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第53話 困った時の “神” 頼み



「じゃあ今から買い物に行って来るからな〜?」


うどんを食べ終わった後すぐに買い物に行く準備を済ませ、俺は今玄関にいる訳なのだが––––


「…………返事なし……か……」


––––二人は未だに自分の部屋にこもったままであった。


いつもなら自分の部屋にいても、ちゃんと玄関まで出て来てお見送りしてくれるのだが……やっぱり調子にのって褒めまくった事に気を悪くしているんだろうなぁ。


仕方ない。お詫びとしてショッピングモールで二人にそれぞれ何か買って帰るか。

和には晩ご飯用に唐揚げ(もちろん唐揚げそのものを買うのではない。材料を買って俺が作るのだ)。響には小さいぬいぐるみってところか。



「……いってきまーす」


はぁ……見送ってくれる人がいないだけでこんなにも淋しく感じるんだな。


四月までは当たり前だったはずの無言の重みを背に受けて、俺は外に出るのであった。










「財布に携帯に買う物を書いたメモ…………よし、忘れ物はないな」


気持ちを切り替え、家の前で忘れ物がない事を確認した俺はガレージへと向かう。


「よいしょ……っと」


そしてやたらと重いシャッターを開け、中に入った。


少し湿気た感じのするガレージには超高級車がずらりと並べられて––––––––いる訳もなく赤い自転車が一台、端っこにポツンと置いてあるだけだ。昔は車やバイクも置いてあったのだが、親が出て行く時に全部売り払ってしまった。



「さて、と。ぱっぱと行ってぱっぱと帰って来ますか…………って、ん? 何だか後輪が変だな」


自転車にまたがりペダルを一漕ぎしたところで後輪がおかしい事に気づき、俺は心の中で天を仰ぐ。


この感触は間違いなく––––


「あー、やっぱりそうだ」


自転車から降りて確認してみると、予想通り後輪は完全に空気が抜けてペコペコになっていた。パンクである。


この自転車は中一の頃から使っており、もうあちこちにガタがきていたのでその内パンクしそうだな––––とは思っていたのだが……何も今このタイミングじゃなくてもいいだろうに……。


などと嘆いてみても、当然パンクがなおったりなかった事にはならない訳で。


「はぁ……仕方ない。自転車屋に行くか。確かショッピングモールの近くにあったはずだし」


俺は自転車を押しながらショッピングモールへ向かうのであった。










「ん〜……どれがいいか迷うな……」


俺は一般自転車の売り場で腕を組み、ただひたすらに悩んでいた。


最初はパンクをなおしてもらうつもりだったのだが、自転車を見てもらった店員に「これはもう買い換えた方がいいですね。パンクをなおしてもまたどこかがおかしくなる可能性が極めて高いですから」と言われたので、その言葉に従い買い換える事にしたのだ。


しかしいくら何でも自転車の種類、多すぎやしないか? 27インチの自転車がある場所を探すのだけでも三分はかかったぞ。それに27インチの自転車もこれまたいっぱいあるし。

中学の時に来た時はこんなに自転車を揃えていなかった––––というか、自転車屋自体こんなに大きくなかったはずなんだけどな。

やっぱり大きいショッピングモールが近くにできて、住む人も増えたから自然と売り上げも上がったんだろうな。




「うーん。変速機能はいるけれど自動ライト点灯機能はいらないから……この自転車でいいかな? 安いし、何より俺の好きな赤色だし…………よし、これにするか。すいませ〜ん!」


そんなくだらない推測をしながら悩む事、約十五分。

ようやく買う自転車を決める事ができた俺は近くにいた店員に声をかける。


「はい。お客様、どうなされましたか?」


「えーっと、この赤い自転車を買いたいんですけれど……」


「ありがとうございます。ではこちらにどうぞ。防犯登録の手続き等がありますので」


「あ、はい。わかりました」


そう頷いて、俺は赤い自転車を押してカウンターに向かう店員の後ろをついて行く。




いやー、それにしてもやっぱり休日というだけあって結構人がいるな。



「パパ! ママ! 僕、あの青いポケ○ンの自転車欲しい!」


「買ってやってもいいが、ちゃんとコマなしで乗れるまで頑張るんだぞ? パパとママと約束できるか?」


「うん! 約束する! ボク、頑張るよ! だから買って! ね? ね? いいでしょ?」


––––子ども用自転車売り場で楽しそうに会話をしている家族。



「ええ、なのでサドルをあっちのタイプに––––」


「なるほど。それでしたらあちらの方が––––」


––––物凄く高そうなマウンテンバイクを挟んで店員と難しい顔で何やら話し込んでいるがっしりとした初老の男性。



「むむむむむ…………一体、どれを買えばいいんでしょうか?」


––––電動自転車売り場で真剣な表情を浮かべ色々な自転車を見比べている、いかにもお嬢様というオーラを醸し出した可愛い黒髪の女の子…………って麗奈⁈


一瞬自分の目がおかしくなってしまったのかと思ったが––––清潔感溢れる服 和より長い綺麗な黒髪 その黒髪を首の辺りで束ねている白いリボン––––あれは間違いなく麗奈だ。


