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ぷれしす  作者: みずきなな
ココロもカラダもそして俺たちも
120/173

120 ココロもカラダも 後編

 俺は特別実験室にいる。


「じゃあ、俺が大二郎にドキドキしたりしたのはホルモンバランスが崩れたせいだっていうのか?」

「そうだね、今回の初潮の兆しは大宮に買い物に行った頃からあったはずなんだ。生理が始まっていない状態であってもホルモンバランスは崩れやすくなる。君はあの時から精神不安定な状態だったんだよ」


 そして、特別実験室で野木と真剣な話し合いをしていた。


「マジかよ……」

「マジだ。君は今の僕とは違うんだ」


 今の僕。今の絵理沙は野木に変身をしている。


「君は魔法で完璧な異性になってしまっているんだ。僕みたいに単純に容姿を変える程度で済んではいない。君の体は完璧な女性なんだよ……」

「完璧か……」


 俺の心臓が緊張で脈拍を早めた。体中から汗が吹き出ているのがわかる。

 そう、俺は焦っていた。これで焦らない訳がない。


「おい、もしもだ。もし俺の女性化が進むと俺はどうなるんだ?」

「……そうだね、自覚なしに女性らしくなってゆくんじゃないかな」

「自覚なし?……どういう意味だ?」

「無意識に男性に対して好意を抱き始めるとか、母性本能が生まれるとか……。本当の女性らしい考えになってゆく」

「こころまで本当の女になるのか?」

「ああ、無意識にね」


 俺は自分の両手を見た。

 綺麗な小さな両手。綾香の両手。でも俺の両手だ。


「おい……でも、気持ちをしっかり持てば大丈夫なんだよな?」

「それは……君次第だね」

「俺次第……」

「言っておくが、悟君は男子に対しても好意を持ち始めている。これは事実だ。だから、着実に心が女性化していると言っても過言ではないだろう」


 俺は唾を飲み込んだ。

 確かに、俺は大二郎にドキドキするようになった。

 男の姿の輝星花に、野木にすらドキドキするようになっていた。

 俺の気持ちはおかしくなってきている。

 おかしくなっているんだよな?

 いやいや、なんで? 何で俺がおかしくならなきゃいけないんだよ?

 だいたい俺のせいじゃない。

 生理だって何でくるんだよ? 俺は女になりたい訳じゃない。

 たまたま女として生き返っただけなのに、女になってゆくとかありえないだろ?

 どうすればいいんだ?

 どうすればって、応えは一つしかないだろ?

 どうせそのうち戻るんだ。だったら今すぐにでも戻る方法を考えてもらえばいいじゃないか。

 こいつら魔法の世界から来ているのに、なんで絵理沙しか使えない魔法とか存在するんだ?

 おかしいだろ? 嘘ついてるんじゃないのか?

 こいつら、俺を騙して実験してるんじゃないのか!?


「おい……」

「なんだい?」

「今すぐ俺を元に戻せ!」

「えっ? い、今すぐって……無理だ」

「無理じゃない! 今すぐに戻せよ! 魔法世界の人間の誰もが俺を戻せないって言うのかよ! 絵理沙しか使えない魔法とか嘘じゃないのか!? おい! 本当は俺を実験台か何かに利用してるだけなんじゃないのか!? おい!」

