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ぷれしす  作者: みずきなな
ココロもカラダもそして俺たちも
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118 ココロもカラダも 前編

 二度寝からの寝起き。

 体がだるい。すっげーだるい。

 汗ばんだ体のまま寝たからか? 風邪でもひいたか?

 でも休む訳にはいかない。

 俺は今まで感じた事のない変な体調の悪さを我慢しつつ学校へ行った。


 授業中も体がちょっと熱っぽく、どうも集中できなかった。

 いっそ途中で保健室に行こうかと思ったが、それはそれで恥ずかしいのでやめておいた。

 なんとかかんとか授業は終わる。

 茜ちゃんや真理子ちゃんが体調わるそうだねと気遣いを見せてくれたのは嬉しかったが、そうか、他人にも体調が悪そうに見えたのか。

 そして放課後を迎えた。


「特別実験室……か」


 重いからだを動かして白い扉の前までくると、俺はぼそりとつぶやいた。

 俺が無理を押してまで学校に来たのは野木に会うためもある。

 いくら帰りたくても、ここで会わないで帰る訳にはいかない。

 昨日の夢の事も相談したいし、正雄に突っ込まれた体の事だって相談したい。


 俺はゆっくりと扉を開いた。

 鍵は閉まっておらず、ギギっと少しきしむような音をたてて扉は開く。

 鍵がかかっていないという事は野木がいるという事だ。


「野木ぃ……いるのか?」


 俺は扉を開けて部屋の中を見渡した。

 しかし、野木一郎の姿が見えない。

 おかしい。ここの鍵を持っているのは野木だけのはずだ。

 しかし、中には人影はない。

 遮光カーテンが半分閉まっており、光があまり入っていない暗い特別実験質は静かに俺を迎えていた。


 構内にいるのか? じゃあ探すか?

 しかし、探すのはやめた。

 むやみに動きまくると行き違いになる可能性もある。

 そして、今の俺はすこぶる体調が悪い。

 だから、俺は部屋の中で野木が戻るのを待つ事にした。


 俺は野木一郎の机の横まで移動する。

 すると、野木の机の上は綺麗に片づけられていた。

 まるで今日は使っていないみたいだ。

 次に椅子に触れてみた。

 これは人肌のぬくもりの確認のためだ。

 座る部分が暖かい場合はさっきまでここに居た事になる。

 すると…………。


「むっちゃ暖かいだと!?」


 その瞬間だった、いきなり背後から両胸を揉まれた!

 もにゅんもにゅんと揉みあげられる俺のあまりない胸が、それでも懸命に形を変えている。

 そんなにガンバらなくっていいんだぞ? ないんだから。

 いや、今はそんな事を考えてる場合じゃない!


「野木ぃ! なにをする!」


 俺は思いっきり胸の上で動きまわる手に爪を立てた。

 若い男の悲鳴が真後ろから聞こえた。そして手ははずれた。


「ひどいじゃないか、綾香君!」

「ひどいのはどっちだ! このセクハラ教師め!」

「セクハラ? 君はスキンシップがセクハラだと言うのかね?」


 何がスキンシップだ。どう考えても女子生徒の胸を揉みほぐすいけない男教師だろう。

 なんて思うが、こいつの中身は女だ。また微妙な事に……。


「久しぶりだね」


 野木はのんきに笑顔をつくっている。


「何が久しぶりだ。二日ぶりだろ」

「ん? いや、この格好では久しぶりかなと」

「あ、まぁ……そうかもしれないな」


 って中身同じだろ。久しぶりって事になるのかこれは?

 そんな冗談交じりの会話を終えると、真面目になったのは野木だった。

 いきなり眉間にしわを寄せると、俺の体をじっと見る。

 その視線にはいやらしさはまったく感じない。なにかこう……観察されているように感じる。


「綾香君」

「何だよ」

「今日は……どんな用事で?」

「ああ、ちょっとお前に相談があってだな……」

「相談?」

「いや、相談というか、報告か?」


 すると野木は右手を顎にあてるとニヤリと微笑んだ。

 どうしてそこで微笑むんだ?


「なるほど、女性としての僕の魅力に惹かれてしまったのですね。それで女性としての僕はかわいかったという報告と、そしてデートの誘い。そうですね!」

「どうしてそうなる!」


 いや、もう、なんだよこいつは?

 これはポジティブって取ってもいいのか?


