第06話 人間の嫉妬から起きる行動程、怖いモノはない
「音尾 和だ。よろしく頼む」
男子の皆様が大はしゃぎしてる中、俺は呆然としていた。
知り合った女の子が自分の学校に転入してくる、なんてシチュエーションはマンガなどの世界だけだと思っていたが…まさかリアルに体験する事になるとは…
世の中、何が起こるかわからないな。
「音尾さん‼どこからきたんですか⁇」
「好きな食べ物は何ですか⁇」
「彼氏いるんですか⁇」
男子は皆、鬼の形相で和に次々と質問をぶつけている。
和は確かに物凄くキレイだからな…
少しでも接点を探し出して、関わりを持ちたいのだろう。
「3サイズ教えて下さい‼」
「もし彼氏いないなら、俺と付き合って下さい‼」
「とにかく俺を罵って下さい‼」
…あれ…
何か、変態発言が飛び出してる気がするのは
俺だけか?
「わかった。質問に答えていこう。前に住んでた所は、みんな知らないような田舎だ」
おお、さすが和。ちゃんと神様である事を隠してる。神様である事がばれたら大変な騒ぎになる事は火を見るより明らかだ。
和がドジッ娘属性じゃなくてよかった。ドジッ娘は画面の中だけで十分だ。
…発言がキモい??
…すいません…
「好きな食べ物は鶏のから揚げだ。あれを超える食べ物を、今まで私は食べたことがない。あのパリッとした衣に肉汁を含んだ柔らかい鶏肉。その2つが合わさることによって―」
おーい、和。自己紹介じゃなくてから揚げの紹介になってるぞー。
そう言ってやりたいが、もちろん口には出さない。
口に出してしまうと俺と和が知り合いである事がばれてしまう。そこから芋づる式にずるずると、色々な事(和が神様である事や俺と同居してる事だ)がばれてしまうだろう。
それだけは避けたい。どうしても。
特に同居なんかがばれた日には……。俺を待ち受けているのは尋問―いや拷問か?
ああ…考えただけでも恐ろしすぎる。
「…冬夢。顔が真っ青よ。どうかしたの?」
「いや、だ…大丈夫だ」
俺が元の世界に帰ってくると、いつの間にか和の自己紹介は終わっていた。
「ちくしょう…ちくしょう…ちくしょう…」
「ああ…スゴイ!なごみんの鋭い視線が気持ちイイ!!」
この世が終わったような顔で何か呟いているヤツと、自分の体を自分の腕で抱いて身悶えてるヤツがいるが…
…一体、和のヤツ何て言ったんだ?
まあ想像はつくけどさ。
とりあえず、あの哀れ(?)な二人に祈っておくか。
なんか目の前に神様がいる中で祈るって変な気もするが…。
アーメン。
「それじゃあ、和は…」
どうやら先生は、和の座る席を探しているようだ。
男子が自分の横に座って貰おうと必死にアピールしている。
「先生。俺の横が空いてます!」
「ちょっと待て! ここは俺の席だ。何勝手に俺をいないものとして扱ってんだよ!」
「うっせーな。お前みたいなブサイクに席は必要ない。お前は一番後ろで正座してろ」
「なんだとコラ!!」
うわー。ケンカまで起こってるよ。美少女の力って恐ろしいな…。
誰の横に座るかだけでこのザマだ。
もし、同居してる事がばれたら……拷問どころじゃ済まない。
親父、お袋…あんた達のせいで俺はこれから死と隣り合わせで生きていかなくちゃなりそうだ。
「んーじゃあ、音尾。お前、一ノ瀬の横に座れ。一ノ瀬は一番後ろの窓側から二番目だ。机は掃除箱の横にあるからそれを運べ」
「わかりました。先生」
おお、和が丁寧語を使ってる。いつも男勝りな口調だから、なんか斬新…。
って、ちょっと待て! 和が俺の横に座る?
