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シリーズ外短編

手のひらを太陽に

作者: 榎本あきな

夏のホラー2012に参加するための作品です。

ホラー…なのかどうかわかりませんが、とりあえず「血」とか「殺す」とかそういう表現が含まれていますので、苦手な方はブラウザバックで。


それでわ↓

いつもとまったく変わらない日常。

                 いつもとまったく変わらない日々。

悩みを抱えながら今を生きる私たちは…高校生。


そんな日々がもうすぐ終わりを迎えるとは…私たちは知る由もなかった…。


***


不思議な感覚がする。

まるで…宇宙に漂っているような…。

私は、きちんと自分のベッドに入って寝たはずだ。

今日は暑かったから、クーラーをつけたのをちゃんと覚えている。

あたりは真っ暗で、私が目をつぶっているんじゃないかと疑いそうだ。


すると、いつの間にかいた長い黒髪の女性。

肌は死人のように白く、水色のワンピースを着ている女性。

顔は長い黒髪に隠れていてみえない。

よかった…。人がいた。そう思って女性に駆け寄ろうとした…が、女性が行おうとしている光景に何故か足が竦んだ。

ただ、いつの間にか手に持っていたろうそくを消そうとしているだけなのに。


声が出なく、足が震える。私の顔は今、蒼白のような気がする。


女性がろうそくの真上で手を横にふると、ろうそくの灯火が消えた。

それと同時に私の意識が遠くなって行く。

最後に見たのは、女性がこちらを向き、黒髪の間から赤い口を裂けるんじゃないかというくらい歪ませた…微笑だった。


***

ピピピピピピピという音が部屋に響き渡る。

私が目を覚ました所は、いつもの部屋。

弱弱しいこの目覚まし時計の音も…いつもまったく変わらない。


…夢…だったのだろうか…?

それにしては妙にリアルすぎる。


薄ら寒くなりながら、目覚まし時計を止めてクローゼットの中にしまってある制服を取り出す。

袖に腕を通し、スカートのファスナーをあげる。

最後にリボンをつけると…高校生の出来上がり!って…私は何をやってるんだ。


着替え終わり、朝食を食べに下へ降りる。

一階につくと、少し離れているにもかかわらず、いいにおいがここまで漂ってくる。

私は小走りでリビングへと続く廊下を歩く。


扉を開けると、台所で母が朝食を作っていた。…今日の朝食はなんだろう…。


「お母さん。今日の朝食はなに?」

「オリーブオイルと、粉チーズと…」

「いや、材料は聞いてないから」

「あら、そう?えっと…ウィンナーのなんとか炒めよ」


なんとかってなんだ。なんとかって…。

呆れながら食パンを焼く。ウィンナーのなんとか炒め以外はいつもどおり、目玉焼きにベーコン、後、私の好みで味噌汁もある。見た目完璧に洋風だけど、味噌汁は好物なんだ。


朝食が出来上がり、私は時計を確認しながらパンを食べる。

ウィンナーも結構いけた。また機会があったら作ってもらいたい。

そんな風に思いながら最後の一口を食べ、鞄を持つ。

そろそろ行かないと遅れてしまう。


「それじゃあ、行ってきます」

「はい。行ってらっしゃい」


我が家は平和だ…。


***

学校につき、自分の席に座る…と、いつも朝早く来ていた隣の山田君がいなかった。

生真面目な彼は、毎朝一番に学校に来る。そして、窓を開けて花の水入れをし、予習復習をするのだ。

最初に見たときは正直ビビッて、隠れた。ほんと、生真面目すぎる。


「やっほ~。おっはよ~」

「おはよう」


この子は私の友人であり、親友である佳奈。

黒髪ポニーテールで見た目は深窓の姫君だが、実際は体育会系の大雑把な子だ。

佳奈なら…知ってるだろうか?


