011 予期せぬ出会い 前編
俺と綾香の友達の三人は自転車で鷲宮駅に向かった。
急に外出が決まったので、電車で遠くに行くというのも難しいし、だから近場でという話になったのだ。
家を出たのが昼過ぎなのもあって、正直、真夏の日射が凄まじくって暑い。
アスファルトも熱をもっていて、道路からも熱気がわんわんと上がってきてやがる。おまけにスカートだと自転車のペダルを漕ぎづらいったらありゃしない。下手をすると捲れあがる始末だ。
ここで後悔した。綾香にはパンツも穿いていいぞって言っておけばよかった…今度戻って来たらOKにしてやろうと思う。
しかし、汗が滲んで気持ち悪い。早く建物に逃げたい気分だ。
「ねぇどうする? タイエーでもいく? でもあそこのタイエーって何もないんだっけ? いっそ電車でどっかいく? ねえ、綾香! 何処か行きたい所ある? 買いたい物はあるの? 何したい?」
田園の中を抜けながら佳奈ちゃんは爽やかに汗を手で飛ばす。
しかし、目的地の決めないで出発するとは…高校女子、半端無いよな。
佳奈ちゃんは笑顔のまま俺の自転車の真横につけた。
そして佳奈ちゃん、さっきまで電車は無いよねぇとか言ってたのに、電車でどっか行ってもOKとか言ってるよな? なんてて…突っ込むだけ無駄だな…こういう生き物だと割り切ろう。
「ねぇ、聞いてる?」
しかし、佳奈ちゃんは元気だよなぁ。取りあえず会話が止まらない。というか一人で勝手に話まくっている。まるでラジオ放送だ。
でも実は俺はこういうガンガン行こうぜタイプの子はすっごく苦手なんだよな…なんか会話についゆけないというか…
でも最近の女子高生はそういう子も多いんだよな? という事はこれに慣れないと女子高生とはつきあえないという事なのか?
そう考えると、妹の綾香はマジで出来のいい妹だったな。
「ねぇ綾香! 無視しないでよ~」
しまった! まったくもって無視してた! というか、相手をしてなかった!
ついつい考え込むのは俺の悪い癖だ。しかしここは、
「えっ。あっとごめん。私はどこでもいいよ?」
っと、投げやりに答えておこう。
「どこでも? どっかないのぉ? 行きたいとこぉ」
「みんなについていくから…」
「そういう答えってつまんないよっ!」
いや…そう言われても、マジで行きたい所なんてなんだが?
「ちょっと、佳奈、はしゃぎすぎだよ? 綾香の体の心配も少しくらいしてあげなよ。今日は暑いんだし、遠出とか避けた方がいいって思わないの?」
しかし、真理子ちゃんは落ち着いてるよな。本当に貴裕の妹にしておくのは勿体ないくらいだ。でもまぁ綾香も俺の妹にしておくのは勿体無いと言われてたしな…
「佳奈、私も綾香の体の事を考えるとあまり遠くには行かない方がいいと思うんだ。私はタイエーで買い物でいいんじゃないかって思うよ」
茜ちゃんは見た目は活発そうだけど、思ったよりも大人しいな。
話すぎず、適度に会話をする程度か。うん、俺が彼女にするならやっぱりこういう感じの子がいいな。
なんて思いながら茜ちゃんを見ると、茜ちゃんと目があった。俺は思わず目を剃らす。って! 何で逸らす必要があるんだよ!
もう一度ゆっくり茜ちゃんを見る。とまた目があった!
今度は頑張って目を逸らさずにいると、茜ちゃんはニコリと微笑んでくれた。
……おい! 可愛いだろ! マジで!
しかし、茜ちゃんは彼氏いるのかな? 俺は綾香なんだから、彼氏がいるのって聞いても大丈夫な気もするけど…
でもやっぱりやめた。うん。いたらショックだしな。(典型的なへたれ)
そうこうしてるうちに俺たちはタイエーの駐輪場についた。ここは多少は日陰になっていて涼しい。
そして、俺たちは自転車を置いてすこし離れた入口へと向かう。
しかし、綾香の友達と並んでわかったけど、綾香…おまえって身長がすっげー低いんだな。
前から平均よりも低いとは思ってたけど、友達三人とも綾香よりもずっと背が高いじゃないか!
茜ちゃんが一番綾香に近い身長だけど…それでも十分高く感じるし。
俺は自分の頭の上にぽんと手を乗せる。
これが身長142センチの世界か。低い…低すぎるっ!
