砂糖 酢 味噌
はぁ、と溜息を吐く。
「どうした」
一瞬間を置いて、友人がそれに反応した。
『面倒なことになっただけ』
わざわざそれに応える義理などなかったが、一応返答だけして、俺はディスプレイにもう一度向き直る。
それで察したのだろう。友人は助け舟など出すこともなく、自分の読んでいた週刊誌に視線を落とした――そういえば今日発売日か。後で見せてもらおう。
ディスプレイには職業が50種類もあるというのが触れ込みの……まぁ実際職業は確かに50あるが、……実際最終的に各人が職業として選べるのは、枝分かれを含めても18くらいしかなかったりするのではあるのだが――まぁ、いわゆるところのネトゲというやつだ。
その所属しているギルド……要するに集まりで、問題がひとつ持ち上がっているだけに過ぎない。
その問題というのが、俺が溜息を吐く原因であり、きっかけではあるのだが――ゲーム内で喧嘩とか、おめでたい人たちだ。
発端は、ギルドにある人物がメンバーとして入ったことだ。
最初は穏やかだった――別のギルドの1人がいわゆる「レア」をドロップしたとギルドチャットで報告するまでは。
その報告を聞いた新入りが、自分はそれを今までに10個はドロップしていると空気を読まずに味噌を上げた。
その時は他のメンバーが逆に空気を読んだ。
実装されたばかりのアイテムだったので、10個は確かにスゴイことだったのだ。
だが、彼の手前味噌はそれで終わらなかった。
一度賞賛を浴びたことで気をよくしたのだろう、酢の蒟蒻のとさらに手前味噌を続けた上、あろうことかレアを報告してきたギルメンに対し、「その程度のドロップで報告とか」と批判し始めた。
その批判はレアドロップ以外のことに及び、酢がすぎるほどに酢でさいて飲み続けた。ギルドのマスターが注意をするが酢にも味噌にもそれは止まらず、延々と数十分それが続くと、それは唐突に起きた。
どこで酢を買ったのか。いやむしろ彼の態度全てだったのかもしれない。
レアを報告してきたギルメンが唐突にギルドを脱退したのだ。
ギルメンのほぼ全員が、元凶となった彼を一斉に批判した。
それはまぁ当然だろう。
今まで仲良くやってきた仲間を新参が扱き下ろした挙句、脱退にまで追い込むなどあっていいものではない。リアルであれば袋叩きにされるところだろう。
しかも脱退したメンバーはギルマスに最も近しいリアル友達だ。
中々ログイン出来ないので――それも批判された内容の一部だ――皆と遊ぶ時間もなく、たまたまいたところでこの状況だ。金平糖にも角ありと言われるように、彼にだって人間なのだ。
今現在彼は、ギルメンからもマスターからも不評を買っているし、裏では脱退したメンバーにマスターが味噌を擦っているところだとか。
それでも追放しないところは、マスターの性格が砂糖船に甘草の帆柱並だということだろう。
「――また溜息か」
知らないうちに吐いていたのだろう、友人が苦笑を向ける。
「そんなに面倒なら落ちればいいのに」
『そうもいかないんだよ、これが』
黙っているだけで矛先が向く状況。今落ちるなどと言ったら無責任だとか罵られかねない。
まぁそれでも面倒はさっさと終わらせればいいという友人の忠告に従うことにして、マスターとの対話を開く。――そして対話をシュミレート。
このままでは瓜に砂糖肥えだし、彼をこのままメンバーとして置いておくのは砂糖買いに茶を頼むようなものだ。
マスターは追放をイヤがるだろうから、――ふむ、だとしたら。
「悪役の顔だな」
『ほっとけ』
会話をシュミレートする俺の顔を覗き込んで呟く友人に悪態をつきながら、俺はマスター宛てに最初の一言を投げた。
『追放すれば?』
あとはマスターを言い負かし、元凶である彼を追放させるだけだ。
蟻には、決して砂糖を預けない。
ネトゲ仲間であるところの「RRX」氏からの出題で書いたものです。
「料理以外考えられない」の一言をひっくり返してみました。
使いたかったけど断念した表現は、「砂糖の木へ餅を背負って上る」。
意味はカモネギです。
次回は「玄関 金魚すくい 風邪」です。