114 予想不可能、暴走した俺? 後編
「はぁはぁ……」
もう息が切れそうだ。
なんで追いつけないんだよ。
まったく大二郎の姿が見えないじゃないか。
俺はずっと速度を落とさずに走り続けているのに……。
「くっそ!」
俺は大二郎の自宅に向かって走る。
なんでに大二郎の自宅に向かっているのか?
それは俺が納得してないからだ。
俺は今日は大ピンチだった所を大二郎に助けてもらった。
そして大二郎は約束通り、真面目に空手の練習をして地区大会で優勝した。
「大二郎の馬鹿!」
あいつは約束を守ったのに。
「あほ!」
俺はといえば、自分の事しか考えずにどうやって大二郎に付きまとわれないようにしよとか考えてたのに。
「これじゃ納得いかねぇって!」
俺って最悪すぎるだろ!
汗が目に入る。染みる。
一旦立ち止まって汗を拭いた。
ふと脳裏に大二郎の姿が浮かぶ。
夏休みのタイエーの前での喧嘩。
いきなりの告白。
第二校舎で練習をしていた姿。
「まったく……」
そうなんだよ。俺はあいつにとってのヒロインだったんだ。
俺はあいつにとって難攻不落のヒロインだったんだよ。
あいつは俺がOKを出さない限り、俺と付き合うなんてできない。
俺はあいつと付き合うつもりはない。
あいつはそれを知っている。
ずっと前から知っていたはずなんだ。
無理を承知で俺を好きになりやがったんだよ。
「あほだな、マジで」
俺だって男だ。
高嶺の花は手は届かないって思う事だってあった。
ただ好きだと想うだけじゃ付き合えないって知っている。
優勝の約束だって、守る保証なんてなかった。
それでも大二郎は約束を守った。優勝したんだ。
「大二郎。俺に約束を守らせろよ……」
このままじゃ格好悪いじゃないか・
俺は息を切らしながら駅の横を通過した。
温泉の横の通りに出たが、そこにも大二郎の姿はない。
俺はそのまままっすぐに走った。
「はぁはぁ……」
俺は約束は守る! デートをしてやる!
でもな? 何度でも言ってやるよ。俺はお前とは付き合えないってな。
お前が諦めるまでしつこく言ってやる。
だけど、それでもいいなら俺とデートしやがれ! 約束は約束だろうが!
「はぁはぁ……大二郎」
温泉から数百メートルのT字の交差点を左に折れる。
真っ直ぐに進んで県道の大きな交差点へでる。
そこを横断してから細い田舎道に入る。
「はぁはぁ……はえぇ」
しかし大二郎は見えない・
大二郎のやつ、まさか自宅まで全力疾走じゃないよな?
見通しの悪いカーブ。
流石にここまで来て追いつけないと……。
半分あきらめかけていた時、俺の前に大きな背中が小さく見えた。
大二郎だ!
俺は走るスピードを上げる!
大二郎の背中がどんどんと近くになってゆく!
どうしてだろう? 嬉しい! 大二郎を見つけて嬉しい?
思わず俺は両手を広げていた。そして……。
「大二郎!」
俺はまるで彼氏を見つけた彼女みたいに背中に飛びついてしまっていた。
し、しまった! なにやってんの俺は!
ダイブした後に我に返る。
しかし、時すでに遅し。俺は大二郎の背中にダイブした後だった。
そして、大二郎は前のめりに倒れそうになっている。
「な、何だ!? 何が!?」
大二郎はなんとか踏ん張って慌てて振り返っていた。
「ひ、姫宮!?」
そして、俺と目があった大二郎は固まった。
「や、やぁ……奇遇だね」
何が奇遇だよ!? なんて自分で自分に突っ込んだ。
「な、何だ? どうしたんだ?」
「え、えっと……」
俺はゆっくりと大二郎の背中から降りると捲れたスカートを直した。
顔が熱い。俺は赤面してるらしい。
しかしやばいな、これはめっちゃ勘違いされるんじゃないのか?
という事で、用件を専制攻撃しないとダメだろ!?