「さ、悟君!?」

「戻せ! 戻せ!」


 俺は野木を突き飛ばした。

 野木はそのままソファーに仰向けに倒れ込んだ。


「落ち着いて、悟君!」

「何が落ち付けだ! 俺は悟だ! こんな偽りの姿をずっと続けたいなんて思ってないんだよ! 戻せ! 俺は女になりたくなんてない!」

「わかるよ! わかる! 僕も君を女性にしたくない!」


 野木の顔が真っ赤になり瞳が潤んだ。

 こんな野木を見るのは初めてだ。

 そして、野木の顔を見ていて俺の頭に上がっていた血が少し下がり始めた。


「マジで……すぐには戻せないのかよ?」


 やばい、俺まで目頭が熱くなりやがった。


「ごめん……本当に絵理沙じゃないと……無理なんだ」


 震える野木の声。

 こいつは真面目だ。たぶん嘘をついてない。でも……。


「そんなの現実的じゃないだろ……絵理沙しか無理とか……どんなんだよ……」


 信じたくなかった。俺は戻れるなら本当に男に戻りたかった。

 このままじゃ本当に俺はおかしくなるかもしれないから。

 あの大二郎に対する恋したみたいなあのドキドキ。

 そして、茜ちゃんや他の女性に対する緊張がなくなった。

 俺は女の子に対しての意識が薄れるかわりに、男に対する意識は大きくなってきている。

 確信は出来ないけど、だけどそうとしか考えられない。

 女性化してる。間違いない。俺は無意識に女性化しているんだ。

 このままじゃヤバイ。絶対にヤバイ。おかしくなる。


「悟君、今すぐ君を元には戻せないのは本当に本当なんだ。だけどもう少し我慢してくれ。僕だって君を……悟君に戻したいんだ!」

「我慢? もし、それまでに女性化したらどうする?」

「させない! 僕がさせない!」


 強く言い切る野木。しかし、俺の気持ちが落ちゆく。一気に急降下してゆく。

 怒りも消えて、今度は奈落の底へつき落とされたように落ち込んでゆく。

 生理のせいもあるだろうけど、ぜんぜ精神が安定しない。何だかまた涙が出てきた。


「君が男としての気持ちを忘れないように僕だって協力する! するから、そんな顔をしないでくれ……しないでくれよ!」


 野木が賢明に俺を慰めてくれている。

 やばい、こいつマジで優しいんだな。でも……。


「何を軽々しく言ってるんだよ……。お前は俺じゃない。俺の気持ちなんてわからない。どうやって俺に男としての気持ちを忘れないようにするつもりだ? ただの慰めならやめてくれ」


 俺はそんな優しい野木の言葉を蹴散らした。

 そして、野木の上に馬乗りになり、そのままぐいぐいと何度も体を押した。

 野木は悔しそうな表情なまま、ただただ俺に揺すられていた。


「悟君……」


 馬乗りになったままうな垂れた俺の耳に力のない輝星花の声が入った。

 そう、入ってきたのは輝星花の声だった。

 俺はゆっくりと顔を上げる。すると野木が輝星花に戻っていた。そして、輝星花が瞳に涙をいっぱいに浮かべて俺を見ていた。

 こんな悔しそうな輝星花は見た事がなかった。

 本当に悔しそうに輝星花は瞼を閉じる。すると雫が頬を流れ落ちた。

 一気に俺を襲う罪悪感。

 輝星花には何の責任もないのに、俺は一方的に輝星花を責めていた。

 俺は……何やってんだよ?

 馬乗りしていた体を戻し、仰向けになった輝星花の横に座る。


「ごめん、言いすぎた。お前のせいじゃないのに……。お前だって男として今まで生活を余技なくされてつらかったのに……。俺って最低だな。お前にあたるとかさ……。輝星花、もういいから。お前のそんな顔はみたくねぇし……。だからっ!【悟君!】うおお!?」


 何が起こったのだろうか?

 気がつけば輝星花におもいっきり抱きつかれた。

 そして、抱きつかれたまま男の姿に戻っていた。


「僕の魔法は万能じゃない。完全な男性に戻す事はできない。でも、君を男の姿にはできる。見た目だけじゃない、僕は体の仕組みも変身させる事ができるんだ!」

「き、輝星花?」

「僕も魔法力の制限がある。ずっと君を男のままにはしておけない。できても一日30分が限度だ。それでも僕は頑張るから! 毎日定期的に君を男に戻すから!」

「おい、落ち着け」


 しかし輝星花は暴走状態になったのか涙を流しながら俺の胸に顔をつけて言葉を続けた。


「なんなら僕を好きにしてもいいから……。僕を君の自由にしていいから……。僕を女性として見てくれるのなから……僕は君にすべてを……捧げてもいいから……」


 俺の心臓が爆発するかと思った。

 それくらいに強烈な言葉を輝星花は言い放った。

 それはとんでもない一言だ。いくら暴走しているからって、ここまで言われた俺はダメな奴すぎるだろ?


