転
皆様ご機嫌よう。三毛猫のミケである。
シフトを大幅に減らされた飼い主は、更に書き物への意欲が増したようで何かに取り憑かれたかのようにずっとパソコン噛り付いている。そんなある日である。
「出来た!ミケ!」そういって、パソコンのワードなるものを見せてきた。
「いいか!ミケ。これは、大作だ。読んで聞かせてやろう!」
聞かせて貰いたい!と、思い飼い主の膝の上にと私は飛び乗る。くしゃくしゃと飼い主は、頭を撫ぜる。
「 題名は、『男女の一生」と付けた!」
んん?!と思わずつんのめりそうになる。この飼い主が、「男女の一生」なるものを書いたのか?引きこもりで人には極力会わないようにと深夜のコンビニのバイトしかしない飼い主がまさか、「男女」の事を書くとは!大変驚いたが益々、中身が気になった。佳作をとった作品は、時代ものであったので飼い主が今回は、新しいジャンルへの挑戦をしたのであろう。面倒臭がりの飼い主が!そうして、飼い主は語り始めた。
主人公は、小さい頃に疱瘡を患い顔にその痕が残ってしまった女、柊子。その顔に残る疱瘡痕を見て多感の時期の男子は、彼女をからかい、馬鹿にする。そうして、彼女は自信をなくしていき背中はどんどん丸まり猫背に、髪は疱瘡痕を隠すようにとだらりと長く伸ばしている為か、ぱっと見気味が悪い。そうして彼女は、中学まで辛い学校生活を強いられる。
主人公は、もう一人居る。母の彼氏からひどい虐待を受け、実の母にネグレクトされた美形な男、拓馬。彼は、自分の人生を諦めているのか、痛みにも鈍感に人への関心にも鈍くなっていく。彼は、やがて叔父に救済される事になるのだが、女性に不信を抱き、深い闇を持つようになりながら、働き始める。
柊子は、大学に入ってから人生が大きく変わる。優子との出会いがあったからだ。優子は、美人で器量が良く、誰からも好かれる女だ。そんな、優子は柊子に惹かれて声を掛けるのだが、そんな美しく器量のいい優子を見て、柊子はなぜこんな私を気にかけるのか。何かの悪戯であろうと決めつけていたのが、優子の友達になりたいのだという熱い熱意を感じ、次第に二人の関係は親友となる。優子は、化粧を施していない柊子を見て「柊子は、きっと化粧をすれば、自信を取り戻す!」と、言って嫌がる柊子に化粧を施す。すると、柊子は優子ほどとはいかないが、美しくなったのである。柊子は、それから自信を取り戻し髪を少しカールしたり、アイシャドウを季節にあわせて変えてみたり、お洒落になっていった。
そんなある日、柊子と優子はある小さなバーへと行く。そこには、拓馬がバーテンダーとして働いていた。二人はそこで初めて出会い、惹かれ合う。深い傷を負った拓馬は、柊子に母を求めた。しかし、柊子は「あなたのお母さんにはなれない」と、言って拓馬から離れてしまう。拓馬の抱える闇を支える自信がなくなったのも理由にある。そんな時に優子が、柊子を友人としてではなく異性として好きであるとカミングアウトする。優子は、性同一性であったのだ。柊子は、驚きはしたが、優子の決死のカミングアウトを聞き受け入れ、一緒に住むようになる。しかし、やはり男女は何か赤い糸で繋がれてるのか、もしくは何か動脈で繋がれているのか、拓馬は、柊子を求め、柊子は拓馬を求める。それを見た優子は、「私への優しさがとても辛い。私を諦めさせて欲しい」泣きながら柊子に言う。
その後、拓馬は、柊子を自分の妻として迎える為プロポーズをする。そして、二人はめでたく結婚する。しかし、結婚式場に優子の姿は無かったのであった。
「と、いう話だ!男と女……。ミケ!世の中には、男と女しかいないぞ!」
何と当たり前の事を言うのであろうか。しかし、三毛猫である私は雌がだいたいであるが、雄である自分には大それた価値が付くらしい。それを考えると、雄とは雌とは何なのか。男と女とは何なのか。考えさせられる書き物であろう。
「まぁ、恋愛経験なんてないから、妄想だがな」
そうであろう。妄想でここまで書けるのは飼い主はまことに素晴らしい。恥ずかしながら私も経験がないので何とも言えないのである。なので、とりあえず「にゃー」と鳴いてみる。飼い主は、それを聞き、「ニャー、くるしゅうないニャー」と、言ってすぐさま、床に入りいびきをかきながら寝てしまった。
私は、それを見て何だか飼い主が愛おしくなりいびきをかいて眠る飼い主に寄り添ってみた。そうして、書き物の柊子と拓馬。そうして、優子の事を考えながら目を閉じた。