107 大宮バトル 救世主は俺だ! そのⅡ
後ろの輝星花が少し驚いたような表情で俺を見るが、俺はそんな輝星花を無視して前の男に睨みを聞かせた。
「んだよ? 文句あんのか?」
男も俺に向かって睨みをきかせてくる。しかし、俺は怯まない。
「ちょっとそこを通して貰えませんか? 本当に邪魔なんです!」
「あっ? 何だって? 先に行きたいなら一人で行けよ! 通してやんよ! 俺はお子様に用は無いんだよ! 俺たちが用事があるのはその子だけ! お前はさっさと行け!」
ぐいって腕を引っ張られて男の後ろへ強制的に移動させたらた。
「ほら、行けよ!」
くっそ、マジでしつこくてムカツク! 背後から蹴りでも一発いれてやろうか!
そう思った瞬間だった。『ドゴ!』っという鈍い音がしたと思うと金髪の男が「げほげほ……」と咳込みながら膝をついたじゃないか。
そして男は苦しそうに胸を押さえている。
「なるほど、ミゾオチという部位に対する攻撃は、それほど力を入れなくてもかなりのダメージを入れられるのですね♪」
輝星花は笑顔でそう言うと膝をついた男を避けて再び歩き始めた。
俺の横まで来ると、ニコリと微笑んで「行きましょう」なんて悠長に言っている。
俺はこくりと頷いた。でも、やばいんじゃないのか? あんな事をされて見逃してくれるような甘い奴らには見えなかったんだけど……。
背後を気にしながら数歩あるいた。
すると、やっぱり男たちが俺たちを追ってくるじゃないか。
「おい女! 待て!
追いかけてくる赤いリストバンドの男がかなり怒っている。当たり前だけどな。
「おい輝星花! 逃げるぞ! 全力疾走だ!」
「あ、了解です~」
軽く返す輝星花の言葉に気が抜けながらもう、俺は輝星花と一緒に逃げた。
狭い路地を懸命に二人で走る。抜けるまではあと100メートルといった所か?
全力で走ればなんとか……なんて思ったが、甘かった。
なんと輝星花が遅い! めっちゃ遅いのだ!
「輝星花、遅いぞ! 全力で走れよ!」
「はぁはぁ……いや……はぁはぁ……私は……ひぉふぅ……ふ、普通の女子の……体力ですし……」
すでに息切れだと?
そういえば、野木の時も体力がある場面を見た事がない。
絵理沙はスポーツ万能なのに、なんで野木の奴!
「待てって言ってるだろ! この女!」
ぐんぐん迫る男。あのリストバンドが早い!
「輝星花!」
「ひぃひぃふぅふぅ……」
ついに輝星花が追いつかれた。
赤いリストバンドの男が無理矢理に輝星花の右手首を掴む。
「てめぇ、浩二に手を出しやがっぐふっ!」
赤いリストバンドの男が話を始めたと思ったら『ボス!』と言う重い音が聞こえた。
見れば輝星花の振り返り左ストレートが赤いリストバンドの男の左頬を捉えていた。
しかし男はふらつきはしたが倒れない。
「い、痛てぇ……」
「はぁはぁ……思ったよりダメージが……ない?」
「おい、輝星花!」
輝星花の奴は何やってるんだよ。
そんな踏み込んでない、体重も乗ってない息切れパンチで威力が出るはずないだろ!?
「はぁはぁ、ごめんなさい。ふぅふぅ……カウンターって威力があると思ったのですが……」
輝星花は体で息をしながら、自分の左拳を見た。
「お前、そう言ってる暇があったら逃げろよ!」
「ごら! 女! もう許さねぇからな!」
「ほら、大ピンチだよ!」
先ほど殴られた男が激怒している。
しかし、逃げようにも輝星花の腕はしっかりと捕まれたままだ。
やばい、これじゃ輝星花は逃げられない。
だからって俺が一人で逃げる訳にもいかない。
「えっと、手を離して頂けませんか? きゃっ!」
輝星花が女みたいな悲鳴をあげた。
俺の目の前で茶色いジャンパーの男が輝星花を羽交い絞めにしたからだ。
「何をするのですか? 離して下さい!」
輝星花はそう言ってジタバタと暴れている。
くっそ、完全に輝星花が捕まった。やばい……マジやばい。
輝星花の力はどう見ても普通の女子だ。
絵理沙みたいな特別な力を持っている訳じゃなさそうだ。本人だってそう言っていた。
魔法だって今は使えない。
だったら……。
俺はぐっと拳を握った。
ここには俺と輝星花しかいない。
だったら、ここで俺が本気でこいつらと戦えば逃げられる可能性もある。
俺は綾香の格好だけど、体力は悟の時のままなんだ。
瞬発力は悟の時よりもずっとすごいんだ。
こうなったら……俺がどうにかする!