「綾香? どうしたの?」
「えっ?」
「頭…暑いの?」
「あ、う、うん…ちょっとてっぺんが暑かったんだよね」
真理子ちゃん。人の行動をよく見てんな…というかどういう言い訳だよ…てっぺんが暑いって。
「私も暑いしっ! あそこの角曲がると入口だからさっ! 皆走れー! くーーーらーーーーぁが、あるううよおぉぉ!」
佳奈ちゃんは叫びながら入口に向かって走っていった。
しかし、マジでなんて元気な子なんだよ。でも、こっちを見ながら走ってるし、人にぶつかりそうじゃないか。あぶなっかしいなぁ…
「佳奈! 余所見をして走ってると転ぶよ!」
「そうだよ、真理子の言う通りだよ! 急がなくてもいいんだから!」
だが佳奈ちゃんは聞く耳を持ってないらしい。おもいっきり走ってるし。
「え~だって早くお店に入りたいじゃん。中は涼しいしっ!」
俺が佳奈ちゃんの走ってゆく先を見ていると、角から曲がってきた二人の男の姿が見えた。
佳奈ちゃんは相変わらずこっちを見ながら走っている。
やばい、このままじゃぶつかるぞ?
「佳奈ちゃん! 危ない! 前に人がいるよ!」
俺は咄嗟に叫んだ。が、
「え!? 前って? あっ! きゃぁ!」
『ドンッ!』っと勢いよく佳奈ちゃんは男にぶつかって尻餅をついてしまった。
「いったーい…」
お尻をコンクリートにつけている佳奈ちゃんの元へ真理子ちゃんが慌てて走ってゆく。
「ほらっ! 佳奈が余所見をしてるからでしょ!」
そう言うと真理子ちゃんは佳奈の手を引っ張って起こした。
「なんだよ、ガキ! 余所見してんじゃねーよ!」
男のうちの一人が不機嫌そうな顔をして佳奈に文句を言った。
でも、これは文句を言われても仕方ないレベルだ。余所見をしてたのは佳奈ちゃんなんだし…
「ガキって何よ! あんたがいきなり前に出てくるからぶつかったんじゃん!」
お尻を叩きながら頬を膨らませて反撃する佳奈ちゃん。
いや、ちょっと待って! ここは佳奈ちゃんが悪いだろ! ここは素直にあやまったほうがいいぞ。
そんな言い方をすると…ほら、男が睨んでるじゃないか!
「おい、何だ? なに逆ギレしてんだよ!」
ほら怒らせた! って何だ? 良く見ればこの二人、三年B組の清水大二郎と桜井正雄じゃないか!
まったくこんな所に二人で何やってんだ?
この二人。大二郎と正雄は北彩高校の三年で元の俺(悟)とは知り合いだ。
二人とも空手部に所属しているが、ほとんど部活には顔を出していないらしい。
今、佳奈ちゃんとやりあっているのが清水大二郎だ。
大二郎は身長が180センチもあり、体格もかなりいい。本気で空手をやれば絶対に強くなれるだろうに、真面目じゃないからもったいない。
しかしでかいな…今の俺には見上げるような高さだよ。
そして、大二郎の後ろで静観しているのが桜井正雄。
正雄はいわゆるイケメンだ。体格もいいし身長も175センチと結構普通にある。そして女性にも結構もてるらしい。
それにしても、大二郎の奴…何でカリカリしてんだよ? それも下級生を相手に。
まさかあの日か? って、男にはないよな。
「なによ! 切れてるのはあんた達の方でしょ!」
なんて考えていると、佳奈ちゃんはまる大二郎に喧嘩を売るような発言をしていた。
なんと怖い者知らず…というか、無謀というか…
「大二郎、ガキの相手なんてすんなよ。俺は先に行ってるぞ?」
そう言うと正雄は佳奈の相手をせずに一人で駐輪場ほ方へと歩いて行った。
俺の横を過ぎる時に、一瞬俺を見てた気がするが気のせいか?
正雄が先に行ったのに大二郎はじっと佳奈を睨んで動こうとしない。
それを見てまずいと思ったのか、真理子ちゃんが大二郎に謝った。
「ごめんなさい、この子が余所見してぶつかっちゃって…」
しかし大二郎に謝る真理子を佳奈は不機嫌そうに見ている。
「真理子! 何で謝ってるの? 私は悪くないもん!」
いやいや…普通に考えても佳奈ちゃんが悪いだろ。佳奈ちゃんも早く謝ったほうがいいぞ。
なんて、俺は少し後ろで静観中だ。綾香としての立ち回りになる訳だし、あまり出しゃばらない方がいいからな。
「佳奈、真理子の言う通りだよ? 佳奈が余所見をしてたからぶつかっちゃたんでしょ? ちゃんと謝りなよ。それに今日は綾香ちゃんもいるんだよ? ちゃんと謝って早くお店の中に入ろうよ」
そうだ! その通りだ! 茜ちゃんナイスフォローだ!