確かに、和と一緒に授業を受けれるのは嬉しい。だが、男子全員を敵に回してまで受けたいか?、と聞かれると当然答えはノーだ。
俺は勢いよく立ち上がり、先生に抗議する。
「先生! 勝手に決めないで下さい!」
「うるさい。お前に拒否権はない」
一瞬で切り捨てられましたよ。はい。
もう少し考えるとかあってもいいだろ、先生。
「何だ?あいつ?」
「音尾さんが隣に座るのを拒むとか調子に乗ってるのか?」
「殺す。あいつ絶対殺す」
あれー…おかしいな。男子を敵に回さない為に抗議したのに、殺気を向けられているぞ。
って事は、逆の事をすればいいんだな。
「わかりました、先生。音尾さん、こっちですよ」
ちなみに丁寧語で話したのも、名前を苗字+さん付けで呼んだのも俺と和が既に知り合いである事を悟られないためである。
「…音尾さんと隣に座るとか…死ね」
「ちょっと顔がいいからって調子に乗りやがって…死ね」
「一ノ瀬を後で、屋上に連れ出して…殺す」
よしよし、これで殺意を向けてた男子も…って……あれ?
何で?変わってない…
いや、むしろ殺意増してるような…
「俺を産んでくれた、お父さんお母さん。ごめんなさい。俺は今犯罪に手を染めようとしています。悪いのはわかってます。でも、目の前のあれを始末しなければならないのです」
そう言って1人の男子が突然、席から立ち上がる。
「そうだ。一ノ瀬を殺らない限り世界に平和は訪れない」
「音尾さんを守るんだ! みんな立ち上がれ!」
「「「「オーーッ!!!」」」」
何に感化されたかわからないが、男子が一丸となって俺の席にジリジリと近づいて来る。
ちなみに、桐生は席に座って楽しそうにコッチを見ていた。口パクで「頑張れよ」と言っているのがわかる。
…桐生…裏切ったな‼
まあ、俺が桐生と同じ立場だったら同じ事してただろうけど。
って、そんな事をのんきに考えてる場合じゃない‼
これは怖い…ガチで不気味だ。
だって、みんな目が虚ろだし…さらにうわ言のように何かブツブツ呟いている。
…このままじゃ殺される!
生命の危機を悟った俺は、席を立ちダッシュで教室のドアに…
…行けなかった…
もう既に、男子がドアを封鎖していたのだ。
クソッ。何でこんな時にだけこいつら団結力いいんだよ。
「みんな!かかれーっ!」
男子が俺に飛びかかろうとした正にその時!
「やめろ!!」
和の声が教室に響き渡った。
「貴様ら! 集団で冬夢を襲おうとする事がどれだけ恥ずかしい事かわかってるのか!」
いきなり始まった和の説教に俺を含めた男子全員がポカーンとする。
「それでも貴様ら男か? 本当の男なら1人で堂々とやれ! わかったな?」
「「「「……」」」」
「わかったな?」
「「「「はい」」」」
男子はみんなすごすごと、自分の席に戻って行った。
「…ふうー、助かった和。ありがとうな」
机を運び、椅子に座った和に俺は言った。
「いや。当然の事だ。い、一緒に住む仲なのだからな」
「そうかもしれないが、それでも…っておい! 何言ってるんだ!」
「?」
和は何がなんだかわからない、といった風に首を傾げる。
その姿はとてもカワイくて…
ってそうじゃない。
俺は恐る恐る周りを見渡す。
男子全員がコッチを睨んでいた。目が怪しく光っているのは、俺の気のせいだと思いたい。
コレハヤバイ
俺はドアの所にまだ誰もいない事を確認すると全力ダッシュして…
しかし、その願いが叶う事はなかった。
なぜなら…
「どう言う事かシッカリ説明して貰おうかしら?」
俺の腕をガッシリと美都が掴んでいたからだ。
「何で美都が…何で美都が邪魔すーうわああああああ!!」
俺はこの後、地獄の方がマシではないか?、と思ってしまう程恐ろしい尋問を男子全員+美都から受けるハメとなった。
ところで、何で美都のヤツ…俺の邪魔したんだ?
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