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ぷれしす  作者: みずきなな
ココロもカラダもそして俺たちも
122/173

122 予想外の事態ってこんなに頻発するものなのか? 中編

 白い細い蛍光灯が天井で光を放っていた。

 いつもは薄暗い特別実験室。だが、今日はその教室が明るい。

 俺が知っている限り、今までこの教室で蛍光灯がついていた事は一度すらない。

 だけど、野木は電気をつけた。それに深い意味はあるのか? なんて考えても何も思い浮かばない。

 だけど何かが頭の中には引っかかっていた。言葉には出来ないが。

 …………

 ……

 しかし……気まずい。

 ちらりと横を見ると綾香の制服を着た輝星花がソファーに腰掛けて床を見ている。

 そんな輝星花を見ながら俺はまずかったなぁと今ごろになって後悔した。

 俺の些細な気もない一言でこんなに場の空気が乱れるとは……。

 でも、よくよく考えればこうなったのもおかしいと思う。

 輝星花きらりは俺のどんな言葉にも大抵は動揺なんかしない奴だった。だけど今回は違った。俺の「かわいい」の一言に動揺しやがった。

 これはどういう事なのか?

 どういう事って……。

 …………。

 あまり深く考えずにすぐに一つ思い浮かんだ。

 でも、違うだろ? すぐに自分を否定する。


 まぁ、確かに大抵の男子はこんな状況になればそう思うのが普通かもしれない。だけど、思った以上に女子は特別なにも考えていなかったりする。

 えっ!? 待って、それって違うからね!?

 勘違いしないで!

 こういうトークが簡単に返ってくるはずだ。たぶん。

 それに…………相手は輝星花だしな。ないない。


 そう、相手はあの輝星花なんだ。

 ありえないよな。

 でも、それでもちょっとはそうなんじゃないかって俺は勘違いをしているかもしれない。

 俺の勘違い。そう、それは、まさかこいつ、俺に気があるんじゃ? と思っている事だ。

 やばいな、そう考えるとちょっと緊張してきた。

 そんな事じゃダメなんじゃないのか? なんて言われなくてもわかってる。

 俺には茜ちゃんという俺を好きでいてくれる普通の女の子が存在する。

 元に戻れば高確率で彼女になってくれるだろう。

 それなのに今は他の女の事を考えているとか…………。

 でもさ、仕方ないだろ。俺だって妄想男子なんだよ。

 男はそういう生き物なんだ!

 何か視線を感じて横を見ると、輝星花が何してるんだという目で見てた。


 そして十五分が経過した。

 相変わらずの空気のままで会話がない。そして俺の姿も元に戻らない。


 これって……駄目だろ?

 相手が輝星花なのに俺が意識しすぎなんじゃないのか?

 俺が話ずらい空気をかもし出しているから輝星花は俺に声を掛けずらくなってんじゃないのか?

 ちらりと輝星花を見る。目が合う。輝星花が苦笑した。


 なんだよそれ……もっと普通に意識せずに話せばいいじゃないか。

 まぁ。そう言う前に俺から話せってな。

 そうだよ、この居心地の悪い空間は最低だよな。俺はもっと普通に輝星花と話をしたいんだよ。


 俺は勇気を振り絞る。そして口をやっと開いた。


「な、なぁ輝星花」


 声がうわずったぁ! 俺ってこんなに緊張に弱かったっけ。


「な、なんだい?」


 しかし、大丈夫だ、問題ないっ! 輝星花もうわずった。って大丈夫って訳じゃないか。って、なんだ輝星花?


「あのさ、お前ちょっと顔色悪くないか?」


 そう、輝星花の顔色がどうみても悪かった。しかし、会話再開いきなりこの台詞せりふでよかったのか?