「輝星花、落ち着けって、いいから、そこまでしなくていいから」

「僕はどうなってもいいんだ。どうなってもいいから……」


 自己犠牲。そういう言葉があるが、今の輝星花がまさにそうしようとしている。

 好きでもない俺のためにすべてを捨てようとしている。


「どうなってもよくないだろ? おい!」

「悟君、絵理沙の罪を許してくれとは言わない。絵理沙は君に大変な事をしてしまったんだ。だから許してくれとは言わない! だけど……許してやって欲しい……」


 なんだその矛盾した言葉は?


「おい! 輝星花! 落ちつけって!」

「お願いだから……」

「輝星花っ!」


 だけど、それからも輝星花はまるでネジのはずれた壊れたスピーカーのように言葉を矢継ぎ早に放った。

 今までこんな暴走する輝星花を見た事はない。

 何がどうしてこうなったんだと思うが、原因は俺だ。確実に俺だ。

 俺に初潮がきて焦ってしまい、俺が先に暴走してしまった。そして野木に文句を言いまくってしまった。

 そこで輝星花に罪悪感が生まれたのだろう。輝星花は真面目で優しい奴だから。

 そして、ついに暴走。


 こんなに泣く奴だったとは思わなかった。

 輝星花の涙は俺の制服をぐっちょりと濡らしている。


 しかし、絵理沙は俺の特別何をしてくれる訳ではなかった。なのに、輝星花は俺の事を常に考えてくれていた。

 こいつは俺の胸こそ揉んでくるが、いつも俺の事を考えてくれていた。

 行方不明になった俺のアリバイ作りの為に北海道まで飛んでくれた。

 絵理沙が大宮に行くのにわざわざついて来た。

 そう、こいつはいつも俺の事を考えてくれていた。


「僕は……僕は……君に元に戻って欲しい……」


 俺の腕の中でボロボロと涙する輝星花。

 右手で溢れる涙をぬぐい、それでも止まらずに嗚咽をあげている。

 俺はそんな輝星花を見ていて気持ちが止まらなくなった。

 こいつを守ってやりたいと……そう思ってしまった。

 そのまま輝星花の頭をぐいっと胸元に抱き寄せる。


「えっ!?」

「輝星花、もう泣くな! さっきからお前のせいじゃないって言ってるだろ? なに感情的になってんだよ? おまえらしくない」

「だけどっ……」

「もう大丈夫だ。俺はもう大丈夫だから……。お前のおかげで落ち着いたから」

「ううっ」


 輝星花は俺の背中に腕をまわすと、ぎゅっと抱いてきた。


「輝星花」

「悟君」


 そして、俺たちはまるでカップルのごとく抱き合った。

 しばらくの時間が経過して。


「……落ち着いたか?」

「ああ……」

「よかった」

「……悟君」

「んっ? なんだよ?」

「えっと……あ、ありがとう……やっぱり君は優しいな……」

「優しくない。お前が取り乱しすぎなんだよ。って、俺も人の事は言えなかったか。俺の方が先に暴走したしな」

「いや、僕も魔法管理局の人間として恥ずかしい行動をしてしまったよ」

「こっちこそありがとな、お前のおかげで俺が落ち着いたよ」

「い、いや……お礼なんて……」


 輝星花は頬を赤くしてうつむいた。


「何だよその反応? もしかしてマジで俺が好きになったとか?」


 俺はくいっと輝星花の顎を右手で持ちあげる。

 すると、充血して潤んだ瞳の輝星花が顔を真っ赤にしていた。

 その表情を見て心臓がまたしても跳ねる。今日になって何度目だ! 相手は輝星花だぞ?


「ば、馬鹿か! 何で僕が君を好きになるんだ!」

「だ、だよな? 冗談だよ」


 そしてそのまま至近距離で俺と輝星花の目があった。

 何故だろうか? なぜか俺は輝星花と自然に見詰めあったしまった。

 俺の心臓がドキドキとすさまじく鼓動をしている。

 そして、輝星花の心臓の鼓動までもが俺にまで伝わってきている。

 えっ? 輝星花が……ドキドキしてるだと? な、なんで?


