表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ぷれしす  作者: みずきなな
大宮バトル 救世主は俺だ!
115/173

115 ピンチ 前編

おまたせしました。

少しだけですが続きです(><

 東鷲宮駅から続く地下道を俺は一人で歩いている。

 心臓はバクバクとまだ強く鼓動している。

 もういい加減にしてほしい。だけど、先ほどの余韻はまだまだ残っているんだ。


 そう、俺は大二郎の事を好きになりかけている。

 そう自覚したのがさっき。

 だけど俺は自分に言い聞かせる。

 馬鹿かお前は!? 相手は男だぞ? と。

 でも、だけど、それでも嫌いになんてなれない。

 やっぱり、愛とは違うけど、俺は大二郎に好意があるのは嘘じゃないみたいだ。


「駄目だろ」


 俺は首を振った。そしてまた歩き出す。


「好意は好きとは違うんだよ……」


 俺は大きく息を吐いた。


「くっそ……」


 そして、地下道の中央で立ち止まった。

 くるりと元来た道を振り向く。


「大丈夫だって。きっと一時的な事なんだよ……」


 そう、こんなの一時的なものだ。

 大二郎に大宮で助けてもらって、それで大二郎に好意を抱いただけだ……。

 そうだよ。大二郎は前から俺のダチじゃないか?

 好きだからダチなんじゃないか。

 好意なんて昔からあったじゃないか。

 そう考えると少しだけ気分が楽になった。

 大二郎の顔を思い出してもドキドキはしなくなった。

 でも疲れた。


 さっさと家に帰ろう……。


 俺は地下道を通り階段を上がって駐輪場へと入った。

 昼間でも薄暗い駐輪場。

 見渡してみたが人気は無い。

 俺は自分の自転車を見つけて鍵を外そうとバッグに手を伸ばした。


 カランカランカラン


 手に取った鍵が地面に落ちてしまった。

 床のコンクリートに落ちた鍵は跳ねて通路まで飛んでしまった。


「くっそ」


 俺は舌打ちして通路を見た。その時だった。


「ほらよ、悟の妹」


 すっと俺の自転車の鍵を取り、渡してきた男。

 俺は目をパチパチしてそいつを見る。

 見間違い?

 いや、間違いはずなんてない。

 そう、俺の目の前には正雄が立っていたのだ。


「ほら、受け取れよ。お前のだろ?」 

「さ、桜井先輩!?」


 何でこんな場所に正雄がいる!? それもなんで制服で?

 脳内に疑問がいっぱい湧くが、いるものはいるんだ。どう考えても幽霊じゃない。


「聞こえてるのか? 鍵だよ」

「あ、ありがとうございます」


 俺は正雄から鍵を受け取った。

 しかし、何でだろう?

 正雄は不機嫌とまではいかないが、あまり機嫌がよくなさそうな顔だった。


「えっと、先輩はここで何をしていたのですか?」


 俺は素直に質問をしてみた。


「ん? 俺が何でここにいるのか知りたいのか?」

「あ、えっと、嫌ならいいです」

「いや、別に嫌じゃないけど」


 正雄はそう言いながら俺の目をじっと見ている。

 思わず顔が熱くなる。そして緊張する。

 そしてやっぱりというか、俺は視線をはずした。


「そ、そんなに見ないでください」

「ん? 何だよ? 俺が見るのはダメなのか?」

「え?」


 俺がゆっくりと顔を上げると、正雄は不機嫌そうに俺を見ていた。


「おい、悟の妹」 

「は、はい?」

「ストレートに聞くぞ? お前は大二郎の事が好きなのか?」


 マジでストレートすぎるだろ!?

 で、俺にどんな答えを求めているんだよ!?

 いや、そういう問題じゃない。これはどうすれば?

 いやいや、迷うのもおかしいだろ。

 好きだけど恋してる好きじゃないんだし、正直に言えばいいだけだろ? 


「顔、真っ赤だぞ?」

「こ、これは緊張して真っ赤なだけです!」


 そんなの言わなくってもわかる!

 顔が熱いんだよ! お前が変な事を聞くから!


「そうか。で、どうなんだ?」

「なんでそんな事を先輩が気にするんですか?」

「俺が気にしたらダメなのか?」

「そういう意味じゃないですけど、いきなりすぎませんか?」

「いきなり?」

「そうですよ! 唐突すぎますよ!」

「唐突もなにも、お前はさっき大二郎と一緒に電車で戻ってきたんだろ?」


 いっきに嫌な汗が吹き出た。

 顔が熱い。背中が寒い。心臓がドキドキする。

 でも、これはさっきのドキドキじゃない。嫌な感じのドキドキだ。

 何で? 何でこいつが俺と大二郎が一緒に戻ったのを知っているんだよ?

 だけど、ここで否定は出来ない。

 こいつは俺と大二郎が一緒に戻ってきているのを見ているんだ。


「いましたよ? それが何か問題もであるのですか?」

「別に? 問題なんか無い」 

「じゃ、じゃあいいじゃないですか」

「別にいい。だけど、お前、西口の駐輪場から大二郎を追いかけていっただろ?」


 さらに熱くなった。

 もうなんというか心臓が壊れそうだ。

 こいつはスパイか? 探偵か? っていうか、色々見られすぎだろ俺!?