「あ、ああ、大丈夫だよ」


 うん、大丈夫だった! 普通に輝星花から会話が返ってきた。

 しかし、正直に言うと輝星花と言えど女子だ。俺は女子に対して気をつかって話すのは今でも苦手だ。

 女子トークなんて女子で生活しててもそうそう身につかない。俺はそれを実感している。って、今はこんな事を考えてる暇ないんだった。


「輝星花、マジで顔色が悪いぞ? 本当に大丈夫か?」

「あはは、ありがとう。それよりも君の方こそどうなんだい? 体調が悪くなったりしていないか? 薬が体に合わないとかあったら困るからね」

「それは大丈夫だ。思ったよりもなんともない。別に頭も痛くないし、それよりなかなか効果が続くんだなこれ?」

「そうだね、思ったよりも効果時間が長いんだね。僕も関心しているよ」


 輝星花は少し苦しそうな表情で苦笑した。

 おい、大丈夫なのか? さっきより顔色が悪いぞって……。よく見たら。


「お前、その制服、サイズ合ってないよな?」


 そう、どう見ても綾香の制服は輝星花に合っていなかった。

 そのおかげで色々と不具合が発生しているようだ。

 だからなのか? だから体調が悪そうなのか?


「そ、そうかな?」


 野木は自分の着た綾香の制服をペタペタと触りながら俺を見た。


「そうだね。綾香君の制服はちょっと僕にはきついかもしれない。特に胸が……お、押しつぶされてて……苦しいかも」


 そう言って胸を抱え込む輝星花。


「む、胸かよ……」


 思わず輝星花の胸を見た。すると確かにマジできつそうだ。ピッチッピチになっている胸部はいつはち切れてもおかしくない状態だ。

 あと、スカートがミニミニになっている。少し動けばパンツが見えそうだ。

 まぁ……さっき見たけどな。ボクサーパンツを。


「ちょっと……というか、かなりきついかもしれないね」


 白い顔になった輝星花が前屈みになった。

 俺はその制服で余裕あるなぁって感じだった。なのにお前はかなりきついとか……お前の胸は何カップだよ!? って突っ込みたくなるじゃないか。

 だけどその前に、輝星花の奴。


「おい、サイズが合わないんなら着替えてもいいぞ?」


 そう、無理して着る必要はないだろ。


「そうだね、このままじゃこの制服が破れてしまいそうだね」


 というか破れていないのが不思議だろ。


「流石に綾香君の制服を破る訳にはいかないよね」

「まぁ、そうだな」

「お言葉に甘えて、ちょっと僕は着替えてくるよ。君はここで待っていてくれ」

「あ、ああ」


 野木はスカートを押さえながらソファーから立ち上がった。

 そして、ちょっとふらつきながらそのままの格好で教室から出て行った。


 一人取り残された俺。

 暇をもて弄び、俺は特別実験室の中を見渡す。

 スチール製の収納棚の中には茶色いビンが並び、そして教室の隅っこには天体望遠鏡があった。

 そう、ここは天体観測部の部室でもあるのだ。

 急遽俺のために作った特別な部活。いや、普通の部活なんだけどな。

 そして、俺はそんな天体観測部の唯一の部員だ。そして顧問が野木だ。

 あ、絵理沙も天体観測部だった。それでも、部員は二人しかいない。

 ここに入りたいという人間が出たら、それは野木が排除している。

 深夜も部活があるとか、知識がないとダメとか、もろもろと勝手な理由をつけて。


「やっぱり輝星花って……結構いい名前だよな? 呼びやすいし。絵理沙も呼びやすいけそ、俺は輝星花の方が呼びやすくていいよな」


 そんな下らない事を考えてしまう。


「綾香は何してるんだろうなぁ」


 そして綾香の事も思い出す。


「ふぅ……俺、何で落ち着いてるんだろ」


 真面目に危機感がなくなっている自分がいるなぁと実感してしまった。

 大きくため息をついて俺は目を閉じた。


 そしてしばらく経過して。

 しかし……野木が戻って来ない。そしてトイレにいきたい!