「おい! 輝星花を離せ!」
俺は男たちの注意を引くために怒鳴った。
すると、男たちは思惑通りに俺をじっと睨む。
「あー? ガキは黙ってろ!」
「ガキガキうるせぇな……俺はこう見えてもな……」
俺は一旦後ろに走ってから、くるりUターン。そして、
「高校一年なんだよ!」
助走をつけて輝星花を羽交い絞めにした男の背中上段に跳び蹴りを食らわせた。
『ドガ!』と背中に蹴りがヒットする。
モロに入った! やったか?
しかし、俺の体はまるでコンクリートの壁を蹴ったかのように弾かれた。
えっ!?
「痛てぇ!」
結果的に、俺の蹴りで男は痛がりはしたが、倒れる事も、ふらつく事もなかった。
もちろん羽交い締めも取れなかった。
やばい、体格の差がここに来て影響したとか……。
どうみてもアメフトをしているような体格の男なんだ。
こんな蹴りで倒れるはずないだろ……。しまった……。
落下する俺の体。
跳び蹴りは諸刃の剣だ。
おもいっきり体を浮かせて蹴った分、なんとか着地はしたがふらついてしまった。
そして、そのままバランスを崩して道路に倒れてしまった。
「こいつ、こんなにちっこいのに跳び蹴りしやがった!」
茶色いジャンパーの男は輝星花を羽交い絞めにしたまま俺を睨んでいる。
くそ……こいつマジでアメフトやっていたのか? 体重バランスが良すぎるだろ。いくら体格差があっても、あれで倒れないとか……。
「お前らが輝星花を離さないからだろ! 女の子に暴力なんて男のする事じゃない!」
それでも、俺は負けたくなかった。だから、倒れたまま怒鳴った。
しかし、見下したような目で俺を見ると、馬鹿にするように笑いやがった。
「おまえ、何を言ってるんだ? この女が先に俺たちに手を出したんだぞ? それにお前も跳び蹴りしたじゃねーか? 俺たちに文句を言える立場なのかよ?」
金髪の男が俺に睨みをきかせた。
確かに輝星花が先にこいつらに手を出したのは事実だ。そして、俺も跳び蹴りをした。だけど、先にちょっかいを出したのはこいつらだ!
「お前らがナンパして来たからこうなったんだろ!」
俺はワンピースについた汚れを叩きながら立ちあがった。
しかし、どうする。
輝星花は羽交い絞めされたまま。そして、あの男は今の俺じゃ倒せない。
「綾香さん! 大丈夫ですか?」
輝星花の焦りも混じる声が聞こえた。
おいおい、ここにきて俺の心配かよ? まったく、お前は甘いよな。
「お前は自分の心配しておけって……」
しかし、輝星花はそれでも俺を心配しているようで、本気で心配そうな顔で俺を見ていた。
だが、そんな輝星花の顔が強引に正面へと戻される。
金髪の男が輝星花の顎を持って、強引に正面に向けたのだ。
「な、何をするつもりですか? あなたがたはこういう事をしても良いと思っているのですか? これは犯罪ですよ? 離しなさい!」
しかし、輝星花の言葉にまったく動揺しない金髪。
「お前、なんか生意気だな? 優しく遊んでやろうかと思ったけど、駄目だな。お前みたいな生意気女子には仕方無いからお仕置きしてやんよ!」
そう言うと、金髪の男はすっと手を伸ばし輝星花の胸に触れた。
その動作を見ていた俺の心臓が跳ねた。
「おっと、手が滑った」
何が滑っただ! どう見ても故意に触ったじゃないか!
「てめぇ! 輝星花に触ってるんじゃねぇよ!」
「うっせーな! 手が滑ったって言ってるだろ!」
この獣め! 女の敵め! くそ、どうにかして輝星花を助けないと。
そう思っている中、目の前の輝星花がいきなり震えだした。