「な、なんでだろう? 僕、すごく……ドキドキしてるんだけど?」


 輝星花はそのまま心情を俺に伝えやがった。

 いやいや、解ってたけど言わなくていいから。

 言われたら余計に緊張するだろうが!


「俺も……ドキドキしてる」


 って、何で俺まで応えてるんだよ!?


「……」


 輝星花は背中を抱いていた手を、無言のまま俺の後頭部へと移動していった。


「き、輝星花!?」


 俺の目の前で輝星花の湿りを帯びたピンクの唇が震えていた。

 あと少し顔を前に出せば俺の唇が届く位置に、輝星花の唇があった。

 って、やばいだろ、この状況はやばいよな? これって……これって!?


「さ、悟君……」


 ゆっくりと近づく輝星花の唇。

 間違いない。このままだと俺は輝星花とキスをしてしまう!

 いや、でも何で俺は逃げないんだ? そうだ、嫌じゃない俺がいるからだ。って、いいのか? 俺はそれでいいのか?

 こんな訳の解らないシチュエーションで、それも勢いだけでキスとか。

 別に輝星花は俺を好きだと言ったわけじゃない。

 俺も輝星花を好きだと言った訳じゃない。

 なのにこんな展開になってもいいのか?

 既成事実から始まる恋なのか!? って、俺が輝星花と恋とかないだろ!?


「ねぇ、悟君、絵理沙の言う通りだったよ……」

「え、絵理沙言う通りって?」


 絵理沙はこいつに何を言ったんだ?


「僕は……」「輝星花ぃ、ここに悟君きてない?」


 勢いよく開いた特別実験室の扉。

 そして聞き覚えのある声が聞こえた。そう、この声の持ち主は……。


「え、絵理沙!?」


 輝星花の唇が俺の唇の触れる寸前で乱入した絵理沙。

 慌てふためく目の前の輝星花。

 ソファーで俺に抱きついてキスを迫っている輝星花に絵理沙の表情が一気に変化した。


「き、輝星花ぃぃ!」


 絵理沙は輝星花の名前を叫びながらこちらへ突進してくる。そして見事な跳び蹴りを輝星花の顔面にいれた。

 輝星花は一瞬にして俺の前から消えた。って!? 顔面蹴るか!?


「な、なにしてんのよ! ま、ま、まさかキスしようとしてたの!?」


 はい、しそうになりました。それも勢いだけで。だが言えない。


「してない! まったくしてない!」

「本当に? 本当に?」


 絵理沙の疑いの眼差しが俺に突き刺さる。


「い、いたた……」


 俺が絵理沙に睨まれていると、ソファーの向こうで頭を抱えながら輝星花が起き上がった。

 それに気がついた絵理沙が今度は輝星花に詰め寄る。


「輝星花! あんた悟君にキスしようとしたでしょ!」

「ば、馬鹿を言うな! 僕がなんで悟君とキスとか! 僕は悟君の体調を見ていたんだ」

「体調? 何よそれ?」

「悟君に生理がきてしまったんだ。だから瞳孔を見て経過観察していたんだよ」


 その言葉を聞いて絵理沙が青くなった。

 真面目に青くなるんだなと実感させてくれる程に顔から血の気がなくなった。

 それは別の意味で考えればこいつも俺を心配してくれていると言う事だ。

 まぁ……絵理沙は俺を好きなんだから当たり前かもしれないけど。

 でも、何で絵理沙は俺をこんなにも好きでいてくれるんだろう?