「まぁ、冗談ですよ」

「冗談……いや、あれだ、女性としてもお前は……確かに可愛いし綺麗だったよ。それは認めておいてやる」


 なんて俺がする事のないフォローを入れると、一瞬だが野木が咳き込んだ。


「お世辞を言っても何も出ませんよ?」

「何も求めてないから安心しろ」


 しかし、本当にこいつは輝星花きらりの姿の時は綺麗で可愛かった。

 もう口に出さないが、こいつも女性として生きていたらきっと人生も変わっていたんだろうな。

 もしかするとここには居なかったのかもな。


「で、どんな用事でしょうか?」


 野木は俺の腹部をちらりと見ながらここに来た用事を聞いてきた。

 しかし、なんでお前は俺の腹とか見てるんだよ? あと胸も見るな。って、気にしたら負けか。

 よし、まずは正雄の件だな。


「最初に俺の体の事だ」


 俺が話を始めたと同時くらいに野木は右手をパチンと鳴らした。


「立ったままではつらいでしょう?」


 すると俺の体が浮いて、中央のソファーの上に運ばれる。

 野木は瞬間移動で俺の正面に移動した。っていうか魔法かよ!?


「お前、魔法力が戻ったのか?」

「おかげさまでね」


 ちょっと心配してたけど、そうか。よかった。

 野木が野木の姿に戻れないとか、マジで心配だったしな。

 でもまぁ、そう言いつつもそんなには気にしてなかったのも事実だけど。


「綾香君、どうぞ続きを話して下さい」


 野木は足を組んで真剣な表情で俺の瞳をみてきやがった。

 俺は思わず視線をそらしてしまった。

 いきなり瞳を見られるとか、やっぱりはずかしい。

 ……って、野木相手になにしてんだ俺?


「あ、あれだ。結論から言うと、俺の正体が正雄にばれそうになったんだ」

「ばれそうになった? どうしてですか?」

「ええと、実は俺の体なんだけど……痛っ」


 いきなり変な鈍痛が腹部に走った。

 すると、野木が急に立ち上がって俺の横までやってくる。

 その表情は心配に満ちていて、今まで俺が見た事のない野木の表情だった。


「な、何だよ?」

「何だじゃないでしょ?」


 そして野木は俺を睨む。

 すると俺の体が固まった。まるで金縛りにあったかのように動けなくなった。


「お、おい! 何すんだよ!」

「黙っててください!」


 野木は右手をゆっくりと俺の胸にあてる……ってなんで胸に!?

 俺の胸には野木の手のぬくもりが伝わってきた。

 それはさっき揉みほぐされた時とは違い、とても優しいぬくもりだった。

 だが、俺の体は金縛り中だ!


「待った! 優しくしてもダメだからな!?」

「だから、黙っててください」

「何でだよ?」

「あなたのためです」


 あまりに真剣な表情に俺は言葉を失った。

 そして黙ると、首だけは動くようになった。


「ちょっとだけ……調べものをしますね」


 野木はそう言って目を閉じると訳のわからない呪文を唱えた。

 十秒くらいだろうか? 野木は呪文を短時間で唱え終わった。

 すると俺の胸がいきなり光り輝き始めるじゃないか。


「なんだこれ?」


 野木はちいさく頷くとゆっくりと手を離した。すると光もだんだんと消えていった。


「今のは何だよ? 何で光ったんだよ? 俺に何をしたんだよ? おいおい」


 たぶん魔法だという事は理解ができた。

 だけど、魔法で俺に何をしたのかが理解できない。

 体が光ったけど、痛い訳でも熱い訳でもない。

 野木が俺の体に何をしたのかがわからない。

 蛍光灯もついていない暗い教室の中で俺は野木を見上げた。


「綾香君、やっぱり胸が大きくなってますね。下着のサイズ合って無いです」


 ……えっ? 胸のサイズを調べる魔法だったのか!?


「お前! 真面目な表情で何をしたかと思ったら、俺の胸のサイズを調べただけかよ!」


 すると野木は首を振った。


「違いますよ? サイズなんて触らなくても調べられますからね」

「調べなくていいから! じゃあ、何をしたんだよ?」


 すると、野木は俺の真横に腰掛けた。って何で横に座る!?

 そして、真面目な表情のまま俺の瞳をじっと見つめる。

 すると、俺の顔が一気に熱さをもった。汗が額に滲むのを感じる。

 俺は、男の姿をした輝星花に照れている!?