「ねぇ、佳奈。山田君、今日どうしてるか知ってる?」

「山田?誰それ?山内君の間違いじゃないの?」


え………?どういうことだ。

「名前覚えるのが苦手っていったて、それはひどいよ」と笑っている佳奈。

間違い…?私の隣は……確かに山田君だったはず…。もう一回聞こう。


「隣の席の山田君のことだよ。佳奈こそど忘れしたんじゃない?」

「え?何いってるの?佳奈の隣は誰もいないじゃない。佳奈も、前の席替えのときに誰もいないって喜んでたじゃない」


誰もいないって喜んでいた?確か私は…生真面目な山田君の隣じゃ、居眠りできないと佳奈に愚痴を零した事はあるけど、誰もいないって喜んではいないはずだ。


「どうしたの?今日のあんた、ちょっとおかしいわよ?熱でもあるの?」

「う……ううん。なんでもない。……私の勘違いだったみたい。アハハハ……」

「そう?ならいいけど…」


心配してくれる佳奈。ありがとう。でも……今は放って置いてほしい。


その後、消えた山田の痕跡を探したが、一切残っていなかった。

友達は誰一人として知らず、成績表にも、名簿にも……家族の中にも、山田家の所に「山田 敦」の名はなかった。

教室にある、いつも山田が水を入れ替えていた花が、寂しそうに花を萎らせていた…。


***

また……同じ夢。真っ暗な…夢。

今日も、この夢の中にあの女性は佇んでいた。

前に女性が持っていたろうそくの炎の色はオレンジだったが、今は紫色の炎を灯したろうそくを持っている。


女性が、ろうそくの火を消そうとする。

その炎を消させはいけない気がして、私は震える声で言った。


「ま…まって…!」


その声に反応して、女性が振り向いた。

女性は、私と視線を合わせると、唇を動かした。


「―――――――――。」


そして、この前のように歪んだ微笑みを浮かべた後…ろうそくの炎を消した。

それとともに、私の意識もブラックアウトした。










そのときは思いもしなかった…。

私達が……どんどん消えていくなんて…


***

次の日、あの夢のせいか寝坊してしまった私は、鐘の鳴るギリギリに教室に入った。

セーフと思いながら自分の席に座る。佳奈の笑う声が聞こえるがきにしない。


隣に目をやる。……やはり、山田は来ていなかった。

山田がいつも世話をしていた花の方にを見るが、水を替えた形跡はなく、どんどん萎れていっていた。


ふと目に付いた花の目の前にある席。その席は……誰もいなかった。

怖くなって、いつの間にか出席を取っていた先生の声に耳を傾ける。

でも…その席の子の名前は、呼ばれなかった。


恐怖で体が震える。

……大丈夫。あれは見間違い。聞き間違い。……全部間違いだ。


自分にいくら暗示をかけても…怖くて怖くて仕方がなくて…。

佳奈の話もうわの空。先生の話も耳を通り抜け、当てられてもまったく気がつかなかった。


「あんた、家に帰ったほうがいいんじゃないの?」


他の人にも言われていたが、佳奈にも言われてしまった。

だが、私は確認しなければならない。私の平穏のために。……私の日常のために。




そんな私の願いは、空しくも空に消えていった。

やはり、どこにもない。名簿にも、人の記憶にも…どこにも。


それが怖くて、私は放課後が終わると共に部活を休み、家に帰った。

家に帰らないと、あの二人のように私が消えてしまうような気がして…。

私が、誰の記憶にも残らないような気がして…怖かった。


「あら。おかえり。今日は早かったのね」


台所から聞こえる母の声。その声も…私は聞けなくなるような気がして、こぼれる涙をそのままにして、自分の部屋へと駆け足で向かった。


部屋に入り、鍵を閉める。


消えたくない。消えたくない。消えたくない。

誰かが消えるのもいやだけど、私が消えるのもいやだ。いやだ、いやだ、いやだ!!

布団を被り、膝を抱えて小さくなる。


自分の腕で、手で、指先で、確かめないと、私が空気に溶けてしまう。

そんな気がした。


どんどんどん。と扉をたたく音がする。


「――――――!!―――――…」


何を言っているかわからない。何を言っているか聞こえない。

もしかして……あの女性が?あの女性が私を消しに来たのか…?


