かくれんぼ
「ま~だだよ」
可愛いらしい少女の声が森に響き渡る。
すぐ近くには神社があるうっすらとした森だが、特に危険な所があるわけでもない。
その森でかくれんぼをするのは、日常とも言えた。
「ハッハッ」
瀬奈は必死に森を駆け抜けた。
まだオニは追って来ないが、いつ現れるのか分からない。
とりあえず隠れる場所を探した。
しばらく走っていると、近くに神社の倉庫があることが分かった。
その時、誰かがこちらに走ってくる音が聞こえた。
急いで倉庫に駆け込む。
そしてちょうど良さそうな隙間がある所に隠れた。
少し埃っぽい臭いがするが、さほど気にならなかったので、更に深く隠れた。
それと同時に倉庫の扉が開いた。
そして誰かがゆっくりと倉庫の中に入って来た。
瀬奈はドキドキと心臓を鳴らせた。
たとえオニではなかったとしても用心にこしたことは変わりない。
足音は少しずつこちらへと向かってくる。
こちらからは誰か分からないため、より緊張感が増してきた。
しかし、足音はここまでこずに、倉庫の入り口まで引き返していった。
ゆっくりと隠れているところから出た。
誰もいないことを確認し、ほっとため息をついた。
だが、瀬奈は足元を見たとたん自分の失敗に気づいた。
ここは、長く使われてなかったのか埃が溜まりに溜まって、床を歩く度
足跡がついてしまっていた。
もちろん、足元を見れば一目で分かるぐらい瀬奈の足跡ははっきりしていて、
足跡は瀬奈が隠れていた所へと向かっていた。
瀬奈は何故入って来た人が気づかなかったか、疑問に思った。
そして嫌な予感がした。
自分の他に入って来た人の足跡があった。
しかし、その人の足跡は明らかにでかく、子供のものとは思えなかった。
つまり、入って来た人はオニでもなければ逃げる人でもない。
神社の人なのじゃないのかと思うところだが、何かを取っていた音も
聞こえなかったし、取った形跡もない。
背筋に寒気が走った。
瀬奈は直感で感じた。
「ここにいてはいけない」と。
急いでドアに向かって走るが、遅かった。
何者かの手が口に何かをあて、一瞬にして意識が虚ろになって来た。
そして抵抗することもできず、その場で倒れ込んでしまった。
あれだけ《悪い大人》には注意しろと言われたが、大人に敵うはずもなく、
瀬奈はあっさりと誘拐された。