「綾香君、いや、悟君。僕が悟君の体の中にカードを入れたのを覚えていますか?」


 俺は咄嗟に自分の胸を見た。

 そう、俺の体の中にはカードが入っている。

 最近はすっかり忘れていたが、そうだ。俺の体にはカードが入っていたんだ。


「ああ、そうだったな。思い出した」

「で、そのカードは魔力を貯めるだけでは無く、別の色々な事にも利用出来るんですよ」

「色々な事?」 

「そうですね、例えば人の行動を魔法力によってカードに記憶させて、後日その記憶を辿って見るとか」


 えっ、て事は俺の行動って野木にばればれなのか!?


「そんなに驚かないで下さい。大丈夫です。悟君のカードにはその能力を付与していませんから」

「付与? してない?」

「そう、カードに何かの能力を持たせるには、術者が魔法力をつかって付与しないといけないんですよ」

「な、なんだかよくわかんねぇんだけど? じゃあ、さっきの魔法って何だ? カードに何かしたのか?」


 すると、野木はいきなり俺の肩を抱いた。

 そして、俺はよりによって、拒むよりも先に体中が熱くなり、心臓がバクバクと鼓動を初めてしまった。

 な、なんで俺が野木にこんな反応してんだ!?

 そうか、きっと体調が悪いからか? そうだ、そうだ。


「さっきの魔法は君の過去の行動を見る魔法です」

「えっ? 過去の行動を見る? そ、それって何だ?」

「私が大宮で君に出会ってから今日までの行動を記憶から追う魔法です」

「じゃあ……正雄の件も夢の件も?」


 野木は小さく頷いた。


「はい、記憶を拝見しました」


 ちょ、ちょっと待てぇぇぇ!

 記憶を読んだ? 記憶を見ただと?

 それってチート魔法すぎるだろぉ!


「大丈夫です。断片的にだけ見させて頂いたので、悟君が自分の部屋にこっそり入ってエッチな本を見た事なんてまったくわかりませんから」

「……」


【パチン!】


 俺の右手が野木の左頬を捉えた。


「な、なんで叩くんですか!?」

「お前が俺のプライベートな事を覗いたからだ!」

「少しくらいいいじゃないですか。こうすれば口答で説明をされるよりも解りやすいんです」

「だからて、人のプライバシーを覗き見るな!」


 野木は左頬を手押さえながら少し涙目になっている。


「ご、ごめん……なさい」


 がくりと項垂れた野木が少し可愛そうに見えてしまう。

 俺って野木にやさしすぎるのだろうか?


「まぁ……今度はするな。するなら許可を取れ。わかったか?」


 野木は小さく頷いた。そして、


「でも、僕は男同士で恋愛感情を抱くのはよくないと思うんです……」


 いきなり変な話題に話を振りやがった。


「ちょ、ちょっと待て! 俺は別に恋愛感情なんて抱いてない!」

「そうですか? 違いますよね? だって悟君は清水大二郎の事が気になっていますよね?」


 胸がナイフで刺されたかのように痛んだ。

 そう、間違ってないからだ。俺は大二郎の事は気になってはいる。


「悟君はだんだんと本当の女性になってきているのかもしれません」


 そして、野木はとんでもない事を普通に言い放った。

 俺が女性になってきているとか。

 今現時点で体は女性だ。じゃあ野木の言う女性とはなんだ?

 それはたぶん俺の気持ち? 心? そういう事なのか?


「女性ホルモンが分泌され、体を巡り、人間はその性別に適合してゆく……。魔法世界の実験でもそうでした」

「……じゃあ俺はこのまま女になるのか? 女になりかけているから大二郎にも変な気持ちが沸くのか? おい」


 野木はゆっくりと俺の方を向くと、睨むように俺の瞳を覗き込んだ。

 突き刺さるような視線に俺は思わず顔をそらしてしまった。


「悟君が受け入れなければまだ大丈夫なはずです。気持ちを強くもって、自分は男だと思うんです。清水大二郎の事だって、もし関係を持ちたくないのなら自ら断ち切るべきでしょう。それはできるはずなのですから」


 野木の言葉が重く感じた。

 確かに、俺が断ればいい話だ。そして、俺があの時に大二郎を追っかけなければ大二郎との関係はこれ以上は進展しなかったかもしれない。

 そう、俺は強く気持ちを持って【男】として生きなきゃいけないんだ。

 でも……。だけど……。このまま綾香が戻ってこなかったら?


「それを考えると何もできませんよ?」

「えっ?」


 野木が俺の心を読んだかのようにそう言った。

 いや、そうだ! こいつは俺の心が読めるんだった。


「ひ、人の心を読むな!」

「読むのではありません。勝手に入り込んでくるだけです」


 そう言った野木の表情は本当に真剣な表情だった。

 俺を茶化すんじゃない。

 ただじっと俺を真剣な表情で見据えていた。

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