「だ、大二郎!」
「お、おう!」
「私は大二郎に言いたい!」
「お、おう!?」
驚きながら、顔を真っ赤にしながら首を傾げる大二郎。
「私は約束を守りたい! 大二郎は……大二郎はがんばって優勝した! 茜ちゃん、ううん! 私との約束を守って地区大会で優勝したんだ!」
「で、でも、あれはお前との約束じゃないってさっきも……」
「さっきもじゃない! 解ってる。確かにあれは茜ちゃんとの約束だった。でも、私はそれを受け入れた。私だって嫌なら嫌だってすぐに言ってる! 嫌だって言ってないんだからOKって事でしょ? そのくらいは理解しろ!」
「えっ!?」
「えっ!? じゃない! OKだって言ってるんだよ!」
「じゃ、じゃあ、俺と付き合ってくれるって事か?」
こいつ馬鹿だった!
「ない! それはない! 付き合うのは別だから! 私は今日も大宮で言ったけど、大二郎と付き合えない理由があるんだよ。だから、付き合うのは無理なんだって!」
そこまで言いきっておきながら、俺は大二郎の顔がまともに見られなくなり思わず俯いてしまった。
「姫宮綾香……」
大二郎は俯いている俺の左肩に大きな右手を置いた。
左肩に伝わる大二郎の手のぬくもり。
おれはゆっくりと顔を上げた。でもまだ大二郎の顔は直視できない。
「ありがとうな」
大二郎の優しい言葉。おかしい。胸が痛い。
「大二郎……」
「俺、すっげー嬉しいぞ」
「な、何がだよ?」
「初めて好きなった女が……お前だったって事がだ」
グサリと胸に何かを刺されたような痛みが走った。
ドキンとおおきく心臓が跳ねた。
俺は思わず胸を押さる。
口から飛び出しそうな程に鼓動する心臓。
この反応から考えられるのは……。違う!
いやいや、ないない! でもどうして? なんで?
大二郎は男だぞ? なのに何でこんなに胸が苦しいんだよ?
俺は……大二郎に恋なんてしてないのに!
「なぁ綾香」
「……」
「俺は……お前を好きでいてもいいのか?」
また顔が熱くなった。
何で? 俺はおかしくなったのか? それとも体が女になったから?
あーもう! 自分に自分で腹が立つ!
「ダメなのか?」
でも、大二郎は何も悪くない。
「い、いや、好きで……いてもいい。だけど……でも付き合えない」
俺は深く何度も深呼吸をした。
「そっか。わかった。俺は大宮でも言ったけど、今はダメでも可能性がゼロじゃないならお前を諦めない!」
「……」
俺はゆっくりと顔を上げた。
笑顔で俺を見ている大二郎。
「おい、綾香」
「……な、なんだよ」
「おまえさ」
「……」
「俺の事、少し好きになっただろ?」
「へっ!?」
また心臓が跳ねた。違うって言ってやろうかと思った。
だけど言い返せなかった。言えなかった。その理由は……。
「デート、落ち着いたらしてくれ」
「は、はい……約束ですからね」
「あと」
「あと?」
「おまえ、また俺を大二郎って呼んでるぞ?」
「あっ!?」
「いや、いいぞ? 好きな呼び方で呼べ。俺は大二郎でもなんでもいいから。あとな?」
「は、はい」
「俺さ、お前を名前で呼んだのに嫌だって言わなかったよな?」
「えっ!?」
大二郎は声を出して笑った。
「すまん、俺もつい勢いで呼んだだけだ。次回は気をつける」
「あ、いえ、はい……」
「じゃあな。綾香♪」
「だ、大二郎……」
大二郎は背か越しに手を振りながら歩いて行った。
そして俺はその場でしゃがみ込んだ。
まだ胸が痛い。気持ち悪。
そして……俺は気が付いた……やばいなこれ。
俺は……大二郎が少しだけ好きになっている。そう自覚したのだった。
ここで報告です。
この小説の更新を一旦休止します。
理由は仕事関係が落ち着かず、修正をしている暇がなくなってしまいました。
8月中には落ち着いて再開しようと思っております。
2日更新を続けていたのにとっても残念ですが……。
必ず再開しますので、しばしお待ちください。
宜しくお願いします。