「せ、生理!? 悟君に生理がきたの!?」


 そして絵理沙は俺に具合はどうなの? とか色々と聞きまくりやがった。

 なんなら毎日迎えに行くけどまで言われたが、いや、来られても困るから。

 そしてそのまま時間は経過していった。


「これは問題ね。早く悟君の姿に戻れるようにしなきゃ。と言う事は早く綾香ちゃんを見つけないといけないって事ね……」

「そういう事になるな」

「わかった! 私も魔法世界の人に連絡とってみたりして探すね」

「ああ、よろしく頼むよ」

「早速、私は戻るわ。じゃあ後はよろしくね」


 何がよろしくなんだかわからないが、絵理沙は珍しく緊張した趣で特別実験室を出ていった。

 そして再び特別実験室には野木と二人きりになった。

 しかし、流石にさっきみたいな空気はない。

 もうあんな変な事にはならないだろう。


「ふぅ……悟君、危なかったね」

「何がだよ」

「何がって、もう少しで君にファーストキスを奪われるとこだったじゃないか」


 両腕を組んで「ふんっ」と息を吐く野木。

 あの憎たらしい野木が戻ってきやがった。

 でも、なんか安心する。これこそ野木だからな。


「誰が奪うんだ! 俺が奪われそうになったんだろうが!」

「いやいや、あの時は君が男だった。僕は女だった。だから君が奪うと言う事になるだろう?」

「その考え方は間違ってる! 最近は肉食女子だっている!」


 でもよかった。本当に……。輝星花が元に戻ってマジで安心した。

 あのままキスをしていたら、俺は輝星花とこの先普通に接触できなくなってたかもしれない。

 そう考えると絵理沙の乱入もお手柄だったのか?

 しかし、あのタイミングで乱入とかすごすぎるだろ。まさにネ申だな。

 顔面を蹴られた輝星花はかわいそうだったけどな。


「まぁあれだ。毎日とはまで言わないが定期的に男性の姿に戻るといい。女性化の抑制にはなるはずだから」


 そう言った野木はちょっと恥ずかしそうだった。

 さっき、自分を好きにしていいとか言ったのがいまさら尾を引いてるんだろう。

 馬鹿が、俺がお前をどうこうすると思うのかよ?

 そりゃ魅力的な体……だけどな……って! 違う!


「あ、ああ、そうだな、お願いするよ。でも、男に戻った時に今日みたいなのはナシだぞ?」

「なっ? 今日みたいって……というか、君は僕とキスをするのがそんなに嫌なのか?」


 頬を膨らませて怒っている輝星花。

 何を言いたいんだこいつは?


「嫌とかそういう問題じゃないだろ? 俺とお前は恋人同士でも好き同士でもないんだぞ? なのにそういうのはどうなんだって意味だ」


 俺がそう言うと野木の表情が一瞬だが曇ったように見えた。気のせいか?


「そうだな。確かに君の言うとおりだ」


 その後、俺は輝星花にお土産だと紙袋を渡された。

 中を確認すると、入っていたのは生理用品だった。

 そして、家に戻りその生理用品を母さんに見られ、夕飯が赤飯になった。

 どうしてこうなった!?


 ☆★☆★☆★☆★


 真っ暗な闇が校内を包み込んでいた。

 特別実験室のソファーには、うつ伏せになったひとりの女性の姿があった。

 学校中の蛍光灯がすべて消え、闇に包まれる特別実験室。

 窓から差し込む月明かりがなんとか教室の内部を浮かび上がらせている。

 まさに灰色の世界とはこの事だろう。

 その灰色の世界に一人の女性、野木輝星花がいた。


「……僕はどうしてしまったんだ」


 輝星花は声を震わして何度も何度もソファーを叩いた。

 震える右手で何度も叩いた。


「胸が痛い……苦しい……」


 そしてソファーを叩くのやめて起き上がる。


「……こんな気持ちになったおは初めてだ」


 輝星花は先ほどまで悟が座っていた所をゆっくりと右手で触った。

 そして瞳を潤ませる。


「……教えてくれ悟君、僕はどうしてしまったんだ?」


 そのままソファーに触れていた右手を胸に抱く。


「もしかして僕は……」


 左手で右手を抱えるようにぐっと強く抱く。


「本当に君の事を……」


 腕を抱いたまま丸くなりソファーに崩れた。


「……うぅ」


 輝星花はソファーに丸々り横たわると、体を震わせて顔を覆った。


「……悟君、僕はどうすればいいんだ……」


 そして、ソファーに一滴の涙が落ちた。

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