 ここで思い出した。そういえば俺はトイレを我慢していたんだった。

 野木に挨拶してからトイレに行こうと思っていたんだ。


「うぐぐ」


 いかん。行きたいと思うとすっげー行きたくなる。

 だけどダメだ。今の俺は男の姿だ。と頑張ったけど尿意は増すばかりだ。


「膀胱がんばれっ!」


 俺は膀胱があるあたりを撫でた。応援した。しかし、逆に尿意を催した。


「ぼ、膀胱、お前の実力はそんなものなのかっ!? 応援してもダメなのか!? じゃあ腎臓がんばれ!」


 そして腎臓がある辺りを撫でた。

 しかし、よく考えると腎臓が頑張ったらおしっこ作るじゃん!


「くっそーーーー!」


 尿意。俺はこの状況でまさか尿意と戦うはめになるとは思ってもいなかった。


「くぅぅ……誰にもばれなきゃいいよな」


 このせりふは誰かにばれる前提のフラグを立てた気もするが、それでも俺はトイレを目指す事にした。

 もはや耐えられない。仕方ない。

 俺は校内の地図を頭に思い浮かべる。トイレの位置を脳裏に浮かべる。


「ここから一番近いトイレまで約30メートルだ。今は放課後だし人は少ない。いくなら今しかない」


 俺はそっと教室の扉を開き顔を廊下に誰もいないのを確認した。


「人の気配はありません、隊長!」

「了解、作戦を実行する!」


 俺、自演乙。


「よし、作戦Tトイレ決行だ!」

「ラジャー!」


 俺は勢いよく特別実験屋を飛び出した。そして数秒でトイレに到着。久しぶりの男子トイレだ。

 ああ、そうだ。言っておくが、いくら俺が普段は女子をやっていても漫画やアニメみたいに間違って女子トイレに飛び込むようなドジはしないからな。

 ちゃんと男子トイレに入った。そして任務完了だ。


「ふぅ……」


 しかし、なんで男っていうのはしている時って吐息が漏れるんだろうな。

 そして、このしてる感覚も久しぶりだなぁ。


 ガチャ


 後方から聞こえた音。まるで水道の蛇口を閉めたように止まった。見事に止まった。まだ出きってないのに。

 何だいまの音は? 後からだよな? 後といえば個室だよな……なんか嫌な予感がする。

 俺は小便スタイルのまま動けない。まだ途中だし。

 心臓はドキドキ高鳴り後の気配を探る。すると、


「あ、先生、さようなら」


 個室から出てきた男子生徒は俺を野木だと思ったのか、普通に挨拶をして急いで出ていってしまった。

 よかった。ばれなかった。

 そうか、男子高校生が放課後にトイレで大きいのを催してした場合、外にでたら人がいたなんて恥ずかしくって飛び出すのかもな。

 俺も個室を利用していたとかあまり見られたくないしな。


「ふぅ……」


 胸を撫で下ろして任務を完遂しファスナーをあげた。

 そして俺は特別実験室へと戻る。作戦M(戻る)へ移行する。


「よし、廊下は誰もいない。戻るぞ!」

「イエッサー!」


 掛け声かさっきと違うけど気にするな。


「走れぇぇ!」

「あいあいさー!」


 俺は特別実験室へと走った。そして無事に特別実験室へと戻る事に成功。

 アニメや漫画や小説みたいにばれるなんて事はなかった。

 やっぱり作られた物語と現実は違う。そんなにタイミングよくばれたりする訳がない。

 特別実験室の中には人気はなかった。まだ輝星花は戻ってきていないみたいだ。

 もう輝星花が出て行ってから十分は経過している。


 俺は特別実験室の中をうろつき、そして中央にあるソファーに腰掛けた瞬間だった。

 ガラリと教室のドアが開いた。野木かと思って「遅かったじゃないか」と声を普通に掛けながらドアの方向を向くと……へっ?

 俺は硬直した。

 そこに立っていたのは野木じゃなかったからだ。

 いや、そういう問題じゃない。何でお前がここに!?