 それでなのか? それでこいつは俺にあんな質問をしたのか?


「見ていたんですか?」

「ああ、見てた」

「そうですか……でも、だから好きかどうかなんて関係ないじゃないですか」

「関係ない? そんな事ない」

「どうしてそんな事が言えるんですか?」

「……」


 正雄は俺をじっと睨んでいる。

 俺は懸命に視線をはずさないように睨み返している。


「大二郎はお前に優勝報告したのか?」

「えっ?」

「あいつ、今日の空手大会で優勝しただろ? お前には優勝した報告をしたんだろ? だから一緒だったんじゃないのか?」


 そうか、そうだったんだ!

 こいつがここにいる理由。こいつが俺と大二郎が一緒に戻ったのを知っている理由。

 それは、こいつが大二郎と一緒に大宮に行っていたからだ。

 でも、なんで俺を大二郎が助けた時にいなかった?


「俺が用事があって、大宮駅で大二郎を待っていたら、お前らと飯くうとかメールがあってな」


 なんという事だ!

 大二郎が携帯電話を使いこなしていただと?


「だから、俺は合流しなかったんだ」

「そ、そうです。なりゆきでお食事をして……それで一緒に帰ってきただけです」


 正雄はいきなり声を出して笑い出した。


「何がおかしいんですか!」

「お前ってすっげー顔に出るのな?」

「な、何がですか?」

「言ってやるよ。お前は大二郎が好きだろ? いや、好きじゃなくっても、前よりもずっと好意があるだろ?」


 俺は思わず言葉に詰まった。

 言い返せなかった。


「ほらな」

「だ、だから……前よりは、です。けど! 好きな訳じゃないです」

「わかったわかった。まぁいい。と言う事で大二郎をよろしくな」

「なっ? なんですかそれ!」 

「あいつはお前のためにすごく頑張って優勝したんだ。あいつは本気でお前が好きなんだ」

「えっ……っと……」


 それは解ってる。

 言わなくっても解ってる。

 だからこそ俺は困っているんだ。

 あいつの好意が俺の心の隙間に染み込むだよ。

 つらいんだよ。俺は悟なんだよ。あいつとは絶対に付き合えないんだよ……。

 俺はぐっと両拳に力を込めた。


「おい、悟の妹?」

「な、何ですか」 

「どうしたんだよ? 何か……お前、おかしいぞ?」


 おかしい? そりゃそうだ。おかしくもなる。

 俺は悟であって綾香じゃない。

 大二郎が俺に好意を示してくれていて、お前まで大二郎を宜しくとか、お前のために頑張ったんだぞとか言ってくる。

 これで普通にいられたら、それこそオカシイだろ?


「別に……大丈夫です」


 でも、まさか俺の事情を説明できるはずもない。

 こいつらにとって、俺は姫宮綾香なんだから。


「……わかった。そんな態度を取られたら、なんか俺が悪い事をしてるみたいに見えるからな」

「いや、別にそういう訳じゃなくって……」

「いい、いいって。俺はそろそろ帰るから、お前も気をつけて帰れよ?」


 正雄は先ほどまでの険しく不機嫌な表情から一転して、苦笑しながら俺に手を振った。


「さ、桜井先輩!」


 別に正雄が悪い訳じゃないのに、正雄を困らせてしまった。

 とりあえず、何か言い訳をしようかと手を伸ばすと、ガシャーンという音とともに自転車が倒れてきた。


「うわぁ!」


 俺は自転車にぶつかって、そのままコンクリートの床に前のめりに倒れ込んでしまった。


「大丈夫か!?」


 立ち去ろうとしていた正雄が、慌てて引き返して来た。

 そして、自転車を起こして、俺に手を伸ばしてくる。


「ほら、掴まれ」


 俺は左手で正雄の手を握った。すると正雄は「よいしょ」と掛け声をかけて俺を引っ張った。


「ありがとうございます」


 俺がお礼を言って手を離そうとしたが正雄は手を離さない。


「えっと? 先輩?」


 正雄は俺の左手の甲をじっと見て固まっていた。


「あの、そろそろ離してもらえませんか?」


 しかし、離してくれない。それどころか、


「おい、悟の妹」


 またしても険しい顔になり俺を睨んだ。

 俺は思わず身を引くが、手を掴まれていて逃げられない。

 何だろう? 何か嫌な予感がする。背中に冷たいものが伝わるのが解る。


「お前さ、確か左手の甲にほくろがあったよな?」


 その一言で体から血の気が引いた。一気に寒気が俺を襲った。


「あった……ここに絶対にあった」


 俺は焦りを表に出さないようにしながら懸命に思い出す。

 綾香の左手の甲にホクロがあったのか? あったか!?

 しかし、すぐに思い出した。

 そう、綾香の左手の甲にはホクロがあったという事実をだ。

 綾香の手の甲にはホクロはあった……。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