でも、どうして麗奈が自転車屋にいるんだ? 自転車なんてお嬢様な麗奈には最も縁遠い乗り物の内の一つだと思っていたのだが……。

それに見ているのはよりにもよって電動自転車。何を考えているんだ? さっぱりわからない。


まさか自分で乗る訳ではないだろうし……おじいちゃんかおばあちゃんへのプレゼントといったところであろうか?



…………って、いくら頭の中で考えても仕方ないな。声をかけてみるとしよう。



「あのー、すいません。知り合いがいたので、一瞬そっちに行ってもいいですかね?」


「ああ、はい、構いませんよ。一瞬とは言わずごゆっくりどうぞ。終わり次第またカウンターの方に来て下されば結構ですので」


「すいません。ありがとうございます」


店員に一言詫びを入れ、俺は麗奈のいる電動自転車売り場へ向かう。




「……あ、そうだ」


そしてそのまま麗奈に近づき、普通に話しかけようとした俺であったが料理部の後輩の「水沢先輩っていじると可愛い反応を見せてくれるんですよ! ぜひ先生もやってみて下さい!」という言葉を思い出し、足を止めた。


せっかくだし、ちょっといらずらしてみるかな。


そう考えた俺は隠れながらも麗奈の姿をしっかりと確認できる場所を見つけ、そこに移動した。そして携帯を取り出し、メール機能を開く。もちろん送信先は麗奈だ。


さて、どんな内容の文章を送ろうか? やっぱり最初は普通に––––


『今、ショッピングモールの近くの自転車屋にいるよな?』


––––こんな感じか。


…………いや、いくら何でも普通すぎるな。しかし他にいい文章が思いつく訳でもないんだよな……。


ドSな和やいたずら好きの倉稲魂ならもっと面白い内容のメールを送れるのかもしれないが、いじるのに不慣れな俺にはこれが限界で––––––––ん、そうだ! 倉稲魂を呼んでいじるのを手伝って貰おう。


確かあいつ、今日は完全にオフ日だったはずだ。

ちなみにどうしてそんな事を知っているのかというと、朧さんに暇があったら相手をしてやって欲しいと頼まれており、いつなら倉稲魂を呼び出していいかを教えて貰っているからであったりする。



俺は早速人と防犯カメラがない場所に移動し、左腕にあるキツネ色の腕輪を右手でつかんだ。そして目をつむり、心の中で『倉稲魂』とつぶやく。


恐ろしく簡単だが、これで召喚(?)は完了のはずである。



そっと目を開けるとそこには––––


「………………」


––––相変わらず黒一色の服を着た倉稲魂がいた。耳と尻尾が出ているが本人曰く「…………普通の人間には見えないようにしている……」らしいので、慌てて隠すように促したりはしない。


そんな倉稲魂はゆっくりと周りを見渡して一言。


「…………呼び出してくれたのはとても嬉しい……でも……どうして自転車屋……?」


「あー、それはだな––––」


俺は倉稲魂に呼び出した趣旨を伝えるのであった。







「––––という訳なんだ」


俺が物凄く簡単に(長々と説明していたら麗奈がどこかに行ってしまうかもしれないからだ)趣旨を伝えると、倉稲魂はほんの僅かではあるが頷いた。


「…………なるほど……冬夢はあの女……水沢 麗奈にいたずらを仕掛けたい……そして……私にそのいたずらを手伝って欲しい……こういう事……?」


「ああ、そうだ。手伝ってくれるか?」


「…………もちろん……冬夢のお願い……私が断る訳がない……でも……その代わり………」


「その代わり?」


「……………………」


そこで言葉を切り、黙りこくってしまう倉稲魂。


うーん、倉稲魂が最後まで言い切らずに黙りこくるなんて珍しいな。

確かに倉稲魂はゆっくりと話すが、何があっても最後までちゃんと言い切るやつなのに。



「…………いや……やっぱりいい……これは後で話す……」


「ん? そうか?」


「…………ん……」


「わかった。それでいたずらの内容なんだが––––」


––––俺にはこれっぽっちも考えられないから悪いが倉稲魂が考えてくれないか? と言おうとした俺であったが、それは目の前にピンと突き出された倉稲魂の右手によって遮られてしまう。