いやだ。消されたくない。あのろうそくのように…消えたくない。


震えながら縮こまっていると、扉をたたく音は聞こえなくなった。

恐怖の元が消え去り、腕の力を抜く。


何か痛いと思い、自分の足を見ると、血が出ていた。

よく見ると、手首にも首筋にも血が出ていた。

きっと確かめるようにこすりすぎたんだろう。


でも、こすらないと私は怖くて…怖くて……。

この血を洗いたいけれど、廊下に出るのすら怖い。あの女がいたらと思うと…。


…もしかしたら、また来るかも知れない。そしてこの部屋に入ってきたら…。

何か対抗手段を見つけなきゃ…。


本棚……ない。何か…あの女性を撃退できるもの…。

クローゼット……ない。何か……あの女性を追い返せるものを…。

机……あった。……あの女性を殺せるもの…。


すると、扉がカチャリと鳴った。

…合鍵で開けた?合鍵はお父さんしかもってないはず……まさか…殺した?


ゆっくり扉が開き……姿が見えたとたんに、私は勢いよく相手の鳩尾にカッターを突き刺した。


「―――――……」


何かを呟き、倒れる。

やった……。あの女性を倒した…!


ドタドタと下から上へ上がってくる音が聞こえる。

もしや……あの女性の仲間か…。殺さなきゃ……私の恐怖は薄れない…。


音がこの階に来たとき、私は一気にそれにカッターを突き刺した。


ガタガタガタガタと階段を転がり、下に落ちる。

下に下りてそれを見ると、呼吸はまったくしていなかった。


恐怖がなくなり、外に出る。そこには……たくさんの何かがざわざわと…。

全部…全部あの女性の仲間…。私はそう判断して、片っ端からカッターを突き刺していく。


途中、あの女性の仲間ではない何かを見た。その何かは、震えていた。

震えて縮こまり、何かを庇っていた。


「――――――!!――――!」


何かを騒ぐが、目障りだ。何もしゃべらないでくれ。

私はお前じゃない。その後ろのが目当てなんだ。その後ろの奴は、あの女性の仲間なんだ。


何かの後ろに隠れている女性の仲間をつかみ、刺す。刺す。刺す。


息絶えたところで、女性の仲間を放り投げる。

その何かは、女性の仲間を見つめたまま動かない。


何かはまったく動く気配はないため、私は何かを放って置いて女性の仲間を殺しにいく。


…これがぜんぶいなくなったら、私は、恐怖から解放されるのだろうか。

いつもの日常に戻るのだろうか。皆で仲良く暮らせるのだろうか。


いいや。暮らせるに決まってる。暮らせないなら、あの女性の仲間が残っているんだ。

だから私は…………こんなに悲しいんだ。


***

この町にいる、女性の仲間すべてを殺した。


これで私を脅かすものは何もない。

そう…。何もないんだ。


朝日が私の目に飛び込んでくる。…もうこんな時間か…。


眩しくて、手のひらを太陽にかざす。

でも、何故か太陽の光は、私の目に飛び込んでくる。


手のひらをかざしているのに………。


私の手は、透けていた。

慌てて体を見ると、透けていた。足も、手も、首も。


あの女性が……あの女性がまだいるのか!?

でも…ここの人は粗方殺したはず……もしかして。




私自身が。





その声と共に、彼女の体は真っ赤に染まった。


***


6月某日


入野町で町の住民全員が殺されるという事件が発生した。

犯人は一般の女子高校生。

生き残ったのは、仕事の関係でいなかった独身男性と、犯人の少女と親友だった少女。

生き残った少女に話を聞くと、

「数日前から様子がおかしかったんです。何かに怯えている様で…」

犯人の少女は、少女のすぐ目の前にも来たそうだが、少女が庇おうとしていた弟を殺し、そのまま少女を放置したそうだ。

……………………




ネタバレが含まれています。それでもよろしかったらどうぞ。




最初に少女の部屋を叩いていたのは、お母さんです。様子がおかしいので見にきました。その次に部屋を開けたのはお父さん。お母さんから異変を聞き、廊下から呼びかけましたが、何も反応がないのであけました。

階段から上ってきたのはお母さん。音がしたのでやってきました。


少女が何かと表現していたのは、少女の親友、佳奈ちゃん。

親友だからか、無意識に除外していたのかもしれません。


少女は、恐怖で狂いました。狂った恐怖で、佳奈ちゃん以外の町の人々が女性…あるいは女性の仲間に見えて、殺しました。

自分の日常を…平穏を手に入れるためなら、狂った少女は何も戸惑いはありません。


それでわ。

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― 新着の感想 ―
[一言] ホラーといえば幽霊、というイメージですがこういうのもアリですね。
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