「ちぇ…仕方ないなぁ…じゃあ謝ってあげるよ。ぶつかってごめんなさい! これでいいの?」
……いや…それは。
佳奈はまるで悪くなかったかのような態度で大二郎に謝った。
その謝り方は違うだろって流石の俺も思う。
まぁしかし、まぁこれで大二郎が許すかだな。
棘がある謝り方だったけど、普段の大二郎ならこれ以上は何も言わないだろう。あいつだって大人だしな。
って思っていると、俺の予想外に大二郎の顔が真っ赤になりやがった。
「おい、そんな謝り方で良いと思ってるのか? お前、俺を馬鹿にしてるのか?」
おい、大二郎、こっちが悪いかもしれないけど、一応は謝ってるんだから許すくらいの心のゆとりが持てないのか? 俺なら許すぞ! かわいい子は特に許すぞ!
「すみません! 本当にごめんなさい! この子、ちょっとイライラしてて…」
「何で真理子が謝るのよ。私、もう謝ったし、もう行こう!」
「こら待てよ! お前、俺をなめてるのか? ちゃんと謝れ!」
大二郎は立ち去ろうとした真理子の腕を持つと強く引っ張っりやがった。
っていうか、何で真理子ちゃんなんだよ!
「きゃぁ!」
大二郎に無理に引っ張られた真理子ちゃんがバランスを崩して地面に転がってしまった。
「ちょっと! 何してんのよ! 真理子が怪我をしたらどうするのよ!」
佳奈ちゃんが大二郎に文句を言いながら転げた真理子を抱えるように起こそうと近寄ってゆく。
これはヤバイな…大二郎。マジで顔は怒ってるし…
「うっせーな! 元を言えばおめーが悪いんだろうが!」
真理子を起こそうとした佳奈に向かって大二郎は蹴りをいれやがった。
腹部に蹴りを受けたのか、佳奈ちゃんは前鏡になって、叫びとも思えない声を出してそのまま地面に転げた。
はだけていた右腕から落下して、すりむいたみたいで、若干血が滲んでる。そして地面でジタバタともがいている。
大二郎! 流石にやりすぎだ! 警察沙汰になったらどうする気だよ!
「うう…痛いよぉ…」
「真理子! 佳奈!」
慌てて茜ちゃんが二人の横でしゃがみ込む。そして、茜ちゃんが大二郎を見上げた。
まさか、茜ちゃん…大二郎を睨んでるのか?
それは今の大二郎には逆効果…って、俺も静観してる場合じゃないな。
これは流石にひどいし、いくらこちらが悪いと言っても女の子に手足を上げるなんて男がする事じゃないしな!
「こっちが悪いかもしれないけど、これって酷くないですか?」
俺は駆け寄る前に茜ちゃんが大二郎に向かって怒鳴った。
いや、やばい! 確かに茜ちゃんの意見は正論だけど今の大二郎は…
「何が酷いだ。お前らが勝手にぶつかってきやがって! 前も蹴られたいのかよ!」
「自分よりも弱い女の子にそんな事をしちゃ駄目なんです!」
「何だそりゃ? そんなルール誰が決めたんだよ! ごら!」
大二郎はさらに不機嫌そうな顔で茜を睨んでいる。そして右の拳が震えて、顔はさらに真っ赤になってる。
「うぜぇよ…お前…」
大二郎はそう呟くと右手を振り上げやがった!
大二郎の奴、何があったのか知らないけど、今やってる事は男として許されねーぞ?
確かに佳奈ちゃんが悪かったかも知れないが、流石に俺もここまでやると大二郎の肩を持つにきはなれねぇー!
「大二郎ぉぉ! いい加減にしろ!」
俺は咄嗟に大二郎と三人の間に割り込んだ。
「えっ? 綾香?」
「何だてめぇ! 小学生のガキの癖に! どけちび!」
ちび? 小学生?
やばい。むかついた…
今の言葉を本当の綾香に向かって言っていたとすれば、俺は大二郎をぶっとばす。
そして、今の俺は綾香だ。という事は、妹に言ったのも同じだ!
よってを大二郎をぶっとばす!
俺は大二郎と対峙した。