「さ、悟!?」

「ま、正雄!?」


 そこには正雄が立っていた。

 特別実験室の中に桜井正雄が立っている図。

 額から汗が滲む。やばい状況だと一瞬で理解した。

 でも何で? 何で? この教室には輝星花の結界がかかっているんじゃないのか?

 しかし、今はそんな事を考えても仕方ない。現に正雄が立っているのだから。


「何でお前がここに居るんだよ?」


 険しい表情で俺を睨む正雄。

 どんどん自分の顔が体が熱くなる。怪しい汗が噴きでるのがわかる。


「お前、悟だよな?」

「……」


 正雄の問いに答えられない。いや言葉が出ない。


「おい! 聞いてるのかよ!」

「ぐっ……」


 でもマジでなんでここに正雄がいるんだよ? ありえない。マジありえないって。

 俺は正雄の後ろの扉をじっと見た。

 このタイミングで野木が入ってきて俺を助けてくれないかと願った。

 しかし、無情にもドアは開かない。


「答えろ! なんで悟がここにいるんだよ!」


 半分は怒鳴り声にも聞こえるトーンで正雄は俺に向かって突き進んできた。

 やばい、これってどうすればいいんだ?

 俺は声も出せずにソファーを立ち上がるとゆっくりと後退する。正雄を見ていると頭が更に熱くなる。


「おい、なんでお前が学校に来てるんだよ? お前は行方不明だったんじゃないのかよ?」

「いや……」

「ずっと音信不通だっただろ! なんでこんな所にいるんだよ!」

「あの……あれだ」

「なんだその格好は? 何でお前が野木先生の白衣なんて着てるんだよ!」

「いやだから……」

「答えろって! おい!」


 矢継ぎ早に質問をされるがまったく答えられない。


「いや、えっと……だからこれには事情があって」

「事情ってなんだよ? 言ってみろよ! 説明してみろよ」


 血相を変えて俺に詰め寄る正雄。こんな形相な正雄は見た事がない。

 でも、この反応もおかしいとは思わない。

 行方不明だった友人が学校にいるとか、どんな展開だってなるのが普通だ。

 だから詰め寄られても仕方ない。仕方ないとは思うけど……。


「おい!」


 正雄に言える訳ない。俺が死んで、そして魔法で生き返って、今は綾香の姿で学校に来てるとか。


「落ち着け」

「落ち着けだと? この状況で落ち着けるか。マジで今まで何をしてたんだよ!」

「いやいや、マジで落ち着けって」

「お前が目の前にいて落ち着けるか! 何度言わせんだよ!」


 しかし、この展開は最悪だ。

 俺は頭を抱えて正雄から視線を逸らした。

 そして……最悪な事は重なるものだ。


「うぐっ!」


 急激に俺の体に痛みが走った。そして何かが凝縮されるような感覚に襲われる。


「やばっ……」


 俺は瞬時に理解した。そう、薬の効果が切れたんだと。


「お、おい、急にどうしたんだよ?」


 正雄が俺の体に触れる。しかし俺の体の異変は納まるなんてない。


「ま、正雄……お願いだから……教室から出て……ぐぐっ」


 無駄だと思うが俺は正雄に嘆願した。だが、やはりというか正雄は居座ったままだ。


「お前、何を言ってるんだ? こんな状態でほっておけるか」


 正雄、お前ってこんな状況でも俺に気を使ってくれるのか? 優しいな。でも、いらんから出て行ってくれよ!

 このままじゃ俺が綾香だってばれるだろうが……


「つ、ついて来るなよ?」


 俺は懸命に立ち上がり、そして教室から飛び出そうと駆け出した。

 しかし、俺の腕をしっかりと逞しい男の腕が掴む。


「どこに行く気だよ」


 振り返るとそこには険しいけど、先ほどの怒りに満ちた表情とは別の表情の正雄。

 怒りと心配が入り乱れたような表情の正雄が俺の腕をしっかりと持っていた。

 ……やばい、終わったなこれ。

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