「…………わかっている……いたずらに不慣れな冬夢にまともないたずらなんて……考えられる訳がない……私が考える……ついて来て……」


なるほど、いたずらマスターの倉稲魂には全部お見通しって訳か。


俺は肩を竦め、トコトコと電動自転車売り場のある方へ向かう倉稲魂の後をついて行った。










吾妻 深千流(以下深)「深千流と」


吾妻 弥千流(以下弥)「弥千流の」


深・弥「かみるーらじお!」


深「こんにちは。鳳凰学園高校3年、放送部部長をやらせて頂いている吾妻 深千流です」


弥「はろ~! 鳳凰学園高校2年の吾妻 弥千流だよ~。ちなみに、わたしは放送部副部長やらせて貰ってま~す」


深「“かみるーらじお!” とはもっと読者様に “神√” を知って頂きたい! という思いから生まれたラジオです」


弥「ゲストを呼んでフリートークをしたり、リスナーの皆からのお便りを読んだり、質問に答えたりしちゃうよ~」


深「さて、昨日はハロウィンだった訳ですが––––」


弥「いや〜、楽しかったよね〜。れいれいの家でやったハロウィンパーティー」


深「ですね〜。一ノ瀬君と役所君は多少居心地が悪そうでしたけど」


弥「仕方ないよね〜。れいれいが招待した人しか参加できない仕組みのパーティーだからね〜。当然女子の比率が高くなっちゃうよね〜」


深「まあそうですよね。確か……男子で招待されたのは一ノ瀬君と役所君だけでしたよね?」


弥「違うよ〜、お姉ちゃん」


深「あれ? そうでしたっけ? ………………あ! そうでした! 悠里ちゃんの弟の秀明君も来てましたね。すっかり忘れていました……秀明君、ごめんなさい」


弥「まあ忘れていても若干仕方ない部分もあるけどね〜。秀明君、ずーっと料理部部員の一年生に囲まれてたからね〜。わたしも会いたかったけど、全然会えなかったよ〜」


深「秀明君、凄い人気でしたよね〜」


弥「ね〜。中には告白してた子もいたしね〜」


深「ええっ⁈ 結果は? 結果はどうだったんですか?」


弥「あのねぇ、お姉ちゃん。ここラジオ。そんな個人情報、勝手に話せる訳ないでしょ〜?」


深「あ、確かにそうですね」


弥「もしかしてお姉ちゃん、秀明君のこと好きなの〜?」


深「ぶっ⁈ な、な、何馬鹿な事言ってるのよ! たっ、確かに年下はタイプだけど……流石に年下過ぎるわよ!」


弥「やれやれ。ホントお姉ちゃんってこの手のからかいに弱いよね〜。顔を真っ赤にしてるお姉ちゃん可愛い〜」


深「もっ、もう! 怒るよ!」


弥「はいはい。それよりお姉ちゃん、プレゼント交換大会で何貰ったの〜?」


深「…………えーっと、私は響ちゃんの抱き枕にも使える大きなクマちゃんのぬいぐるみでした」


弥「へぇ〜。ひびきんらしいチョイスだね〜。早速使ってみたの?」


深「ええ。物凄く抱き心地が良くてぐっすり寝れました。それにとってもいい匂いもするんですよ。何でもリラックス効果があるらしくて……本当に貰って良かったです。弥千流は何を?」


弥「わたしはね〜……じゃ〜ん! みととんから貰った色々な風景の写真集だよ〜」


深「ちょっと見せて貰ってもいいですか?」


弥「うん、いいよ〜」


深「お〜、とっても綺麗ですね。札幌の時計台に青森津軽のりんご園––––凄いですね。四十七都道府県全部網羅してるじゃないですか!」


弥「一緒についていた手紙によると中学三年間で撮ったものを厳選してまとめたなんだってさ〜。本当に凄いよね〜」


深「ですね。流石、写真部から事ある毎に勧誘されているだけありますね」


弥「本人は全く入る気ないみたいだけどね〜。写真はあくまで趣味だからって言って」


深「そういえば……杏子先輩も柚子先輩もパーティーに参加してましたよね? プレゼント交換大会、どうでした?」


役所 杏子(以下杏)「ええっ⁈ 私と柚子の出番はこの後の質問コーナーからじゃなかったの?」


弥「最初はその予定だったんですけど〜……フリートークがあまりにも長くなってしまったので〜、急遽今回は中止という事になりました」


杏「ええっ⁈ 今回も中止? 大丈夫なの? ただでさえ前回の登場から一ヶ月以上あいている+もう私達の登場する話は終わったっていうのに! ほら、柚子からも言ってあげてよ!」


