110 大宮バトル 救世主は俺だ! それから
大二郎は強かった。
流石というか、超高校生級の体格で空手のセンスも良かった男だ。
これが本当の大二郎の実力だったんだろうな。
今の大二郎には男の俺でも絶対に勝てない。
そうか、ここまで強くなるほど練習を頑張ったのか……。
「輝星花、ちょっと体を起こしてくれるか?」
「あ、ああ」
俺は輝星花に体を起こしてもらい、大二郎に視線を向けた。
「大二郎」
そして、小さな声で大二郎の名前を呼んだ。
意識はさっきよりもハッキリしているのだが、まだ思うようには体が動かない。
この小さい体はダメージが蓄積しやすいらしいんだな。
「ひ、姫宮! 大丈夫か!? くそ、俺がもっと早く来てれば……」
大二郎は悔しそうな表情で顔を歪めた。
「そんな顔しないでください」
「でも……姫宮が……」
なんでそんな悔しそうなんだよ?
そうか、こいつは本気で俺が好きなんだな……。
ああ、なんだこれ? 何か胸がぎゅっと押しつぶされそうなんだけど。
息が苦しい。顔が熱い……。くぅ……。
「ほ、本当に大丈夫が? 姫宮?」
「あ、うん。大丈夫です。本当にありがとうございました」
俺はなんとも言えない胸の苦しみを憶えたまま、大二郎にお礼を言った。
大二郎は少しほっとした表情を浮かべて胸に手をあてている。
「よかった……お前に何かあったらどうしようかと思った……。で、えっと? あの……あんたは姫宮綾香の友達ですか?」
大二郎は俺を抱きかかえている輝星花を困った表情で見ている。。
そうか。大二郎は野木一郎との接点はあるが、輝星花とは接点が無いんだったな。
「はい、私は綾香さんのお友達です。今日は危ない所を助けて頂いてありがとうございました」
輝星花はいかにも作った笑顔でそう言った。
「そうか、友達ですか。それにしても危なかったですね。最近の不良は暴力に訴えるんですね」
珍しいな、大二郎が敬語とか。
まぁ、初対面だからな。というか、大二郎が、そんな常識を備えていた事に驚きだな。
「そうですね……本当に助けて頂けなかったら……」
「しかし、どうして絡まれてしまったんですか?」
「えっ? っと?」
輝星花が困ったような表情で俺を見た。っていうか、見るな!
うーん……とてもじゃないが原因が輝星花が先に手を出したからなんて言えないな。
「あっ、あいつら!」
大二郎の声に俺は周囲を見渡した。
すると、いつの間にか男達が居なくなっているじゃないか。
謝りもせずに逃げるなんて男らしくない奴らだが、逆にこれで喧嘩の原因が大二郎にばれる事は無くなったのか?
「でも本当によかった。俺がたまたま通りかかって……。本当に危ない所だったな、姫宮綾香」
うん、まだたまにフルネームで呼ぶんだな。大二郎。
まぁ、それはいいとして……。 確かに、大二郎が来てくれて助かった。
俺一人じゃ三人には絶対に勝てなかったのは事実だからな。
ここでよくわかった。夏休みに大二郎に勝てたのはマグレ。
いくら体力が男のままだとしても、瞬発力が常人より上でも、所詮は人間なんだ。女なんだ。
勝てないやつには勝てないんだな。
「おい、姫宮綾香?」
「あ、はい。」
やばいやばい、ちょっとボーとしてた。
「先輩、本当に助かりました」
「私からも、もう一度お礼を言わせてください。ありがとうございました」
「いえ、お礼を言われても困ります」
すこし恥ずかしそうな大二郎。頬が赤い。
まさか、輝星花を相手に照れているのかよ!?
「綾香さん、もう頭は大丈夫ですか?」
輝星花優しげな言葉が俺になげかけられた。同時に柔らかい感触がもぎゅっと……。
ふと視線を輝星花の顔から輝星花の胸へと移すると……。
こいつ! 自分の胸を俺におもいっきり押しつけてるじゃん! って待て? 何だか俺の胸にも変な感触が……。
そこで気が付いた。俺の胸の上に輝星花の右手が大事な物を包むような形でのっている事に。
「あら? どうされました?」
ニコリと満面の笑みの輝星花。
「ど、どうされましたじゃない!」
俺は咄嗟に胸の上の手を叩き落として立ち上がった。
「えっ? おっ? な、何だ? 姫宮、体の具合はよくなったのか?」
俺が突然声を出して立ち上がったので大二郎はかなり動揺している。
輝星花は野木一郎っぽい怪しい笑みを浮かべて俺を見ている。
先ほどまで俺の胸を揉んでいた右手をもにゅもにゅと動かしている。
おいおい! お前は女に戻ってまでそれか! く、くそーーー!
「か、体はぼちぼちですね!」
お陰で、お前は大阪商人か! と言われそうな答えをしてしまったじゃないか。
「ぼちぼち? そ、そっか……。でも、本当に大丈夫なのか? 顔が真っ赤だぞ?」
「え、いや、ごめんなさい、ちょっと色々と動揺しちゃって」
「え? 動揺って? でもまぁ、あれだ……そういう姫宮綾香も…す、好きだぞ?」
大二郎が真っ赤になった。って、またなんでここでそんな台詞を!?
また顔が熱くなるじゃないか!
「え、えっと、ありがとうございました?」
でもってなに言ってんの俺!?
「こ、こちらこそ!」
なんの会話だよこれ!
俺が輝星花に視線を向ける。
すると輝星花は固まった笑みを浮かべて俺を見ていた。
「えっと、輝星花さん?」
とりあえず、話を輝星花に振ってみる。
「あ、はい……お取り込み中みたいでしたので、つい見入ってました」
余計な台詞を吐くな!
「いやいや、取り込んでないですよ? マジで」
すると、輝星花はクスっと笑ってから大二郎に視線を移した。
それに気が付いた大二郎も輝星花の方を見た。




