クリスマス 嵐 花火
「花火をしないか」
唐突に提案してきたのは、普段無口な友人だった。
『何を唐突に言い出すかと思えば』
布団の中から這い出して、パソコンのメモ帳に手早く打って見せてみる。
「……イヤなのか」
正直に言えば花火は大好きだ。だが、
『この嵐の日に?』
そう。今窓の外で吹き荒れているこの嵐のせいで、それは無理なように思えた。というか無理。絶対無理。寒くて死ぬ。
「いいじゃないか凍え死ねば……っと失言失言」
『それが狙いか貴様』
ははは、と冗談であることを笑いで示し、友人はそれでも提案を取り下げなかった。
「嵐の影響がないところなら可能だろう?」
にやりと友人は手に持った鍵を俺に見せる。
そして彼は俺にその意味を教えることなく立ち上がった。
「さ、行こうぜ」
『寒いからイヤだと言っているだろう』
そう打ってみたものの、結局口車に乗せられてしまうのだろう、ということだけはわかった。
「心頭滅却すれば火もまた涼しって言ってな」
『これ以上寒くしないでくれ』
俺が手に持ったメモ帳に書いてジト目で睨みつけてやると、友人はやれやれと肩をすくめた。
よりにもよってこんな日に花火とはとんだ酔狂だ。というか変人だ。
「いいだろうたまには。クリスマスイヴに花火ってぇのもさ」
と何の言い訳にもならないような言い訳を重ねる友人を尻目に、俺は部屋から持ち出した毛布と、そしてホッカイロの温もりを確かに感じていた。
つまるところそれだけ寒いってことなんだが、この馬鹿は寒さなど微塵も感じてはいないらしい。
それに、今日が何の日かなんて実は忘れてたんじゃないだろうか。クリスマスイヴって言葉すら、このコンクリートの塊であるところの車庫に来てから……いや、今年はじめて聞いた。
「花火っつってもさすがに打ち上げは無理か」
『当たり前だ火事にする気か』
もはや溜息を吐く気にもなれなかった。
「綺麗だな」
当たり前の感想を当たり前に呟く友人に、俺はしかし同意の頷きを送った。
派手な花火は無理だろう。コンクリートと金属に阻まれた空間とは言え、どこでどう火事になるかわからない。
しかもこの車庫にはストーブのための灯油も置いてある。引火したらコトだろう、と言うことで、花火と言っても小さい手持ち花火と線香花火にとどめた。
花火がよく見えるようにと、電気を消したためメモは使えない。
「……線香花火の音ってのは、美しいな」
音?こいつは何を言っているんだ。線香花火は火花が綺麗なんだろうが。
「他の花火じゃこの音は出せない。……自己主張が強すぎるって言うかな」
自己主張が強すぎるのはお前だろう。
「……で、少しは楽しめたか?」
彼の言葉にはっとする。
そうだ。認めたくはないが……いつの間にか俺は楽しんでいる。
やれやれ、と溜息を吐くと、彼は我が意を得たりと、笑った。
『結局何がしたかったんだ?』
部屋に帰るなり、パソコンに一番聞きたかったことを打ち込んでやる。
「花火」
言うだけ言って、友人はふふん、と笑った。
「まんざらでもなかったくせに」
『否定はしないけど』
俺は打ち込むだけ打ち込んで、布団に入ろうとベッドから毛布を剥いだ。
剥いだ布団の下にケーキと、包装に包まれたプレゼントが2つ。
思わず振り返ると、照れ臭そうに彼は頭を掻いた。
「……惜しかったな。気付くのが数十秒遅かったらベストタイミングだったんだが」
苦笑を向け、彼はどこからかワインを取り出した。
『いつの間に』
花火の前はなかったはずだ。
ふふん、と笑う友人。
瞬間。
パソコンのデスクトップが0時と共に戦場のメリークリスマスを奏でた。
「改めて。……メリークリスマス。アンドハッピーバースデイ」
12月25日。俺の誕生日。
『ありがとう』
俺は素直に礼を打ち込んだ。
Goccoの短編なんとかに投稿したものです。
400字x4回分という文字数で書きました。
後で気が付いたんですが、改行を文字数として計算するの完全に忘れてました。
なので文字数がオーバーしております。残念!
ちなみにこれは実体験です。
手品みたいに演出してやろうと思ってたのに失敗しちゃった☆テヘ☆みたいな。
ちなみに『俺』は女性です。男性だと思った人はBL好き認定します(ぉ
自分を格好良く見せようとしてますがそれは作者フィルターです。
自己美化乙wwwwwwwwwwwww