役所 柚子(以下柚)「え〜? わたしは別に気にしないけどなぁ〜」


杏「…………あんたはそんな事気にしないタイプだったわね」


深「そこはご安心下さい。夏休み入ってすぐに再び出番がありますので……その時にまたお呼びしますから……」


杏「へ〜、まあそれだったらいいかな? で、なんだっけ? 昨日のハロウィンパーティーのプレゼント交換大会で貰った物だっけ?」


深「ええ、どうでした? 何かいい物貰えました?」


杏「うーん……それがね〜和ちゃんって子からのプレゼントなんだけど……何と言うかその〜……」


深「反応に困る、と」


杏「そう! まさにそれ! 『音尾 和の厳選した美味しい唐揚げ店ベスト100』っていう手作りの冊子を渡されたんだけど……反応に困るんだよね……。物凄く丁寧な字でなぜこの唐揚げ店が美味しいかとかをびっちり書いてあって、熱意は伝わってくるんだけど……」


弥「あ〜……なごみんらしいね〜」


杏「それにしてもあの和ちゃんってさ、とーちゃんの彼女なの?」


深「いえ、違いますけど……どうしてですか?」


杏「いや、そのランキングの第一位がさ、とーちゃんの手作り唐揚げだったんだよね。批評も唯一10ページ近く書いていたし、もしかしてとーちゃんにもついに彼女が––––と思ったんだけど、な〜んだ違うのか〜」


弥「あ〜、はっきり言ってもっとややこしい関係です」


杏「ややこしい? もしかして血の繋がっていない兄妹とか? うーん……まあいいや。後でとーちゃんに聞いてみようっと」


深「柚子先輩は何を貰ったんですか?」


柚「えーっとね〜、じゃじゃ〜ん! とーくんの手作りクッキーだよ〜!」


杏「あ〜! いいな〜羨ましい〜!」


深「流石、一ノ瀬君。かぼちゃに黒猫にお化けなどなど形も凝ってますね」


弥「うわ〜可愛い〜! 何だか食べるのがもったいなく感じちゃう出来栄えだね〜」


柚「でしょ〜? だからしばらくは食べずに飾っておくつもりなんだ〜。クッキーって長持ちするしね〜」


杏「えーっ⁈ それこそもったいないって! 確かにクッキーは長持ちするけどさ〜やっぱり早い内に食べた方が美味しいって!」


柚「え〜? 大丈夫だよ〜。ほら、ちゃんと除湿剤入ってるし〜。あ〜後〜、杏子ちゃんにはぜぇ〜ったいにクッキーあげないからね〜?」


杏「えっ? 嘘でしょ?」


柚「本当だよ〜。とーくんの愛情がた〜っぷり詰まったクッキーだもん。たとえ杏子ちゃんでもあげれないよ〜」


杏「いいじゃない! 一枚ぐらい! 結構いっぱいあるわけだしさ!」


柚「何て言われても〜ダメなものはダメだよ〜」


杏「う〜! 柚子のケチ! 私もとーちゃんのクッキー食べたいよ〜!」


柚「ふふふ〜ん。とーくんの愛情独り占め〜」


杏「うがー!」


弥「あ〜……何だか喧嘩になっちゃったね〜。時間的にもそろそろいい感じだし、終わらせちゃおうか」


深「そうですね。 “神√” を読んでいて疑問に思った事や、このキャラとこんなトークをして欲しいという要望があれば、感想やメッセージ、活動報告のコメント欄からお知らせ下さい。また、誤字脱字や矛盾点などがありましたら、ご報告よろしくお願いします。他にも感想や評価、レビューなどもお待ちしております」


弥「キャラ人気投票もやってるからね〜。よかったら投票よろしく〜」


杏「そもそもあれだし! とーちゃんの愛情が詰まってるなんて確証どこにもないし!」


柚「え〜、とーくんが料理に愛情をしっかり込めてるのは杏子ちゃんもよく知ってるはずだよ〜?」


杏「ぐぬぬぬぬ……」








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