる。

 よくドラマとかでもあるじゃないか。

 そうか、そういう事を真理子ちゃんはちゃんと考えているんだ。


「真理子ちゃん、ごめんなさい……」


 俺は深く頭を下げた。本当に申し訳ないと思った。

 真理子ちゃんの気持ちを本気で考えていなかった。


「いいのよ綾香。私は……卑怯ものだから」

「……そんな事ないよ」


 何故か涙が出た。

 本当に女になってから涙もろい。嫌になる。


「なんで綾香が泣くのよ? それは私の役目でしょ?」


 そう言いながら涙目で真理子ちゃんがハンカチを差し出してくれた。

 自分だって泣いてるのに。

 本当に優しい真理子ちゃん。

 そんな真理子ちゃんだから正雄の事をよく考えてくれたんだろうな。

 でもな? 真理子ちゃんは正雄を見る目がちょっとないかもしれない。

 正雄はな? あいつは真理子ちゃんと楽しくつきあえると思う。

 真理子ちゃんを楽しませる。その位の器量はもっているはずだから。

 でも、だからってもう言えない。

 真理子ちゃんに強引に告白しろとか、つき合えとか言えなくなった。


「真理子ちゃん……」

「なに?」


 そうだ、そうだよな。

 だったら……今こそ言おうじゃないか。

 いっそ俺と正雄との擬似カップルを……今ここで成立させてしまおう。

 真理子ちゃんの初恋を……俺が断ち切ってやるよ。

 ごめんな綾香。俺は綾香をちょっと悪者にする。


「私ね、真理子ちゃんに隠してた事があるの」

「うん……」


 なぜか落ち着いた表情で俺を見ている真理子ちゃん。

 ほんと、なんでこの子はこんなに大人なんだろう。


「私はね……」

「桜井先輩と付き合ってるんでしょ?」


 俺は言葉を失った。

 笑顔で俺と正雄が付き合ってるって言い切った真理子ちゃんに言葉を失った。

 しかし、それではダメだと首を振る。


「ま、真理子ちゃん? な、なんでそれを……」


 ニコリと微笑む真理子ちゃん。


「綾香、私にはばれないと思ってたの?」

「え、えっと? だ、誰から聞いたの?」


 正雄か? それとももう噂が広まっているのか?

 しかし、俺の予想はすべてはずれていた。

 そう、真理子ちゃんが俺と正雄が付き合っていると思った理由は……。


「私、見たの……綾香と桜井先輩が抱き合ってるのを……うん……」


 そう言いながら真理子ちゃんは穏やかな表情で俺を優しく抱きしめてくれた。

 彼女の甘い独特な香りが俺の鼻腔をくすぐる。

 柔らかい躯体が俺の体と触れ合う。


「綾香なら……きっと先輩とお似合いだよ……大丈夫だから……頑張れ」

「……真理子ちゃん」


 真理子ちゃんの肩が、体が震えていた。

 俺の左肩が湿気を帯びる。

 そう、真理子ちゃんが泣いていた。


 やっと理解できた。今日、俺に相談した理由を……。

 そして、大二郎のあのソース元は真理子ちゃんだったんだって事実を……。

 あの時に俺たちは真理子ちゃんに見られていたんだ……。


 ――でも、ちょっと重いです……これ。


 失恋で涙する真理子ちゃんを抱きしめたまま、俺は凄まじい程の罪悪感に襲われた。

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